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ガスの検針員さんを見かけなくなったのはなぜ? 進化を続けるガスメーター最新事情

もうほとんど見なくなった旧式の電力量計こと電力メーター

最近は、消費電力を調べる電力メーターの検針員さんを見なくなった。電力メーターは「スマートメーター」と呼ばれるものに入れ替えられ、検針員さんがメーターを調べなくても無線通信で電力会社が消費電力を把握できる。電気の契約によっては30分間隔のリアルタイム消費電力を調べているほどだ。

最近はデジタル化され通信機能を備えたスマートメーターに置き換わっている。写真は2014年に東京電力が設置を開始した当時のスマートメーター

昔は家の裏で検針員さんと鉢合わせしてバツが悪かったなんてこともあったが、最近はガスの検針員さんも見かけなくなっている。実はガスメーターも「スマート化」が進んでいて、しかも電力メーターよりも驚きの省電力ハイテクネットワークなのだ。

ガスメーターはパナソニックが日本のシェアの大部分を占めているということで、パナソニックの奈良工場でガスメーター事業を取材した。

ハイテク化が進むガスメーター

電気の場合だと市販の「ワットメーター」などもあるので、どうやって消費電力を測っているかの想像はつくかもしれない。水道も羽根車みたいなものを付ければ、使用量を調べたりメーターが回る仕組みを想像できる。さてガスメーターはどうだろう? おそらくガスの使用量を測るカウンターを動かす方法を知っている人は数少ないだろう。

ガスメーターのタイプには2つある。ひとつは昔から使われている「膜式」というもの。

膜式の動作原理。シリンダーが何往復したかで流量を計る

ガスを一定量ためる部屋が2つあり、この間に移動する膜を設けてある。はじめにA室にガスが送られると膜は隣のB室の方に押し込まれコンロなどにガスが送られる。しかもこの膜にはリンクして動くバルブがついているので、A室にガスが注入中はA室の入口とB室の出口が開く。

A室にガスがいっぱいになると、リンクで連動しているバルブが動きB室の入り口とA室の出口が開く。こうして今度はB室にガスが入り膜をA室側に押し込む。ちょうど蒸気機関車のシリンダー(ピストン)のように、膜が往復するので、この力を使ってメーターの歯車を回すという具合だ。

対となる超音波センサー間で音波が届く時間調べ、ガスの速度から流量を計算する

一方で最新式の「超音波式」ガスメーターもある。ガスの経路の途中に2つの超音波センサーが向かい合わせで仕込まれている。ガスが通っていない場合、音波は秒速340m(気温15℃時)で対になっているセンサーに届く。ガスが流れ出すと、超音波は追い風を受けて音波が速くなるため、対のセンサーに短時間で届く。ガスの流れが速くなるほど追い風を受けるのでさらに短時間になるというわけだ。

筆者の調べでは毎時3Lで数ナノ秒、毎時6,000Lで数十マイクロ秒ほど早くなる。この時間差を調べることで、ガスの流量が分かるのだ。そこで極短時間が計れるストップウォッチをガスメーターに内蔵されているコンピューターが管理している。参考までにガスが逆流した場合は、超音波にとって向かい風になるため、到達時間が通常より長くなることで検知できるという。

パナソニックが製造している欧州向けのガスメーター。右側の分解したもので、小さなLSIが基板上に乗っているのが分かる(上部の大きな四角い部品は表示装置)

主流のガスメーターはこの2タイプということだが、他にもタービン式や回転子式などがあるそうだ。

「世界一安全」な日本のガスメーター

あまり知られてないがパナソニックは国内ガスメーター用主要部品でシェア80%を握っている。しかも欧米や欧州、中国にも部品を供給するガスメーターの主要メーカーなのだ。

赤道より北の各国にガスメーター用デバイスを供給しているパナソニック。保安メーターを備えているのは日本と台湾のみ

パナソニックの岸川成行氏によれは「日本のガスメーターは世界の中でも突出して安全性が高い」という。

以前の記事「家電を安心・安全に使う「ブレーカー」。歴史と製造過程をパナソニック瀬戸工場で見た」でお伝えした通り、パナソニックは電気を安全に使うためのブレーカーなどの保安装置を製造してきた。

1978年からは、ガスを安全に使うブレーカー(保安装置)の開発に着手していたところ、1980年に静岡駅前地下街爆発事故が起きる(実際のニュース映像/NHKアーカイブス)。この事故は最初に起きた小さなガス爆発事故に誘発される形で、地下街のガス管が破損。そこからガス漏れして地下街だけでなく、地下でつながっているビルの上階まで軽いガスは上がっていき、大爆発を起こしてしまったのだ。

そこでパナソニックやガス会社各社によって、ガスコンロの消し忘れ、ガス管の破損や抜け、地震を検知して自動的にガスを止めるガスマイコンメーターが開発された。

パナソニック製の「ガスマイコンメーター」第1号機

1983年の都市ガスへの導入を皮切りに、1987年にはLPガスにも導入。1995年には普及率100%となり、ガスによる事故も導入前で年間500件あったものが、1995年以降は今日まで年間100件程度と少なくなっている。

1983年から導入が始まった保安機能つきのガスマイコンメーターは、1995年に普及率100%となる。普及に伴って事故件数は少なくなっている

このように保安装置を付加したガスマイコンメーターが普及している国はほとんどなく、日本と台湾に導入されている程度だという。北米や欧州各国、中国では安全装置を導入しているところはないということだ。なお赤道近くの国では、そもそも気候が温暖なため、一般家庭でガスが使われていないらしい。

ガスの流量や圧力、地震センサーとそれを統括するコントローラー、遮断弁をパナソニックが製造

10年間通信し続けるスマートメーターは「ある意味」最強!

安全性の次は検針の自動化だ。電力スマートメーターの場合は通信機器を内蔵しており、独自のネットワークを経由して30分ごとの各世帯の消費電力や、電力メーターの値が読み取れるようになっている。また各家庭への電力の接続や遮断、契約アンペア数の設定などもリモートで操作できる。こうして電力メーターの検針員さんがいなくなったわけだが、一方でガスも同様にネットワーク化が進んでいる。しかしそこにはガス特有の問題も抱えている。

電力メーターの場合は、電力線につながっているため無線通信用の電源を容易に確保できる。しかもインターネット用に大量のデータを高速で送受信することがなく、消費電力は極々わずかだ。

しかしガスはどうだろう? 電力メーターから離れていることもあり電源を取れない。家の外にコンセントがある家庭も少ない。そこでガスメーターが独自に発展したのがバッテリー駆動だ。

赤枠の部分が電池。1980年代からガスメーターの保安装置は電池駆動なのに驚きだ

先に紹介したマイコンメーターもバッテリーを内蔵していて、保安装置の電子回路を動作させる設計になっている。最新のガスメーターは無線通信も行なうため、その電力もバッテリーから供給しているのだ。しかしバッテリーを頻繁に交換していては、デジタル化の意味がない。そこでガスメーターの交換寿命と同じ10年間バッテリー駆動できるようにしている。昔のマイコンメーターは保安装置のみ駆動できればよかったが、現在は無線通信電力を供給しつつ10年バッテリー駆動できる。スマホを使っているとBluetoothをONにするだけでも電池の減りが早くなるのに、10年間電波を出し続けるというのは驚きだ。

また無線通信ネットワークの形態は電力と同じように、自宅のガスメーターのデータをお隣のガスメーターが中継し、さらにその隣が……というようにバケツリレーして、ある程度の戸数がまとまったら基地局のようなところからガス会社などにデータが送信されるという方式だ。

無線通信機能を持つガスメーター同士がデータをバケツリレーして、基地局に集まったところでガス会社にまとめて転送する

1995年の時点でマイコンメーターが100%普及していたこともあって、ネットワーク機能内蔵のガスメーターと、旧ガスメーターが混在しているというのもガス特有の話。しかし旧ガスメーターには、オプションの取り付けが可能になっており、ここに無線装置ユニットを付けることでデータ送信ができるようになっている。新築の家庭ではおそらく無線機能を内蔵したガスメーターが取り付けられているだろう。

通信機能を持たない「一般型マイコンメーター」と「通信機能付きのマイコンメーター」がある(出典:東京ガスのホームページ「ガスメーターの種類別復帰方法
後付け可能な無線装置ユニット。取り付け用の接続部は規格化されていて、どのメーターにも取り付け可能
通信機能のないガスメーターに、無線装置ユニットをつけたところ。ピンクの部分が追加ユニット

こうして最近では検針をしなくてもガス会社のデータセンターで各世帯の消費量や保安装置の状態などの把握ができるようになっている。

ハイテクメーターを駆使したLPガス向けサービスが開始

ガスメーターのデジタル化が進む一方で、マイコンガスメーターのまま進化が止まっているのはLPガス。そもそもLPガスはボンベを自宅まで定期的に届けるため、その際に検針ができる。しかし搬送に伴うCO2削減や燃料高騰、人手不足による配達のさらなる合理化、電気や都市ガスとの競合など課題も多い。

そこでガスメーター用デバイスのトップシェアを誇るパナソニックが、リモートでガス残量や検針、保安を一括管理したり、顧客にWebを使った明細を提示したり、また安心安全の付帯サービスを提供するサービス「クラウド型自動検針・集中監視サービス」を開始した。

LPガスに無線通信機能付きのガスメーターを取り付けることで、リモートで残量、使用量、配送タイミング、保安状態などを管理できる。ガス各社はパナソニックのクラウドサービスにログインするだけ

このサービスはあくまでLPガスの事業者向け。このようなシステムを自社で整備するとハードウェアからソフトウェアまで莫大な費用と手間、さらにはメンテナンスを行なって運用する必要がある。しかしパナソニックのサービスは、ハードウェアからソフトウェア、機器のメンテナンスや監視に至るまで同社が担当する。LPガス事業者は、顧客データと管理番号を紐づけるだけで、パナソニックのクラウドサービスを使って顧客のガスメーターの検針、開栓/遮断、ガス残量が少なくなった場合の通知が受けられるのだ。サービス範囲は離島を除く日本全域(沖縄はサービス対象)だ。

LPガス各社はWebブラウザーで顧客情報を管理できる

個々のLPガスに取り付けるメーターや無線ユニット、独自のネットワーク網に加え、クラウドシステムの運用やメンテナンス費用はいずれもパナソニックが負担する。災害時などに受けた被害の復旧もその範囲内だ。

LPガス各社は、Webブラウザーでサービスにログインすると、顧客1軒1軒のガス使用状況をリアルタイムで把握可能。またLPガスの残量が少なくなると警告され、少ない人手で効率よくボンベを配送/交換できるようになる。また自社でソフトウェアを開発せずとも、月々の明細をWebで顧客に提示することも可能だ。

さらにデジタル化の恩恵として、日別/月別などのガスの使用量比較なども表示でき、顧客の省エネ意識にこたえるサービスを自社でも展開可能になる。

顧客が利用できるWeb明細や使用料の変化のグラフ

安心安全に配慮した付帯サービスとして、消し忘れなどを検知するとパナソニックのサービスセンターから、電話もしくはメールで顧客に直接連絡、その場で確認や同意のもとガスを止めることが可能だ。また一定期間ガスが全く利用されていない状況を検知すると登録者に対してメールでお知らせを発信できるため、遠隔地に住む高齢の両親の見守りサービスとしても使える。

ガスの消し忘れを検知すると自動で顧客に連絡。顧客に判断を仰ぎ必要に応じてガスをリモートで停止
ガスを利用していないことを検知すると顧客に連絡。見守りとしての利用も可能に

特に災害時の対応は、LPガス各社がすることはほとんどなく、全国のパナソニックの拠点から専門部隊が派遣され、インフラやメーターの復旧工事、データ解析、作業や保険手配などまで準備してくれる。LPガス各社は復旧可能なものからGOサインを出すだけでいいとのことだ。2020年の熊本地震では、地震発生後から14日間で復旧準備が完了し、順次、普及工事に着手した実績もあるという。

水道もスマート化の実証実験中

スマート化がいち早く進行した電気に続き、ガスメーターのスマート化も進んでいる。これにより安心安全なインフラや新たなサービスが続々と登場している。

残る水道もスマートメーター化の実証実験が行なわれている(東京都水道局のプロジェクト)。近い将来、新しく便利なサービスが登場することを期待したい。