家庭向け太陽光発電システムって実際どう?
“ソーラーマニア”藤本健が体験した5年間【最終回】
最終回では、太陽光発電システム導入後の賢い付き合い方について紹介しよう(写真は京セラの住宅用太陽電池パネル「SAMURAI」) |
我が家の太陽光発電システムについて3回の記事を掲載してきたが、予想以上の反響をいただき、驚いている。
これは、このところ太陽光発電がマスコミで取り上げられたり、テレビのCMでもよく見かけるため、太陽光発電に関心を持つ人がどんどん増えているためかもしれない。しかしその一方で、具体的な情報や体験談的な話が少なかったこともあるだろう。だいたい、クルマを購入するのと同じ程度の金額がかかるのに、情報が少なすぎるのが、現在の太陽光発電の大きな問題だ。筆者が導入した6、7年前と比較すると、だいぶ情報は増えてきているが、それでもまだまだ情報不足。戸惑っている人も多いだろうが、少しでも私が役に立てばと思っている。
さて、最終回では、これまで3回とはちょっと視点を変え、実際に設置してスタートした後の太陽光発電の付き合い方、そして少しでも初期投資を効率よく回収するための方法について考えていこう。
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■“発電所”のオーナーが集う「PV-Net」に入会するメリットとは
これまでの記事で触れてこなかったが、実は私は、実際の導入を検討していた2004年に、「太陽光発電所ネットワーク」という団体に加入した。要は太陽光発電を導入しているユーザー団体で、現在はNPO法人となり、全国に約2,300人の会員がいる。通称「PV-Net」で、これは英語で太陽電池のことをPhoto Voltaicというのが理由だ。太陽光発電ではなく、太陽光発電「所」となっているのは、我々太陽光発電のユーザーは、言ってみれば小さな“太陽光発電所”の所長であり、その所長の集まりというわけである。
入会した当初は、まだ設立して間もなく、あまりしっかりと機能していなかった。そのため、正直にいって製品選択や導入においてアドバイスをもらったりすることはできなかったが、最近は導入促進のための活動も行なっている。筆者自身も、神奈川地域交流会の世話人という形で活動しているほか、ときどき「エコプロダクツ」などのイベントでブースに立って、説明員などもしていたりもする。
全国に50万人以上いる太陽光発電ユーザーのうちの、たった2,300人なので、大した人数ではないのだが、ここに入っていることで非常に大きなメリットが2つある。今回はこのこの2つについて紹介していきたい。
■太陽光発電システムの「健康診断」は、メーカーの10年保証の活用に有効
まず1つ目のメリットは、太陽光発電システムの“健康診断”が受けられるという点。自分の太陽光発電システムが正常に動いているかのチェックができるのだ。
これは、誰かが家に来てチェックをしてくれるというものではない。毎月の発電量をオンラインデータベースに登録していくことで、問題がないかを診断してくれるのだ。予め自分の家の緯度・経度といった情報と、設置した太陽光発電のシステムが、どの方向に向いていて、角度がどのくらいかなどのデータを登録しておくと、天候がどうであったかによって発電される理論値が算出される。そのデータと、自分のシステムの発電量を比較して、正常か異常が見えてくるという仕組みになっている。
PV-Netでは、太陽光発電システムが問題なく稼働しているかの“健康診断”が受けられる | 健康診断では、理論値を元に、システムが正常か異常かを見る仕組みになっている |
この理論値の算出は、独立行政法人 産業技術総合研究所のシステムと連動しており、かなり正確な値が出てくる。筆者の家は横浜にあるが、横浜の毎日の天候情報も反映されているのだ。
しかし、なぜ太陽光発電の“健康診断”が重要なのか。実は、それが現在の太陽光発電の問題点でもある。
「太陽光発電は設置したら目的終了!」と考えている人は意外と多く、設置後は特に何もしていない人が多いのが事実。しかし、実は想像以上にトラブルが起こっている。
前回の記事でも紹介したとおり、筆者のところでも2回パワーコンディショナーが故障しているわけだが、そうしたトラブルに気づかずにいる人も多いようだ。特に多くの故障は、完全にシステムが止まるのではなく、出力が20%とか30%といった程度に低下するという現象だから気づきにくいのである。
人によっては、なんとなく発電量が減ったことに気づくかもしれない。でも、本当に減ったのか、天候のせいなのかといった根拠が得られない。また気になって、メーカーに修理を依頼しても「問題はありませんよ」といわれてしまえば、それまでである。
そこで、この“健康診断”が大きな力を持ってくる。これを利用すれば、しっかりした根拠を元に、メーカーと交渉することができるわけだ。
現在、ほとんどのメーカーは10年保証を行なっているので、10年以内の故障であれば無償で修理してもらえるので、これは大きな武器だろう。実際、PV-Netの会員のデータを見てみると、全体の10%程度の家でなんらかのトラブルが生じているようだ。もちろん、中にはデータのとり方や基本情報などに誤りがあって、トラブルとして表示されているケースもあるようだが、原因を突き止めることは重要だ。
近隣地域の人たちとデータ比較をして、トラブルの発生が確認できる点もPV-Netのポイントだ |
■家で使った電力からもお金が稼げる「グリーン電力証書」って何?
2つ目のメリットは「グリーン電力証書」による収益確保という手段だ。これは分かりにくい仕組みなので、詳細を知りたい方はネット検索するなどして調べることをお勧めするが、ここでは簡単に説明しよう。
グリーン電力証書は、自然エネルギーによって発電した電力の付加価値を証書化したものだ |
これまでも紹介してきたとおり、太陽光発電では余剰電力を売電することで、利益を得ることができる。その売電単価は48円と、買電単価の倍であるため、昼間節電すればするほど大きな利益が得られる仕組みとなっている。
とはいえ、日中だってある程度の電力は使うはず。とくにエアコンなど消費電力の高い機器を使うと、発電した電力の大半を自己消費してしまう。もちろん、本来は買うはずの電気代を太陽光発電で賄えるわけだから、得であるとも考えられるが、単価を考えるとちょっともったいない気がするのだ。
そこで、その自己消費した電力からもお金を発生させようというのが「グリーン電力証書」である。
太陽光発電や風力発電など自然エネルギーによって発電した電力には「環境付加価値」というものが含まれている。これはハッキリ定義されているわけではないが、売電する際は電力そのものとともに、環境付加価値も電力会社に売っている。実は、自己消費電力の中にも環境付加価値が含まれているのだ。
そこで、その環境付加価値だけを取り出した上で、ある程度の量をまとめて証書化し、企業や自治体などに販売するというのが「グリーン電力証書」なのだ。もちろん勝手に発行できるわけではなく、国が認めた第三者機関「グリーンエネルギー認証センター」の認証を得た上で、発行できるようになっている。
ちなみにグリーン電力証書は、発電実績が「1,000kWh分」とか、「5,000kWh分」などある程度の区分でまとめられ、これを購入することで、実際には普通の電力会社から電気を購入しいていたとしても、「自然エネルギーで発電した電気を使っている」という権利を得られるのだ。最近、ラジオなどでも「この番組は自然エネルギーで発電した電力で放送しています」といったアナウンスを聞くことがあるが、これがまさにグリーン電力証書によるものである。
PV-NetではNPO法人としての事業として、「PVグリーン」という名称のグリーン電力証書の発行なおよび販売を行なっている。各家庭での自己消費電力はわずかだが、会員の自己消費電力をまとめれば、それなりの量となる。これを証書化することで、企業などに“グリーン電力”を販売することができるというわけだ。
■グリーン電力証書で年7千~8千円の収入。ただし、メーターの設置が必要に
このグリーン電力証書を発行するに当たって、一般の太陽光発電システムユーザーはどうやって自己消費電力を算出するのだろうか。実は意外と単純な方法でできる。そう、太陽光で発電した1年分の総発電量から、売電した電力量を引けばいいのだ。つまり、ユーザーは年に1回データを報告することによって、収益を得られるようになっている。
グリーン電力証書により、年間7千~8千円の収入が得られた。PV-Netの年会費を考慮しても余りが出ているのはうれしい |
ただし、このグリーン電力証書を利用するには1つ大きなネックがある。それは、この年に1度のデータ測定用に別途メーターを設置しなくてはならないこと。従来は太陽光発電システムに付属のモニターが出す結果で測定すればOKとなっていたが、最近それがNGとされてしまったのだ。
というのは電気であろうと、肉や魚であろうと、量り売りする場合のメーターには「計量法」という法律に則った認証を受けたメーターを使わなくてはならない、という決まりがあり、そうした認証を受けていないモニターは認められないということなのだ。このメーターを後から設置することも可能だが、結構面倒だし、数万円の費用がかかってしまう。せっかく元をとるためのいい手段なのに、残念なところだ。
現在のところ、個人の太陽光発電システムを利用したグリーン電力証書を発行しているのはPV-Netだけだが、今後この仕組みをメーカー主導で行なおうという動きも出てきている。そうなると、モニターもしくはシステム全体に計量法の認証手続きができる可能性もあるため、より手軽にグリーン電力証書を扱えることになるかもしれない。今後は、そうした動きに期待したいところだ。
■設置して終了ではダメ。導入開始からの上手な付き合い方が重要
以上、太陽光発電システムの健康診断とグリーン電力証書という2つについて紹介してみたが、いかがだっただろうか? この辺の状況を見ても、まだ太陽光発電自体が発展途上の段階にあることが感じられるだろう。必ずしも、こうした団体に加入する必要はないが、やはり設置して終了というのではなく、運転が開始されてから、いかに上手に付き合っていくかが重要なポイントともなる。
まずは、毎月の発電量をしっかり記録し、その変化をチェックしておくことが重要。現在のモニターであれば、ある程度自動的に行ってくれるはずだが、この推移を見るだけでも、明らかなトラブルが発見できるはずだ。
その一方でメーカーには、保守・メンテナンスの体制をよりしっかりと整えていってほしい。現在、メーカーはいかに太陽電池パネルを多く売り、設置していくかにばかり目が向いているようだが、設置した後もユーザーが安心して使える環境づくりに、より一層努力してくれることを期待したいところだ。
2010年11月26日 00:00