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設備費0円で自宅に太陽光発電と蓄電池も!? 沖縄電力「かりーるーふ」を見てきた
2021年4月2日 08:00
以前、「新築住宅に太陽光パネルを設置すると電気代が毎月2,900円になる」というサービスをご紹介した。こちらは岐阜県の多治見市での話だったが、今度は南へ1,500km離れた沖縄でも“似ているようで似ていない”面白いサービスが始まった。
それが沖縄電力の「かりーるーふ」だ。2021年4月のサービス開始に先立ち、1月22日に事前申し込みの受付を開始したところ、申し込み枠の50件を大幅に上回る希望者が殺到し、事前受付を終了するほどだ。それほどまでに人気を博すサービスとはどんなものなのか? 現地沖縄まで飛んで取材してきた。
CO2排出量の多い石油や石炭発電を「なんとかしたい」沖縄電力
美しい海を持つ沖縄には、自然を大切にする人が多い。もちろん沖縄電力もそうだ。現在、沖縄本島の電力は、石炭発電所2カ所、重油発電所2カ所、最新のLNG発電所1カ所で賄っている。川が少ない沖縄にあっては、本州のような水力発電所がない。また数ある離島ではディーゼル発電機を用いているほか、実験的に風力を使っているところもあるという。
沖縄には原子力発電所もなければ、火山の熱を使う地熱発電もない。沖縄電力としての直近の課題は、CO2排出量の多い石炭や重油を燃料とする発電所を、CO2排出量の少ないLNG発電所に切り替えること。
とはいえ、おいそれと発電所を建て直すわけにもいかないので、「沖縄らしさ」を活かした太陽光発電を普及させようという取り組みも並行している。その手段のひとつが「かりーるーふ」というわけだ。
「南国で太陽がさんさんと輝くから太陽光?」と思うかもしれない。しかし沖縄は毎年台風の経路になっているため、それほど気象条件がいいというワケではない。
「沖縄らしさ」とは台風の通り道であるがゆえ、住宅がコンクリート製の数階建てという点だ。しかも本州で一般的な三角屋根ではなく、コンクリートでできた平たい屋根なのだ。言うなれば、屋上のようになっている。
沖縄電力は、この沖縄独特の屋根に太陽光パネルをのせて発電しようというのだ。一戸一戸の発電量は小さくても、数を集めれば大きなエネルギーになる。
沖縄電力にとっては、巨大な太陽光発電所を作る土地を購入せずとも太陽光発電を導入できるというメリットがある。顧客にとっては自宅にタダで太陽光パネルを設置でき、電気代の割引や停電時の予備電源設備までタダで手に入る。お互いにメリットがあるウィンウィンのサービスなのだ。
電力メーターの内側か外側か? 似ているようでちょっと違うサービス
以前に紹介した多治見電力は、オール電化とZEH対応住宅と太陽光パネルがワンセットになったサービスを展開している。まずは家の電力を自分で賄って、余剰電力(一定量は必ず多治見電力に無償で売電)を多治見電力がもらい受け、昼間の電力需要が大きい工場などに多治見電力経由で販売するというものだった。
こちらも太陽光発電設備は、すべて多治見電力持ちで、20年間のメンテナンス費も多治見電力が無償で行なう。つまり多治見電力の場合は、太陽光発電の設備一式は、電力メーターの内側(家庭内)にあり、各家庭での地産地消がメインだ。
しかし沖縄電力の場合は、太陽光発電設備がすべて電力メーターの外側(電柱側)にある。発電した電力はすべて沖縄電力(沖縄新エネ開発)のものとなり、自宅の敷地に置かれている蓄電池の電力も、自宅の屋根にある太陽光パネルで発電した電力も、沖縄電力のものだ。つまり自宅敷地内で発電した電力であっても、沖縄電力から購入することになる。
顧客のメリットは、通常の電力より割引される点と、もし停電になった時は蓄電池にたまっている電力を非常用の電源として使える点だ。ただ、停電時の電力も、蓄電池が電力メーターの外にあるので、沖縄電力から電気を購入することになる。
沖縄電力のような仕組みは顧客のメリットが少ないと思われるかもしれないが、電力メーターが家の内側にある方式との大きな違いは導入のハードルの低さだ。電力メーターの内側に太陽光発電を設置した場合は、新築住宅とのセットになってしまう。数年前までは余剰電力を電力会社が高値で買ってくれていたが、今や売電してもほとんど儲けにならないので、苦労ばかりかかることになる(多治見電力はこの面倒をコンピューターで自動サポートする)。
一方、電力メーターの外に発電設備がある場合は、仕組みが簡単。とにかく電気は沖縄電力から買うだけで、面倒は一切なし。しかも平たい屋根の既存住宅なら誰でも導入できるというハードルの低さ。新築の一戸建てでなくてもよく、ZEHと呼ばれる省エネ住宅にする必要もないので、太陽光発電を簡単に導入できるのだ。
このようなサービスは、発電所を持たない新興の電力会社には多く見られるが、「沖縄電力」という老舗の電力会社が提供するのは日本では初めて。その信頼性も大きな武器となっている。
沖縄の電力/自然/環境に福を呼ぶ「かりー」なルーフ
ここまでくればもうお分かりの通り、かりーるーふは沖縄電力からの「みなさんの“ルーフ”(屋根)を“お借り”して、太陽光発電を増やし二酸化炭素削減を実現しましょう!」という提案なのだ。沖縄本島の電力をすべて賄うためには、膨大な土地に太陽光発電を設置しなければならず、それはあまりにも無謀過ぎ。そこでひとつひとつは小さいけれど、各ご家庭の屋根をお借りして、たくさん集めることで大きな発電力にしようというものだ。
契約満了までの15年間は、設備の管理を沖縄電力が経費を負担してメンテナンスをしてくれる。その後も契約を継続することも可能だ。もし解約する場合は、沖縄電力の負担で設備の撤去もしてくれるという。沖縄電力曰く「古い設備をお客様に譲渡することも可能ですが、かえってご迷惑になってしまう恐れもあるので、撤去も行ないます」とのことだ。
かりーるーふの「かりー」には、屋根を「かりー」るという意味だけでなく、沖縄の方言で「福を呼ぶ」という意味がある。コロナ禍では聞くことは少ないが、居酒屋に行くとみんなで「カリー!」と乾杯をする。乾杯で福を呼んだり、めでたいことを祝う言葉なのだ。
つまり沖縄電力にも、顧客にとっても、かりーるーふは「かりー」が訪れる。それもあって事前申し込み開始するやいなや、申し込みが殺到したというわけだ。
沖縄本土で小規模実験をして、点在する離島にフィードバック
沖縄電力が電力を供給するのは、本島だけではない。数ある離島でも安定した電力を供給する使命がある。現在離島の発電を担うのは、ほぼディーゼル発電機。言ってみれば、大型トラックをバンバン走らせているようなもので、環境にイイわけがない。かといって本島から送電もできず、LNG発電所は離島にはデカすぎる。
そこでディーゼル発電の代わりに、離島へ導入しようというのが風力発電所と太陽光発電だ。これなら地産地消でき、規模的にも最適というワケだ。
実はかりーるーふは、離島の発電施設として導入するための実験も兼ねているという。まず本島でかりーるーふのようなサービスを展開し、実用実験を行ないつつも、その結果を元に新たなサービスへとフィードバックしていく。台風なども多いので発電量のデータも必要になるし、設備の強度なども問題になるだろう。
さらに海に囲まれた沖縄は、風力の宝庫でもある。しかしたびたび来る台風にはどう対処すればいいのか? また海風は常に吹いているわけでもなく、海に囲まれている沖縄は風が回る。これらを踏まえて、風力発電の実験も行なっているという。現在実験で取り組んでいるのは電力の安定化。風の揺らぎがそのまま電力の揺らぎとなってしまうので、蓄電池を使った平滑化(標準化)の研究を進めている最中だという。