藤本健のソーラーリポート
離島のエネルギー自給自足のカギは、発電した電力を捨てること? 宮古島の挑戦に迫る
2019年3月18日 06:00
石油やガスなどのエネルギー資源を持たない島国の日本にとって、エネルギーの自給自足は昔から夢の世界だ。そんな自給自足の実現にむけて動き出した地域がある。沖縄県の宮古島だ。
2008年に「エコアイランド宮古島宣言」を打ち出してから、10年経った2018年に「エコアイランド宮古島宣言2.0」とバージョンアップするとともに「千年続く共生の島をみんなで創ろう」と打ち出し、2030年、2050年という未来のゴールを設定したのだ。
そしていくつか打ち出したゴール設定のうちの一つが、エネルギー自給率。即100%というわけにはいかないまでも、2050年に約50%を太陽光発電と風力発電で賄えるようにするシナリオを打ち出しているのだ。実際、そんなことが可能なのか、そこにどんなハードルがあるのか、これは日本全国にも当てはまる可能性を持つものなのか。現地に行って、その様子を見てきた。
厳しい自然環境の中でエネルギーの自給自足を掲げる宮古島
宮古島は東京から約2,000km、沖縄県那覇市からも約300km離れた場所に位置し、那覇と台北のちょうど中間点にある島だ。宮古島の周辺にある池間島、大神島、来間島、伊良部島、下地島があり、大神島以外は橋でつながっており、これらの島々は2005年の市町村合併により宮古島市となった。
南の島のリゾート地としても知られる宮古島は、四方を海に囲まれた隆起珊瑚礁からなる平坦で山のない島で、大きな河川などもなく、台風や干ばつを受けやすい、非常に厳しい自然環境にあるところだ。2012年の人口は約55,000人、面積は約204km2(うち8割が宮古島)、年の平均気温が23.3℃、年平均降水量が2,000mm、年平均湿度が79%という亜熱帯性気候の場所でもある。
主要産業は農林水産業と観光業で、島内をクルマで回ってみても、大半の場所がさとうきび畑という印象。一方、海外からの観光客が急増していることもあり、2018年は100万人を超える人が訪れているそうだ。
その宮古島が昨年3月、「エコアイランド宮古島宣言2.0」というものを発表している。宮古島市 企画政策部 エコアイランド推進課 エコアイランド推進係 係長・三上 暁氏は次のように話す。
「エコアイランド宮古島が持続可能な島づくりを目指す活動であることを多くの市民と共有するため、新たな標語を設定したのです。またゴールを明確にすることで、市民が主役となって目標到達に向けた活動をさらに進めていきたいと考えています。そこでは2030年、2050年という超長期ビジョンでの未来像を設定しています」
エコアイランド宮古島宣言2.0全体の詳細は割愛するが、2030年と2050年の目標として5つの指標が掲げられている。その中で特筆すべきなのが、エネルギー自給率。これを見てもわかる通り、2016年度に2.9%であったものを2030年に22.1%、2050年には48.9%まで引き上げようというのだ。
現段階では、まだ目標案という段階で、正式決定するのは今年度中に市議会での承認を受けて、ということになるそうだが、この目標設定には、ちょっと痺れるというか興奮してしまうものだ。もちろん、かなり厳しい目標ではあるが、単に絵に描いた餅というわけではなく、そのストーリーもできつつある。
そのエネルギー自給率の話をする前に、ひとつ紹介しておきたいのが、宮古島の水資源について。前述の通り、宮古島には山がなく、大きな河川もないため、川から取水することができない。そこで古くから行なわれているのが地下水のくみ上げだ。粘土層の上の珊瑚礁の上にできた島という特殊な地形である宮古島は、降った雨は地表に残らず、すぐに浸透して地下に流れ込むから地下水が豊富。
ただし、この地下水は、そのままだとどんどん海へ流れ出してしまうため、過去には干ばつによる大きな被害を何度も受けてきたそうだ。そこで、1987年~2000年にかけて総事業費640億円をかけ、人工的に地下水をせき止める地下ダムを建設。
その結果、今では水の心配がなくなり、この水で、宮古島全体に広がるさとうきび畑に水をやるとともに、家庭用水、さらには年々増加する観光客にも対応する水資源を確保している。ただし、この水をくみ上げるのは電気。当然ではあるが、電気は、宮古島にとってもっとも重要なエネルギーなのだ。
離島ゆえに掛かるコスト、1kWhあたり約11円の赤字が発生
では、その電気を今、どのように作っているのかというと、基本的にそのほとんどは7基あるディーゼル発電(C重油を使用)と3基あるガスタービン発電(A重油を使用)による火力発電で賄われている。海底ケーブルで電力を送るというようなわけにはいかないので、宮古島に火力発電所を置き、ここで発電している。
だが、離島であるため燃料の輸送にコストがかかるほか、需給バランスをとるのが難しいために、よりコストがかかってしまっている。電気代はユニバーサルサービスであるために、離島であっても本土と値段は同じ。そのため、単体で評価すると1kWhあたり約11円の赤字が発生してしまっているそうだ。
沖縄電力において、離島の赤字は年間約70億円(そのうち宮古島は40億円程と言われている)。これは沖縄電力の売り上げの約4%を占めるほどで、大きな足かせとなっている。
前出の三上氏は「現在は電気事業法の規制により同じ料金での供給が電力会社に義務づけられているので、沖縄電力が負担してくれていますが、未来永劫負担してくれるという保証はありません。電力自由化により規制緩和が進む中、離島は特別にこの規制を2020年までは継続されることが決まっていますが、その後の方針は示されていないないのです。仮に規制が撤廃された場合は、電気料金が1.5倍以上になる可能性もあり、そうなれば住民生活、事業活動に大きな影響が出てしまいます」と焦りを隠さない。
そこで登場してきた考え方がエネルギー自給率の向上、つまり火力発電に頼らない方法の模索であり、再生可能エネルギーの積極的な導入だったのだ。再生可能エネルギーというと「コスト高」と考える人が多いが特に太陽光発電でいうと、近年の値下がりの勢いは凄まじい。
そのため、宮古島においては、発電コストが電力料金を大きく下回っており、とっくにグリッドパリティを実現しているのだ。エネルギーコストの高い離島だからこそ、再生可能エネルギーを導入するメリットがより高くなっているともいえるわけだ。
実は、このエコアイランド宮古島宣言2.0より以前から、宮古島では再生可能エネルギーなどへの取り組みが積極的に行なわれてきている。1990年には風力発電が導入されたり、1994年には当時国内最大の太陽光発電も設置されている。
さらには2010年には4MWのメガソーラーが実証実験として沖縄電力によって導入されるなど、多角的に再生可能エネルギーへ取り組んできたという背景がある。だからといって、ソーラーパネルを数多く導入すれば、それで宮古島の電力事情が解決するというほど単純な話ではないのが、電力の難しいところだ。
電力の需給バランスを調整するための宮古島独自の取り組み
考えてみればわかる通り、太陽光発電は晴れた昼の時間帯しか発電しないため、夜に使うことができない。また雨の日には使うことができないし、急に雲が差し掛かれば発電する電力が急降下するという問題もある。バッテリーに貯めておくことができればいいが、現状バッテリーは非常に高価なので、巨大なバッテリーを設置するというのも、まだ現実的ではない
ご存知の方も多いと思うが、電力の特性として、需要と供給を常に一致させる必要があり、発電量が多すぎても、過ぎなすぎても需給バランスが崩れて停電してしまう。
実際昨年北海道で起こった地震後のブラックアウトという現象は需給バランスをとれなくなったために起こった現象だ。そのため電力を安定的に供給するには、常に需要と供給のバランスを図りながら維持していく必要があり、太陽光発電をするだけでいいというわけにはいかないのだ。その需給バランスを調整していく力を調整力といい、これが絶対的に重要なものとなっている。
宮古島での状況を考えれば、火力発電と太陽光発電を併用する形になるわけだが、冬の太陽の日差しが少ない期間はディーゼル発電とガスタービン発電を増強し、晴れたら調整の効きやすいガスタービン発電の出力を絞る。
また急に曇ってきた場合は、すぐに対応できるようにガスタービン発電の出力を上げる……といった天気に合わせた細かな運用が必要になるのだ。
ただ、常にこれら火力発電をスタンバイ状態に保つということは、それだけ無駄が多くなり、調整力に大きなコストがかかることになる。それではエネルギー自給率の向上はなかなか見込めないということになってしまう。これが太陽光発電の難しいところなのだ。
そこで宮古島が画策するのは、その調整力自体への着手だ。従来は、電力会社が消費者の電力需要に合わせて電力を供給するのが普通であり、調整力を持つのは電力会社側の義務ともいえるものだった。ただ、そのままでは高コスト構造を変えることができないし、結果として太陽光発電を中心とする再生可能エネルギーの導入を増やしていくことは難しい。そこで、電力の消費者側が電力の使い方を調整することで、調整力を賄っていこうというのが宮古島の発想なのだ。
では、その調整力、具体的にどんなことをして実現していくのか。そのカギを握るひとつが、先ほどの地下ダムをくみ上げる電力だ。これまでは特に需給バランスを考えることなく、くみ上げを行なっていたが、電気が余っているときにくみ上げるようにすれば、大きな調整力となる。
とくに農業用水のためのくみ上げ電力は、膨大。当然、散水に合わせてポンプの稼働が必要になるので、散水自体をうまくコントロールすることで調整力を確保しようというのだ。すでに、各スプリンクラーに取り付けて散水をコントロールするための安価な装置を開発済みで、これから実証実験を進めていくところだという。
一方、貯湯に余剰電力を利用するというのも重要な手段だ。電気で給湯するためのエコキュートを利用するというもので、天気予報などを元に、太陽光発電の発電量を予測するとともに、島内の需要を考えて、事前に動作時間を設定することで、これも大きな調整力になりうる。さらに家庭用の蓄電池を活用するのも重要な手段となっていきそう。
現状、まだまだ高価な蓄電池だが、太陽光発電と蓄電池の組み合わせを考えたコストが、既存電力コストと同等か、それ以下になるストレージパリティーが2020年後半には実現するといわれているので、これの導入を進め、電力需給のバランスを整えていこうというのだ。
太陽光発電のシステム自体も従来の方法とは変えて、より調整力を高めていこうというのも宮古島が取り組んでいるテーマのひとつ。
どういうことかというと、太陽電池パネルの出力をフルに利用するのではなく、ある程度以上は捨ててしまうという考え方だ。太陽光発電を主力電源にするためには、より安定的な出力が出せる電源にする必要がある。
そこで日差しの変化によって大きく変動しやすい電源から、より安定した電源にするために、日射による変動成分が多い高位出力帯を常時出力制限で取り除いた形にしようというのだ。
せっかく発電した電気を捨ててしまうのはもったいないような気もするが、夏季60~70%、冬季40~50%という出力制限をしても年間発電量は90%確保できるのだとか。これならば、かなり使いやすい安定した電源となっていきそうだ。
エネルギーの自給自足に向けて、地元企業とともに行なう実証実験
さらに電気自動車への充電システムやスタートメーター、HEMSコントローラの活用など、さまざまなものを組み合わせることで、調整力を高めていくことができるという。もちろん、これを市役所の力だけで実現することはできないので、外部機関などに委託する形で実証実験を行なっている。
その中心となっているのが、株式会社ネクステムズという宮古島の地元ベンチャー企業だ。同社の代表取締役である比嘉 直人氏は、沖縄電力グループの沖縄エネテック出身。前述した宮古島メガソーラー実証設備のシステム設計責任者や、国内初の可倒式風車導入のシステム設計責任者、国内最大級の廃材由来の木質燃料ペレット背う像装置の調査設計などを歴任し、JICA事業などでアジア・太平洋地域への再エネ等技術調査・導入などのプロジェクトを経験してきた人物だ。
「当社は沖縄県から委託を受けた宮古島市の再委託という形で、宮古島フィールド実証事業に取り組んでいます。ここでは、もちろん沖縄電力とも実証協力という形で取り組んでおり、需給バランスを整えて調整力を高めていく効果検証を行っています」と比嘉氏。
その実証実験を行なうエコパーク宮古を見に行ったが、ここにはパナソニックの太陽電池パネルが2系統並べられており、片方は一般的な形で発電を行い、もう片方では高位出力帯をカットした出力制限をかけた発電をしていた。また、エコキュート制御や電気温水器制御などを行なう実験施設もあり、すでに実証事業の成果もかなり見えてきているようだ。
そうした成果を受ける形で、宮古島では市営住宅40棟202戸を使い、太陽光発電1,217kW、エコキュート120台を導入するフィールド実証がスタートしている。これもベンチャー企業が主導する形で、事業としてビジネスがスタートしたもの。
次回はビジネス側面から、エネルギーの自給自足が可能なのかを見ていく。