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“温風のマジシャン”テスコムのドライヤーにかける熱い想いを長野の工場で見た
2022年6月27日 08:05
「テスコム」をご存じだろうか? 実はヘアサロンで使うプロ用ヘアドライヤーのシェアのおよそ70%を握っているという会社だ。ドライヤーのロゴには英語表記が使われているので「TESCOM」、あるいはサロン専門ブランド「Nobby」といえば、ヘアサロンなどで見覚えのある方もいるかもしれない。他にもホテルやサウナに備え付けられているドライヤーで同社製品を見たことがある人もいるだろう。
テスコムは「キレイをつくる」をモットーにしており、外から「キレイをつくる」ドライヤーやヘアアイロンなどのビューティー家電のほか、体の内から「キレイをつくる」ことを目指す調理家電も展開している。何年か前にスムージーが大ヒットしたが、そこで注目された世界初の「真空ミキサー」ブームの火付け役といえるのもテスコムなのだ。
このようにドライヤーや調理家電などで知られるテスコムだが、マッサージ機器やバリカンなども手がけ「キレイをつくる」製品の数々を生み出している。ただ、製品こそ認知されているものの、古くからある日本企業である「テスコム」という会社をよく知る人や、ドライヤーのトップメーカーであるワケを知る人も少ない。
今回は長野県松本駅から車で30分ほどの地にある、信州の山々に囲まれた美しい自然の「キレイな場所でつくる」テスコム松本工場を取材してきた。普段何気なく使うドライヤーに詰め込まれた様々な技術や、製品が完成するまでの様々な工程に多くの発見があったのでお伝えしたい。
実は誰もが一度はお世話になっている!? テスコムってどんな会社?
テスコムの創業は1965年(昭和40年)で、今年で58年目となる。半世紀以上の歴史を持つ小型機器をメインとする電器メーカーで、最初に手掛けたのが、今でも主力製品となっているドライヤーだ。松本工場にもその歴史が展示されており「これは見たことある!」的な製品の数々が並んでいた。
ドライヤー第1号機は、今でも通じそうなデザインで、横から空気を吸い込み前から吹き出す、今でもヘアサロンで使われているタイプのドライヤーだ。のちに後ろから吸い込んで前に出すタイプも発売されている。
先ほど説明した通り、現在はヘアサロンのおよそ7割で同社製ドライヤーが使われているという信頼性の高さが強み。プロ向けの製品を一般仕様にした「Nobby by TESCOM」も展開している。
ここ最近は、低温調理器のメーカーとしても名を馳せるようになった。2022年5月にMakuakeでテスト販売された「芯温スマートクッカー TLC70A」は、日本初となる“芯温を計って水無しで低温調理できる”もの。募集開始から2日間で約1,000台を売り切り、追加の1,000台を用意するもこれまた数十日で完売する快挙を成し遂げたという(6月6日にプロジェクトは終了)。この製品は秋以降に一般販売される予定で、筆者の手元にも試作機があるので別途レポートしたい。
さらには「低温コンベクションオーブン」という製品も展開している。温風をトースターのようなコンベクションオーブンの庫内に送ることで、35℃~90℃の低温調理ができるというものだ。しかも、牛肉の薄切りやホタテを庫内に入れて一晩温風を当て、フードドライヤーとして使うこともできる。ビーフジャーキーや、駅のキオスクで売っているような乾燥ホタテが自分で作れるのだ。
しかもどちらの製品も旭化成の「ジップロック」公認を取得していて、水を入れなくてもジップロックに肉を密封して庫内に入れると調理ができる簡単さだ。もちろんジップロックの封が調理中に開いてしまうようなこともない。
他にも健康機器なども手がけているが、筆者がテスコムという会社をひとことで説明するなら「温風の魔術師(マジシャン)」とでも紹介したい。なぜなら35℃~という低温を水無しで維持するのは技術的に非常に難しいからだ。
技術者にぶっちゃけ聞いてみた! 素人でもプロ用を使った方が仕上がりがいいの?
テスコムでは美容師さんが使うプロ用ドライヤーから、個人で使う一般的なドライヤーまで開発/製造/販売している。そこでプロ用と一般用の違いについて聞いたところ、次のような特徴を教えてくれた。
【プロ用の特徴】
横から風を吸い込む「シロッコファン」=風速が速い
大型ファンなのでドライヤー全体がやや重い
ピンポイントで髪の毛を狙えるよう吹き出し口を絞っている
吹き出し口を長めにしている
温冷の切り替えができるのみ
プロは温冷を切り替えてヘアセットしたり、艶を出すなど独自のドライヤーテクニックを身に着けているので、自動モードなどは搭載していない。確かにサロンに行くと、手動で温冷を切り替えたり、頻繁に髪とドライヤーの距離を変えているのをよく見かける。つまりプロ用は大風速でサロンでも素早く髪を乾かすためのドライヤーだという。髪に当てる風の温度は、髪とドライヤーの距離が微妙にコントロールして、美容師さんが手ぐしで髪を流しつつ、同時に温度を感じているのだ。
※一般用のドライヤーが「大風量」で髪を乾かすのに対して、プロ用は「速い風速」で髪を乾かすため、ここでは対比のために「大風速」と表現しています。
また美容師さんはグリップだけでなく、ノズルを持ってブローする。だからノズルを持ってもバランスよくなるようにデザインされているそうだ。さらに髪をピンポイントで狙えるように絞れるのも特徴だという。
話を聞くと美容師さんの一挙手一投足の意味が分かってくる「なるほど!」な点だらけで、サロンの現場で美容師さんの声を徹底的に反映しているドライヤーだというのが理解できる。
【一般用】
後ろから風を吸い込む「プロペラファン」=広範囲で大風量
ファンが小型なので軽量
プロ用は「風速」で乾かすが一般用は「風量」で乾かす
吹き出し口が短く、グリップを持ったときのバランスがいい
温冷の切り替えに加えセットや艶出しなどの自動モードを持つものもある
一般用のドライヤーは、髪の艶を出したり、セットを決めたりするドライヤーテクニックがなくても、ブローをサポートする自動モードで温冷風の切り替えをしてくれる。また自分でドライヤーを持って、自分の髪を鏡を見ながらブローするため、片手で持っても疲れないように軽い。さらに送風がピンポイントだと鏡越しに温風を狙った場所に当てるのが難しいので、吹き出しをあまり絞らず広範囲に送風。上記のモデルTID2400も「セット」モードを搭載し、イオンの効果でテクニックがなくても艶出しができるという。なによりプロ用と違うのはグリップが折りたためるところだ。一方で折りたたみ機構は強度が弱くなることにもつながるので、利用時間が長く過酷な使われ方をするプロ用は頑丈さが重視される。
大風速で乾かしたいならプロ用の「シロッコファン」を使うのがベスト。しかしファンが大きくなるので、一般用は後方からプロペラファンで吸い込んでいるのも特徴だ。
後方からの吸い込みにするとグリップの上に重いモーターを配置できるので、左右に振っても軽く手首に負担もかからない。さらには小型モーターで全体の重量を軽くできるというメリットもある。さらに美容師さんのようにノズルを持ってブローする人はほぼいないのでノズルを短くして、無理なく髪からドライヤーを遠ざけて適温にできるようにしているのが特徴だ。
「プロペラを使った風は、旋回流という捻れた風なので髪が絡まらないの?」と質問してみた。不自然な風は扇風機の前で声を出すと「宇宙人の声になるアレ」だ。しかしエンジニアによれば「ファンの後に整流板という捻れを打ち消す羽根をつけているので、吹き出す風は自然なストレートで髪が絡む心配はありません」ということだった。
こうしてプロ用と一般用のドライヤーは、それぞれに特徴があることが分かった。しかし気になるのは「素人でもプロ用を使うといい仕上がりになるのか?」ということ。これは多くの方が疑問に思うかもしれない。
答えは「技能があればぜんぜんアリ」だ。ドライヤーのテクニックを磨けば、美容師さんのように使いこなせることだってできる。ただし、プロ用は「他の人の髪をブローするために最適化されている」点は覚えておきたい。つまり自分自身の髪を自分でブローする場合、重かったり、腕をめっちゃ伸ばしてドライヤーを遠ざけ温度を下げたりするので使いづらく感じるかも知れない。
一般用は自分で自分の髪をブローするために最適化された製品なので軽くて使いやすい。また技術は内蔵のマイコンが温冷を切り替えてくれるので簡単だ。
とはいえプロ用の大風速をどうしても使いたいという声も多く、テスコムではプロ用モデルをベースにした一般用モデル「Nobby by TESCOM」もリリースしている。プロ用に近い製品を使いこなしたい方や、プロを目指したい方はぜひ手にしてはいかがだろうか。
プロの認知率およそ90%。その品質管理と研究開発
ここまで読めば、テスコム製品がなぜ選ばれるのかがお分かりいただけただろう。さらにはプロ用と一般用のどちらが自分に向いているかを知るきっかけになったかもしれない。
ここから先は、プロを唸らせる品質とその研究開発の裏側をお見せしていこう。
研究開発にも余念がないテスコム。これまで50以上の工場を見てきた筆者だが、初めて見る試験装置や機械類も多々あり、ドライヤー専門メーカーといっていいほどの機材とノウハウを持っていると思えた。
皆さんのお手元に届いてからも何年も壊れずに正しく、安全に動作するかの耐久試験も怠らない。
ドライヤー以上に熱い心で製品作りをするテスコム
複雑なコンピューターや半導体を多数搭載した最近の家電だが、一見すると単純に見える「ドライヤー」にもこれだけの労力や研究、安心安全なもの造りの熱い心が注ぎ込まれているのがお分かりいただけただろう。
サロンやホテル、サウナなどで「Nobby」や「TESCOM」のロゴを見たら、松本でがんばる人々の姿を思い出して欲しい。