e-bike試乗レビュー

e-bikeなら激坂だってラクラク? ROADREX 6180で「ふじあざみライン」に挑戦してきた

ふじあざみラインから上った富士山須走口五合目での記念写真

緊急事態宣言が明けた10月、ホンダの軽自動車「N-VAN」にミヤタ「ROADREX 6180」を積んで向かった先は、静岡県の須走にある「道の駅 すばしり」。ここをスタート地点として、サイクリストには激坂で知られる「ふじあざみライン」をROADREX 6180で走ってみたのでその模様をお伝えしていこう。結論から言ってしまえば、e-bikeでもかなりキツイ体験となった。楽しむ余裕はなかったが、半端ない達成感を得られた。

愛車のe-bikeはミヤタ「ROADREX 6180」。このモデルはすでに生産終了していて9月に後継のROADREX i 6180が発売されている
ドライブユニットはシマノSTEPS「E6180シリーズ」を搭載。シリーズ中ではミドルクラスとなるが、それでも最大トルクは60Nmと強力
取り外しが可能なバッテリーは充電時には便利(インチューブバッテリーの新型も取り外し可能)である。容量は36V/11.6Ahで、HIGHモードでも70kmのアシストが可能。ふじあざみラインは全線ハイモードで走るのでどれだけ消耗するか興味があった
速度、距離、バッテリー残量などが表示できるサイクルコンピュータ。Bluetooth搭載でシマノ製スマホアプリとの連動も可能

約11km・標高1,100m・最大勾配20%以上のふじあざみラインへ

富士山五合目まで行く道には河口湖側からの「富士スバルライン」が有名。起点から五合目の標高差は約1,200m、これを24kmくらいの路線距離で上る。それに対して、ふじあざみラインは静岡県の須走地区から富士山五合目まで上る県道で、起点から五合目までの標高差は約1,100m、路線の距離は約11kmだ。つまりスバルラインの半分の距離で同じような標高差を上るのだけど、短い距離で高く上がれば当然のごとくルート全体的の勾配が険しくになる。

データをみると、富士スバルラインは平均約5%、最大で約8%だが、ふじあざみラインの平均勾配は約11%、最大でなんと20%以上ほどある。この数値から見てもふじあざみラインが別格なのは一目瞭然。それだけにここを自転車で上るのはかなりの脚力、体力の持ち主でないと無理と言われている。

でも、そんなコースを今回は走ってみることにした。ちなみに筆者は坂道に挑む経験もないし自分のパワーに一切の自信はない。だけど乗るのはe-bikeのROADREX 6180なので「なんとかなるだろう」という見通しでの挑戦だった。

道の駅すばしりは「足湯」を目当てに立ち寄る人も多い。今回はN-VANを数時間駐めさせてもらうのだが、その点は事前に電話で問い合わせをした。車中泊など日をまたぐ利用ではなければ問題ないとのことだった。もちろん自販機や売店も利用させてもらう
クルマにe-bikeを積んで目的地付近まで運ぶことで、日帰りでも行動範囲はグッと広がる。e-bikeは乗り手の筋力や体力が足りないところをカバーしてくれるので、「行ってみたい場所」はいろいろ出てくるからクルマと合わせた活用法はあっていると思う

道の駅 すばしりに到着。人気が高い道の駅だが、平日だったせいか駐車場はまあまあ空いていた。それでも数時間利用するので、ほかの利用者に不便をかけないよう建物から離れたスペースに停めた。そのあとは自販機コーナーへ行きペットボトル飲料を購入。夏ではないので1本で足りるとは思うけど、ふじあざみラインは途中に自販機や売店がないので念のため2本購入、1本を持参のサイクルボトルへ詰め替える。これでOKと思いつつ売店前を歩いていると「富士山ソフトクリーム」なるものが目に止まる。食べたい気持ちはあったが、さすがにこれは戻ってきてからのご褒美にする。

道の駅のすぐ裏がふじあざみラインの起点。遠くに富士山が見える。画像の左側は陸上自衛隊の演習場だ。スタートしてすぐ約10~12%くらいの急坂が始まる
約11kmと距離的には短い。そんな理由でこの道を軽く見すぎていた

富士山五合目を目指して出発。無事にたどり着けるか!?

ふじあざみラインの看板下で撮影したあと、いよいよ五合目に向けて漕ぎ出す。走り始めは両脇を松の木が立ち並ぶほぼストレートのキレイな道だが、この時点でも10%前後という急な勾配が待つ。e-bikeとはいえ「スイスイ」という感じではなく、足にはしっかりと踏み降ろす力が入っていた。でも、e-bikeなので「キツい」と思うまではいかないので、走りながら「計画的に休憩を取ればスムーズに行けるでしょう」と考えていた

写真の奥のほうに見えるのは、起点から約3kmの地点にある鳥の絵が描かれている白い壁。ふじあざみラインを紹介するページや動画にはよく登場する。このあたりから道の両脇が原生林地帯に変わる

白い壁を通り過ぎると勾配は多少緩くなる。山道っぽく大きく回り込むカーブが連続して現れるので、走っていて楽しいが先は長いので無理はしない。体力温存を意識しつつ走っていた。

しかし、余裕の状態でいられる時間はすぐに終了してしまう。4kmを過ぎたあたりから再び勾配がキツくなってきたのだ。それにつれて「計画的に」といっていた休憩も、いつの間にか「状況優先で」という方針に変えた。

白い壁を過ぎるとこのような風景。勾配はキツくないので走りやすかったが、進むと勾配は急になってくる
6kmあたりにある砂防ダムの工事現場。2018年に発生した雪泥流で既存の砂防ダムから土砂が溢れて道路を塞いだことがあった。それ以降、ここでは大規模な工事が続けられている

砂防ダム工事現場を過ぎると12%越えの勾配が続く厳しい区間になる。ここまではローより2段手前のギアで進んできたが、そろそろローを使わないと厳しそうなので、シフトレバーを操作したところ「ガシャ」という聞きなれない音とともにペダルが一気に軽くなり駆動が抜けた。「え?」と思って足もとを見るとなんとチェーンが外れていた。

路肩に停止してあらためてチェックすると、前後のギアとも車体側(内側)へチェーンが落ちていた。修復は容易だったけれど、今回のように厳しいコースへの挑戦中はどこか不安な気持ちになる。トルクが多くかかった状態でシフトチェンジしたからか? それともディレーラーの位置が多少ずれたりしているのか? なんにせよチェーンが外れた原因がハッキリしないままだと、再発を恐れて先でのシフト操作がしにくい状況でもある。とはいえ、この先はいちばん軽いギアしか使わないから、以降はシフトチェンジをせずに進むことにした。

チェーンはすぐに修復できたが、このあたりから本格的に勾配がキツくなるので再スタートは少し不安だった
木の枝がホイールに絡まっていたが、これは停まってからのものか、走行中かは不明。自転車のトラブルとしては軽いものだが、「ここからが本番」という場面で気持ちへの影響のほうが大きかった

チェーンを直して再スタート。実は軽く心が折れかけていたので、e-bikeなのに坂に対して気持ちは完全に負けていた。その状態で勾配が20%を超える区間に差しかかると、頑張れずにあっさり足をついてしまう。

e-bikeといえども20%を超えるような勾配からの再スタートは予想以上に困難。真っ直ぐに上るのは難しく、なにより疲れた足ではペダルを全然を回せないのだ。

20%越えの勾配で止まってしまい走り出せない状態になった。今回からキックスタンドを付けているが、坂が急すぎてキックスタンドでは下に落ちるため、カードレールの支柱にハンドルを引っかけて静止させている
止まったところから振り向いた画。勾配のキツさがわかってもらえるだろうか

心が折れながらもリスタート。無事(?)に五合目に到着

少し休憩してから再チャレンジ。今度は道を斜め(ほぼ真横)にスタートすると、フラフラしながらも走り始めることができた。e-bikeのアシストを効かせてから真っ直ぐ上れば良かったのだが、そんなことを考える余裕がなかったのだろう。心が折れてしまったので、少し進んでは停まって休憩を繰り返し、ふじあざみラインに気軽な気持ちで来てしまったことを反省していた。それでも長めの休憩を取って、気持ちの切り替えを図る。

まあ、休憩と言いつつ本当は迷っていた。11kmという距離だけど、想像以上の激坂だったから、「今回はここまでにしようか」というヘタれた考えが頭に浮かんでいたのだ。でも、すでに半分以上は来ているので諦めるのはもったいないし、再スタートしやすい場所まで素直にROADREX 6180を押すことにした。

当然、押すのも楽ではない。路肩でチョコチョコと休憩を取った
坂の上のほうが平坦に見えるが、実はそれなりの勾配がある。そう見えてしまうほど手前が急登ということ
五合目まで約3.5kmの地点にある「狩休」というバス停で最後の休憩
標高は2,000m近い。ときおり雲がかかるとこにように真っ白になる。視界がないときはキケンなので止まって雲がはれるまで待ったのが良かった。冷静に考えられるようになった

結局、約2~3km押し歩きしたのだが、よく考えてみれば標高2,000m近いところにいるので空気は薄い。ペダルを回しているときも息が切れるのが早かったのかもしれない。いろいろ冷静になって気持ちも回復してきて、再び漕ぎ出すことに成功。

ここでやったのが、スマホナビの起動。地図に現在位置が表示されるのでゆっくりでも進んでいけば、残り距離が目に見えて減っていくのが心の支えになると考えたわけだ。漕ぎ出してしまえば、e-bikeなのでクルクルとペダルを回し続ければ確実にゴールに近づいて行く。残り距離が減っていくのは本当に励みになって、もう足を着くことはなかった。

以降の区間は真っ直ぐ上がって180度ターンを繰り返すつづら折りの地形となる。そして、最後のターンをクリアして直線的な上りを漕いでいくと、緩い右カーブの向こうに建物が見えた。ようやくゴールである。長かった。いやぁ、目の前に五合目の風景が見えたときは本当に嬉しかった。

もがきながらもなんとか五合目にたどり着く。このコースをペダルバイクで上り切る人もいるのだけど、それはホントにすごいと思う
富士山須走口五合目の菊屋さんで休憩。ご夫婦で切り盛りされている山荘だ。ぐうぜんにもこの日が今年の最後の営業日で来シーズンは4月の末頃から再開予定とのこと。ちなみにふじあざみラインも10月いっぱいで冬期通行止めになっており再開は来春
菊屋さんでの人気メニューはきのこを使った料理。筆者はきのこうどんを注文。疲れた体にやさしく染み渡り、最高に美味しかった

五合目散策をして駐車場へ戻る

ひと息ついたあと五合目をちょっと散策。菊屋さんの前の道を奥へ歩いて行くと、登山道の入口があるが富士山はすでに閉山。ゲートは閉まっているので先へは行けない。そこでまわりを見るとゲートの脇に小富士という眺望ポイントまで行ける遊歩道があったのでそちらへ入ってみることにした。

遊歩道とはいっても、木の根が張り出していたりそれなりの起伏があるので楽に歩ける道ではないが、原生林のなかを進むので神秘的であり気持ちもいい。小富士まで15~20分くらいと聞いていたが、今回は五合目までの行程に時間をかけすぎていたので時間に余裕がなかった。そのため途中で引き返したのだけど、小富士からの眺望を見逃したのは残念で、またいつか見てみたい気持ちになった。

須走口の登山道。富士山登山は人気なのでシーズン中は賑わう場所だろう。それにしても富士山登山の最初は階段なのか
小富士へ向かう遊歩道はこんな感じ。身体の疲れはまあまあ回復していた
小富士は行けなかったが少し上ったところに駐車場があるので、最後はROADREX 6180でそこまで上る。短い距離だがしっかりの急登だ。いちばん最初に掲載した画像が駐車場への道なのであとで見て欲しい。駐車場からの景色は素晴らしく、雲が取れてくれたので遠くに山中湖も見えた。諦めないでよかった
最後にバッテリーの残量を確認してみると、目盛りは2つ減っていた。途中に押し歩きで節電(?)をしたので、アシストを利用した距離は約8~9km。それだけで2つ減るとはやはり激坂だ。でも、e-bikeだから上って来られたことも実感

気がつくと時計は16時近くになっていた。駐車場からの眺めはこの時間からがまたキレイなようだが、あまりゆっくりしていると暗くなる。クルマならまだしも今回はe-bikeなので、日があるうちに下るほうがいいだろう。そこで名残惜しいが道の駅 すばしりに戻ることにした。

帰りはほぼ下りなので「楽ができる」と思いきやそれなりに大変。急坂なのでスピードが出やすく、それでいてカーブが多く曲りもキツイ。制動力のある油圧式ディスクブレーキを搭載しているけれど、下り坂でのブレーキ多用はブレーキのフェード(ローターとパッドの摩擦で温度が上がりすぎて摩擦抵抗が大幅に失われる状態、つまりブレーキが効かない)や、ベーパーロック現象(ブレーキフリュードの沸騰によってフリュードに気泡が発生してブレーキが効かなくなる状態)が起こることもあるので、途中で停止するなどしてブレーキを冷却させつつ下っていく。

また、ブレーキレバーを強く握る時間が長いので、握力も使うことを再確認した。ちなみに何回か止まったが、それでもローターが摩擦熱で変色したりディスクパッドが焼けるニオイがしたくらいなので、下りのブレーキの重要性もあらためて実感した。

急登の下りなので速度は自然に出てしまう。カーブが急なのでブレーキは多用するがフェードなど起こりやすいので、ブレーキタッチはストレート区間で適時チェック。甘さを感じたら停止して冷やすほうが安全。1/3ほど下ったくらいでローターはこの色になった
速度が出すぎないように、ブレーキを断続的に使いながらになるのでレバーを握る握力も使う

ブレーキの状態に気を使いながら坂を下る。ヒーヒー言いながら押し歩きした区間、休憩しながら諦めかけていた地点、チェーンが外れた場所、上りのときに見た風景を逆の順で見ていく。厳しかっただけに懐かしいというか、上り切ったことからの凱旋的な気持ちとか、いろいろな感情とともに通過していく。途中で引き返さなかったから見られた風景だ。

無事に道の駅 すばしりに到着。想像とはずいぶん違う行程だったが、なんとか達成できたのはやはり嬉しいし、充実感も大きかった。そして、売店の営業時間にも間に合ったので出発前にチェックしておいた「富士山ソフト」を購入。これを今回の「シメ」としていただいた。

道の駅 すばしりで販売している「富士山ソフト」。上は濃厚なバニラで下に爽やかさのあるソフトクリームが合わさる。売店の方の説明では下側のソフトクリームは「塩味」と言っていたが、食べてみると甘さもあるので、塩ではなくてソーダ味という感じだった。これは美味しい

e-bikeだから五合目までなんとかだどり着けた

ということで、ROADREX 6180でのふじあざみライン行きは終了したが、走り終えて実感するのはe-bikeだったから、五合目までたどり着けたということ。実は休憩時に電源がオフになっていたことにも気がつかず、アシストなしの状態で上った区間があるのだけど、まぁ本当にキツくて少し走っただけでギブアップ。

そこから考えると筆者の脚力と体力だけでふじあざみラインを走りきるなんて絶対に無理だろう。でも、e-bikeだったから休憩や押し歩きをしつつも、なんとか五合目までたどり着き「自転車で富士山五合目まで上った」という達成感も味わえたということ。ホント、ROADREX 6180のおかげですごい体験をさせてもらった。今回はそのひと言に尽きるでしょう。

今回はシマノの「MT5」というツーリングシューズを履いていった。SPDという脱着が容易なクリートが付くタイプで歩行性も良好。なお、MT5はすでに完売となっているようだ
SPD対応ペダルに変える(筆者のROADREX 6180はシマノ製に交換済み)とペダルにシューズを固定できる。クランクの上り回転でペダルを引き上げる力が使えるので、山上りではSPD対応シューズとペダルの組み合わせはとても有効。また、SPDは足首のひねりでロック解除が容易にできるため街中でも使いやすい
ROADREX 6180と富士山五合目からの風景。ふじあざみラインは10月いっぱいで冬期通行止めになった。自分のe-bikeの山上り性能を試したい方は来春の開通後、挑戦してみてはいかかでしょう
深田昌之