藤本健のソーラーリポート
日本の最北端・稚内にメガソーラー発電所があった!
「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です(編集部)
■にわかに注目を集めるメガソーラー発電所。でも5年前から日本の最北端にあった
太陽電池でメガワット級の発電をする「メガソーラー発電所」。震災以降、急に注目されるようになり、ソフトバンクの孫正義社長が打ち上げた「メガソーラー構想」で大きな話題になったが、現在、電力会社主導によって、各地に続々と誕生している。
以前紹介した、東京湾の「浮島太陽光発電所」がすでに稼働しているほか、大阪府堺市の「堺太陽光発電所」、愛知県武豊町の「メガソーラーたけとよ」、愛媛県松山市の「松山太陽光発電所」……などがそうだ。これら各電力会社が作るメガソーラーは、2008年の福田首相時代に打ち出された「福田ビジョン」によって計画され、ここ1、2年で全国に展開されているというものだ。
だが、実はそれ以前にも、国内にメガソーラーが2カ所設置され、現在も元気に稼動している。それが、山梨県北杜市の「北杜サイト」と、今回紹介する北海道稚内市の「稚内メガソーラー発電所」だ。
北海道稚内市の「稚内メガソーラー発電所」。2007年より運転している(写真はNEDOのパンフレットから抜粋) | NEDOの実証実験ではこのほか、山梨県北杜市の「北杜サイト」も2008年に運転開始している(写真はNEDOのパンフレットから抜粋) |
いずれも独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による実証実験という位置づけで設置されたもので、稚内メガソーラーは2007年から、北杜サイトは2008年から、運転を開始。徐々に増設され、現在、北杜サイトは約2MW、稚内メガソーラーは約5MWの規模を誇る大きな発電所だ。
筆者は昨年4月、個人的に北杜サイトの見学会に参加したことがあった。初めて見たメガソーラーだっただけに、感激した覚えがある。ここには国内外9カ国から27種類もの太陽電池が集められ、実際にどのくらい発電できるのかを比較する実験が行なわれていた。
もう一方の稚内メガソーラーについても、以前から見たいと思っていた。稚内といえば日本最北の土地で、「そんなところで本当に発電できるのだろうか……」と、とても興味を持っていたのだが、さすがに遠すぎて、なかなか行く機会がなかった。
ところが、先日、家電Watch編集部で「本格的な冬を迎える前に、稚内のメガソーラー発電所に取材しに行こう」という話が持ち上がった。今回はその模様をレポートしよう。
■吹き荒れる風と雨、目まぐるしく変わる天候。だからこそメガソーラーが作られた
取材日の稚内は風が強く、時折激しい雨が振りつける悪天候となった。しかし、これは稚内では珍しいことではないという |
10月26日、昼過ぎに稚内空港に到着すると、都内とは明らかに気温が違っており、すでに冬が到来しているようだった。すでに初雪も観測されているらしい。
しかも、メガソーラーの取材だというのに、空はどんよりと曇っている。空港の温度計は6℃と表示されているが、外に出ると強風でそれよりも寒く感じられた。レンタカーを借りて現地に向かって運転していくと、時々激しく雨が降ってきたり、陽が射してきたり、氷の粒が混じったみぞれが降ってきたり……と、天候は目まぐるしく変わる。海岸線の国道238号を南に向かい、目を海に向けるとすごい荒波で、海岸近辺が白く見える。天気予報では「曇り」とだけ表示されていたが、そんな単純な天気ではなかった。
空港から10分ほど走った稚内市声問(こえとい)地区に、目的の「稚内メガソーラー発電所」はあった。東京ドームの約3個分となる約14haの土地に、約28,500枚の太陽光発電パネルがビッシリと並んでいる。
稚内メガソーラー発電所近くの丘から撮った俯瞰写真。広いので1枚には収まりきらない |
上の写真から左を向いたアングル。なお、写真中に人影が見えるが、これは筆者。大規模な施設であることがお分かりいただけるだろう | 上の写真から右を向いたアングル。奥に見える海は宗谷湾で、その向こうに見えるのは、日本最北端の岬・宗谷岬だ |
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今回話を伺った、稚内市役所のまちづくり・環境グループ 石原智 主事 |
我々を迎えてくれたのは、稚内市役所のまちづくり・環境グループの主事、石原智氏だ。「今日はすごい天候ですね」と挨拶したところ、返ってきたのは意外な言葉だった。
「稚内はいつもこんな天候です。年中強風が吹いていて、寒冷地帯。豪雪地帯というわけではないのですが、やはり冬は積雪もあり、さらに海の町でもあるため、塩害もかなりある自然環境の厳しい地域です。ここ稚内メガソーラー発電所は、そんな厳しい環境下でも大規模太陽光発電システムが機能するかを実験するために作られた施設なのです」
前述のとおり、稚内メガソーラー発電所はNEDOによる実証実験であったわけだが、その公募が行なわれたのは2006年のこと。全国10の市町村からの応募があり、稚内市もその1つだった。
「稚内市では以前から風力発電にも力を入れており、自然エネルギーに積極的に取り組んできました。“環境都市わっかない”を目指していたこともあり、応募したのです」と石原氏。そして2006年10月に、実証実験の委託先として選ばれたのが北杜市と稚内市の2カ所だったのだ。
気象庁による、年間の日照時間の平均値(1971~2000年)。稚内は1,500時間程度と、非常に日照時間は短いが、厳しい環境であることが逆にNEDOの候補地として選ばれた |
北杜市は、日本一日照時間が長い地域。一方で、稚内市は積雪、強風などの厳しい環境ということで、さまざまなデータ取得が可能なことが、選考の理由だった。その後、NEDOより、北海道電力と稚内市が委託を受ける形で稚内市が所有する土地で工事がスタートしたのだ。
■“雪が積もって発電できない”降雪地ならではの難題をどう解決したか?
第1期に設置された架台。高さを2mとした |
NEDOが稚内で行なう実証実験の期間は5年間で、このうち工事は4期に分けて行なわれた。初年度である2006年度から行なわれた第1期工事は、100kWという、小規模のシステムとなった。太陽電池パネルの傾きは緯度との関係から年間日射量が最適となる33度に設定。また積雪を考えて、架台の高さを2mとして作られた。
第2期の架台。コスト削減のために架台を1mに短くし、雪を落とすために角度を45度に変更した。しかし、今後は滑り落ちた雪が積もってしまった |
しかし、架台の高さを2mとすることで、コストが掛かってしまった。そこで2007年度の第2期工事では、コスト削減のために架台を1mとし、かつ雪が滑り落ちやすいように、角度を45度に変更。一気に1,900kW分が設置された。角度も45度としたことで、雪落ち効果も33度と比較して良くなった。
その一方で今度は、架台の高さが1mとなったため、滑り落ちたところに雪がどんどん重なり、ある時期からはそれ以上パネルから雪が落ちず、さらに溜まっていってしまったのだ。
こちらは第1期に設置された架台。架台の高さは2m | 手前が高さ1mの第2期の架台。奥は第1期 |
これを受けて、2008年度の第3期工事では、45度という傾斜角度は保ちつつ、2mの架台に戻す形で、2,000kW分が設置された。また、2期工事で設置されたパネルについては、4、5段に設置されたパネルのうち、試験的に一部の架台で、一番下の段だけを嵩(かさ)上げする形にした。この結果、雪が積もりにくくなったため、第2期工事に設置されたすべての架台についても嵩上げが行なわれたのだった。
第3期の架台。角度は45度のままで、架台を2mに戻した | パネル最下段だけを嵩上げすることで、雪が落ちやすくなったという |
さらに、積雪対策として、もう1つユニークな工夫を行なった。それは、パネルの一番下の部分に、シリコンでコーキング(充填)をしたということ。実は、既に設置したパネルでは、パネルを覆うガラス部分とフレームの間に水が入り込み、凍りつくことで、雪が滑り落ちるのを邪魔する事実があったのだ。そこで、水周りの補修などに用いられるシリコン樹脂で埋めたところ、うまく雪が滑り落ちることが判明したのだ。
パネルの最下部をシリコンでコーキングした。これにより、氷の発生を防ぎ、雪が滑りやすくなったという | コーキングと嵩上げに関する効果 |
■最終的にバランスの良い角度は“30度”。太陽を追尾する可動架台も
最後の第四期工事では、架台の高さは1.8m、角度は30度に設定。 |
そうした細かな工夫の結果を経て、最後の工事となる2009年度の第4期においては、再び傾斜角度をゆるくして30度に設定。各種工夫処置をした上で、架台の高さは1.8mとして1,000kWの設置を行なったのだ。
この角度を、第1期の33度ではなく30度にした理由は、より反射光を受けるようにするためだ。太陽電池は直射日光だけでなく、地面などから反射する「散乱光」からも発電できる。本当は25度くらいが最も発電量が大きくなる角度なのだが、積雪に対するパネルの強度等を検討した結果、30度となった。
「冬に積雪した場合、太陽からの直接の光だけでなく、反射による光を多く受けることができるので、直射日光だけでなく散乱光も、太陽光発電の重要な要素となります。双方を詳細に検討していったところ、連続して太陽電池を設置する場合には30度がいいというシミュレーション結果が出ました。そのように設置した結果、発電量は第4期工事のものが一番いい成績となっています」(石原氏)
パネルの角度が変えられる「一軸可動架台」にも、20kWのパネルを搭載。初日14時に訪問した際は、パネルが西側を向いていたが、翌日10時に訪れた際はやや東側を向いていた |
この第4期では、20kW分だけ、特徴的なシステムが採用されている。それが、モーターでパネルの角度が調節できる「一軸可動架台」を使ったものだ。
一軸可動架台では、例えば降雪時は60度にして雪を落とし、強風時は水平にして架台に負担を与えないように制御することが可能になっている。またモーター制御で太陽を追尾することによって、固定架台と比較して10%程度と、多くの発電ができるようになっているのも大きな特徴だ。
架台の設置角度と、一軸可動架台の解説 | 一軸可動架台は東西に傾くが、南北には動かない |
■稚内は日照時間が短いのに、なぜ発電量は国内平均値なのか
説明を受けた後、稚内メガソーラー発電所の施設内を見学したが、それぞれの架台に、どこのメーカーのどんな太陽電池パネルであるかが記載されている。非常にさまざまな種類が設置されていることが分かる。
「山梨の北杜サイトでは、海外メーカー製のものも含めて、20種類以上の太陽電池で実験が行なわれていました。稚内では9メーカーで5タイプ、計11種類の太陽電池を採用しています。第1期工事においては、5タイプ10種類の太陽電池を10kWずつ設置して、太陽電池の性能比較を行ないました。変換効率が最も高かったのは単結晶タイプですが、非常に高価格です。コストと発電量とのバランスが良いのが多結晶シリコンタイプであり、2期工事以降、この多結晶シリコンタイプを中心に導入しています。」(石原氏)
ここでいう9メーカーとは、シャープ、三洋電機、京セラ、三菱電機、三菱重工、カネカ、ソーラーフロンティア(旧昭和シェルソーラー)、ホンダソルテック、サンパワーだ。
単結晶、多結晶、アモルファスなど、全9社、11種類のパネルが設置されている | 各架台には、パネルのメーカーやスペックが記されている | 稚内メガソーラーに採用されている太陽電池の種類 |
各太陽光電池セルの特徴 | パネルの配置図 |
さて、ここで一番気になっていたことを石原氏に聞いてみた。それは、実証実験の結果、どのくらいの発電ができたのか、ということ。気象庁のデータによると、日本の日照時間の平均は2,000時間程度だが、稚内は少なく1,500時間程度。日射量を東京と比較すると、4%も少ないという数字が出ている。
しかし、実証研究の結果では東京での発電量とほぼ同じという結果になった。2008年度、2009年度の運用実績を見ても、設備の稼働状況を表す数値「設備利用率」は11%と、国内の平均的な値となっているのだ。
にわかには信じられない値だが、石原氏は「シリコン系の太陽電池は温度が低いほど発電量が上がるという特性があります。これが稚内で有利に働いたことが1つの理由です。そして、積もることで太陽光発電の敵となる雪が実はメリットになるのも大きな理由です。確かにパネルが雪で覆われるとまったく発電しませんが、周囲に積もった雪は太陽を反射し、この光がパネルにも当たるためいい結果をもたらすのです」と説明する。
稚内メガソーラー発電所における設備利用率は11%。これは日本では平均的な値という | こちらは太陽光電池セル別のパフォーマンスのグラフ |
■稚内の特産物が太陽光発電をサポートする
実は発電所の地面には、ホタテ貝の貝殻が敷き詰められている。光の反射で発電効果を高める狙いがある |
発電所では今年、さらに実験的な取り組みが行なわれた。それは、太陽光発電所の敷地内に、ホタテ貝の貝殻を敷き詰めたことだ。
「稚内の特産品の1つがホタテ貝ですが、その貝殻は処分施設に膨大に積まれています。雪の反射で太陽光発電を促進できるのだから、白いホタテの貝殻を敷き詰めれば夏場でも反射効果が得られるのではないかという考えから、先日これを撒いたのです。廃棄物利用となり一石二鳥ですから。一部敷かないところがあるので、どのくらいの違いがでるのかも比較したいと考えています」(石原氏)
なお、気がかりだった強風については、大きな問題はないとのこと。確かに、年平均7mという強風が吹いている場所ではあるが、九州や関東のように台風が来ることはほとんどなく、暴風で被害を受けることはまずないのだ。塩害対策としては、サビづらい材質のものを架台などで使用しているというが、現時点では特に問題になっておらず、目視点検による監視を行なっているとのことだ。
■発電所には蓄電池も併設
稚内メガソーラー発電所にはもう1つ、ほかではあまり見られない設備が導入されている。それがNAS(ナトリウム・硫黄)電池だ。大規模な電力貯蓄用システムとして注目を集めているNAS電池が、太陽光発電と連携する形で設置されている。
NAS電池の役割は、天候の激しい変化にともなう太陽光発電の出力の変動を平準化させたり、発電所の出力を計画通りに行なえるようにするといった役割を果たす。発電所には500kWと1,000kWの2つの容量のNAS電池が設置されており、前者が2007年の2期工事のときに、後者が2008年の3期工事のときに導入されている。
発電所の出力を平準化するための蓄電池「NAS電池」も併設されている。写真は容量500kWタイプ | こちらは1,000kWタイプ |
見かけ上、500kWのほうが大きいが、これは当初、寒冷地仕様の屋外タイプのNAS電池がなかったため。屋内タイプを導入するとともに、NAS電池を建屋に収納したというもの。後者は風力発電などで実績を積んだ屋外タイプが出てきたため、これを導入したものとなっている。NAS電池の寿命は15年ほどということだが、現在のところ、問題なく稼動しているとのことだ。
■メガソーラーと風力発電で、稚内市は“100%クリーンエネルギー”の街に
稚内メガソーラー発電所の、1日の電気の流れ |
以上、稚内メガソーラー発電所について見てきたが、いかがだっただろうか。NEDOの委託事業としての実証実験は2011年3月18日で終了し、稚内市に無償で譲渡されているため、現在は稚内市で運営を行なっている。
稚内メガソーラー発電所の発電量は、家庭の1,700世帯分に当たるという。これは、稚内市全体で消費される電力量の2、3%に相当するという。やはり太陽光発電だけですべてを賄うというのは、なかなか大変そうではある。
しかし稚内市では、太陽光発電以外にも、風力発電、さらにはバイオマス発電も活用することで、自然エネルギーによる“電力自給率100%”を目指しているという。
稚内市は、風力や太陽光などの自然エネルギーによる“電力自給率100%”を目指している。次回はその話をしよう |
次回は、太陽光発電からは離れるが、同じクリーンエネルギーの1つである風力発電など、稚内のエネルギー事情についても紹介してみよう(続く)。
2011年12月1日 00:00