家電レビュー

扇風機でもサーキュレーターでも得られない快適、冷風扇が実は良かった

山善の冷風扇「FCR-BWG401」を家で使ってみた

筆者は筋金入りのエアコン信者であり、社会人になってすぐの夏に買ったのが「日立白くまくん」シリーズのウインドエアコンであった。それ以降、転居のたびにエアコンを3台4台と増強しており、扇風機などはもう40年以上買ったことがない。ただ、エアサーキュレーターは別である。これはエアコンの冷気を循環させるもので、扇風機とは別物と考えている。

筆者の仕事部屋は、この春に息子の部屋と場所チェンジしたのだが、この部屋にはエアコンがない。隣のリビングには大型エアコンがあるので、例年そこからサーキュレーターで冷風を送り込んでいた。

ところが今年は事情が違った。梅雨が1週間で終わってしまうと、東向きの角部屋は朝っぱらから太陽の熱で建物外壁のタイルが熱せられ、部屋の壁全体から熱がモーンと放射されてくる。息子は学校やら部活やらで昼間はほとんど家にいなかったため、ここまで暑くなる部屋だとは知らなかったのである。

サーキュレーターを2つ回しても、室温はほとんど下がらなかった。しかも2台点けていると、めちゃくちゃうるさい。急遽エアコンを、と探したのだが、半導体不足と急な需要増加で、なんとエアコン入荷が1カ月待ち、さらには取り付け工事も1カ月待ちだという。そんなに待っていたら夏が終わってしまう。

そんなおりFacebookの誰かの書き込みで見つけたのが、山善の冷風扇「FCR-BWG401」であった。冷風扇は扇風機より涼しいというフレコミで、筆者の子供の頃にもあったが、どうにも眉唾っぽいシロモノという記憶しかない。「お前まだ生きていたのか」という気持ちになったが、Amazonで15,000円以下とかなり安い。ダメならヤフオクで売ればいいか、と思い、急ぎ発注した。

届いたのは最大モデル

購入した冷風扇は、思ったより1.5倍ぐらいデカかった。というのもAmazonの商品サイズ表記が間違っており、高さ67.2cmと書いてあったのだが、実際には高さが約1mもあり、届いた箱を見て「はぁぁ?」と声を上げてしまった(注:山善の公式サイトでは高さ約103cmと書かれていた)。

Amazonの表記では、67.2cmとなっていた(価格は当時のもの)

本体直径が18cmぐらいある1mのポールは、部屋の中ではなかなか存在感がある。ただ黒い円柱を白いカバーで囲ったようなデザインは、思ったよりも野暮ったくない。組み立てが必要だったのは下の台座部分のみで、本体部分はすでに組み上がった状態で届く。

こんなに大きいとは夢にも思わなかった「FCR-BWG401」

天板のダイヤルが風量調整で、その周囲がタッチパネルになっている。電源ボタンはもちろん、首振りや冷風・送風の切り替え、センサーコントロールの切り替えなどができる。正面にディスプレイがあり、今の動作モードと室温が表示される。

操作は天板のタッチパネルとダイヤルで行なう
正面のディスプレイで室温がわかる

リモコンも付属しているが、タッチパネルが便利なのであまり使っていない。本体背面にリモコン収納部があり、使わないうちにリモコンがどっかいった、というトラブルを防いでくれる。

リモコンも付属
背面にリモコンの収納口があるのも気が利いている

背面には、水を含ませるための吸水フィルターがある。底部にはバスケット状の水タンクがあり、ここに水を入れると、ポンプが汲み上げて水をこの吸水フィルターに浸透させる。材質の表記はないが、おそらく紙製ではないかと思われる。扇風機の吸気によって吸水フィルターの水分が蒸発し、気化熱を奪うことで涼しい風が前面から放出される、という仕組みになっている。

背面の吸気部分に吸水フィルターがある
吸水フィルターはおそらく紙製

水タンクは結露防止と、室温で水が温まってしまうことを防止するために、二重構造になっている。実は正面に小窓があり、ここで水の残量がわかる……ということになっているのだが、乳白色の二重構造の樹脂に加えてこの小窓も乳白色なので、水の残量など全然見えない。後ろからライトでも照らせば見えるのかもしれないが、そんな機能は付いていない。

実効値2.2Lの吸水タンク
正面の小窓から水量が見える……はずだが全然見えない

水タンクの挿入口に押しボタンがあり、ここを水タンクのエッジで押すとロックが外れ、吸水ポンプが降りてくる。水タンクを引き出すと、ポンプ部もそれに引っぱられて上に跳ね上がるという、物理的な仕掛けになっている。

水タンクのエッジでボタンを押すと、吸水ポンプが降りてくる
手動で吸水ポンプを降ろしてみたところ

最上位機種の威力

実際に冷風扇を使い始めて、2週間が経過した。結論からいうと、ヤフオクで売り飛ばすために保存しておいた製品箱は折り畳んで処分した。つまり、定住決定である。

ひんやり冷たい風が来るのかといわれれば、そんなことはない。室温よりもだいたい1℃ぐらい低い風が出る、という程度である。その点では、設定すれば特定の温度に向かってぐんぐん冷えるエアコンとは比較にならない。

つまり28℃の部屋では27℃の風が出るので快適だが、32℃の部屋では31℃の風が出るだけなので、暑いことは暑いわけである。したがって、エアコン無しで行けるかという問いに対しては、「行けない」。筆者宅では、本体はエアコンのあるリビングに置いて、そこから部屋に向かって風を吹き込ませるという手法を取っている。

エアコンのあるリビングから部屋に向かって送風

サイズは1mあるが、実際のファン部分は45cm程度だ。それでも風量は十分で、かつ風の幅が広い。約2mの距離にあるベッドに横になった場合、首の下から足の先までの全域に風が当たる。

風量は1から5まで選択できるが、5だと相当の風量はあるものの、音はうるさくなる。実際1〜2で十分だろう。これぐらいなら、ほとんど動作音は気にならないレベルだ。一方センサーコントロールにすると、室温に応じて風量を自動的に変更してくれる。28℃ぐらいで風量3ぐらいになるのだが、そこまでは必要ないと感じる。

つまり、風量が上がればそれだけ涼しくなるかというと、そんなリニアには変わらない、というのが実感である。騒音レベルからすれば、割に合わないともいえる。サーキュレーターと違い、部屋の空気を循環させるとか、部屋全体の温度を下げるといった効果を期待してはいけない。当たり前といえば当たり前だが、風が人体に当たっている限り、少量の風でもずっと涼しさが続くのである。

底部にキャスターがあり、向きを変えたり移動するのは簡単

多くの人が気になるのは、水を気化するだけでどれぐらい涼しいのか、というところだろう。その理屈こそが、冷風扇の根幹に関わる部分である。実際タンクの水は24時間経てばポンプで吸えない程度まで減っているので、1日で約2L程度の水が室内で気化していることになる。

冷静に考えてみれば、その気化した水はどこに行っているかというと、風に乗って吹き付けられている。湿り気を帯びた風を常時浴びているというわけだ。蓄熱していた東側の壁は、冷風扇の導入以降はそれほど放射熱を感じなくなっている。この吹き付ける湿度が、壁の温度を下げるのに一役買っているのではないかという気がする。

ただ部屋の湿度が上がってくると、当然気化する量にも限度があるわけで、エアコンによる除湿効果とのバランスで、冷風が出るか、タダの扇風機なのかが変わってくるはずだ。筆者は宮崎県宮崎市に住んでいるが、ここは夏も湿度が低く、カラッとした気候であることも、冷風扇の効果が高い一因だろう。

湿気を含んだ風という点では、メリットもある。今日は昼からサウナに行ったり畑仕事をしたりしていたため、家に帰って冷風扇の風を浴びていたらうっかりリクライニングチェアで寝てしまった。寒くなって目が覚めたのだが、これでよくあるのが、乾燥で喉がやられて風邪に繋がるパターンである。

だが適度に湿度のある風を浴びていたこともあり、喉の調子は全く問題なかった。“ユルい加湿器をつけているようなもの”という表現は、ある意味当たっているように思う。

「エアコン代わり」ではない新しい選択肢

単なる扇風機でよければ、5,000円もせずに買える。15,000円の冷風扇に3倍の価値があるのかという話になるだろうが、エアコンと併用することで、扇風機やサーキュレーターとは違うプラスαがある、面白い装置であるということは間違いない。

導入前は、サーキュレーターだけでは夜とても寝られないほど部屋に熱がこもり、氷枕を使ってようやく眠れるという日が続いていた。またサーキュレーターのファン音がうるさくて眠れないという家族の声もあり、誰も幸せになれなかった。

だが導入後は、導入前よりも気温は上がっているはずだが、風量を1に落とした冷風扇だけで十分寝られるようになった。朝方などはむしろ寒いぐらいである。

よく冷風扇のキャッチフレーズとして、「エアコンが苦手な方に」といわれることがあるが、じゃあエアコンなしでこれがその代わりになるかといえば、筆者の個人的な感想としては「ならない」と思う。エアコンによる排熱と除湿能力を組み合わせることによって、冷風扇は新時代を迎えたのだ。筆者が子供の頃の冷風扇は大して効果がなかったのは、一般家庭にまだエアコンがない時代だったからだろう。

今回は間違ってもっとも大型のモデルを購入してしまったが、あながちこの選択は間違っていなかったように思う。風量1でも静かで十分な風量というのは、大型機でしか得られないはずだからだ。まあデカいことはデカいのだが、個人的にはこの夏最大のいい買い物だったと思っている。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。