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100年超えメーカーも!家電イベント「IFA2025」いよいよ開催、次にくるのは?

世界最大級のコンシューマーエレクトロニクスショー「IFA」。写真の2024年で100周年を迎えました

まもなく2025年9月5日から9月9日(現地時間)に、ドイツ・ベルリンで世界のコンシューマーエレクトロニクス製品や最新テクノロジーが披露される世界最大級のイベント「IFA2025」が開催されます。

100周年を迎えた昨年2024年には約13万3,000人のトレードビジターを含む総数21万5,000人のビジターがベルリンに足を運びました。会場であるメッセ・ベルリンの規模感は日本最大の総展示面積を持つ東京国際展示場(ビッグサイト)の約11万5,000m2を凌ぐ、約16万m2です。

2024年にはメッセ・ベルリンの広大な会場に1,800社を超える出展が集まりました。2025年の開催規模はさらに大きくなる期待も

昨年を振り返ると、大手メーカーが単独で巨大な展示ホールに構えるブースや、中小規模のブースを合わせて、IFA2024には世界44カ国から1,800以上の出展者が集まりました。全ての展示を隈なく視察したいなら2〜3日かかりますが、大半の展示がメッセ・ベルリン会場に集中しているため、大規模ながら実はコンパクトに回れるのがIFAの良いところともいえます。

世界各国のスタートアップが集まるIFA NEXT。2019年には日本がIFA NEXTの公式パートナー国に

今回の記事では「IFA」の2000年代以降の展示を写真などで振り返りながら、家電の過去と現在を眺めつつ、これからどんな技術が発展するのか、期待と考察を進めてみます。

100年を超える歴史の家電メーカーとIFA

ドイツの老舗家電メーカーであるミーレが1958年に発売した洗濯機。今のドラム式洗濯機の原型ともされています

日本にはシャープやパナソニック、三菱電機のように創業100年を超える老舗のエレクトロニクスメーカーがあります。欧州にもまた、1891年にオランダのフィリップスが今年で創業から134年を迎えているほか、ドイツには創業178年という長い歴史を持つシーメンス、創業126年目のミーレのような企業があります。

これまでの家電の歴史を振り返ると、当時の世相やトレンドを反映していたり、実は今の最新家電に通じるものがあるなど、改めてみると興味深いことも多いものです。

100年の歴史を持つ家電のショーがある

エレクトロニクス業界のグローバル企業が刻んできた長い歴史を振り返ると、その隣で100年間を超える時を伴走してきたIFAの姿が浮かび上がってきます。

IFAは毎年ドイツの首都ベルリンで開催されている、世界最大級の規模を誇るコンシューマーエレクトロニクスショーです。地元のドイツを中心に一般来場者を集めて開催する「展示会(Exhibition)」でありながら、出展企業と世界中から集まるバイヤー、商社、小売店などトレードビジターの縁を結ぶ「見本市(Trade Show)」としての役割を担っています。

日本が大正時代だった1924年、IFAでは「ドイツ・ラジオ展」としてベルリンで産声をあげました。開始から7年目となる1930年にはドイツ生まれの理論物理学者であるアルベルト・アインシュタイン氏が、同年IFAの開会に寄せてキーノートスピーチを行ないました。

1930年、IFAの前身である「ドイツ・ラジオ展」の開幕基調講演には世界的な理論物理学者のアルベルト・アインシュタイン氏が登壇しました

アインシュタイン氏はその壇上で無線通信技術が人間社会にもたらす役割について次のように語りました。

「ラジオを聴くとき、人々がどのようにしてこの素晴らしいコミュニケーションツールを手に入れたかを考えてみてほしい。すべての技術的成果の源は、発明者の好奇心と建設的想像力である。ラジオ通信機器を簡素化し、誰もが利用できるように大量生産に適合させた名もなき技術者たちのことを、感謝の念をもって思い出してほしい」

やがて1940年代には真空管に代わる小型で低消費電力のトランジスタ(半導体素子)が誕生します。トランジスタはラジオの小型化、あるいはラジオ機能を搭載するポータブルデバイスの進化に貢献したばかりではなく、1950年代には複数のトランジスタにより構成された集積回路(IC)に発展して、現代の小型・高性能なエレクトロニクス製品やコンピュータなど電子機器の礎を築きます。

IFAは1971年に「Internationale Funkausstellung」と名前を変えます。日本語では「国際コンシューマーエレクトロニクス展」として、世界的に広く知られるようになります。

音楽:ワイヤレスからハイレゾの誕生。20年間で大きく変わったオーディオ

筆者がIFAの取材を始めた2000年代前半はiPod mini、iPod nanoの全盛期

それからしばらく経った2003年に、筆者はまだ駆け出しの編集者だった頃に初めてIFAへ取材のため訪れました。当時の家電製品の花形だった液晶テレビ、コンパクトデジタルカメラ、5.1chぶんのマルチスピーカーを配置するサラウンドオーディオシステムなど、IFAには見たこともない海外メーカーの新製品が数多く並び、約1週間の充実した取材時間を過ごしました。

今は世界最大級の「生活家電(白物家電)のイベント」としても知られるIFAですが、当時はまだ生活家電の出展社がなかったことが、現在との大きな違いです。

振り返れば、あれから約22年の間にエレクトロニクスの商品や技術のトレンドはまた大きく様変わりしました。

例えば2000年代前半にはまだ無線通信技術のBluetoothを使うオーディオ製品が普及していなかったため、スピーカーやイヤホン・ヘッドホンは有線接続が当たり前でした。一方で、iPodやデジタルオーディオファイルが扱えるソニーの“ウォークマン”をはじめとする「MP3オーディオプレーヤー」は大流行していました。筆者もパソコンにダウンロードした音源、CDから取り込んだ音源をポータブルオーディオプレーヤーに保存して聴いていました。

Wi-Fi接続に対応するオーディオコンポーネントは今では当たり前のようにありますが、本格的な普及が始まったのは、2015年7月1日にアップルが定額制音楽配信「Apple Music」のサービスを開始した以降だったように思います。当時までは先に発展していたインターネットラジオが一般的で、イーサネット経由(有線)でインターネットにつながるAVアンプやコンパクトなオーディオコンポで楽しむスタイルがありました。

2010年代には「CDを超える高音質」が楽しめるハイレゾリューションオーディオが脚光を浴びます。2013年のIFAでソニーが発表した、Android OSを採用するハイレゾ対応のウォークマン「NW-F880シリーズ」が世界的に注目されました。同じ年の9月、ソニーはハイレゾへの全力投球を発表会で宣言します。以降もソニーやテクニクスなど、日本のオーディオメーカーはハイレゾ文化の普及を牽引してきました。

ソニーが2013年に発売した“ウォークマン”「NW-F880シリーズ」は、現在も販売を継続するハイレゾ対応ウォークマンの最初期の銘機。Android OSも搭載

当初はハイレゾ音楽をそのまま楽しむ場合もヘッドホンやスピーカー、アンプなどに有線で接続するのが当たり前でしたが、今ではBluetoothオーディオの技術によって、LDACやaptX Adaptiveなどハイレゾにも対応する様々なスマホとワイヤレススピーカー、ワイヤレスイヤホン/ヘッドホンとの組み合わせにより高品位なハイレゾワイヤレス再生が楽しめるようになり、より楽しみ方が自由になったといえます。

サラウンドオーディオは依然として独立したアンプとマルチスピーカーによるシステムを組んで楽しむスタイルもありますが、一般的にはシングル筐体のサウンドバーが人気です。IFAにも長く出展するヤマハも、2010年代にサウンドバーの普及に貢献してきたメーカーです。

ヤマハはIFAの常連出展社として人気のブランド。同社のサウンドバーはドイツの家庭でも憧れの製品です

映像:大画面4Kテレビによる没入型映像体験の普及

テレビは、過去約20年の間に最も大きく変貌を遂げたエレクトロニクス製品といえます。

筆者が2003年にIFAの取材を始めた頃には、液晶やプラズマ方式の「薄型テレビ」が注目されていました。同年には、シャープが当時の薄型テレビとして初めて地上デジタル放送チューナーを内蔵する液晶テレビAQUOSシリーズを商品として発売しています。日本では2011年7月24日正午に地上アナログ放送が終了して地上デジタル放送への移行が実施されるまでの間に、デジタル対応の薄型テレビが一気に普及しました。

シャープが2003年に発売した地上デジタル放送チューナーを内蔵する液晶テレビAQUOS「LC-30AD1」

その後は4K高画質で、画面サイズも50インチを超えるテレビにコンシューマーの関心が向きます。日本国内では2018年に本放送が始まった新4K8K衛星放送、あるいは現在の主流であるNetflixやAmazon Prime Video、U-NEXTなど4K配信サービスのコンテンツも“4Kテレビ”の人気を後押しします。

2010年代には「3Dテレビ」が一時、話題をさらいました。IFA 2011の会場に東芝が出展した55型の裸眼で3D映像が見られる4K液晶テレビは、筆者も当時現地で取材して強く印象に残った製品です。

東芝がIFA 2011に出展した裸眼3D視聴に対応する55型4K液晶テレビ「55ZL2」

現在は各社家庭用テレビの高画質化が進んだことが臨場感の向上にもつながり、「テレビで見る3D」は以前ほど話題に上らなくなりました。ところが関連する技術、あるいは人々の立体映像体験への関心は薄れることがなく、今ではXRやVR対応のヘッドセット、スマートグラスに引き継がれたように思います。映像+音声による没入体験をともなうコンテンツはゲームにも広がりました。IFAに参加するPC系やゲーミングデバイスのメーカーも、近年は3Dゲーム関連の展示を競い合っています。

モバイル:2000年代はスマホの時代

これまでの20年間に最も注目されたエレクトロニクス製品として、やはり欠かせないのはスマートフォンです。

スマホは通信端末でありながら、パソコン、デジタル文具、そしてエンターテインメントプレーヤーなど様々な役割を担う万能なデジタルデバイス。総務省が昨年8月末に実施して、今年の5月末に発表した「令和6年通信利用動向調査」の結果によると、国内のスマートフォン保有状況は世帯ベースで90.5%、個人の割合は8割を超えています。スマホは既に多くの人の生活に欠かせないデバイスとなっています。

IFAはモバイルに特化したショーではないものの、ソニーのほか、サムスン電子にLGエレクトロニクス、シャープ、ファーウェイなど総合家電メーカーがそれぞれのブランド史に名を残すモデルをIFAでお披露目してきました。筆者はサムスンが2019年に発表した、サムスン初のフォルダブルスマホ「Galaxy Fold 5G」をIFAで体験した時の興奮を今でもよく覚えています。

2019年、IFAに出展したサムスン電子が初のフォルダブルスマホ「Galaxy Fold 5G」を披露

スマホはBluetoothオーディオやHDR高画質の映像体験など、オーディオ・ビジュアルの最先端にあるトレンドを取り込みながら今もダイナミックな進化を続けています。特にスマホのカメラは、デジタルクリエーションツールとしてのカメラの在り方に大きな影響を与えました。

スマホのカメラは、中核のコンポーネントであるイメージセンサーの進化に伴い、現在も日々高度化しています。暗い場所でも人間の目では認識できないほど、被写体を明るく色鮮やかに記録したり、高速で移動する被写体をブレることなく写真に捉えることができます。最近では動画SNSが人気であることから、スマホをつくるメーカーは「カメラの動画性能」を激しく競い合っています。かたや、老舗レンズメーカーであるライカ、カール・ツァイスの技術をカメラに採用するスマホも人気です。

デジタルカメラもまた、スマホの勢いに押される一方ではありません。2000年代の終盤から2010年代の前半以降に「ミラーレス一眼カメラ」の人気が本格的に高まります。IFAもエレクトロニクスショーでありながら、当時はデジタルカメラのメーカーが数多く出展していました。2009年にはパナソニックがフルHD動画の撮影にも対応するミラーレス一眼カメラの「DMC-GF1」をIFAで発表しています。

パナソニックが2009年に発売したミラーレス一眼カメラ「DMC-GF1」。デジタルカメラは今もIFAで最も人気の高い商品カテゴリの1つです。

2025年現在は、レンズ一体型のコンパクトデジタルカメラ(コンデジ)の人気が再燃しているともいわれています。フルサイズのイメージセンサーを搭載するソニーの新商品「RX1R III(DSC-RX1RM3)」のようなプロフェッショナルグレードの高級機から、2010年代に販売されていたコンデジの中古品が「レトロカメラ」として売れているなど、人気の内訳も様々なようです。スマホのカメラが普及したことで、「カメラで遊ぶ」ことの楽しさがより幅広い年齢/性別のファンに認められたのかもしれません。

生活家電:暮らしをスマートに支援する人にやさしい家電の誕生

毎日の生活に欠かせない生活家電も、2010年代の後半頃からスマホの普及に合わせて、アプリやスマートスピーカーで遠隔操作・管理ができる「スマート家電」として脚光を浴びるようになりました。

冷蔵庫や洗濯機をホームネットワークに接続して、スマホに入れたアプリから運転状況を確認したり、新しい機能を追加できる家電が人気です。この分野は日本の家電メーカーだけでなく、欧米で人気のサムスン電子やLGエレクトロニクス、ハイセンスにハイアールなどのメーカーが自社製品に最先端の技術とサービスを積極的に採り入れています。

サムスンは大型タッチディスプレイを搭載して、スマホのように家中に設置したスマート家電の司令塔として機能する冷蔵庫「Family Hubシリーズ」を商品化しています。欧米で10年近く実績を上げてきましたが、間もなく生成AIアシスタントによる音声操作を搭載することが期待されています。

まるでスマホのようなサムスンのスマート冷蔵庫「Family Hub」シリーズ。毎年IFAに最新モデルが展示されます

2017年移行はグーグルのGoogle Assistant、アマゾンのAlexaをAIアシスタントとして搭載するスマートスピーカーが各社から発売されます。音声により操作できる大小家電製品による「スマートホーム」はIFAの大きなテーマであり、毎年欧米メーカーが日本にはないユニークな発想の製品を会場に出展しています。特にAIを搭載する生活家電の先駆けともいえる「ロボット掃除機」に関連する展示が充実していると筆者は思います。

そしてスマートホームに関してはヨーロッパの大手企業もイニシアティブを取ってきました。総合家電メーカーのシーメンスと、日本では自動車部品のメーカーとして広く知られるボッシュの合弁会社であるBSHは、2016年ごろに、Home Connect(ホームコネクト)というスマートホームのエコシステムを立ち上げました。インターネットにつながる生活家電、見守りカメラや煙探知機など生活の安全を支えるIoTデバイスをモバイルアプリから操作する独自のプラットフォームをつくり、スマート家電の普及に尽くしてきました。

音声操作に対応するスマートスピーカーが脚光を浴びた2017年には、BSHがユーザーとのマルチモーダル(文字や音声など複数の情報を同時に扱う)なコミュニケーションを想定したAIアシスタントロボット「MyKie(マイキー)」をIFAに展示して話題を呼びました。

2020年代から、BSHはスマート家電の共通規格である「Matter(マター)」の普及についても先頭に立ってリードしています。2024年のIFAではMatterに対応する冷蔵庫をいち早く発表。同じMatterに対応するコントロールデバイスのアプリ、または音声による操作を可能にしています。特に近年は中国などのアジア勢もMatterに対応する製品を続々と発売していることもあり、日本も含め、Matter対応の生活家電はこれからさらに数や種類も増えてくると期待できます。

シーメンスが2024年に発表したスマート冷蔵庫。Matterへの対応を実現しただけでなく、欧州の厳しい基準に沿った省電力性能を達成

私たちが毎日使う生活家電には、持続可能なものづくり、あるいは環境対策も兼ねてエネルギー効率を高めるための技術をいち早く取り込んだ製品やサービスが数多くあります。ヨーロッパの家電業界、あるいは生活者は特に製品のサステナビリティ(持続可能性)、あるいはサーキュラーエコノミー(循環型経済)を重視する傾向が強く、コロナ禍後に各社が発表・発売する新製品にも色濃く反映されています。

例えば2024年のIFAに出展したプレミアム家電メーカーのミーレは、故障した部品だけを取り替えながら長く使えるスティック掃除機のコンセプトを公開していました。家電各社の環境への貢献にも、人々が強い関心を寄せていることがIFAに訪れるとよくわかります。

ドイツのプレミアム家電メーカー、ミーレはモジュラー交換式のスティック掃除機のコンセプトを2024年に発表

2025年も最新家電とテクノロジーから目が離せない!

2020年春以降、世界中が新型コロナウイルス感染症によるパンデミックに襲われた当時こそ、IFAはほぼオンラインのみでの開催、または開催中止を選択せざるを得なくなったものの、2023年からは対面形式による開催が復活しています。以降は連日メッセ・ベルリンの広い会場が大いに賑わっています。

2017年に世界各国のスタートアップを集めてスタートした「IFA NEXT」には、今年もユニークな展示が数多く集まりそうです。出展各社による最先端のAI家電に対する取り組み、サステナビリティを活かしたものづくりの提案も見られると思います。そして2025年の年末やクリスマス商戦を飾る主役クラスの製品とサービスがIFAの会場に並ぶはずです。

家電やテクノロジーの2025年のトレンド、そして来年以降に流行しそうなきっかけをいち早く目にするなら、ネットでの情報収集も大事ですが、展示会に足を運ぶのも一つの手段ではないでしょうか。

IFAについてお問い合わせ(メールアドレス)
mbj@messe-berlin.jp

(提供:メッセ・ベルリン)