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パナソニック、国内家電市場で27.5%のシェア獲得も「まだ拡大できる余地はある」

 パナソニック アプライアンス社の本間哲朗社長は、2017年6月12日、滋賀県草津のアプライアンス社本社において、家電事業戦略について説明。「過去2年続けて、すべての事業で増益となった。2017年度もすべての事業で増益を目指す」としたほか、2018年度に迎える100周年にあわせた記念モデルについて、8月に第1弾製品を発表することを認めながら、「100周年というのは、内部的な要素が強く、これを外に向けて打ち出していくかはまだ決めていない。だが、この節目にあわせて、各事業部に、目が覚めるような中身を持った製品をひとつ投入できるように要請している」などと述べた。

パナソニック アプライアンス社の本間哲朗社長

 今回の会見では、5月30日にアナリストを対象に開催した「Panasonic IR Day 2017」に準拠した内容を説明。それに対して記者からの質問に回答した。

日本でシェアを拡大できる余地はある

 パナソニック アプライアンス社の本間哲朗社長は、「2016年度実績は、日本、中国、アジアでの家電の増販、ハスマンの連結効果もあり、前年比6%増の増収を達成した。また、増販効果とプレミアム化で営業利益1,000億円超を達成した」と述べ、営業利益では11事業部すべてにおいて増益を達成したこと、エアコンでは過去最高の営業利益を達成したこと、国内家電市場においては過去最高となる27.5%のシェアを獲得したことなどを示した。

エアコンでは過去最高の営業利益を達成した。写真は、温度の異なる2つの温風を同時に吹き分けられるルームエアコン「エオリア」のイメージ写真

 さらに、2017年度には、白物家電の海外増販やプレミアム化のさらなる加速によって、売上高で2兆7,500億円、営業利益で1,120億円、営業利益率4.1%を目指すことや、2018年度には、売上高2兆8,000億円、営業利益率4.5%を目指すとした。

 「成長ドライバーは、どれかひとつの事業というよりも、すべての事業を増益させることにある。2017年度もすべての事業を増益させたい。これによって、アプライアンス分野の企業価値グローバルナンバーワンを目指す」と述べた。

 また、「日本は収益が高く出せる環境にあるため、シェア拡大を計画に盛り込むと、増益に向けた計画が甘い立て付けになる。そのため、日本でのシェア拡大は盛り込んでいない」としたものの、「世界を見渡しても、それぞれの国でトップシェアを持っているローカルメーカーは、いまのパナソニック以上のシェアを持っている。まだまだ日本でシェアを拡大できる余地はある。健康家電やフィットネス家電など、様々な提案を通じて日本の家電事業を成長させたい」と、さらなるシェア拡大に自信をみせた。

 さらに、本間社長は、製販一体体制へのシフトに取り組んでいることに言及。「パナソニックの家電事業は、1930年代から、松下幸之助創業者が導入した事業部制により、製造と販売は分離したマネジメントとしていた。1987年に松下電器貿易が、松下電器産業によって買収された際にも、海外販売のオペレーションは社長直轄という体制となっていた。だが、家電事業を巡る環境がこれだけ変化するなか、製造と販売を分けたオペレーションには限界があると考えており、少しずつ製販一体を進めてきた。2年前に日本と中国で製販一体とし、今年度からアジアでも一体化。欧米の販売部門もアプライアンス社に統合し、一元的に見ることができる体制を確立していく」と述べた。

国内外の比率は54:46で日本国内が上回る

 成長戦略の柱のひとつになるのが、海外事業の成長だ。

 本間社長は、「国内では1%増の成長率だが、海外では1桁台後半の成長率を見込んでいる。米国および中国でのテレビ事業の撤退により、国内外の比率は54:46となっているが、数年後にはこれが逆転し、海外が過半に達すると見ている。日本では、メジャー、スモール、エアコン、AVCという4つの柱があるが、海外でその体制が確立できているのは、台湾とマレーシアだけ。この4つの柱で事業展開することで、地域におけるブランドの確立にもつながる。各地域において、今後、どの柱を、どの順番で立てていくのかということを、明確なロードマップとして考えている。とくに、米国、中南米でどう立てていくのかが重要になる」などとした。

 また、「海外家電事業では一部赤字が残っていたが、これを黒字にしていく。地域、国に適合したプレミアム商品提案を通じて限界利益を向上させる」としており、プレミアム家電の構成比を、日本では46%、アジアでは38%、中国では55%に拡大したことなどを示し、さらに、これをプレミアム製品の比率をさらに拡大する姿勢を示した。

海外では、外資系白物家電ブランドナンバーワンを目指す

 「アジア、中国では、この3年間で、APアジアおよびAP中国の設立によって、権限と責任を委譲する前線化を実現しており、この1年で収益が刈り取れると感じられるところまで到達。十分な力がついてきた。いまは、ラインアップを刷新しているため、これらの地域での収益性が劣るように見えるが、この1年で成果につなげたい」とし、2017年度には、アジア、中国において営業利益率5%を目指す考えを明らかにした。

 とくに中国では、ECサイトを通じた販売が増加していることから、これまで事業ごとに個別に商談を行なっていた体制を見直し、事業をまたがって、ECサイトと一括商談を行なう電商本部を新設。「スモール家電を中心としたプレミアム戦略によって、外資系白物家電ブランドナンバーワンの獲得を目指す」と中国でのシェア拡大に意欲をみせた。

 アジアでは、ベトナム、インドネシア、フィリピンで家電ブームといえる状況に入っていることを指摘。「アジアの中間層の家電購入が想定よりも前倒しで進んでおり、エアコンも一般消費者でも手が届くようになってきた。エアコンは、大きな成長をみせており、2017年1月から、タイでエアコン室外機の生産を開始した」と述べた。

パナソニックが扱う、海外向けのエアコン

 また、「家電事業は、文化に寄り添う事業であり、調理家電ならば食文化、洗濯機ならば衣類の文化に沿ったものになる。そこに対して、パナソニックならではのやり方で商品を提案していく」と述べ、日本では高価格帯の炊飯器、米国ではパンケーキを作るための高価格帯のスタンディングミキサー、欧州では高価格帯のコーヒーメーカーの販売が好調であることなどを示し、「アジア、中国でも同様の展開を進めていく。中国では、2012年度には年間5万本だったナノケア搭載ドライヤーが、40万本に拡大している。2万円の製品が売れている」などと語った。

中国での売上台数は2012年から比べて約8倍に。驚異的な伸びを見せるナノケア搭載ドライヤー

IoT家電は中国が最初に手応えを感じた市場

 IoT家電の取り組みについては、「中国市場において、スマートフォンと連動した軽厨房シリーズを、2016年9月から発売しており、これが来月までに出揃う。IoT家電は、中国が最初に手応えを感じた市場。中国で、IoT家電が最も進んでいる理由は、中国の人たちは、朝から晩までスマホを手放さないという点がある。また、IoT家電に対する価値を感じて、そこに対価を支払う環境が作られている。現在、冷蔵庫、洗濯機、炊飯器、圧力鍋、ベーカリー、IHグリルがひとつのアプリが操作できるようになっている。

中国で発売されているタッチディスプレイ搭載の冷蔵庫。在庫管理などが可能

 IoT家電のハードウェアおよびソフトウェアは、日本で開発したものを、現地で実装しているが、どんな使い勝手が求められているのか、という点については、現地で作り込んでもらっており、日中共同での開発となっている。中国で成功した商品のなかで、日本でも受け入れられる商品や、そこに価値を感じてもらえる商品は、順次、日本に投入したい。また、アジアにも投入していきたい」と語った。

テレビ事業は“具体的な販売目標を掲げるようなビジネスではない”

 一方、テレビ事業に関しては、「具体的な販売目標を掲げるようなビジネスではない。ソニーが営業利益率10%を目指すことには感慨深いものがあるが、最も大きなコストを占めているパネルを調達するという体制で、5%の営業利益を出すのはたやすいことではない。全体の経営を考える場合に、そこに高いターゲットを置いて、全体を狂わせては戦略を誤る。達成可能な現実的な目標を置いて、毎年、少しずつ良化していけばいいと考えている」とした。

 6月16日から発売する4K有機ELテレビについては、「パネルを調達する企業と、2011年度から長い時間をかけて、かなり入り込んで、意見交換を進めてきた結果、投入した商品であり、出たところ勝負で投入した商品ではない。実際、放熱構造などについては、当社から提案したものを採用してもらっている。有機ELテレビは、名実ともに今のテレビとして最もいいデバイスに仕上がった」とした。

 また、8Kテレビについては、「まずは、4Kテレビをお客様に届けなくてはならないと考えている。8KはBtoBでの展開になる」と語った。

2017年度の不安材料は“原材料費高騰”と“人材確保”

 また、2017年度の家電事業における基本戦略として、「地域、国に適合したプレミアム商品提案を通じ限界利益を向上」、「日本における新たな群マーケティングを展開、シェアナンバーワンを拡大」、「海外において全地域黒字化、アジア、中国、インドで組織能力を向上し、事業成長を加速」の3点を掲げ、BtoB事業では、「非連続、IoT活用で事業基盤を強化、地域別販売体制で増収増益を加速」を打ち出す。

 一方で、「2017年度においては、2つの課題がある」と発言。「鉄やアルミニウムなどの原材料費が高騰しており、これが収益性を阻害している。もうひとつは、労働力の需給が逼迫している点。これは将来に渡って、人件費の増加につながる可能性がある」とした。だが、「この1年で、130人のキャリア採用を行ない、ヒューマンリソースの拡充を行なった。グループ全体で390人が新たに入社した」などと語った。

 なお、パナソニック アプライアンス社では、エアコン、食品流通、スモール・ビルトインを非連続投資を行ないグローバルな成長を目指す「高成長事業」に位置づける。洗濯機、冷蔵庫などのメジャーと、デバイスを、安定的な収益拡大を目指す「安定成長事業」に、テレビやデジカメなどのAVCは、リスクを最小化し、黒字化の定着を目指す「収益改善事業」にそれぞれ位置づけている。

世界中のお客様を招いて商談できるショールーム「ALL(Aspirational Lifestyle Laboratory)」

 今回の事業説明会では、滋賀県草津の同カンパニーの本社で開催したが、それにあわせて、同拠点に開設したショールーム「ALL(Aspirational Lifestyle Laboratory)」も公開した。

海外からのゲストを含む商談スペースとして新たに開設したショールーム「ALL(Aspirational Lifestyle Laboratory)」

 冷蔵庫や洗濯機、掃除機、温水洗浄便座などのメジャー家電のほか、エアコン、電子レンジ、炊飯器、食洗機、アイロン、理美容商品、テレビ、レコーダーといった家電製品、特に海外で販売している製品をメインで展示する。大型空調やショーケース、厨房機器、コンプレッサー、燃料電池、電動自転車なども用意する。

海外で展開している製品を展示する。従来、国内外で展開している製品を展示できるようなスペースはなかったという。写真はアジア、オセアニア地域向けの冷蔵庫、洗濯機
アプライアンスインドを設立して、さらに注力していくインド向けの製品
こちらはカレーモード搭載の洗濯機。洗濯機はその国の食文化と深く根付いているという
調理家電は白よりもシルバーが好まれるという
中東向けの掃除機では日本ではまず見かけない金色を本体カラーに採用する

 「かねてから、世界中のお客様を招いて商談できる施設を確保したいと考えていた。それがようやく完成した。ここで、すべての商品を見せるとができる。オーディオ、テレビ、ビデオは南門真にあるが、それ以外の事業はすべて草津に集中させ、5,500人が勤務している。先行技術開発などもここに集中させている」と位置づけた。