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Alexa連携やキッチンロボット「Mykie」の現状は? 欧州スマート家電の雄・ボッシュの展示
2017年9月5日 15:40
この数年間で、スマートホームやIoTのサービスはさらに進化を遂げている。ドイツ・ベルリンで9月1日~9月6日に行なわれている大規模な家電の展示会「IFA2017」でもその傾向は顕著だ。筆者は、ここ数年ドイツの大手家電メーカー、ボッシュの取材を続けているが、今年はアマゾンAlexaによるボイスコントロールに対応したというトピックスでは、少し前進があった。その他の点では昨年から目に見える大きな変化はなかったように感じた。展示を体験して得たワクワク感を勝手に採点するなら100点中・60点ぐらいの手応えだ。
ボッシュのIoT・スマートテクノロジーを活かした家電周辺のサービスは、大きく分けて2つある。ひとつは親会社のロバート・ボッシュが製品を開発・販売まで手がける「Bosch Smart Home」だ。そしてもうひとつが、ホームアプライアンスを中心に扱うグループ会社のBSH Hausgeraede社が展開する「Home Connect」である。
セキュリティサービスを中心に展開する「Bosch Smart Home」
「Bosch Smart Home」の方はホームセキュリティを軸とした、どちらかと言えば少し“お堅い”製品やサービスが揃う。
昨年のIFAで大々的に発表された窓の開閉や人の動きを検知するセンサー、サーモスタッド、インドア&アウトドア用の360度撮影に対応するセキュリティカメラなどが、作年秋以降に無事商品として発売され、サービス開始から約1年を迎えようとしている。
以後新製品がどんどん追加されている感じではなさそうだが、ブースをガイドしてくれた同社のRuth Winter氏によれば発売後の売れ行きは堅調だという。
センサーが集めたデータは「Bosch Smart Home」アプリを使ってタブレットの画面上で可視化して、時間軸で履歴を追ったり、セキュリティカメラからのリアルタイム映像をモニタリングすることも可能になる。これらのデータは、宅内に設置するスマートハブコントローラー内のストレージに保存される。セキュリティを優先する考え方によってローカルストレージを活用するモデルだが、唯一セキュリティカメラの録画データだけは、万が一不審者が宅内に侵入した時にデータごと機器を盗まれてしまうと意味がなくなるので、クラウドに上げる方式を採用している。
では一体、「Bosch Smart Home」はどのようにビジネスとして成立しているのだろうか。基本は、純粋に商品の販売利益で成立させており、アプリはアップデートによる機能追加も含めてユーザーに無料で提供している。つまり商品売り切り型のビジネスモデルなのである。
例えばホームセキュリティのソリューションは警備会社や保険会社と連携したり、クラウド系のサービスは通信キャリアと手を組んで広げながら、月額課金のサブスクリプションサービスとして充実したものを作り込んで行くという計画も今のところはないようだ。
筆者は今回の滞在期間にベルリン市内のサターンやメディアマルクトなど有名な家電量販店に足を運んでみたが、確かにIoT製品のコーナーがあって、ボッシュの製品を含むセンサーやスマート家電が棚やワゴンにラフな感じに置かれて販売されている。
日本のショップのように使い方を丁寧に解説したPOPやパンフレットが置いているわけでもないので、こうした要説明製品がこのままでは一般家庭に普及していくのか、やや不安に感じられるほど売り方が淡泊であるように感じられた。
展示を説明してくれたWinter氏は、例えばコントローラーに煙探知機、ドアの開閉センサーとモーションセンサーをスターターパッケージにして(価格は400ユーロ前後)販売したり、自社のWebでは使い方の解説を加えて紹介するような工夫も行なっているという。
例えばIoT機器の導入を提案・サポートできるインストーラーや、セキュリティ系のソリューションについては警備会社と手を組むなど、各分野でのプロフェッショナルとアライアンスを組んで、よりリッチなサービスに仕立てていく次の段階が訪れているように思った。
その点はもしかすると日本でKDDI/auが始めた「au HOME」や、東京電力エナジーパートナーの「TEPCOスマートホーム」の方が、ボッシュよりも船出は遅かったものの、全体図を丁寧に描いて出発できていると言えるのかもしれない。
「Bosch Smart Home」としてはホームセキュリティ以外にも、室内の温度管理や天気の計測など快適な暮らしをサポートするソリューションに今後のカバレッジを広げていきたいとWinter氏は述べていた。
その方向性を表している製品として、既に室内の気温・湿度を検知するセンサーやサーモスタッドなどもラインナップに加えられている。一方でテレビやオーディオ機器との連携といったエンターテインメント方向に振った展開は、もともとボッシュとして商品を持ち合わせていないこともあって検討はまだ進んでいないようだ。このあたりはこれからメーカーどうしのパートナーシップを検討していくよりも、Amazon AlexaやGoogle Homeのプラットフォームに乗っかりながら充実させることができるだろうという見立てなのかもしれない。
プレミアムクラスのスマート家電がAmazon Alexaと連携できるようになった
一方のBSH Hausgeraede社が展開する「Home Connect」については、製品ラインナップは昨年のIFAからほぼ変わっていなかった。インターネット接続の機能を持ち、外出先から中身が確認できるカメラを搭載した冷蔵庫、オーブンや食洗機、衣類乾燥機、エスプレッソマシンなどの製品を専用の「Home Connect」アプリを入れたタブレットやスマホを使って宅外からリモートコントロールができる。
ボッシュでは比較的早くからスマートホームのビジョンを立ち上げ、積極的に育ててきたメーカーだ。今年は対応商品の裾野がミドル、エントリーのレンジにも広がるかもしれないと期待してブースに足を運んでみたが、インターネット接続の機能を持って、互いにひとつのアプリにつながってスマートホームを体感できるラインナップはトップクラスのプレミアムモデルにまだ絞られていた。やはりまだスマート家電を爆発的に広げる段階には開発コストの面、あるいは戦略的にも到達していないということなのだろうか。
反対に大きな進化が見られたところもある。ドイツでもサービスが始まっているAmazon Alexaによるボイスコントロールにも、Home Connectに対応する冷蔵庫とオーブン、衣類乾燥機とエスプレッソマシンなどいくつかの製品が対応したのだ。Alexaに対応するスマートスピーカーを購入して、ボッシュの家電をコントロールするためのプラグイン(=スキル)を追加すれば、いくつかの機能が声で操作可能になる。
こちらも製品を購入したユーザーには便利な機能を無料で提供するという考え方なので、モバイルアプリやスキルは無料で追加して使えるようになっている。
これでボッシュのスマート家電は「本体のタッチパネルやボタン」「モバイルアプリ」「ボイスコントロール」という3つの異なるインターフェースを混在させて使う仕立てになったわけだ。例えば冷蔵庫の中にあるものを撮影した画像はタブレットのアプリの画面でチェックした方がわかりやすいし、手を使わずにオーブンの温度を上げ下げできる音声インターフェースならではの良さもある。それぞれに得意なオペレーションを使い分けていくことになりそうだ。
元々ボッシュのHome Connectは家電のオープンプラットフォームをつくるという構想のもとで立ち上がったプロジェクトだ。今もアライアンスは一歩ずつ広がりを見せているようだが、反面、プレミアムセグメントの商品を差別化する要素でもあるスマート機能は各社にとっての“切り札”にもなるため、互いの製品やサービスをブリッヂするための技術情報はなかなか開示されにくい。ならばAmazon AlexaやGoogle Homeのプラットフォームにつなげるようにして、部分的なところから便利になる使い方を提供して、よりプレミアムな機能は自前のモバイルアプリで囲い込みながらリッチサービスとして差別化して見せていくという方向に落ち着きそうだ。
最後にBSH Hausgeraede社が開発する、キッチン用アシスタントロボット「Mykie(マイキー)」の近況についても触れておこう。昨年のIFAでデビューしたMykieは今年もボッシュとシーメンスのブースで展示されていた。今年はよりスムーズに動くプロトタイプとして完成度がやや上がっていて、実際にボイスコマンドに反応したり、背面のプロジェクターで料理のレシピを壁に投射しながら調理の手順を声でガイドしてくれる様子も目の当たりにできた。
一方でMykieの展示を説明するボッシュのスタッフも「これはあくまでコンセプトモデル」であると念を押している。ホンネのところでは今後、スマートスピーカーとどうすみ分けていくかというところに苦労している様子が見え隠れしてくる。
単純な音声操作だけであれば、恐らくはAlexaやGoogleアシスタントを搭載するスマートスピーカーで十分にも思える。質問をボッシュのスタッフにぶつけてみたところ、今後Mykieについてはユーザーとちょっとした会話が楽しめたり、コミュニケーション能力を持ったエージェント的な役割の部分を強化していきたいと語っていた。
この会話をボッシュのスタッフとした後にふと、今年のHome Connectの展示を見て物足りなく感じていた部分が見えてきた。例えばスマート冷蔵庫の中味を画像でチェックできるだけでなく、残りモノを解析して有効活用できるレシピを提案してくれたり、1週間に使った食材の偏りをみながら、より健康に気を配ったメニューを提案してくれたりといった、行動解析やディープラーニングのテクノロジーと融合したサービスの姿が浮かび上がってこないのだ。
ボッシュのスタッフに訊ねてみたところ、現在そちらの方向での開発は検討して準備を進めているところだという答えが返ってきた。欧州のスマート家電ブームも次のターニングポイントにさしかかっているのかもしれない。さらなる飛躍を期待したいと思う。