長期レビュー
三洋電機「eneloop/eneloop lite」その1
エネループとエネループライト、どっちを買ったら良いか? のイメージ写真(笑) |
デジタルカメラユーザーから広がりを見せた、三洋電機のニッケル水素電池「eneloop(エネループ)」。今では「エネループ」のブランドが広く認知され「充電式電池=エネループ」というぐらい有名になっている。
そして、この6月末、エネループの廉価モデルとなる「eneloop lite(エネループライト)」が発売された。電池容量は“本家”エネループよりも半分となったが、価格では約3割と安く、また繰り返し回数も、通常のエネループの1,500回から2,000回に伸びている。
こちらが「eneloop(エネループ)」。いまやニッケル水素電池の代名詞的な存在だ | 6月に発売された「eneloop lite(エネループライト)」。エネループよりも電池容量は少ないが、繰り返し回数は伸びており、また価格も安い |
写真は、充電器と単3エネループライト2本がセットになった「N-TGL01QS」。エネループとどちらを買ったらよいのか迷うところだ |
しかし、このエネループライト、安くなったのは良いが、果たしてちゃんと使えるものなのだろうか? そもそも、容量が少なくなったということは、エネループよりも使用時間が短いことになるわけで、頻繁に電池切れを起こしていたのではたまったものではない。中には“安いぶん性能が悪いのでは?”なんて穿った目を向けてしまう人もいるだろう。
そこで今回の長期レビューでは、本家エネループとエネループライトで性能実験を行なうことで、「エネループライトはちゃんと使える製品なのか?」「エネループとエネループライト、どっちを使ったら良いのか?」という、量販店の棚の前でつい悩んでしまうような疑問に答えてみよう。
なおこの連載は、実験や内容も多いので3~4回の連載となる予定なので毎週お楽しみに! ホントのところ、1本の電池を実験するのに1日以上かかるものや、数日かかるものまであるので、掲載中もずーっと実験してるのです(笑)。
●充電式電池は前からあったけど、“買ってスグ使える”がエネループの良さ
本編に入る前に、なぜエネループがここまで注目されるようになったか、ということについて触れよう。
エネループとエネループライトはニッケル水素電池。「Ni-MH(Nickel metal hydrideの略)」という表記がその証しだ。写真のように大きく書かれている場合もあれば、小さい場合もある |
そもそもエネループは、充電式電池の世界では「ニッケル水素電池」という種類に属することになる。え! 爆発する水素が入っているなんて危ないんじゃ?……と思うかもしれないが、ガスの状態ではなく「水素を含んだ金属」が使われているだけなのでご安心を。
ニッケル水素電池以外にも、充電式電池はある。コードレス電話の子機や充電式のシェーバーなどによく搭載されているのが、ニッカド電池(ニカド電池)で、携帯電話やパソコン、携帯音楽プレイヤーやデジカメには、ニッカドよりパワフルなリチウムイオン電池が使われている。リチウムイオン電池は、発火や爆発を押さえるために各種保護回路を内蔵しているため、高価なのが難点だ。
ちょっと変わりどころでは、自動車のバッテリに使われている「鉛蓄電池」というのもある。これは古くから使われており、かなり高性能だがデカくて、重くて、何よりも危険な電池。電圧や電流が高くて危険というのもあるが、鉛が人体に有害なのはもちろん、中に満たされている液体は強酸性の希硫酸だ。
ちなみに、充電して繰り返し使える電池にはさまざまな呼び方が混在している。技術系の人がよく使う「二次電池」(乾電池のような使い捨ては一次電池)をはじめ、「充電池」「充電電池」などの名称もある。本稿ではちょっと硬い表現だが、誤解の少ない「充電式電池」で呼ぶことにしよう。
「ニッカド電池」は、コードレス電話や充電式のシェーバーに使われていることが多い | 変わったところでは、「鉛蓄電池」というのもある。主に自動車のバッテリとして使われている |
「リチウムイオン電池」は、携帯電話やデジカメの専用電池として有名だ | 本題とは関係ないけれど、写真はデジカメのリチウムイオン電池を分解したころ。内圧が高くなったときにガスを逃がす小型バルブや、異常な電圧や熱を検出する保護回路なども内蔵されているため、値段が高い |
話が脱線したので、本題のエネループに戻ろう。エネループが属するニッケル水素電池、三洋電機に限らず、いろいろな会社が発売している。ニッケル水素電池自体は、エネループの独占技術というわけではない。
あまり店頭では見かけない電池だが、これもエネループと同じニッケル水素電池 | ちゃんと「Ni-MH」と表記されている |
じゃあ、エネループの何がスゴイかというと、一般的なニッケル水素電池に改良を加えて、内部に貯めている電気を長期間保持できるようにしている点が特徴だ。
電池に詳しくない人でも、「非常時の懐中電灯の電池は、数年ごとに交換しよう」といった話を一度は聞いたことがあるだろう。多くの電池は、たとえ何も接続していなくても時間の経過とともに、内部に貯めている電気が逃げてしまう。この現象が「自己放電」や「自然放電」と呼ばれるものだ。
ニッケル水素電池が登場するまで、充電式電池としてメジャーだったニッカド電池は、乾電池に比べると自己放電しやすく「買った直後はマズ充電しないと使えない」ものだった。コードレス電話の子機を使おうと思ったら、バッテリーがなくなっていた、なんて経験をした読者も中にはいるはずだ。
実は、ニッケル水素電池ももともとは自己放電しやすい性質があったため、工場の生産ラインであらかじめ充電してから出荷することはなかった。
しかしエネループはニッケル水素電池ながら、改良を加えることで自己放電を最小限に抑え、あらかじめ生産ラインで充電してから出荷されている。
要は、乾電池感覚で買って、スグ使えるのがエネループなのだ。
一般的なニッケル水素電池と、エネループシリーズの自己放電による残存量の違い。三洋のWebページより抜粋 |
●【実験その1】買ったばかりの電池の電圧をチェック
エネループが自己放電を抑えていることは、パッケージに印刷された製造月を見ればよく分かる。今回購入したエネループとエネループライトは、いずれも製造から5カ月経過している。
パッケージには製造月が印刷されている。こちらはエネループ | こちらはエネループライト。製造月が印刷されている |
しかし、電池の電圧をチェックする機器に電池を投入し、電池のパワーを調べると、エネループの電圧は「1.32V」、エネループライトの電圧は「1.31V」という数値になった。その後、フル充電した後で計測すると、それぞれ「1.38V」だった。どちらも100%の時と比べれば電圧は落ちているものの、製造から5カ月経過してもほとんど変わらないパワーを保持していることになる。これが、自己放電しやすい電池だったら、もっと少ない数値が出ていたはずだ。
「買ってすぐに使える」というのは、乾電池では当たり前の話のようだけれど、充電式電池では難しいことだった。エネループは、充電式電池の積年の課題を克服した電池なのだ。
【実験その1】の結果。開封直後だが、エネループ/エネループライトともに、フル充電状態に近い電圧となった |
またもや補足的な話をしてしまうと、リチウムイオン電池や鉛蓄電池では、自己放電が少ない。買ってきたばかりのノートパソコンでも、充電しなくても動いちゃうぐらいだ。また自動車のバッテリも、長年の改良で自己放電がほとんどないほどまでになり、バッテリ交換すれば即エンジンがかかるのだ。
●エネループライトは容量は少ないが、金額/軽さ/繰り返し使用回数で優位
さて、エネループとエネループライトがほとんど同じ自己放電の抑制性能を持っているのことはよく分かった。ここからは両者の違いについて触れていこう。
まず、一番違うのが「価格」だ。いずれもメーカー希望小売価格で税込みで次のようになっている。
・エネループ単3 2本セット(HR-3UTGA-2BP) 1,155円
・エネループライト単3 2本セット(HR-3UQ-2BP) 780円
その差375円。1本にあたりにすると188円ほどエネループライトが安い。
なぜここまで価格差があるかというと、冒頭で述べた通り、エネループライトでは電池の容量が半分になっているからだ。エネループでは1,900mAh、エネループライトでは950mAhと、電気を蓄えている量において、両者にはかなりの違いがある。
この電池容量、充電式電池の表面に「○○○○mAh」といった感じで、必ず容量が記されている。電池に詳しい読者には当たり前すぎる話だが、フツーの人はこの容量の差を意外と気にしない。もちろんエネループシリーズにも、次の写真のように表記されている。
エネループの電池容量は「1,900mA」 | エネループライトは「950mA」 |
ちなみに、数値の前にある「Min.」は最低保証を意味しているので、「モノによっては、それ以上あるかも知れない」ということだ。先に紹介した他社のニッケル水素電池にも同じ表記がある。
こちらの充電式電池は容量2050mAhだけど「TYP.」という前置きがある | こちらは前置きなしで2000mAh |
ちなみに、「TYP.」という前置きがある場合は、“容量が***mAh程度ある可能性が高い”という意味になる。前置きがない場合も「TYP.」と同じと思っていいだろう。電池同士で容量を比較する場合は、厳密にいえば、同じ前置きにおける数値で比較するべきだが、結構省略されていることが多い。まあ、「mAh」の数値を見れば、大まかな「電池に蓄えられる容量」が分かるということは覚えておこう。
この容量を表す「mAh」という記号には、もちろん意味がある。「mA(ミリアンペア)」は、小中学校で習ったとおり“電流”を示し、「h」はhour、つまり1時間を示す。エネループを例にとれば、「1900mA(1.9A)の電流が流れる機器に接続するれば、1時間持ちますよ」という意味だ。もしそれより大きな電流が流れれば、1時間も経たずになくなるが、半分の950mAの機器なら2時間動かすことができるというワケ。
つまり、エネループライトは、“エネループの半分の容量が蓄えられる電池”ということになる。この電池容量の差が、価格面で大きく差が出ているのだ。
容量が半分になった反面で、メリットもある。それが、繰り返し回数の増加だ。エネループは繰り返し充電(電池がなくなった後に充電すること)は約1,500回使えると謳われているが、エネループライトは500回増えて2,000回使えるというのだ。
エネループシリーズの電池容量の違い |
また容量が少なければ、電池の中に入っている物質も少ないため、軽いというメリットもある。エネループ1本あたりの重さが27gなのに対し、ライト1本は19g。容量のようにエネループの半分とはいかないが、30%くらいは軽いので、電池を6本必要とする機器では48g軽くなる。
エネループとエネループライトでは、製品のラインナップも違っている。エネループライトは大容量を想定していないので、単三と単四電池のみのラインナップとなっている。一方エネループは、単一から単四までのラインナップが揃えられている。
サイズ | エネループ | エネループライト |
単一 | 5,700mAh | なし |
単二 | 3,000mAh | なし |
単三 | 1,900mAh | 950mAh |
単四 | 750mAh | 550mAh |
角型9V (006P) | なし | なし |
シリーズの電池容量をグラフにするとこんな感じになる |
エネループのスペーサー。左のケースの中にエネループを入れると、単2や単1の電池として使えるというものだ |
単三電池を単一や単二サイズにするスペーサを使えば、エネループライトを単一や単二電池変わりに使える(細かいことを言うと、一部電池ボックスの形状で使えない場合もある)。しかし表の電池容量を見れば分かるとおり、このサイズの電池を使うラジカセなどは、それだけ大きな容量を必要としているので、エネループライトにスペーサを被せて使うと、スグに電池切れになりそうだ。
●【実験その2】豆電球を連続で使うと、エネループの寿命はどのぐらい?
スペック表を眺めていると、果たしてこの電池容量、実際にはどのくらい持つのだろうか? という疑問が沸いてきた。
ある程度はmAhから電池容量を計算できるが、実際にやって見なけりゃ分からない部分が多くある。世の中、計算どおりにいかないのが常だ。
そこで、ここからは電池の長持ち実験を行なってみよう。電池に豆電球をつなぎ、10秒間隔で電池の電圧を測ってみることにした。
豆電球を使った電池の寿命テスト装置。常時点灯させ、10秒ごとに電圧を測る仕組みだ |
豆電球の実験装置は左の写真の通りだ。何だか教育テレビでやってるようなになってしまったが、右の写真後方に見えているLEDの光る箱は、パソコンで制御できるスイッチ。どの電池も同じ条件で測定できるように、スイッチを正確なタイミングで操作するようになっている。またテスターは、パソコンに接続されていて10秒ごとに電圧を記録するようにしている。
で、測定した結果が次のグラフだ。グラフの縦軸は電池の電圧、横軸は使用時間を表している。右にグラフが伸びるほど、長く電池が使えるというわけだ。
【実験その2】豆電球で寿命をテストした結果がこれだ! |
濃い青の線がエネループ、水色の線がエネループライトを示している。また比較用として、オレンジのアルカリ乾電池(パナソニックのエボルタ)と、緑のマンガン乾電池(100円ショップの電池)も測定してみた。
このグラフを見て、「あれ、エネループシリーズだけ電圧1V以下のグラフが消えているじゃないか!」と思うだろう。これはエネループをはじめとしたニッケル水素電池は、電池1本あたり1.0Vをもって電池の寿命とする!という業界的な約束ごとがあるためだ。
なぜかというと、豆電球などの回路をつないだ状態で1.0V以下まで使ってしまうと、繰り返し充電の回数が減ってしまったり、劣化を早めることになってしまうためだ。なお「電池1本あたり」というのは、2本を直列で3Vとして使った場合、1本あたり1Vなので、合わせて2Vまで電圧が下がった場合が寿命だ。カッコよく言うと、ニッケル水素電池の「終止電圧」または「放電終止電圧」は1Vなーんて言い方をする。
一方、乾電池の場合は1本あたり0.9Vをもって電池の寿命としている。若干乾電池の方が有利だ。
そんな予備知識を頭の隅に置いて、エネループとエネループライトの比較をしてみると、
電池容量はほぼ半分!
横軸の時間で見てみると、エネループが終止電圧になったのは、実験開始から9時間10分50秒後。エネループライトは3時間48分50秒なので、半分の時間より1時間16分35秒ほど短いが、ほぼ半分と言える範囲にあるだろう。
アルカリ電池は終止電圧が低いこともあって、10時間51分と長持ちだが、あくまでも使い捨てってのを忘れちゃならない。マンガン電池はエネループよりも短く、2時間52分で寿命を迎えた。
もちろん厳密に測定する場合は、室温なども一定にしてやる必要があるが、今回は大まかな性能の比較は、このグラフで十分読み取れる。
例えていうなら、エネループは充電式電池界の“アルカリ電池”、エネループライトは“マンガン電池”に似ていると言えるだろう。
●【実験その3】プラレールを連続で使うと、エネループの寿命はどのぐらい?
さて、豆電球に続けて、男なら子供のころに誰もが遊んだはずのプラレールでも実験だ。何でプラレールかというと、モーターがかなり電池を食うはずなので、豆電球よりも違った結果が得られるのではないかという魂胆だ。本来は単2の電池を使うが、実はタカラトミーが開催している「プラレール博」では、単3エネループにスペーサを入れて使っていたので、それに倣ってみた。
でもそこには問題点がある。プラレールはレールの上を走ってしまうので、そのままでは測定できない! そこで、こんなモノを作ってみた。
プラレールのシャーシダイナモ(自作)で実験! しかも車両はキハ40! マニアックな車両があるもんだ! |
車の走行性能を測定するシャーシダイナモのプラレール版だ(笑)。使ったのは高架直線レールに車止め、それにミニ四駆のホイールを組み合わせている。車両は、昭和の非電化区間を日本全国駆け抜けた「キハ40」だ! しかも1両で運転しても問題ない両運転台仕様!! いやいや、プラレールもなかなかマニアックな車両があるもんです――ビックリ!
で、測定した結果が次のグラフだ。
【実験その3】プラレールでの電池寿命の実験結果 |
がーん! なんと、豆電球と同じような結果に! 1両で走らせるとあまりモーターに負荷がかからないのかもしれないが、プラレールの基本編成である3両にしたところで、さほど運転時間に変わりはないだろう。「いっぱいつなごう金太郎&貨車セット」のように10両の長大編成で運転したり、登り勾配がある運転区間では、かなり寿命が縮むに違いない。
とはいえ、この実験ではエネループライト1本で1両単行運転をすると、4時間以上も遊べることになる。付随車(モーターのない車両)を数両牽引しようが、遊んでいるうちに電池切れはまず起こらないだろう。エネループやアルカリ乾電池だと、遊ぶ時間にしてはオーバースペック気味だ。ちょっと大げさな話になるが、電池を入れたままおもちゃ箱に放置していると、やがて液漏れする恐れだってある。
実は、このグラフから読み取れる、エネループのもう1つの特徴がある。
エネループは、あるとき途端に電池切れする
という点だ。オレンジ色のアルカリ電池と見比べるとよく分かるが、乾電池は緩やかな曲線をだどって終止電圧に至るが、エネループシリーズは途中でカーブが平坦になり、あるときを境にカーブが急降下する。
【実験その3】の結果で注目してほしいのが、○印の部分。エネループシリーズは、寿命近くになると突然カーブが急に落ち込む性質があるようだ。アルカリ乾電池だと、カーブの度合が全体的に緩やかになっている |
つまり、エネループシリーズを乾電池感覚でまだまだ使えるなと思っていたら、突然暗くなったり遅くなったりして、あっという間に電池切れになる。これは特徴としてぜひ覚えておいて欲しい。デジカメなどで使う場合はなおさらだ。電池残量が残り1目盛りになったら、電池切れまであとわずかしかない。目盛りが1つになったり、機器がみるみる暗く、遅く、小さくなる傾向にあったら、即電池交換することをお勧めしよう。
今回行なった実験では、「エネループライトの電池容量は、本当に本家エネループの半分くらい」、「自己放電の少なさ、電池が減ると途端に電池が切れるなど、本家エネループと同じ性能」を備えていることがよーくわかっていただけただろう。
次回も「エネループライトはちゃんと使える製品なのか?」「エネループとエネループライト、どっちを使ったら良いのか?」という疑問を解決するために、さらなる実験に挑戦する。内容は、“充電式電池と乾電池との能力の違い”、“エネループを長持ちさせるための賢い利用法”、“実はエネループでは使えない機器がある”などを紹介する予定だ。
2010年10月1日 00:00
「長期レビュー」は1つの製品についてじっくりと使用し、1カ月にわたってお届けする記事です。(編集部)