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地震に備える科学技術の今。関東大震災100年を振り返る展示

国立科学博物館での関東大震災100年企画展「震災からのあゆみ」

1923年(大正12年)の9月1日に、東京や横浜など関東地方に甚大な被害を及ぼした「関東地震(関東大震災)」が発生した。国立科学博物館では、節目となる9月1日から11月26日までの期間で、関東大震災100年企画展「震災からのあゆみ ー未来へつなげる科学技術ー」を開催する。

なお同展は、同館の日本館1階の企画展示室と、地球館1階のオープンスペースの2つの会場で催されている。

関東大震災とその直後を振り返る第1章

日本館1階では、1923年の関東地震を振り返るとともに、これまでにおける地震防災の研究や技術の進化を、3つの章に分けて解説している。

まず第1章「1923年関東地震とその被害ー関東大震災ー」では、関東地震とその後の大震災についての科学的観点から、どのように地震が起こり、関東地方ではどのような地震が発生するかが紹介されている。

また大震災時の被災状況が分かる資料なども展示され、記録に残すことで、地震のメカニズムの解明や、被害を最小限に抑えるための研究に役立てようとしていたことが分かる。

西暦78〜139年に生きた中国の張衡によって考案されたとされる地動儀(復元模型)。歴史上最古の感震器といわれ、地震の揺れによって筒の中の柱が倒れて龍の口から玉を押し出し、落ちた玉が蛙の口に落ちる仕組み。後漢書に残された文章をもとに復元
地震計の振り子(今村式14年型簡単微動計)
第1章では、関東大震災時の様々な被災資料や記録資料が展示されている

関東大震災からの復興が見える第2章

第2章では「関東大震災からの復興ー災害に強いまちづくりー」と題し、関東大震災後の地震学の進化、耐震性や耐火性が意識された建築、帝都復興の様子が説明されている。

関東大震災後の地震学の進化、耐震性や耐火性が意識された建築、帝都復興の様子が説明されている

関東大震災後には、災害に強い帝都(首都)を作るために、耐震および耐火性を高め、なおかつ景観を意識した都市を目指して復興計画が立てられた(帝都復興計画)。こうした取り組みが、現在の東京の基礎となっているという。

また、都市計画よりも身近に感じられるのが建築物だ。被害の甚大だった東京博物館(現:国立科学博物館)や、隅田川に架かる橋梁などが、震災に耐える恒久的かつ美観を意識した「復興建築」や「復興橋梁」として再建されていった。

復興建築として再建された、現在の国立科学博物館の日本館
日本館の青焼き図面。上空から俯瞰すると、飛行機の形をしていることで有名
隅田川に架かる橋の中で、永代橋、清洲橋、両国橋など10の橋が「復興橋梁」といわれ、震災に耐える恒久的、かつ美観を意識した橋としてかけられた

最新の地震対策や機器が見られる第3章

第2章までは、関東大震災から復興までの過程が資料展示されているが、第3章では大震災から昭和、平成、令和にかけての、地震防災研究の主に現状が解説されている。

関東大震災以降にも、日本各地で大地震が発生し、繰り返し甚大な被害が生じている。そして大きな震災が発生するごとに、地震観測体制の充実や緊急地震速報、津波警報や注意報など、情報発信や建築基準法などが改正されてきている。

展示品として多く見られるのが、様々な地震観測装置だ。これらの装置が設置された観測点は、関東大震災の頃は約90地点しかなかったという。それが1940年には約110地点、1985年には約150地点と増加。1995年の阪神・淡路大震災後の2000年には、人が感じないくらい小さい地震も記録する高感度地震計が、約1,100地点、強い揺れを記録する強震計が約3,000地点にまで増えた。さらに東日本大震災後には、東日本太平洋沖の海底に地震計と津波計が150地点設置された(S-net)。

強震計など観測機器の進化の過程が分かる展示が行なわれている
右が1960年後半に開発されたアナログ式強震計「SMA-1A」。左が1970年代前半に開発された世界初のデジタル式強震計「DSA-1」。いずれもアメリカのKinemetricsが開発
右が阪神・淡路大震災後に約1,000地点に設置された「K-NET(全国強震観測網)95型強震計」。左はコンセント差し込み方式の「小型地震計」

また現在では、地震・火山・津波をリアルタイムに観測する観測網「MOWLAS」が、防災科学技術研究所によって運用されている。これは陸の高感度地震観測網「Hi-net」、全国強震観測網「K-NET」、 基盤強震観測網「KiK-net」、広帯域地震観測網「F-net」、日本海溝海底地震津波観測網「S-net」、地震・津波観測監視システム「DONET」、基盤的火山観測網「V-net」から成り立っているという。

特に「S-net」が設置されたことで、地震は最大30秒ほど、津波は最大20分ほど早く観測できる。このため、緊急地震速報や津波警報の情報発表が早く、高精度になることが期待されている。

巨大な海底地震津波観測装置。津波を観測する水圧計や、地震を観測する加速度計、速度計、傾斜計などを搭載。これがS-netでは30〜60km間隔の150地点に設置され、全長約5,500kmに及ぶ光通信ケーブルでつながれている

そのほか展示会場には、震災時にライフラインをどう守るかなどが模型で説明されていたり、関東大震災や東日本大震災時に、個々の人が、どう行動したかをビジュアルで見られる大型ディスプレイなどが設置されている。

東日本大震災時に、個々人がどんな行動をとったか、Twitter(現在のX)でどんなツイートをしていたかなどが見られる大型ディスプレイ
心柱制振機構が採用された、東京スカイツリーの模型

なお同展の監修者の1人である、国立科学博物館の室谷智子さんは、過去の地震や震災を振り返ることの意義を次のように語る。

「100年が経つ関東大震災ですが、今でも研究を行なっている方がいて、どんどんアップデートされています。それは、様々な資料が残っているからこそできることで、最新の知見で再解析することで、また新しいことが分かることもあるんです。また、過去の地震が、どういうものだったかを詳細にすることが、将来、地震が起きた時に、どう備えれば良いかということに、繋がると思います」

国立科学博物館の理工学研究部 理化学グループの研究主幹、室谷智子さん

小型の浄水システムやポータブル電源など最新防災アイテムも

日本館での展示のほか、今回は地球館に第2会場が用意されている。こちらでは「災害に備える」と題して、おなじみのJackeryのポータブル電源やソーラーパネル、また災害に役立つモンベルの様々なアウトドアアイテムが展示されている。こうした製品を身近に使っていれば、災害時にも役立つはずだ。

Jackeryのポータブル電源など
モンベルのアウトドアアイテム。これらの中には、災害時に役立つものも少なくない

その中で興味深かったのが、ベンチャー企業のWOTA(ウォーター)の「WOTA BOX」と「WOSH」だった。いずれも個人所有して震災時に運用するのは難しいが、自治体などが備えておいてくれれば、役立つものだろうと感じた。

「WOTA BOX」は、軽トラックに積載できるサイズにまで小型化した、浄水システム。100Lの水があれば、シャワーや手洗い用途の水を循環利用できるというもの。6つのフィルターを搭載し、排水の98%以上を再利用できるようにするという。災害などで断水が起きた際に、同機を利用すれば、被災者が避難所等で清潔に過ごせるという。

「WOTA BOX」は、写真の本体部のほか、シャワー室と水タンクで構成されている。すべてを軽トラックに積載できるようコンパクトな設計となっている

また「WOSH」はさらに小型化した手洗いスタンド。「WOTA BOX」同様にフィルターを内蔵し、水を循環利用するもの。断水した地域の避難所や、特に病院などの施設でも、手洗いできる環境が作れる。

両機とも、既に被災地などで活用されているほか、「WOSH」はイベント会場での活用も始まっている。

なお国立科学博物館では、今回の企画展のほか常設展でも、地震計の仕組みや変遷を解説している。ちょうど企画展の中央ホールを挟んで向かい側の部屋だ。この機会に、そうした展示も巡って、さらに地震に関しての知見を増やしていきたい。