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まだ蛍光灯のオフィスは50%以上? 今も進化するLEDの最先端を新潟のパナソニック工場で見た
2022年12月21日 07:00
蛍光灯からLEDへの交換、実はまだ進んでない?
家庭やオフィスなどの照明で、かつての蛍光灯から今や当たり前の存在になりつつあるLED。その裏で、実は数々の革新が行なわれ、今も進化を続けているのをご存じだろうか?
多くの人は「蛍光ランプを従来品からLEDに替えると省エネになる」と分かっているはずだが、意外にもオフィスの照明に関していえば、全体ではなかなかLED化が進んでいない。約50%程度が、従来の蛍光ランプ(蛍光灯)のままだという。LED化による省エネや製品のラインナップ充実が進み、今では簡単な施工と短工期、そして低価格での交換工事が可能になっているが、まだ実際の導入に至っていないケースも多いのが現状のようだ。
そうした中、2022年12月1日からは日本政府から冬場の節電要請が出された。家庭でできる節電について関心が高まっているが、オフィスについても、一般的な電力使用量の割合は、空調が48%、続いて24%が照明といわれており、少なくない割合を占めていることが分かる。
今回は、かつての蛍光灯の生産からLEDへ移行し、ものづくりの革新を続けてきたというパナソニックの新潟工場で最先端の生産現場を取材してきた。1973年から新潟県の旧分水町(現 燕市)で操業開始したこの工場は、施設や防災照明器具を、自動化した生産ラインで効率的に大ロットで作っている。
電機メーカー各社がLED照明を展開する中で、オフィスや工場・倉庫、学校など幅広く使われているパナソニックの「iDシリーズ」というLED照明は、発売から10年で累計5,000万台の出荷を達成した。
その歴史は照明として省エネなどの性能を高めてきただけでなく、この照明があるオフィスで働く人や、施工する事業者まで多くの関わる人にとっての利便性や快適さを追求してきたとのことだ。
これほど広まるまでにいったいどんな技術や工夫が込められているのだろうか。実際に工場のラインを見てみると、生産の現場から既に省エネの徹底した取り組みが始まっていた。
およそ10年前に普及した「直管型LED」そろそろ寿命かも
照明についてもう一つ、充分に知られていないことがある。それは「照明器具の交換」だ。蛍光灯は「中の蛍光ランプさえ外して交換すれば何十年も使える」と思われているかもしれないが、これは大きな誤り。
蛍光灯の本体(器具)側には、四角い装置の「安定器」という電気部品があり、10年を過ぎると外観では判断できない劣化が進んでおり、一般的な使用状態で平均寿命8~10年といわれている。しかも本体は天井などに取り付けられていることから、結露などによってサビてしまう場合がある。そのため本体の落下事故防止などの観点からも、10年での交換が推奨されている。
見た目は蛍光ランプなのに、ランプの中にLEDが入っているという不思議な照明も存在する。それがおよそ10年前に事務所などで一気に普及した「直管型LEDランプ」というものだ。
照明器具本体を改造することで、蛍光ランプ型のLEDを既存の照明本体(改)に取り付けられる。電車の室内灯に使われているランプといえば分かりやすいかもしれない。見た目はまんま蛍光ランプだ。
そんな直管型LEDランプの寿命はおよそ4万時間なので、ブームになった2012年から10年経過した今年か来年あたりに、多くの製品が寿命を迎えはじめる。製品によっては部分的にLEDが点灯しなかったり、購入時よりかなり明るさが落ちたりしている(購入時の70%の明るさが寿命とされる)ものもあるはずだ。
直管型LEDランプは省エネで蛍光灯より長寿命ながら、使い方によっては危険ととなり合わせというのをご存知だろうか? 先の写真にあったパナソニックのランプは一般の蛍光ランプと異なる口金だったが、実は「蛍光管とまったく同じ口金の直管型LEDランプ」が多く存在する。
しかも本体を正しく改造しないと従来の照明器具で直管型LEDランプを安全に点灯できないが、蛍光ランプ用の照明器具に直管型LEDランプをそのまま取り付けてしまうことで、最悪発火するなどの事故が起きているという。
パナソニックをはじめとした一部の直管LEDランプメーカーは、一般の蛍光灯の口金に差し込めない特殊な口金としているが、蛍光ランプと同じ口金を持つ直管LEDランプも多く存在する。その場合、ランプ交換をする際に「今ついているランプが従来の蛍光ランプなのか」、直管LEDランプである場合は「どの施工会社がどのような改造を行なったのか」が不明確になっており、非常に危険を孕んでいるというのだ。
また、先に紹介した照明器具本体の劣化が進んでいるケースも多くある。設置後10年以上経っているが問題なく使えているという事務所も多いかもしれないが、実際は外観に異常がなくても内部の部品劣化は進行している。そのため、直管型LEDランプ式の照明は「照明本体」を含めた取替え工事が必要な時期を過ぎた状態になっていることも少なくないという。
蛍光灯からLEDにすることで50~60%省エネになる?
省エネや節約になることは知られているものの、それでもLEDへの交換をためらってしまうのは「たまたま今も使えている」「交換する器具が多く必要なのでは?」「工事費や設備費が気になる」という考えからだろう。オフィスでよく見かける蛍光ランプは1.5mほどある40W型が2本取り付けられた照明だが、筆者の計算では、この照明1台の年間電気代(1日12時間、240日点灯、電気代31円/kWh)は7,142円。一番省エネのタイプでも5,714円だ。
一方で同じ明るさのLED照明の場合、パナソニックiDシリーズだと照明1台で31.9Wなので同じ時間点灯しても年間電気代は2,848円。省エネタイプLEDなら26.3Wなので2,348円。どちらも蛍光灯の半額以下の電気代という計算になる。
一般的な蛍光ランプを使っていてLEDに切り替えるだけで、たった1台で4,294円と電気代に差が出る。10人程度が働く小規模オフィスなら照明が10台はついているだろう。となると年間の差額は10倍で最大4万2,000円以上になる。ビル1フロアともなれば100台の照明で42万円以上の経費削減だ。
こうなると無駄を見つけてはチョコチョコと経費を削減するより、一気に照明をLED化したほうがより効果的な節約になるだろう。
なお自社にあるオフィスの照明を数えるのは大変という場合は、ビルの柱で区切られたブロックを目安にするといいらしい。通常の事務作業をする場合ならワンブロックだいたい6台の照明が付いているということだ。
iDシリーズってどんなLEDライトなの?
蛍光ランプや直管型LEDランプを問わず、既存の照明本体の置き換え用途として、大手家電メーカーがさまざまなオフィス向けベースライト照明を発売している。中でも大手と呼ばれるのは絞られるが、今回紹介するのはパナソニックの「iDシリーズ」という照明だ。すでに10年間の販売実績があり、先ほど紹介した通り累計販売台数も5,000万台を突破した定番製品といえる。
公共施設や学校、ショッピングモールやオフィスなどさまざまな場所に導入されていて、この形に見覚えがある方も多いだろう。多くの施設に導入されている最大の特徴は、照明本体と発光部のライトバーと呼ばれる組み合わせが4万通り以上から選べる点だ。
機能や設置方法の違いだけでなく、サイズやデザインも幅広く用意。高天井向けも
照明本体のサイズは、給湯室などで使われる20Wサイズ、オフィスなどで使われる最も一般的な40Wサイズ、そしてショッピングモールや駅などで使われる長い110Wサイズがある。
また、それぞれに蛍光灯1灯相当と2灯相当の明るさも用意されているので、iDシリーズへの切り替えは型番などで迷うことなく簡単に機種選定ができる。また照明カタログなどから、従来の蛍光灯式器具からiDシリーズのどの製品に取り替えればいいかの早見表なども用意されており、互換性はほぼパーフェクトと言っていいだろう。
天井面から露出する直付型に加え天井埋込型も用意されており、さまざまな部屋や空間に対応している。さらに既存の照明器具とのサイズや固定用ボルトのサイズ(W3/8またはM10)、ボルトピッチ(間隔)も一部を除く600mmと800mmに対応しているので、古い建物から新しい建物まで、取付ボルトをそのまま流用して取替えが可能となっている。
照明の交換で気になるのが、既設の照明でできてしまった天井の日焼け。iDシリーズなら日焼けを覆い隠すようにも設置できるので、天井の日焼けがまったく気にならない施工が可能だ。また通常のiDシリーズは、高さを30mm抑えて天井をフラットにすっきり見せるようになっている。しかし従来型の照明に薄型のiDシリーズを取り付けると、固定用のボルトが長く切断しないと取り付けができなくなる。
そこでボルトを切断しなくても施工できる、50mmまで高さを持たせたリニューアル専用タイプも用意されている。オフィスで大量の照明を交換する場合は、施工が簡単なこのモデルを選べば、施工が単純化され、低コスト/短工期で済む。
逆に天井埋込型の場合は、埋め込みの深さが浅くボルトを継ぎ足さないと固定できなくなってしまうので、リニューアル用は埋め込みを深くして施工を簡単にしている。
そのほかにも、階段灯などで壁にかけるタイプ、コーナーに設置できるタイプ、工場などの天井が高いところに付けるタイプなどさまざまな本体が用意されている。
ライトバーは演色性から色温度、機能性まで選べる計約440種類
本体に取り付けるライトバーは440種類も用意されている。サイズは20W、40W、110Wタイプの3種類。発光は、昼光色、昼白色、白色、温白色、電球色の5種類が用意されていて、部屋の用途や演出などに合わせて色が選べる。
最近は環境光として電球色系の落ち着いた光の照明を設置して、各デスクにはダクトレールを使いスポットライトで手元を明るくするスタイルが流行っているという。こうすると。部屋全体を均一に明るくするより、メリハリをつけることで集中度が高まるということだ。
パソコンでの作業が多い場合は、ディスプレイへの映り込みを少なくするグレアセーブタイプ、また工場などの高所に取り付ける場合はレンズで光を絞り下部に集光するライトバーなどもある。さらにデザインオフィスや博物館など「色」が重要になる場所では「高演色」(より太陽光で見た色に近くなる光の「Ra93」や「Ra95」)タイプが選べる。
食品工場や半導体工場など紫外線を嫌う現場では、紫外線遮断ライトバーもある。徹底的に省エネ化を図りたい場合は、193.9lm/W(通常品163lm/W)、40Wサイズ26.3W(同31.9W)などが用意されている。
さらにスイッチ用の紐がついているもの、人感センサーで自動点灯するものなど、不要な照明を自動で消すという照明もある。
エリアやブロックを指定して自動OFFや明るさ調整も可能
最近のオフィスは開発や設計の部門と営業分門が同じフロアに入り、情報交換をしやすくして、互いのアイディアを製品に反映する方式がとられる。
また、デスクワークのスペースにオープンミーティング用のエリアを設けるなど、オフィスのレイアウトもさまざまだ。そんなとき、実は大事なのが照明。開発設計部門は白く明るいライトで照らした方が作業しやすい一方で、事務職は色温度の低い落ち着いた光の方が、作業がはかどるといわれる。また、オープンミーティングスペースは誰もいないときは照明を落としたいものだ。
従来のオフィスは、大まかなブロックにした照明の切り分けができず部分的な調光も不可能だった。
iDシリーズには、タブレットなどで自由に照明をグルーピングして、個別または一括で操作できる無線調光システム 「WiLIA」対応モデルなども用意している。これで、特定の部分だけの照明を、自由にまとめて操作するような調光が行なえるわけだ。
そして、実際に照明を操作する人が機器に全く詳しくなくても、家の明かりを操作するようにオン/オフが簡単にできるのが「ウィズリモ」という照明器具。照明1台1台にリモコンを向けて明るさ調整ができる。原始的な方法にも見えるが、実は専門知識がなくても「今すぐここだけ点けたい/消したい」というニーズに応えるためには、理にかなった形といえる。
一方で、専用のコントローラーなどを使って高度な無線調光ができる「PiPit(ピピッと)調光」もある。信号線工事が不要の簡単な施工で照明器具をまとめてコントロールでき、タイマーで時間帯に合わせて調光することもできる。器具のサイズや明るさ、光色なども選べるので、オフィスの照明といえども画一的でない、幅広い使い方ができそうだ。
工場自体がCO2ゼロへ
このようにパナソニックのベースライトiDシリーズは、オフィスから工場、公共施設から学校などさまざまな環境に対応できる照明本体とライトバーを組み合わせられる照明だ。
環境に配慮したLED照明を製造するパナソニックの新潟工場は、照明機器に関するマザー工場となっている。プラスチック部品の樹脂成型から、金属加工、塗装、最終組み立てに至るまで工場内で行なっている。
さらにCO2削減にも注力していて、2028年までの排出量ゼロを目指して改革を行なっている。そのために使われているものの一つが“からくり”であり、電力やロボットを使わずに作業効率を上げている。からくりは、他のパナソニック工場も見学しに来るほど最先端を走っているものだ。
工場では圧縮空気を各所で使うが、どうしても経年劣化などでエアが抜けてしまうのが現状。そこで、パトロール隊を設けてエア抜けを探して修繕したり、エアをパルス状に噴射することでエアを削減し、圧縮エアを作るコンプレッサーの節電につなげるなど、地道な取り組みも行なっている。
近年導入されたという自動倉庫と出庫システムは、これまでトラックの荷台を100%にして出庫するのが難しかった、在庫のバッファと出荷を自動で行なうことで、少ないトラックで効率のよい配送を可能にした。結果として配送にかかるコストも大幅にダウンできたという。
環境に優しい光源であるLEDのライトを作るだけでなく、自らも環境に配慮してパナソニック新潟工場はサスティナブルなものづくりをしている。
こうして工場のCO2ゼロを目指す取り組みを進めながら、ここで作られたLED照明を使う顧客にも、先ほど紹介したセンサーやリモコンといったいくつもの省エネにつながる機能を提案することで、全体のCO2削減につなげていく狙いがある。
人の生活に欠かせない明かりの進化は、1810年代にガス灯が使われ始めてから、1879年にエジソンの発明による白熱灯が生まれ、そこから1938年に蛍光灯が実用化、1996年に白色LEDが開発されて第4の明かりの存在になっていったように、偶然にも60年に一度の周期で技術革新が生まれてきたとされる。
LEDへの移行で一口に“省エネになった”といっても、そこにとどまらず進化を続けていることが、取材を通じてよくわかった。こうした進化は、明るさなど性能の向上や便利な機能の追加だけでなく、これからは人の快適さを守りながら持続可能な社会をつくっていくために貢献する分野としても、注目度がさらに高まっていくことだろう。