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100%太陽光発電でカーシェアリング? 世界初の取り組みが実現したワケ

中国電力、広島県、パナソニック、AZAPAの共同プロジェクト「完全自立型EVシェアリングステーション」

以前、岐阜県の多治見電力において、太陽光発電を備えたガレージでEV(100%電気自動車)を充電してカーシェアリングするサービスを紹介した。また沖縄電力や多治見では個人宅の屋根を借りる形で太陽光パネルを設置し、安い電力を供給するサービスについてもお伝えした通りだ。

今回紹介するのは、中国電力が始めた太陽光発電の新しい取り組み。電力設備を電力会社が貸与するのではなく、利用者に販売するが設備費を電気代として分割して回収するというものだ。

施設の所有権は利用者で設備投資費を電気代として分割返済

電力会社主体の太陽光発電敷設サービスといえば、太陽光パネルやパワーコンディショナーなど、設備一式は電力会社が所有し、敷設場所の土地や屋根は一般家庭や企業所有地を電力会社に提供する形態が一般的だ。そして家庭や企業は、発電した電力を電力会社から安く購入する。このような電力購入契約を「PPA(Power Purchase Agreement/電力購入契約)」と呼んでいる。

発電施設の設置場所が利用者の土地や敷地内であれば、オンサイト型と呼ばれ電力の地産地消となる。他の土地を借りる場合などはオフサイト型のPPAと呼ばれ、電力会社が電力を滞りなく利用者に送電する。いずれも発電設備は、電力会社所有となる

数年前までは、家庭や企業が自前で設備投資して、余剰電力を国が定めた金額で電力会社が買い取る「FIT」(Feed-in Tariff/再生可能エネルギーの固定価格買取制度)が主流だったが、太陽光発電の買い取り電力が大幅に下がったため、設備投資費を回収できなくなったこともありPPAが台頭してきた。

中国電力が新たに開始するサービスは、発電施設の所有権が「電力会社」ではなく企業などの「利用者」にあるPPAだ。つまり「設備投資費を電力会社が企業などに貸し付け、月々の電気代として返済していく方式」だから、所有権は利用者側にある。身近な例だとスマホ購入の分割払いが近いだろう。スマホの本体価格を2年間かけて電話代とともに分割で支払い、スマホの所有権はユーザーにあるのと同様と考えるとわかりやすい。

このカーポートは、設備敷設費は中国電力が支払い、所有権は広島県にある。広島県は電力料金として毎月中国電力に設備敷設費を返済していく形になる

太陽光発電を導入したいが、初期投資額の負担が重い。かといって電力会社から設備を借りるこれまでのPPAでは、契約期限が切れた場合の施設更新や撤去費用などが心配という企業向けのサービスだ。すでに村田製作所が中国電力と契約し2030年まで同社の持つ中国地方の工場で利用する電力の50%を再エネにするとしている。

さらに自社に土地が太陽光発電を敷設する土地がない場合は、企業と電力会社の間に「PPA事業者」が入り、利用者の敷地以外で発電し電力会社が利用者に送電するオフサイト型PPAの形態もある。先の村田製作所もオフサイト型を利用している。

中国電力は大手電力会社としていち早くオフサイトPPA事業に乗り出し、工場地帯を多く抱える瀬戸内海の企業で再エネ化を電力会社としてバックアップする試みだ。

PPA事業をさらに発展させた完全自立型EVシェアリングステーション

中国電力はPPA事業をさらに発展させ、完全自立型EVシェアリングステーションの実証実験を4月4日から開始した。「完全自立型」とは、電力供給を100%太陽光発電でまかなうものだ。

同社によれば「電力系統から完全に分離独立したソーラーカーポートと蓄電&制御システムを一体化し、太陽光発電の電力のみで運用するEVステーションに、カーシェアリングサービスを組み合わせたのは世界初の取り組み」だという。

電柱から引いている電線がない

広島県立広島産業会館に設置された太陽光パネルが屋根となっているカーポートがあり、ここに駐車されている車をシェアリングするサービスとなっている。中国電力が旗振り役となり、このサービスの企画・運用、このステーションの構築とシェアリングサービスを提供。これに広島県が賛同して土地の提供や企業向けのEVシェアリング事業への参画、そしてEV普及推進の実証実験を行なう。

太陽光発電に関する設備や遠隔管理システムなどはパナソニックが協力。加えて大手自動車メーカーのEV制御モジュールやバッテリーマネジメントなどを得意とするAZAPAが蓄電池系統を担当している。

太陽が昇っている昼間は、ステーションの車を広島県と中国電力の子会社となる中電工でシェア(将来的には企業や地域住民も)。車が利用されていて充電する車がない時は、発電した電力はすべてステーションに蓄電される。日が昇っているうちに車が返却された場合は、太陽光で発電した電力で車を充電。日が落ちて車がステーションに戻ってきたら、蓄電池の電力を使い車を充電する。

車が出払っているときは太陽光発電の電力をすべて蓄電池に貯める。日が昇っているうちに戻ってきた車は、優先して太陽光発電で充電。車が満充電になると蓄電池を充電し始める
AZAPA製の蓄電池(下段の3基)。1基10kWhスマホに換算するとだいたい830台分の電池と同じ
持ち運び可能なバッテリーモジュール。カセット式になっており、電動自転車や電動カートなどにも利用できる。1本1kWhの容量を持つ

蓄電容量は据え置き型の10kWhが3基、持ち運びが可能な蓄電池の8kWhが1基となっている。持ち運びが可能な蓄電池は、1kWhのバッテリーモジュールになっており、電動自転車や電動カートなどにも利用可能だ。脱着可能なバッテリーパックとして汎用性があるので、実証実験を通してその応用の可能性についても探るそうだ。

バッテリーパックを何本かまとめると軽自動車のEVも走行できる

また災害時には、非常用電源としても使える。1日あたりスマホならおよそ4,400台、ノートパソコンなら350台分を充電可能だという。

建物としてもしっかりとしたユニット構造で敷設も簡単に

これまで多治見電力のカーシェアサービスやソーラーガレージにも協力しているパナソニックは多くのノウハウを持っている。今回のシェアリングステーションでは、建物としての品質や敷設の簡易さ、事業ベースになるため15年間という長期間の保証が必要になるという。

従来は太陽光パネルを上から止めていたので、2m以上の高所作業のため敷設の際は足場を組んで落下防止対策をする必要があった。しかしこのガレージは下からパネルを固定するので、足場も落下防止対策も不要で安全で素早く敷設できる

従来は、太陽光パネルの架台を高くして、その下を駐車スペースにするような形だった。しかし今回は建物としての構造評価を行ない排水溝や屋根下のカバー、そして専用レールで躯体を組み、そこに太陽光パネルをはめ込む方式をとっている。将来的にマンションに設置をしても景観を壊さないためのデザイン的な配慮もある。

躯体はSkyJapan製のカレージを採用。これにパナソニックのパネルを乗せ下から固定する

高さが2m以上ある構造物は法律上、足場を組んだり高所作業の安全対策を行なう必要がある。一般的な太陽光パネルは上部から固定が必要だが、今回は専用レールにパネルをはめ込み、下から固定できるようにしているため、工事の安全性を確保しつつ工期短縮にもつながっているという。

事業者用のスマートメーターは、あすかソリューションとの協力のもと、15年の耐用年数を確保しながら、モジュールを差し替えることで将来のサービスに対応できる拡張性を持たせている

さらに発電状態をモニターするための「事業者用スマートメーター」を採用。しかし15年の保証が必要となり、将来的には時代にそぐわないデータ形式や通信方式になってしまう恐れもあるため、モジュール交換をすることで、将来的にも対応できる汎用性を持たせている。

一方「事業者用スマートメーター」を遠隔管理するコンピュータシステムも、今後の15年間に登場する新しいサービスにも対応できるよう、各種サーバの前にスマートメーターから受信したデータをサービスごとに振り分けるシステムを用意。これによりスマートメーターからのデータが拡張されても、システムを大きく変更することなく新たなサービスを提供できる汎用性を持たせている。

クラウド上でデータやパラメータのやり取りを行ない、サービスごとにデータを振り分けられる汎用性を持たせた遠隔管理システム

今後のカーシェアリングを変えるかもしれない実験

地域の電力会社ではなく、大手電力会社と県が合同して行なうカーボンフリーに向けたEVシェアリングサービスとPPA事業。広島県は今後の目標について「実証実験を通して、発電量と車の台数、設備に問題はないか、利便性に問題がないかなどの課題を洗い出したい」と説明する。

また中国電力も普及に向けて「不便なく使えるか、利便性を確保できるか、さらにコストと利便性のバランスを実証実験から洗い出したい」としている。

太陽光や洋上風力発電などの発電事業ではなく、より身近な電気自動車を普及させるインフラ整備の面においても、より身近で便利になるサービスとして今後の電力各社の動きに注目したい。