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ダイキン、新型コロナ後も見据え“新たなテーマ”。'19年度は10期連続増収

ダイキン工業 代表取締役社長兼CEOの十河 政則氏(写真は'19年会見時)

ダイキン工業の十河 政則社長兼CEOが、オンライン会見を行ない、2019年度の連結業績に触れるとともに、新型コロナウイルスの影響を受ける2020年度の業績見通しや、それに向けた施策などについて説明した。

十河社長兼CEOは、「この1年は、強い企業と、そうでない企業に分かれる勝負どころである。企業の競争力が試される1年である」とし、「守り」の43テーマと、「攻め」の31テーマ、「体質強化・体質改革」の17テーマに取り組む一方、重要経営課題として取り組む6つの「緊急プロジェクト」を発表した。

コロナウイルス影響の急拡大を踏まえた施策

2020年度は、5カ年の戦略経営計画「FUSION20」の最終年度となり、当初の数値計画の達成は難しい状況に陥ったが、それでも、「為替の影響や需要減の前提を除くと、FUSION20の目標を達成できる水準にある」とした。また、会見では、今後策定することになる「FUSION25」の方向性についても述べた。

10期連続の増収増益。「見通し立たない中でも目標を持ち、実行」

十河社長兼CEOは、最初に、ダイキン工業が発表した2019年度連結業績について説明した。

オンラインでの会見を行なった十河 政則社長

売上高は前年比2.8%増の2兆5,503億円、営業利益が3.9%減の2,655億円、経常利益は2.9%減の2,690億円、当期純利益は9.7%減の1,707億円となった。

「2月以降、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により経済活動が止まり、影響を受けた。新型コロナウイルスによって、売上高ではマイナス450億円、営業利益ではマイナス220億円の影響を受けている。だが、これを除くと公表数字を上回ることができ、10期連続の増収増益と、7期連続の最高業績を達成することができていた」と振り返った。

同社では、2020年1月に十河社長を本部長とした新型コロナウイルスの対策本部を設置。「社員と家族の健康と安全を第一に、強固な感染防止策を行なってきた。業務にマイナス影響があっても、これを優先してきた。現在、生産部門やサービス部門を除くと、8割が在宅勤務となっている。実験を伴う部門では出社しているが、産学連携の取り組みも、テレワークで行なえている。開発テーマに大きな遅れはない」とする一方、「同時に、刻一刻と変わる各国の状況を把握して、スピード感を持って対策を打ってきた。打つべき手を打ち、事業への影響を極小化できた」と語る。

セグメント別業績では、空調・冷凍機事業の売上高は前年比3.9%増の2兆3,091億円、営業利益は0.6%減の2,361億円。中国の減速や為替のマイナス影響など、事業環境が厳しいなかでも、空調事業は各地域での高付加価値商品の拡販や、トータルコストダウンの推進により、2020年1月までは全地域で販売を伸ばし、増収増益を確保。第4四半期は、新型コロナウイルスの感染拡大による影響を受けるなか、アジアや米国での拡販や、コストダウン効果などにより、影響を極小化できた」とした。

化学事業の売上高は前年比10.4%減の1,798億円、営業利益は26.9%減の237億円。半導体市場および自動車市場の減速影響を受け、大幅な減収減益になったという。

その他事業の売上高は前年比5.4%増の613億円、営業利益は8.5%減の55億円となった。

一方、2020年度の通期業績見通しは、売上高が前年比8.6%減の2兆3,300億円、営業利益が43.5%減の1,500億円、経常利益は44.2%減の1,500億円、当期純利益は41.4%減の1,000億円とした。

「正直なところ見通しが立たない。だが成り行きに任せるのは経営ではない。不透明ながらも、現実を直視し、そのなかで定めるべき目標は定め、決めるべきことを具体化し、実行に移すのが経営である」と述べた。

その言葉を裏付けるように、同社では、新型コロナウイルスの影響の度合いを、6月(第1四半期)で収まるケース、9月(上期)まで続くケース、12月(第3四半期)まで続くケース、1年間続く最悪のケースの4つのパターンを想定。「事業ごと、地域ごとに、影響と今後の見通しは一律ではなく、各国政府の方針や市場動向も異なる。それぞれの事業、地域の現場、現実を踏まえた現時点の見込みで計画を策定した。打ち出した数字は、上期までの影響が出るパターンに近い形で策定したものである」と説明した。

また、「今後の新型コロナウイルスの影響や市場の動向によって、一気に業績のV字回復につなげていくことも考えている。一方で、第3四半期以降も影響が長期化するという最悪のケースにも備えている。第4四半期にまで影響が出れば赤字となる可能性が高い。だが、その時に、赤字にならないように、なにをするべきかという施策も持っている。4つのケースにおけるすべてのアクションプランを持った上で、状況にあわせて打ち手を変えていく。一度、この実行計画でスタートは切ったが、刻一刻と変化する状況を的確に捉え、打つべき手を、先手、先手で打ちながら、柔軟に対応する。1カ月、2カ月単位で、計画を見直していく」と述べた。

リーマンショックに続く「緊急事態」

同社では、5カ年の戦略経営計画「FUSION20」を打ち出し、2020年度に売上高2兆9,000億円、営業利益3,480億円を目標に掲げていたが、新型コロナウイルスの影響で、この数値目標は降ろすことになる。

FUSION経営を開始したのは1996年であり、リーマンショックを除いてすべて達成しており、リーマンショックのときも赤字にはならなかった。今回は、それに続く2回目の「緊急事態」となる。

だが、「為替の影響や需要減の前提を除くと、FUSION20の目標を達成できる水準である」としたほか、「新たな実行計画のもとで推進している2020年4月および5月の状況は堅調に推移している」と十河社長は語る。

「欧州の空調事業や米国のグッドマンは実行計画を上回っている。日本国内や中国の空調事業、アジアやオセアニアのアプライド(大型空調)事業などの主要部門は計画に沿った着地となっている」とした。

日本においては、建設現場の再稼働や、量販店での営業再開の動きがあり、4月は実行計画に沿った進捗を達成。中国では、3月に工場での生産が回復し、4月からはすべての営業拠点が再開。4月は実行計画通りの着地になり、政府物件をはじめとして需要が徐々に回復しているという。インターネットとソリューションプラザでの実体験を組み合わせた新たな販売施策も効果をあげており、今後は、この仕組みをグローバルに展開していく考えだ。

欧州では、4月は、主要各国でロックダウン状態が続いたものの、販売の極大化と固定費ゼロベースの運用により、実行計画を上回る結果になったほか、5月に入り、イタリアやフランス、スペイン、ドイツなどで外出規制が緩和されたことで、建築工事や小売店が再開。営業体制を強化することで、実行計画をさらに上回る取り組みを進める。

また、アジアでは4月は各国で活動停止を余儀なくされたが、オーストラリアやタイ、インドネシアで前年並の売上高を確保。地域全体では実行計画通りの着地となった。だが、厳しい外出制限がとられたインドや、企業の活動停止措置がとられたマレーシアでは一時的に販売は落ち込んだという。米国では、工場が自主的に約3週間の操業停止を行なったが、4月第4週から生産を再開。5月以降は、多くの州が行動制限緩和に動き出すなか、実行計画を上回る取り組みを加速しているという。

新型コロナ拡大を踏まえて取り組む新たなテーマ

また、ダイキン工業では、2020年度の取り組みとして、FUSION20で掲げた全社10テーマ、 部門別176課題への取り組みを実行する一方、新型コロナウイルスの影響の急拡大を踏まえて、固定費の徹底的な圧縮や、販売店および取引先への迅速な支援などによる「守り」の43テーマと、インターネットを活用した営業強化、 消費者の意識や行動の変化を見据えた打ち手の展開などを含む「攻め」の31テーマ、身軽で強靭な固定費構造の確立、 AIやIoTを活用した業務プロセスの変革による業務効率化などによる「体質強化・体質改革」の17テーマに取り組む姿勢を示した。

「守りと攻めと体質改革という3つの切り口から取り組みをスタートし、これを徹底し、成果に結びつけることが必要である。第1四半期は、経済活動の制限がかかっており、守りの施策が中心になっている。だが、新型コロナウイルスが終息し、需要が立ち上がったときに、ライバルに先んじてV字回復するための攻めの構えも取っている。守りと攻めの転換を機動的にできるかどうかが重要である。そして、リーマンショックの時と同様に、体質強化をするチャンスでもあると考えている。競争力を高めていくためにはどうすかるといった取り組みのほか、次のイノベーションにつなげるために、人材の獲得や育成、研究開発、設備投資、M&Aをどこまで実行していけるのかも大切である。手の打ち方でライバルとの差がつくタイミングであり、強い企業とそうでない企業が分かれる勝負どころである。企業の競争力が試される1年であると認識して、経営の舵取りをしていく」と発言。「影響の極小化と同時に、新型コロナウイルス終息後を見据えて、空気質や換気への関心の高まりを捉えた商品やソリューションを展開する。さらにライフラインを支えるサービス事業の強化をグローバルで展開していく」と語った。

なお、空気質などへの関心の高まりを捉えた新商品やソリューションの展開としては、空気清浄や除菌、洗浄などのニーズだけでなく、潜在的な市場、顧客ニーズも把握。短期的には、いま持っている商材や技術を組み合わせたソリューションを早期に展開し、中長期的には、空気質を根本的に向上させる高機能フィルターや空気清浄ユニットの開発にも取り組む考えを示した。

6つの「緊急プロジェクト」実行へ

さらに、同社では、重要経営課題として取り組む6つの緊急プロジェクトを打ち出した。
これらは、「守り」と「攻め」、「体質強化・体質改革」のテーマに対して、「横串で取り組むもの」と位置づける。

ひとつめは、「全グローバルの調達、生産、在庫、物流の構えの強化」である。「厳しい環境のなかでも様々な需要が生まれているほか、今後の需要の立ち上がりが想定される。まのた、逆に、影響が長期化した際に、在庫増にならないことへの備えも必要になる。瞬時に全世界の状況を把握して、最適な対策を取るための判断ができるようにする」と語る。

同社では、グローバル5極(アジア、欧州、北米、中国、日本)における調達、生産、物流、販売の状況を瞬時に把握し、需要の変動を捉えることで、需要増に応えて、販売機会の損失を防いだり、過剰在庫にならないようにするなど、全体最適の観点でスピーディーな打ち手を繰り出せる体制を構築しているという。「経営幹部と拠点幹部、現場が一体となって、同じ肌感覚を持って判断することができるようになっている」と語る。同プロジェクトのリーダーには、十河社長兼CEOが就くという。

2つめは、「需要の減退、縮小と世の中の変化の中でライバルに打ち勝ち、価格を維持しながらシェアアップを実現するための販売力、営業力の強化」である。「2020年度の空調市場は需要減になると考えている。そのなかでライバルに勝つためには、いかにシェアをアップさせるかが鍵になる。これが業績確保につながる。そのための強い販売網を生かすとともに、各地域において、顧客密着型で様々な情報を掴み、販売力、営業力の強化に横串で取り組む。また、在宅勤務の拡大やテレワークの広がり、eコマースの利用増加を捉えて、新たな販売施策にも取り組む」とした。

国内における業務用エアコンのシェア拡大のほか、英国、イタリアでのシェア拡大を課題にあげ、この分野における販売力、営業力の強化に取り組むという。国内空調事業などを統括する田谷野憲副社長が同プロジェクトを率いる。

3つめが、「空気質、換気への意識の高まりにより、新たに生まれる需要を徹底的に刈り取るために、全世界横串での空気、換気商品の拡販、差別化新商品の開発、投入、ソリューションメニューの具体化」である。「新型コロナウイルスの環境下において、除菌や殺菌、換気といった空気質に対する意識が高まっている。この需要を徹底的に刈り取るため、グローバル横串で、空気、換気商品を拡販し、他社にはない差別化商品も投入する。顕在化している顧客ニーズに加えて、潜在的な顧客ニーズを把握して、スピーディーな商品開発を進める。さらに、病院などに対して、ソリューションメニューを提供することで、ビジネスチャンスにつなげたい」と述べた。ここでは、「うるさらシリーズは、換気機能がついている唯一の製品であり、これをもっとPRしていきたい」とも語った。同プロジェクトは松崎隆副社長がリードする。

4つめは、「固定費の抜本的削減(損益分岐点・売上高固定費比率の抜本的低減)」である。「これまでにも固定費の削減を進めてきたが、こういうときこそ、身軽な体質の構築に向けて、固定費削減をもう一段進めていく」と述べた。

5つめは、「事業環境の先行きが、従来になく不透明ななかでの大型投資(設備投資、投融資)の優先順位付け」だ。「人材獲得や設備投資、研究開発投資、M&Aを縮小する考えはないが、優先順位付けが必要であり、それを横串で行なっていくことになる」とした。

そして、6つめが、「グループ全体の資金需要をキメ細かく把握した資金調達の構え」だ。「いまは、販売店への支援などを含めた資金を潤沢に持つことが必要である。チャンスと思えば、この資金を投じてM&Aを積極的に行なっていく。守りと攻めの両面から資金を持つことが必要であり、一時的に資金の確保に余裕を持たせたい」と述べた。

6つの緊急プロジェクト

さらに、この6つのプロジェクト以外にサービス事業の強化も掲げる。

「景気が後退する場合には、新規需要が衰退するが、修理や保守、メンテナンスといったサービス事業が伸びる。ここにチャンスがあると捉えている。空調は生活必需品であり、ライフラインの維持という点でも、社会的な意義がある。顧客に直接つながる強みを生かし、故障対応だけでなく、エアコンの清掃、除菌といった困りごとの解決も、新たなビジネスにつなげたい」とした。

一方で、新型コロナウイルスの影響が広がるなかでの経営トップとしての考え方や、有事におけるダイキン工業の強みなどについても言及した。

十河社長兼CEOは、「ダイキン工業は、バブル崩壊やリーマンショックといった難局を、全社一丸となった挑戦と実行力で乗り越えてきた。危機における抵抗力があり、そうした局面において、戦う力が強い会社である。その強みを今回の難局に生かすことで、過去に経験したことがない異質な危機も必ず乗り越えられる」と前置きし、「こうした有事には、経営トップのリーダーシップ次第で、企業は強くもなり、衰退もする。リーダーシップが重要な時期である。現場や現実の変化の波打ち際に身を置けるかどうかが大切である。また、情報を集めるだけでなく、有事の際に乗り越えてきた経験をもとにした勘所が大切である。勘所をまとめたのが、守りと攻め、体質改革への取り組みということになる」とした。

また、「先が見えないというのは不安であり、なかなか踏み込めない。だからこそ、やるべきことの方向性を、社員に明快に示すことが、経営トップには求められる。国内企業をマ渡すと、残念ながら、実行計画を未定とするケースが多いのが実態である。やるべきことを明快に示し、その方向に向けて社員を引っ張れるかどうかが鍵だ。そこで、幹部には率先垂範をお願いしている」と述べた。

さらに、「リーマンショックのときには、『疾風に勁草を知る』という言葉通りに、いまこそ体質を変えるチャンスであると捉えて、体質の改革に挑んだ。厳しいときは委縮しがちになるが、むしろ、チャンスのときであると前向きに捉えて、やるべきことをやることが大切だ」とした。

ダイキンにとってのテレワークのプラス効果と懸念点

十河社長兼CEOは、テレワークへの取り組みについても触れた。

「テレワークには馴染みがなかったが、やってみると便利で効率的であるということが理解できた。また、PCだけで処理をすることが増え、ペーパーレス化はかなり進展することになるだろう」と語る一方、「現在、8割の社員が在宅勤務を行なっているが、ここまで在宅勤務を広げようとは思っておらず、想定外だった。プラスの要素としては、在宅勤務によって資料づくりが集中してできるようになり、生産性があがるという声がある。だがその一方で、気軽に相談することができない、フェース・トゥ・フェースのコミュニケーションが取りにくいという問題もある。これらのメリット、デメリットを集約して、今後、テレワークをどう取り入れるかを検討したい」と述べた。

ダイキン工業 執行役員コーポレートコミュニケーション担当の澤井 克行氏は「仕事を教えてもらわなくてはならない若手社員が苦労をしており、現場では、朝会、昼会、終会などを通じて、こまめに連携するように工夫をしている。また、座り続けて腰が痛いという社員もおり、身体を動かすような動画も配信している。そのほかにも、開発部門などでは、三次元CADのデータを処理するスペックのPCが自宅に必要であるということに対応したり、工場では、私有車通勤を認めたり、更衣室の混雑緩和のために、作業着での通勤も認めている」などとした。

こうした取り組みを紹介しながら、十河社長兼CEOは、「テレワークは方法論の問題である。当社が取り組んでいるのは、働き方改革ではなく、働きがい改革である。社員が意欲と納得性を持って、仕事に向かい、やりがいを持って挑戦し、いかに能力を磨いてもらうかが大切である。これが、ダイキン工業が目指す人を基軸とした経営になる。この姿勢は変えるつもりはない」と述べた。

新型コロナウイルスの終息後の成長事業へ注力

2020年度は、戦略経営計画「FUSION25」を策定する1年でもある。その考え方についても触れた。

十河社長兼CEOは、「ESG(環境・社会・ガバナンス)は重要な取り組みであり、SDGsやSociety5.0に対応できる企業を目指す。FUSION25では、この点を明確にする。空調事業は、人々の健康、安全、安心を支える事業であり、社会に貢献できる事業である。そして、空調事業やサービスソリューション事業、空気質関連事業は、新型コロナウイルスの終息後は成長事業になる。それに向けた技術開発や商品開発も行なっていく」とした。

このほか、「欧州では、燃焼暖房からヒートポンプ暖房へのシフトが顕著にみられている。暖房給湯事業はFUSION20では周辺事業であったが、FUSION25ではメイン事業にしていく」との方針を示している。