ニュース
ダイキン・十河社長兼CEO、過去最高業績の2019年度上期にコメント ~先手、先手でやってきたことの成果
2019年11月11日 00:00
ダイキン工業の十河 政則社長兼CEOが、都内で会見を行ない、上期の業績について「市場の変化、顧客動向の変化、ライバル動向をみながら、先手、先手でやってきたことの成果。また、結果にこだわって愚直に取り組む社員の実行力も強みである」などとコメントした。
空調事業は、世界各地域で拡大
電機各社の2019年度上期業績が厳しい内容となるなか、ダイキン工業の上期連結業績実績は、3期連続で過去最高業績を更新し、営業利益は7期連続の最高益となった。
同社が11月6日に発表した2019年度上期(2019年4月~9月)の連結業績は、売上高が前年同期比4.2%増の1兆3,542億円、営業利益が4.8%増の1,682億円、経常利益は4.4%増の1,700億円、当期純利益は5.1%増の1,185億円となった。
ダイキン工業 執行役員コーポレートコミュニケーション担当の澤井 克行氏は、「中国の景気減速、為替の影響、半導体市場の悪化など、経営環境が厳しいなか、高付加価値製品の販売強化、売価施策の徹底、抜本的なコストダウン、経費圧縮などにより、変化に対する先手を打つことができた」と好調の要因を示した。
セグメント別業績は、空調事業の売上高が前年同期比5%増の1兆2,344億円、営業利益は9%の1,525億円。3期連続で過去最高の売上高、7期連続での過去最高の営業利益を更新したという。
「日本、米州、欧州、アジアで販売を拡大。景気が減速する中国においては、環境変化に対応した品揃えの強化により現地通貨ベースでは増収増益となった」とした。
空調事業における地域別の業績は、中国の売上高が前年同期比4%減の1,994億円、現地通貨ベースでは、前年同期比2%増となった。
「中国では実質成長率が下落しているなかで、空調市場全体も3%の下落が見込まれる厳しい環境にあった。しかし、強い販売網を生かし、市場の変化に対応した商品戦略、販売戦略への見直しにより、最大限の販売活動を実施した。住宅向けに関しては、成長が見込まれる内陸部の地方都市に販売資源をシフト。中西部での売上高は2桁の伸びとなった。また、高級住宅向けの『ニューライフマルチシリーズ』を一般住宅向けにも拡充。業務用では、インターネットを駆使した機器とネットをつないだ『インテリジェントVRV』を投入し、更新需要を掘り起こした」と説明した。
また、日本では、売上高が7%増の2,687億円。「業界全体では、住宅向けが7月の天候不順のマイナス影響があったが、消費増税前の駆け込み需要がプラスとなり、昨年夏の記録的な猛暑による需要を上回った。業務用でも堅調な設備投資に加えて、公立小中学校への空調設備の導入が特需となっており大きく成長した」としたほか、「住宅用の『うるさら7』をはじめとした高付加価値製品の拡販と、売価施策の徹底、首都圏、大阪、福岡の再開発需要に販売資源をシフトして、住宅用で前年同期比6%増、業務用でも同6%増となった」と振り返った。
米州では、売上高が前年同期比8%増の3,694億円、現地通貨ベースでは10%増となった。
「米テキサス州の新工場である、グッドマン社テキサス工場に生産を集約し、供給力強化と生産性の向上を実現。米国ではあまり普及していない省エネ性の高いインバータを搭載した住宅用の新商品や、当社が得意とするVRV、ミニスプリットなどの差別化新商品を投入し、これらの拡販により、売上げが増加した」と説明。
販売網の拡充やディーラーの育成、支援を推進することで、販売力および営業力を強化。ダクトレスは北東部での拡販が奏功し、アプライドは商品ラインアップの拡充やサービス、ソリューション事業を拡大。すべての商品で販売を伸ばしたという。
アジアでは、売上高が前年同期比6%増の1,487億円、現地通貨ベースでは、前年同期比8%増となった。とくに、インドでは16%増、ベトナムでは8%増、タイでは17%増、インドネシアでは12%増と高い伸びをみせている。
「主要各国において、売上げナンバーワンの地位を盤石なものにする方針を掲げるとともに、郊外での中間所得層の拡大を捉え、地方都市での販売拡充。ベトナムやタイで冷房専用インバータ機を販売。インドでは50℃超の気温でも冷房できるエアコンを投入。環境負荷の小さいR32を採用したルームエアコンをはじめとして、地域のニーズを捉えた新製品を投入している。業務用については、販売店の育成に注力。工事や据え付け、アフターサービスを担う人材の育成を急ピッチで強化したことで販売を拡大した」という。
欧州では、売上高は13%増の1,887億円、現地通貨ベースでは21%増となった。
「住宅用は、環境対応商品を差別化策とし、他社に先駆けて、全商品をR32搭載とし、業務用では、再生冷媒を使用したVRVやアプライド(大型空調機)や冷媒が少ない機種を投入。暖房事業では、燃焼暖房からヒートポンプ暖房へとシフトするニーズを捉え、ヒートポンプ式温水暖房機の品揃え拡充により、この分野では前年同期比25%増を達成した。フランスではオイルボイラーからの買い替えへの補助金制度による需要が増加。業務用冷設事業ではオーストリアのAHTを連結化し、イタリアのザノッティの買収もあわせて、事業を拡大している」と説明した。
一方、化学事業の売上高は、前年同期比11%減の900億円、営業利益は27%減の129億円となった。「情報通信分野で拡販につとめたが、半導体、自動車市場の減速影響を大きく受けた」という。
その他事業は、売上高が前年同期比18%増の298億円、営業利益は11%増の28億円となった。
「二流の戦略、一流の実行力」で7期連続の最高業績を目指す
同社では、2019年度通期の業績見通しを修正。売上高は前年比5.2%増の2兆6,100億円、営業利益は3.2%増の2,850億円、経常利益は2.9%増の2,850億円、当期純利益は3.1%増の1,950億円とした。売上高は600億円減、当期純利益は20億円増、営業利益と経常利益は据え置いた。
為替影響が大きく、売上高では年間840億円、営業利益では215億円のマイナス影響がそれぞれあるとしている。
「米中貿易摩擦や中国経済の減速などの不透明な要因はあるが、収益力を高めるために販売力、営業力の一層の強化、トータルコストダウン、抜本的な改革策の推進、グローバル各地域での差別化商品の開発を加速することで、10期連続の増収増益、7期連続の最高業績を目指す」とした。
記事の冒頭に触れたように、一人勝ちともいえる業績の理由について、ダイキン工業の十河社長兼CEOは、「市場の変化、顧客動向の変化、ライバル動向をみながら、先手、先手でやってきた。成果にこだわって愚直に取り組む社員の実行力によるもの」と語る。
十河社長兼CEOは、「二流の戦略、一流の実行力」とジョークを交えながら、「ダイキン工業は、人を機軸とした経営を進めてきた。また、フラット&スピードが特徴。階層が少なく、情報を共有し、問題意識を持ち、議論をし、決めた上では、結果にこだわって実行する。これによって、先見性のある経営を実現できている。変化に対して、ライバルに一歩でも、半歩で先に進むことができる体制を整えることができた」とする。
たとえば、先手という点では、次のように説明する。
「アジア市場を例にあげれば、電力事情が悪く、電気代が高いという状況にある。利用者にとっては、イニシャルコストよりも、ランニングコストが安い方がいい。ダイキンは、これらの市場において、省電力化に効果が高いインバータの市場を作り、それによって、韓国メーカーや中国メーカーが太刀打ちできない領域を作った。また、同時に、低価格のノンインバータの市場も抑えた。この分野は儲からないが、市場を荒らされないようにするための一手である」とする。
さらに、「単に商品を置くだけでなく、提案できる店づくりが必要である。また、エアコンの販売には、設置工事力が重要になる。工事が悪いと、製品がよくてもだめ。そこで、専門店網を作り、人材を育成している。これは早くやった方が勝ちである。また、業務用では、配管を溶接するといった作業が発生する。それをできる人が少なく、指導できる人もいない。また、配管のジョイントの方法が難しく、ガス漏れが発生するような状況であってはいけない。ここでも、いかに早く囲い込むか、ライバルに先んじて教育をして、人材を確保するかが大切であり、そこで一歩も、二歩もリードすることができた」などとした。
100周年を前に、AI人材、IT人材を強化
ダイキン工業は、今年95周年を迎えた。十河社長兼CEOは、「100年を超えた企業は、日本全国に3万3,000社あるが、100年を超えてなお持続的に成長している企業に共通した特徴は、他社にはないものをコアとして持っており、伝統に甘んじていないという点。コアとなる強みをどう磨いていくか、時代の変化を先取りすることにどう挑戦していくかが大切であり、ダイキン工場もそれに挑んでいくことになる」とした。
また「デジタル革命があらゆる産業で見られている。自動車産業は、ガソリン車の時代ではなくなり、コネクテッドカーになり、100年に一度の大変革の時期にある。空調業界はそこまでいっていないが、そうした時代がすぐにやってくるのは明らかだ。いまから、AI人材、IT人材の強化を図るための手を打っている。大阪大学と連携したのもそれが狙いである。データを使って、これをどうビジネスにつなげていくのか。これを猛烈にやっていかないと勝ち抜けない時代になってくる。
今回の上期決算を見ると、あのソフトバンクでも、簡単な時代ではないことがわかる。問われるのは、次の人材を育て、時代の変化をどう洞察し、経営判断をしていくのかという点。それがますます重要になる。洞察力と判断力を磨くのは不可欠である。経営の第一線にいる立場として、常に変化の波打ち際に身を置くしかない」などと語った。
ダイキン工業は、2020年度最終年度とする戦略経営計画「FUSION 20」を推進。その達成に向けて、全社重点10テーマと、部門別に176のテーマを設定。差別化した新商品の投入、為替変動に柔軟に対応できる調達体制の構築、変動費コストダウンの極大化、固定費の圧縮、ベストプラクティスの横展開などを図っている。
十河社長兼CEOは、「FUSION経営を開始したのは1996年。それ以来、3年先の具体的な経営目標を立てているが、その計画は、リーマンショックを除いてすべて達成している。リーマンショックのときも赤字にはならなかった。ありたいものを目指しながら、取り組んできた」とする。
FUSION2020では、2020年度に売上高2兆9,000億円、営業利益3,480億円を目標に掲げている。今回修正を発表した2019年度業績見通しをベースに見ても、売上高では11.1%増、22.1%増と高い成長が必要だ。厳しい市場環境のなかで、ダイキン工業の業績は過去最高を維持するほど好調だが、「FUSION20」の達成に向けては、経営の速度はさらに速める必要がある。