長期レビュー

三洋電機「eneloop/eneloop lite」その2

~エネループを賢く使うには「電圧」と「過放電」に注意
by 藤山 哲人

 
「長期レビュー」は1つの製品についてじっくりと使用し、1カ月にわたってお届けする記事です。(編集部)



がんばってプラレールを動かしているエネループのイメージ図。今回は根本的な話ではあるが、乾電池との違いについて述べたい

 三洋電機の“繰り返し使える電池”「eneloop(エネループ)」と、容量は少ないが安い廉価モデル「eneloop lite(エネループライト)」について、どのような違いがあり、どう使い分けるのが良いかを徹底調査するこの連載。第1回目では、エネループシリーズの自己放電性能と、乾電池との電池寿命の比較に関する実験を行なった。その結果、エネループ/エネループライトとも、乾電池のように買ってすぐ使え、またエネループライトの寿命は、スペック通りエネループのほぼ半分であることが分かった。

 第2回目では、乾電池のように買ってすぐ使えるエネループ/エネループライトも、普通の乾電池とは違ったところがある、というやや根本的な話を中心にお届けしたい。

 [第1回目はこちらから]



【実験その4】エネループシリーズは連続でも間欠運転でも寿命は変わらない

 さて、前回はプラレールと豆電球を付けっぱなしにし、エネループシリーズと乾電池の寿命を調べたが、よくよく考えると、現実には機器のスイッチを入れっぱなしにするというシーンは少ないことに気付いた。デジカメだって懐中電灯だってプラレールのようなおもちゃだって、使う度に電源を入れて、使わない場合には切るのが普通。入れっぱなしにするというのは、壁掛け時計やリモコンぐらいだろう。

 そこで今回は、より現実に即した例として、スイッチのONとOFFを繰り返す間欠運転時には、どのぐらいで寿命になるのかを調べてみよう。

 まずは、前回も使用したプラレールで実験。というのも、プラレールをずーっと運転し続けるというのは、おもちゃ屋さんのディスプレイくらい。実際には、楕円のレールを組んでとりあえず試運転した後、電源を止めて、操車場を作ったり勾配を作ったりして、さらにプラレール走らせて、しばらく眺めて、また運転を止めて路線を拡げて……というように、間欠運転するのが普通だろう。

 実験内容は、プラレールを10分走らせては、20分電池を休ませてを繰り返し、電圧を計測するというもの。電圧は前回と同様、10秒ごとに自動で計測する仕組みになっている。実験結果は、以下のグラフだ。

今回はまず、エネループとエネループライト、そしてアルカリ電池の間欠運転を実験し、連続運転とどのような違いがあるかを探る第1回目に引き続き、プラレールの自作シャーシダイナモを使用する

プラレールを間欠運転(10分間運転、20分間電源OFF)した場合の、電池の電圧の変化。図内部の「エボルタ」とは、パナソニックのアルカリ乾電池のこと

 結果、寿命はエネループライトは約13時間、エネループは約28時間、アルカリ電池は約38時間となった。いずれも第一回目の連続運転時よりも長いが、これは正味の運転時間に加え、電気を休ませているが含まれているため、当たり前の結果である。

 ということは、この時間から電源をOFFにしていた時間を引き算すれば、連続利用したときに比べた、正味の運転時間の違いが分かることになる。さっそく計算してみたところ、次のグラフのようになった。

間欠運転と連続運転の寿命の違いを表したグラフ。アルカリ乾電池(エボルタ)は間欠運転だと寿命が10%ほど延びるが、エネループでは3%だけ長持ち。エネループライトは変化なし、というか逆に連続時よりも寿命がわずかであるが短い

 アルカリ乾電池(パナソニックのエボルタ)は、連続が11時間44分、間欠が12時間56分と、間欠運転の方が10%長持ちという結果になった。読者の中でも「乾電池は休ませて使うと長持ちする」という話を聞いたことがあるかもしれないが、この結果がそれを証明している。

 しかしエネループでは、連続で9時間11分、間欠で9時間26分と、“長持ち率”はわずか3%のという結果に。エネループライトに至っては、連続で4時間25分、間欠で4時間22分と、ほとんど同じ、というか、逆に間欠の方が寿命が短くなってしまうという結果になった。

プラレールを間欠運転した時の電圧のグラフ(拡大写真)。アルカリ電池はグラフの幅が広く、頂点の角度も鋭いが、エネループシリーズは幅が狭く、角度も狭い

 この性質の違いは、最初に掲載したギザギザのグラフからも読み取れる。アルカリ電池は、スイッチをONにした瞬間に電圧が大きく下がる一方、OFFにすると大きく電圧が回復している。そのため、グラフの幅が広く、頂点の角度が非常に鋭い。その一方で、エネループシリーズはON/OFF時の電圧の幅が非常に小さく、頂点の角度も緩やかだ。エネループはアルカリ電池と比べると、電圧の低下が少ない分、その回復幅もまた少ないようだ。

 というわけで、間欠運転をした場合は、乾電池は10%程度長持ちするが、エネループシリーズの場合は、ほとんど誤差の範囲内でしかない、と言えるだろう。

 ただし、回復しないからといって、エネループがダメなワケではない。まずは、最初の間欠運転のグラフで、エネループの20時間~26時間部分に注目していただきたい。エネループの電源OFF時の電圧が、乾電池よりも上回っているのだ。つまり、エネループは電池がボチボチ減った後でも、乾電池より安定した電圧を取り出せると言えるだろう。

 もちろん、自己放電の少なさもエネループシリーズのメリットだ。製造から5カ月経った開封直後の電池で、豆電球の間欠運転時の電圧を測ってみると、エネループはフル充電時の87%(23時間半。フル充電だと26時間半)、エネループライトは82%(11時間半。フル充電だと14時間)まで使えるという結果になった。確かにフル充電と比べれば寿命は落ちるが、基本的にはほとんど変わりなく使えることがわかるだろう。

こちらは豆電球における各電池の電圧の変化で、開封直後のエネループシリーズも試している(細い線)。さすがにフル充電の電池(太い線)と比べると寿命は短いが、だいたい同じ性能を示していると考えて良いだろう



【実験その5】電圧がちょっと違うだけで、パワーや持続性に影響が

 エネループは買ってすぐに使えるという点では乾電池と同じだが、上記の実験でも分かった通り、電圧の面では乾電池と決定的な違いがある。先の実験のグラフを見ていただいて分かるとおり、最初は、乾電池は1.5V出ているのに、エネループは1.3V程度しか出ていない

 でも、たった0.2Vの電圧の違いで、何の違いがあるのだろうか?

 結論からいえば、これは全然違う。今回の連載で試したプラレールや豆電球でさえも、目に見える違いが出るのだ。

 次の写真は、豆電球にエネループと乾電池をつなげた際の明るさの違いだ。

エネループと乾電池は電圧が違うが、その差は豆電球でもすぐわかる。写真はエネループで豆電球を点灯したところだが、照度計の明るさは7lx(ルクス)となっているエネループライトも7lx一方、アルカリ乾電池(パナソニックのエボルタ)は倍の14lx。輝きがぜんぜん違う!

 電球近くに照度計を置き、明るさを計測したが、エネループとエネループライトは7lx(ルクス)、アルカリ電池はその倍の14lxの明るさを備えている。写真で見ても、乾電池に比べてエネループはかなり暗いのが分かるだろう。

 プラレールの場合も同じ。プラレールは車輪を動かすのにモーターを使っているが、明らかにアルカリ電池の方が速い。



 このようにエネループシリーズは、乾電池とまったく同じ性能というわけではなく、モーターで動くおもちゃをより速く走らせたり、懐中電灯をより明るくしたい、という場合には不向きなのだ。逆に考えれば、パワーがそれほど必要でない機器には、エネループは何の問題なく使えるということになる。乾電池を使うかエネループを使うかについては、“何に使うか”というのが、ひとつの判断基準になるだろう。



デジカメあるある「電源にエネループを使うと、電池残量表示が1目盛り減る」の謎

こちらは、デジカメの電源にエネループを使用した際の、バッテリーの残量計。写真を数枚撮ると、満充電なのにすぐに残量表示が半分になってしまう

 この乾電池とエネループの電圧の違いについて、その差がよーくわかる具体例がデジカメだ。

 乾電池を電源とするデジカメに、電源としてエネループを使うと、不思議な現象に出くわすことがないだろうか。それは、満充電から何枚か撮影すると、バッテリー残量がスグ半分になっちゃう……というヤツだ。しかも、ズーッと半分の状態が続き、なかなか残量が1目盛りまで落ちないのだ。

 電池に詳しい方はもちろん、勘の良い方なら、エネループの特徴が分かった今、この謎はだいたい察しがつくだろう。

 これは、カメラの電池残量は、乾電池や専用電池の電圧を基準にしてしているためだ。だからデジカメでエネループを使うと、バッテリ残量計が残量が半分になってしまったと勘違いしてしまうのだ。使っても使ってもなかなか残量表示が減らないのは、乾電池の電圧は徐々に電圧が落ちていく一方で、エネループは1.2V台をキープし続ける時間が長いからだ。

 しかし、第一回目の実験でも分かったとおり、エネループは電圧1.1Vを割ると、寿命まで一気に急カーブを描くように落ちていく。デジカメでは大抵が1.1Vを「残量1」としているようだが、エネループの場合は「残量1」があっという間に過ぎ、電池切れになってしまう恐れもある。専用バッテリや乾電池で使っている感覚で撮影していると、痛い目に合う恐れがある点には注意しよう。

デジカメの残量表示は、1.3V以上が「満充電」、1.1~1.3が「残り半分」、1.0~1.1が「残りわずか」、それ以下が「電池がありません」と判断するようだ


電池入れっぱなしで消費電力の少ない機器は、「過放電」に要注意!

 デジカメの話に合わせて、使用上の注意の話をしておこう。実はエネループには、あまり使用をお勧めできない機器がいくつかある。それは、(白熱電球ではなく)LED式の懐中電灯や壁掛け時計、リモコン(電池残量が表示されないタイプ)といった、消費電力が少なく、ごく微弱の電気で動く機器だ。

 これらの機器にエネループを入れて、LEDが点灯しなくなる、あるいは時計の針が動かなくなるなど容量ギリッギリまで使い切ってしまうと、エネループの性能が極端に落ちる恐れがあるからだ。

 これはエネループに限った話ではなく、ほとんどの充電式電池に言えることだが、もし終止電圧を大きく下回るくらいまで使い切ると、繰り返し使える回数が減ったり、充電しでもスグに電池切れしてしまう恐れがあるのだ。これはカッコ良く言うと「過放電」という現象になる。

三洋電機の電池総合ページにあった、エネループの適正表。よくよく並びを見ていると、「推奨」ではなく「使用可」となっている機器は、何年も電池を入れておきそうなものが多い。メーカーとして長々と理由が書けない、もどかしさがココにある。ちなみに、強力ライトと懐中電灯に「非常時除く」とあるのは、電池が使えないのではなく、もしもの時に充電できないからと思われる

 前回サラっと紹介した終止電圧だが、実は、充電式電池においてとても重要な意味を持っている。それは、電池の性能が極端に落ちることなく使える“最低電圧”ということを示している。デジカメで使えなくなった電池をリモコンなどに入れると動いてしまうように、LED式懐中電灯や壁掛け時計も動いてしまう。

リモコンや時計、懐中電灯(LEDで省電力タイプのもの)は、過放電の恐れがある。もちろん使えないということではないが、過放電に気を使うぐらいなら乾電池を使ったほうがいい

 使い捨ての乾電池なら、最後の電気1滴まで絞り取れてお得なのだが、エネループをはじめとした充電式電池では、過放電が電池の命取りになりかねないのだ。読者の中には、「充電式の電池は使い切るまで充電しない方がいい」という話を聞いたことがあるかも知れないが、「この使い切る」には「1.0Vの終止電圧まで使い切る」という意味が隠されているのだ。

 ちなみに、この「充電式の電池は使い切るまで充電しない方がいい」という話は、エネループについては気にする必要がない。詳しくは第3回でお話するが、エネループは携帯電話と同じように継ぎ足し充電しても、あまり性能を損なわない。だから「電池が減ってきたな」と感じたら、即充電器にかけるようにしよう。過放電で性能が劣化するより、継ぎ足し充電のほうがお得ってワケだ。

 デジカメのように電池残量表示がある機器なら、電池が少なくなったというのはすぐ分かるし、モーターや白熱電球の懐中電灯の類であれば、電池が寿命になると遅くなったり暗くなったりするので、電池の換えどきがわかる。でも、乾電池を使うことが前提になっている機器にはそんな機能はない。エネループを使うなら、定期的に電圧をチェックしなければならないが、それはあまりにも手間がかかる非現実的なやり方だ。というわけで、これらの機器を使う場合には、乾電池を使うことをお勧めしたい。


 今回はエネループと乾電池の違いに関する話が中心になったが、どっちも同じように使える電池でありながら、実は意外と違っていることが分かっていただけただろう。性質の違いをぜーんぶ完璧に覚える必要はないが、「パワフルに運転したい場合はアルカリ電池、安定したパワーで使いたい場合はエネループシリーズ」、「充電式電池は完全に使い切る前に充電をする」くらいは、頭の片隅に置いておいても損はないはずだ。

 3回目となる次回で検証するのは、エネループの「繰り返し性能」。一応、エネループには約1,500回、エネループライトでは2,000回まで繰り返して使用できるとあるが、繰り返し使うことで、どれだけ性能が変わるものかを調べてみよう。昼夜を問わずに放電約8時間と充電1.7時間を繰り返す実験なので、筆者は寝る暇もない、なーんてことはなく、パソコンがすべて自動でやってくれるので安心だ。いや、パソコンがなければこんな面倒臭い実験はしない(笑)。

 ついでに、エネループシリーズでは「継ぎ足し充電」しても性能は劣化しないと言われているが、それは本当なのか? という素朴な疑問についても、実験で解明してみよう。それではまた来週!



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2010年10月8日 00:00