ニュース

カーシェアやシェアサイクルの電源不足問題を太陽光で解消!? 多治見の新しい取り組み

電気自動車「C+pod(シーポッド)」を使った、カーシェアリングを実証実験中の多治見市。2022年1月よりサービスインとなる。電動アシスト自転車はサービス中で多く利用されているとのこと

岐阜県多治見市といえば「美濃焼き」の街として有名。またその陶芸をテーマにしたアニメが放送され、大人気のため第2期も放送。劇中に登場する舞台を訪れる「聖地巡礼」でにぎわっている。

「美濃焼き」の街として有名な岐阜県多治見市。同地を舞台としたアニメへの注目により、多くの聖地巡礼者が訪れている。写真は、同地のパンフレット

さらに家電 Watchでも何度か紹介している、ご当地企業で働くと電気自動車を月額約2万円で貸与してくれる「働こCAR」という取り組みや、エネファントの主催する戸建ての「フリエネ」住宅を購入すると月額2,980円だけで電気代が無料になるなど、奇抜な取り組みが知られている。

関連記事:“消滅可能性都市”からの脱却! 月19,800円でマイカーのように使える「多治見で働こCAR」とは

関連記事:月額2,980円だけで電気代無料の一戸建て!? 「フリエネ」を見てきた

エネファントは、当初は多治見で再生可能エネルギーを売買するご当地の新興電力会社であった。だが、奇抜な取り組みやビジネスモデル、そのシステムは、今や「多治見モデル」として太陽光エネルギーを効率的かつ、事業ベースで運用が成功しているとして、その名を全国に知らしめるほどになっている。そんな「多治見モデル」を構築するまでに、これまで制度や法律など、様々な壁があった。だが、同社の実例を見て、制度や法の整備が、後から整えられてきたという状態だ。

そんなエネファントの次なる一手は、トヨタの超小型電気自動車「C+pod(シーポッド)」を使ったカーシェアリング事業だ。すでに電動アシスト自転車のシェアリングは、アニメの聖地巡礼に訪れるファンたちに多く利用されJR多治見駅前には自転車がたくさん並んでいる。

他方で、電動アシスト自転車のシェアリングは、大都市やその近郊ではよく見かけるようになった。しかし問題は、利用者の多い地域では、借りたときには「バッテリーがほとんどない!」という状況があること。電動アシスト自転車シェアリング「あるある」だ。

人気の場所だと自転車を借りようにもバッテリーが充電されているのがない! なんてことも

エネファントのシェアリングサービスはこの不便さを解消する新しいシステムだ。いったいどのように充電を行ない、さらに超小型の電気自動車までシェアリングしようというのだろうか?

現地に赴き、そのサービスを目と耳で確認し、そして実際に運転して試してきた。

多治見駅北口の電動アシスト自転車シェアリングサービス用のポート。そこから見える多治見市役所の出張所でガイドブックをもらって聖地巡礼にGO!

こんどはトヨタのc+podを太陽光コンテナでチャージ!

電動アシスト自転車にしても超小型電気自動車にしても、一番の問題は乗り物を貸し借りする拠点「サイクル(カー)ポート」の問題だ。

町のあちこちになければ不便だが、その一方で、設置用の土地が必要になったり通行の邪魔にならないように小型化しなければならない。本来はポートに充電機能があれば返却時に自動充電することも可能だが、屋外にあるポートに電源を引くには工事費が掛かる上に、充電にかかる電気代は誰が払うのか? という問題もある。

エネファントが考えたサイクルポートは、省スペースなうえ、電気の配線も電気代の問題もクリアした斬新なポート。それがJR貨物サイズのコンテナを使った完全独立型ポートだ。

JR貨物のコンテナ側面に穴をあけスロープを付けて、超小型電気自動車が2台駐車できる。さらに天井には太陽電池パネルがあり設置するだけで電力を確保できる完全独立型ポート

屋根には太陽電池パネルを備え、その電力を蓄電池に貯めるようになっている。現在、リチウムイオン蓄電池は高価なので、自動車と同じ鉛蓄電池を使っているのも特徴だ。フル充電すると、超小型電気自動車なら100kmの走行が可能だという。

このように電気の配線などが一切不要なので、設置許可が下りれば(難燃性にする必要があるなど、細かい点では問題が残るが)どこにでも設置できるのが魅力だ。

またポートの脇には電動アシスト自転車用のポートがあり、ちょうどハンドルの高さには、お菓子のキャラメルサイズの箱がある。一方、自転車のカゴ部分には、その箱がちょうどはまるポケットが付いている。返却後に利用者が、ポートの箱を自転車に差し込むと充電が始まる。ちょうど、スマホの無線充電のような感じだ。

これまでの電動アシスト自転車シェアリングの問題だった、ポートで充電できない問題を解消。しかも電気工事や電気代が一切発生しない独立型
充電はスマホの非接触充電と同じ。自転車のカゴについているポケットにポートから延びるキャラメルサイズの箱を差し込むだけでいい

一方コンテナの中をのぞいてみると、車用の充電器を備えている。トヨタの超小型電気自動車C+podが2台停められるサイズで、屋根つきの駐車場も兼ねている。こちらも利用者が車を借りた後は、フロントにある充電ポートをあけて、ポートの充電器を差し込むだけでいい。

カーポートには充電用のプラグが用意され、返却したあとに車の前にある充電ポートにプラグを差し込んで充電する
ドアのロックがかかっていても充電用のポートは常時開閉可能で、ここにプラグを差し込んで充電する
C+podが2台駐車できるJR貨物のコンテナ。角度を変えれば普通乗用車にも使えそうなアイディア!

システムは全国規模で自転車シェアを手掛けるOpen Street

自転車にせよ自動車にせよ、シェアリングの便利さの要はスマホ用のソフトだ。このシステム開発には、全国規模で自転車やバイクのシェアリングサービスを行なう「Open Street」が担当している。

既存の自転車シェアリング用ソフトをもとに、機能を強化したような感じで、街中のどこに空いている自転車や車があるかを確認できる。また、バッテリー残量なども、スマホの地図上に表示。もちろんGPSと連携しているので、最寄りのポートを探すのも一瞬だ。

マップ上に表示されるポートの数々。自動車の場合は車のアイコンが表示される

あらかじめユーザー登録しておく必要があるが、スマホの地図からポートを選択し、乗りたい自転車や自動車を選ぶとロックが解除(車の場合はドアロック解除とスタートボタンが押せるようなる)されて、利用できる状態になる。

マップからポートを選ぶと場所の写真、貸し出しや返却可能台数が表示できる
貸し出し予約と、料金やバッテリー残量の確認もできる

乗り捨てしたい場合は、空いているポートを探して、そこに返却する。前述の充電器を自転車に接続して、スマホで返却処理をすると施錠される。

超小型電気自動車の乗り心地も軽快!

電動アシスト自転車の乗り心地は、多くの方がご存知のとおり。加速や坂道など力が必要になるところで、モーターが適切にアシストしてくれるので楽にこいで走れる。

アシストの強さも手元のコントローラで選べるので、強力にアシストしてもらうことも、緩くアシストしてもらいバッテリーを長持ちさせるなど自由自在だ。

操作に迷うことはまずない、電動アシスト自転車のコントローラ

一方超小型電気自動車のC+podは、幅が軽自動車サイズで全長がその半分程度だ。車好きな方ならsmartと同じくらいというと、分かりやすいだろう。

とりわけ小さく見えるボディーだが、身長165cm体重75kgの筆者が乗ってもまったく狭さを感じない。また男性が隣に同乗しても狭さを感じず、平地であれば、パワー不足もまったく感じなかった。

コンパクトさとパンダカラーがキュート! 見た目は小さいが乗ってみると狭さを感じないうえに、平坦な街乗りならパワーも十分
オートマチックだがセレクターレバーはなくパーキング、ドライブ、バックのボタンを押す
レンジ切り替えの際にレバーを探してしまうこと以外はフツーに楽しく乗り回せる

トヨタによれば5時間でフル充電(200V時)でき、フル充電時の走行距離は150kmと、かなり長距離だ。運転の仕方や坂道の有無などで走行距離はだいぶ変わるが、半分の75kmだとしても市内のスーパーで買い物して、ちょっと市外のスーパー銭湯に遊びに行っても余裕。アニメの聖地巡礼などで市内をくまなく回る場合でも十分だ。なお、現在は実証実験段階のため、一般の観光客が乗車できるのは2022年1月11日以降となる。

小さいのによく走る秘密は60kmまでの速度制限に加え、車両は樹脂やFRP製(フレームは金属)で、車両の重量が700kgを切るほど軽いため。だから加速がいいのに長距離走れる。

リアのハッチバックの右側には時速60kmの制限ステッカーが貼られている
ハッチバックを開けると小さなカーゴルームだが、お米10kgを2袋と500ccのお酒2ケースぐらいは積み込める

乗ってみた感じだとハンドルとブレーキがやや重め。一般的な電気自動車と同様、アクセルワークで加減速をする感じになる。一般的な電気自動車に比べると、電池を長持ちさせるためか、加速を緩やかにしている。とはいえアクセルを踏むと、ガソリン車の軽自動車以上にグイッ! と加速するように感じた。

また実証実験のひとつとして、平日昼間は市役所が公用車として使い、庁舎が休みの土日祝日は市民に貸し出すという新しい取り組みもしている。

さらに安く情報収集できる電気自動車を確保するために

トヨタのC+podは、シェアサービス機能を含まない車両価格が172万円する。しかし自動車シェアリングアービスを事業化するには、さらに低コストで独自の電気自動車が必要だという。そこで地元企業も協賛し、自分たちで安く電気自動車を作る研究を行なっている。

自分たちでEVを作りたい理由は次の3つだ。

  • コストの安い電気自動車
  • メーカー間で互換性のないバッテリー問題
  • EVの状態を細かく収集できるシステム作り

そこでエネファントは、地元の自動車工場「米田モータース」と提携している。同時に、自動車制御コンピュータでは大手の「AZAPA」という会社とも協力体制を敷いている。

AZAPAという会社、実はトヨタ系の自動車のコンピュータを開発し、同社の電気自動車含めすべての自動車は事実上AZAPAのコンピュータで走っているといってもよいほどなのだ。

米田モータースは、一般のガソリン車を電気自動車にコンバージョン(改造)するメカニックだ。すでに軽トラックに中国製のパワートレインを乗せ換えて、荷台に積んだバッテリーで走るように改造している。そこにAZAPAのコンピュータを搭載し、現在は性能検査を行なっているところ。

軽バンのガソリン駆動の装置を降ろし、モーター付きの装置へ換装している
バッテリーはカーゴルームの下に配置し、チャージ用のコネクタも取り付ける

こうして中古の軽自動車を安く電気自動車に改造できれば、事業ベースでの運営もしやすくなるという目論見だ。しかも電気自動車への改造という、新たな地元産業も立ち上げられるので、協賛2社のメリットにもなる。

一方でモーターや電池の制御はAZAPAの担当。米田モータースの換装したパワートレインに、最適なコンピュータプログラムを開発している。

電気自動車ができるまでの工程とテストなど

もう1つの問題は、電気自動車のバッテリーが、メーカーによってまちまちという点だ。バッテリー寿命での交換でも問題になるほか、カートリッジ式のバッテリーにしておくと、あらかじめポートに充電済みバッテリーを設置することで、残量がわずかでもバッテリーパックを交換するだけですぐ使えるようになる。

こちらについても電動キックボードのバッテリーパックをいくつか搭載し電気自動車の電源として使えないかを実験中という。また電動アシスト自転車のバッテリーも共通化することで、自転車でもバッテリーパックを交換するだけで、すぐに乗り始められるようにできないかを模索している。さらには寿命となったバッテリーの、リユースとリビルドの研究も視野に入れているという。

荷台に乗せているのは、カセット式バッテリーのサンプル。使うのは電動キックボードに使われている35V 15,300mAhのバッテリー。まだ実験中だが自転車とも共通化できるバッテリーにしたいという

最後の1点は、市販の電気自動車では細かな情報が取れないということ。今取れる情報といえば、バッテリー残量や、せいぜいGPSの位置情報が分かる程度。しかし、より消費電力を細かく知るため、また環境に与える影響を見える化するためにSBテクノロジーが協賛している。

SBテクノロジーは、実際の走行データやバッテリーのステータス、速度などを収集し、環境に与える影響の見える化を担当している
資料中の4社に米田モータースも加わり、事業ベースで運営できるカーシェアリングの未来像が見えてきた

太陽電池パネルや蓄電池、電材や過去に導入した様々な事例から、法令に関する動きまで、部品のサプライヤーでありソリューションを提供しているのがパナソニックだ。同社は、冒頭に紹介した「働こCAR」や「フリエネ住宅」のときからエネファントと協力し、共に「多治見モデル」を育ててきたパートナーだ。

一企業が助成金などを使わず事業化に成功しているエネファント

このような太陽光発電を使った取り組みやカーシェアリングなどは全国で色々な取り組みが行なわれている。太陽光発電から電材まで幅広く扱うパナソニックはエネファントのサプライヤーとして、またアドバイザーとして長年協力体制を敷いているが「補助金なしで、一企業が取り組み、事業ベースで運営できているのは、多治見のエネファントだけ」という。

通常は「補助金があるので、なんとかやっていける」ところが多い。それを事業化できている珍しいケースとして、「多治見モデル」は地方自治体や起業家からも注目され、問い合わせも多いとのことだ。

多治見モデルからパナソニックが予測する近未来図

またエネファントの磯崎社長の言葉も非常に気になった。「太陽光発電などで発電した電気を“kWh”という電気として売っていてはダメ。そこに便利さなどを加えて電気を“電動アシスト自転車で楽できる時間”としたり“カーシェアリングの利用時間”として電気以外の単位に変換するのが我々の仕事」というのだ。

面白い取り組みを立て続けに行なうエネファントの社長の言葉だけに「事業化の大きなキーワード」だと思えた。

今後の同社や協力企業、さらには多治見市の動きにも注目していきたい。