シャープ、プラズマクラスターやLED電球など海外展開

~2010年度の経営方針を発表

シャープ 片山幹雄社長
 シャープは、5月17日、2010年度の経営方針説明会を開き、片山幹雄社長が方針を説明。片山社長は、生活家電を含む健康・環境機器部門において、プラズマクラスター搭載商品の累計出荷台数が2010年度中に3,000万台に到達すること、海外におけるLED照明事業の拡大に乗り出す姿勢を明らかにした。

2009年度は経費削減やプラズマクラスター好調などで黒字化

 片山社長はまず、黒字回復で終わった2009年度の成果について、緊急業績改善対策を実施し、総経費削減で2,000億円の目標に対して、2,138億円の削減を達成したことを指摘。さらに、“地産地消”と呼ぶ、消費地でのバリューチェーンの確立や、イタリアのエネル社などの現地有力企業とのアライアンスなど、新たなビジネスモデルの導入を促進し、経営体質のスリムダウンと構造改革を達成したことを示した。

 健康・環境機器部門に関しては、太陽電池では、2010年3月からグリーンフロント堺で薄膜太陽電池を稼働、4月から全世界に向けて出荷を開始した。また、プラズマクラスターイオン搭載商品の販売増加による利益の大幅な改善、LED照明のラインアップ拡充なども成果があったと言及した。

 

2009年度は、約2,100億円の経費削減や新ビジネスモデルの導入など、さまざまな構造改革を行なった事業別では、プラズマクラスター技術搭載商品の売り上げが増加。LEDの充実や太陽電池の新工場稼働開始も成果となった

2010年度は新興国中心に海外本格進出、金融危機前の業績への回復を目指す

2008年度に落ち込むも、2009年度で回復。2010年度は、金融危機以前の業績を目指す
 2010年度は売上高で12.5%増の3兆1,000億円、営業利益で131.2%増の1,200億円を見込み、「第4四半期を底に順調に回復基調にある。早期に金融危機前の業績への回復を目指す」と。

 さらに、片山社長は「国際的な意思決定の枠組みが先進国によるG7から、新興国を含んだG20による新たな仕組みへと向かっており、そのなかで我々には経済成長とCO2排出量削減の両立を可能とする創エネ、省エネ技術、新興国を基準としたコスト力が求められている。液晶をはじめとする省エネ商品と、太陽電池をはじめとする創エネ商品に代表されるように、環境への貢献と新しいエレクトロニクス社会の実現の両立が求められる」とコメント。同社が目指す、「エコ・ポジティブカンパニー」の方向性を改めて強調した。

 加えて、個別の商品価値を重視するスタンドアロン型のビジネスや、先進国をターゲットとするこれまでのビジネス領域から、先進国を中心としたトータルソリューションの提案、新興国の年収1万ドルの世帯を対象にした商品開発、販売促進およびローカル人材の登用、新興国バリューに見あたったコスト革新が必要と指摘。中期的に事業領域を広げていく姿勢をみせた。

国際的な意志決定機関が、先進国による「G7」から、新興国を含んだ「G20」に変わりつつあり、省エネ技術や新興国基準のコスト力が求められるというシャープが目指す事業の方向性

 4月1日付けで海外事業体制を5本部制として、地域ごとの自立性を高めたのも、欧米での事業拡大とともに、新興国におけるビジネスを加速する狙いがあるからだ。

 「今後は、材料、装置、知財、要素技術といった“川上”と、販売、サービス、ソリューションといった“川下”の投資をそれぞれ拡大し、経営資源の最適配分を行なうことで、収益性の改善を図る」(片山社長)

シャープは、環境への貢献と、新しいエレクトロニクス社会の実現を両立する「エコ・ポジティブカンパニー」を目指している4月1日付けで、海外事業体制を5本部制に変更。地域ごとの自主性を高める

プラズマクラスターイオン搭載機器も海外展開


2009年度は、プラズマクラスターイオンを搭載した家電が好調な売り上げを記録した。写真は、同イオン発生機のIG-B20
 健康・環境機器部門においては、2009年度に6%という高い営業利益率になったことに触れ、「プラズマクラスターイオン発生機や、同技術を搭載したエアコン、冷蔵庫、掃除機などの関連商品が貢献。今後は、コアコンピタンス(他社が真似できない、独自の力)ともいえるこの技術を、海外向け商品にも搭載して販売していく」とした。

 プラズマクラスターイオン搭載商品は、24社の異業種企業がそれぞれの商品に採用しているほか、全世界100か国で利用が広がっており、2010年度には累計3,000万台の出荷に到達する見通しを示した。片山社長は、「プラズマクラスターイオンを搭載したボリュームゾーン製品を、中国、アジアを中心に推進したい」などと語った。

2009年度の健康・環境機器部門の営業利益率は約6%と好調新幹線や乗用車など、プラズマクラスターイオン搭載商品は年々増え続けている

LEDは青色LED自社生産で買換え需要に対応。ソーラーは大規模発電施設向けに増産


LED照明事業は、青色LEDの生産を強化。海外向け、国内の法人向けにも展開していくという
 LED照明に関しては、2008年の業務用LED照明の投入に続き、2009年8月に家庭用LED照明事業へ参入しており、今年3月までの8カ月間で、累計250万個の家庭用LED照明を販売したという。今後は、国内市場におけるラインアップの拡大、部品点数の見直しによるコスト競争力の強化、法人ビジネスの拡大に乗り出すほか、海外事業では規制が始まった白熱電球の買い換え需要に向けた取り組みを加速するという。青色LEDの自社生産にも乗り出し、150億円の整備投資計画も明らかにした。

 太陽電池では、世界的に旺盛な需要拡大に向けての体制強化に余念がない。特に、全世界でメガソーラー発電(大規模な太陽光発電施設)などの平地設置が大幅に伸張するとみて、その用途に適した薄膜太陽電池の生産を強化していくという。

 「太陽電池需要は、2012年度には、2009年度比で3.7倍の市場規模となり、そのうち平地設置が約33%を占める。また、薄膜太陽電池が市場全体の3割を占めることになる」と予測。「成長が著しい市場には多くの企業が参入するが、シャープは、50年近い事業実績を背景に、コスト力、長期信頼性と、それを支える技術力によって、差別化していく」とした。

 シャープの薄膜太陽電池の2010年の生産計画は、2008年度比8.4倍となる270MWを計画しており、さらに「外部のファシリティ(設備)を利用して、結晶型太陽電池も生産を増強する」と語った。

 

太陽電池市場の地域別市場拡大図用途別では、大規模な発電施設など平地設置が大幅に伸長するという平地設置用の薄膜太陽電池が、世界的に増加していく見込み
今後は太陽電池メーカーも増えてくるが、シャープでは技術力・コスト力・長期信頼性の3点を柱に据える2010年度は、薄膜太陽電池で2008年度の8.4倍に当たる270MWの生産を計画している

液晶テレビは品薄が続く予想。「クアトロン」搭載テレビは夏に発売予定


 一方、液晶テレビ事業およびスマートフォンなどの携帯電話事業については次のように語った。

 液晶テレビについては、「海外メーカーのパネル増産の影響もあり、これまでは、テレビ用液晶パネルの需給バランスでは供給量が多いと見ていたが、新興国市場において、当初予想以上に需要が拡大していること、第6世代、第7世代で生産されていたテレビ用液晶パネルが、世界的に需要が拡大しているPC用の転用する動きが出ていることで、テレビ用は第8世代に集中。そのため、テレビ用の供給量が減少し、2010年度以降は、品薄が続くものとみている」とコメントした。

 さらに、LEDテレビの販売伸張、3Dテレビの需要拡大が見込まれるとして、「新たなテレビには、それに相応しい液晶が必要になり、高性能パネルの需要が高まることに直結する。当社のUV2A技術と4原色技術を組み合わせた『クアトロン』は、省エネと高画質を両立するパネルであり、新たなテレビの需要の高まりとともに、需要が増大する。グリーンフロント堺の第10世代の液晶パネルの生産能力は、7月の7万2,000万枚のフル生産への移行を前に、5月から5万5,000枚に引き上げた」としている。

 クアトロンは、同社が新たに使用するブランドであり、UV2A技術と4原色技術を組み合わせたパネルを指す。片山社長は「4月には、米国、欧州でクアトロン搭載AQUOSを発売したのに続き、日本では夏頃に発売を予定している。さらに、新興国に向けて順次発売する」とした。

テレビ用液晶パネルの需要バランス。PC用への転用が増えたため、テレビ用の供給量が減少、品薄が続くという省エネと高画質を両立する新パネル「クアトロン」は、夏ごろに発売される予定需要の増大に合わせるため、5月の生産枚数を5万5,000枚へ引き上げている

 一方、携帯電話に関しては、スマートフォンの需要拡大にあわせて、高精細、タッチパネル、3D液晶への需要が増大するとみているほか、マイクロソフトと共同開発したスマートフォンのKINによる欧米への展開強化、中国において、2010年度中に1万店の販売店での取り扱いを行なうなどの販売強化、中国市場向けに年間で35機種をラインアップするといった商品強化によって、事業を拡大する方針を示した。

 さらに、ハイビジョンの立体映像が撮影できるモバイル機器向けの3Dカメラモジュールと、2D/3Dの切り替えが可能なタッチパネル付き3D液晶デイスプレイにより、スマートフォンや携帯電話、デジタルカメラでの3D写真、3D映像の撮影が可能になり、これを新たなHDMI規格のケーブルを通じて3D対応テレビに接続で視聴するといった提案につなげていく考えだという。

携帯電話では、マイクロソフトと共同開発した「KIN」を欧米や中国で発売するなど、スマートフォン事業を拡大する3D映像を撮影できる、モバイル機器向けカメラモジュールを開発。3D対応のテレビで視聴できるという



(大河原 克行)

2010年5月18日 00:00