藤本健のソーラーリポート

空き容量ゼロはウソ!? 再生可能エネルギーの現状と将来を京大教授に聞く

「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です(編集部)

 昨年、たまたま朝日新聞の記事で「『空き容量ゼロ』東北電力の送電線、京大が分析すると……」という記事を見かけて非常に気になっていた。その記事によると送電線の空き容量がゼロであるとして太陽光や風力などの発電設備が新たにつなげなくなっている東北地方の14基幹送電線が、実際は2~18.2%しか使われていないなどと、京都大学が分析した、と書かれていたからだ。

 筆者自身、3年前に九州で太陽光発電所を作る契約をしたという話は以前「九州で50kWの太陽光発電事業を始めてみた」という記事で紹介したことがある。この話自体、九州電力からまさに「空き容量ゼロ」という断りが来たことで、破綻した経験を持っているので、「どういうことなのか!?」と、やや憤りにも似た感覚を持ったのだ。

 一度、その分析を行なったという、京都大学 大学院経済学研究科 再生可能エネルギー経済学講座の安田 陽特任教授に話を聞いてみたい……と思っていたところ、2月上旬に都内でソーラージャーナル主催のイベントがあり、講演が行なわれるということを知り、参加してきた。

京都大学 大学院経済学研究科 再生可能エネルギー経済学講座の安田 陽特任教授の講演に参加してきた

 話を聞いてみると、個人的には驚くような話のオンパレード。ぜひ、改めて話を伺ってみたいと講演直後に飛び込みで挨拶に伺い、アポイントをいただいた。そして念願かなってインタビューすることができたので、その内容を紹介してみよう。

空き容量ゼロ「九電ショック」の実情

――2014年11月に起こった、いわゆる「九電ショック」というものにより、私が熊本県で作ろうとしていた太陽光発電所が作れなかったという経験があるため、先生の研究に非常に興味を持ちました。幸い、業者とは発電開始時点でお金を振り込むという契約だったため実害はなかったものの、改めてどういうことだったのかが知りたいところです。

安田:まず「九電ショック」なんて呼び方がされていますが、私はそのようなセンセーショナルな呼び方は好みません。あの時点で九州電力が突然「保留」を公表したやり方には問題がありましたが、「この辺はもう空き容量がなくて入りません」と言って情報公開したこと自体は、よいことだったと思います。空き容量がないという情報だけでなく、空いている路線の情報も公開していました。

 ところが「電力会社はけしからん!」「俺たちにも繋がせろ!」と言ったり、政治家を連れてきて特別な配慮をさせるよう圧力をかける人が出てくるなど、おかしな方向にいってしまった例も一部に出てきました。

 実際、その当時、特に九州では急激に太陽光発電所が増えていて、実際に送電混雑が発生しそうな送電線が増えてきていたと思われます。なので、本当はもっとしっかりデータを提示し、どこが空いている、どこが空いてないかなどを論理的・合理的に説明したうえで、お互いが納得する形にできればよかったのですが……。そのような仕組みがないため、お互いが疑心暗鬼になって、一部の人たちがけんか腰になってしまったのがいわゆる「九電ショック」だったのだと思います。

京都大学 大学院経済学研究科 再生可能エネルギー経済学講座の安田 陽特任教授

――そのデータがあまり公開されていない中、昨年、先生が送電線の空き容量について独自に分析され、実はかなり空き容量があるという報道を見て驚きました。何か特殊な装置などを使っていろいろと調査をしたということなのですか?

安田:いやいや、私がやった分析は公開データを地道に集計しただけなので、誰でもできることをしたまでです。2015年春ごろから送電線の利用状況がある程度公開されるようになってきています。具体的には基幹送電線といわれる500kV、275kVの太い線の上位2系統(沖縄のみ上位1系統)が公開されているので、そこから利用状況を分析しただけのことです。

 その公開されている全国399路線を分析してみたところ、電力会社側が「空き容量ゼロ」といっていた路線でも、年間の平均利用率がたった数%程度しかない路線も散見された、ということなのです。

期間送電線上位2系統から利用状況を分析

――空き容量ゼロだといってたのが、実際には数%というのは、かなりデタラメですね。

安田:「平均利用率なんて無意味だ。重要なのは最大利用率であり、空き容量はそこを見なくてはいけない」と主張される方もいらっしゃいますが、たとえば東北地方のある500kVの幹線でみると、1年間を通しての最大利用率を見ても8.5%しかなかったので、やはり空き容量ゼロといっても多くの人にとって納得できないように思います。

東北地方の十和田幹線(500kV)でみると、1年間を通しての最大利用率は8.5%

安田:とはいえ、すべての路線がそういう状況ではなく、なかには実際に混雑している線もあります。これらは一つずつ見ていくべきでしょう。そこで、実際に各電力会社が空き容量ゼロと公表しているものがどのくらいあるのか、基幹送電線数に対する空き容量ゼロ率を見てみると、電力会社によってかなり違いがあることも見えてきました。概して東高西低という結果ですね。しかも、今回の分析で実際に混雑しているかいないかを見てみると、混雑していないのに空き容量がゼロとされている路線もかなり多いんですよね。

空き容量ゼロ率

――あれ? この分析結果を見てみると、九州電力は空き容量ゼロといっているところは3.8%と非常に少ないんですね! イメージしていたものとだいぶ違います。

安田:やはり「九電ショック」と言われ、いろいろと批判を受けたこともあり、その後九州電力はかなり工夫されているのではないでしょうか? 太陽光発電の大量導入が進み、原発再稼働している中でこの数字です。よい工夫をしているのであれば、ほかの地域の送電線の利用率を向上するヒントになるように思えます。

 東北電力と九州電力で利用率ヒストグラム(出現頻度)を比較してみると、年平均利用率で見ても、東北電力の場合は空き容量がゼロとされていても実際はガラガラと言うしかなく、最大利用率で見ても空き容量ゼロなはずなのに、かなり余裕があることが見て取れます。

利用率ヒストグラム
平均利用率と最大利用率

送電線の空き容量の判断基準とは

――そもそも、送電線にどのくらいの容量があるのかというのは線の物理的な太さなどから簡単にわかることなのですか?

安田:これはさまざまな条件によって決まってくるので、簡単ではありません。たとえば鉄塔と鉄塔の距離だったり、角度や高低差、張力などによっても違ってきます。また、まわりにどういう木や森があり、道路や川があるのかなどによっても変わってくるので、一概に言えません。他のルートとの関係も総合的に勘案して安全面を考慮した上で「運用容量」というものが決まってくるのです。

 モーターなど一般的な機器であれば、「定格容量」というものが決まっていますが、送電線の場合それがないため、なかなか難しいものはあります。一方、送電線や変電所の空き容量がどのくらいあるかの判断基準には、日本とヨーロッパで大きな違いがあるのです。日本の場合は契約容量ベースで計算されているようで、しかも先着優先なので、従来型の電源が有利となります。一方、ヨーロッパでは空き容量は実潮流ベースで計算されます。しかも容量不足を理由に接続を拒否してはならない、というルールになっているので、状況がかなり異なります。

――実潮流ベースということは、実際に流れた電力ということですね? 送電線に順方向に流れているものに対して、逆方向が流れると上乗せするのではなく、相殺されますよね? 太陽光発電所が発電した電気は送電線に逆潮流の形で流し込むわけですから……。

安田:基本的にはその考え方で間違えではありませんが、そこまで単純でもないのです。その辺はちょうど先日発売したばかりの『送電線は行列のできるガラガラのそば屋さん?』という書籍で、一般の方にもわかりやすく書いているので、よろしければぜひお読みください。この実潮流ベースの計算はヨーロッパでは10年以上前から提唱されており、実際の運用も10年以上前から行なわれているので、日本も急ぐべきところです。電力会社の送電部門のスマート化(ICT化)は急務です。現在は、もしものときのための停電対策が過剰設計になっている恐れがあります。

 本来のリスクマネジメント的考え方で計算すると、すべての電源が最大出力になり、しかもその瞬間に基幹送電線に事故が発生する確率は、何万年に一度レベルの極めて稀頻度であることがわかります。これほど稀頻度事象のために新規電源が接続を制限されるのは合理的とは思えません。もっと既存設備を有効利用する方法もあるのです。2020年には電力会社の送電部門が送電会社として分離独立するため、託送料金収入で稼がなくてはならないのに、そのためのビジネスモデルになっていないのです。これをどうしていくかは大きな課題といえそうです。

リスクマネジメント的考え方で計算すると、すべての電源が最大出力になり、その瞬間に基幹送電線に事故が発生するのは極めて稀であることがわかる

系統接続コストの負担におけるヨーロッパと日本に違い

――ところで、先日の講演を聞いている中で驚いた話がありました。ヨーロッパでは発電所を系統に接続するための料金は発電事業者ではなく、国や送電会社が負担するんですか?

安田:系統増強コストは誰が支払うのか、という話ですね。日本では「原因者負担の原則」が多くの人にとって当たり前のように思われており、上位系統の増強を含む系統接続コストの多くの部分を発電事業者が負担する形が取られています。

 それに対し、ヨーロッパでは「受益者負担の原則」に基づいて、発電所から系統接続点を結ぶ電源線以外の接続コストはすべて送電会社が負担するのが一般的です。送電会社は最終的にそのコストを電気料金の一部として電力消費者(受益者)に上乗せします。つまり、コストの社会化ですね。ドイツ、スペインなどヨーロッパのほとんどの国がこの方式をとっています。

 これらの国では、アンシラリーサービス、つまり供給される電力の品質を維持するための技術的、運用的なしくみのコスト、たとえば需給バランスの監視、系統運用、電圧・周波数の調整といったコストまで社会化しています。この方式は風力発電の普及にも大きく貢献しています。

世界各国の系統接続コスト
ヨーロッパでは送電会社が負担するのが一般的

経済学から見る、再生可能エネルギーのメリット

――その「受益者負担の原則」は、発電事業者にとってはとても嬉しいことではありますが、日本で今そんな話をすると、袋叩きに合いそうな気もします。「なんで、公共の金で発電事業者を儲けさせなくちゃいけないんだ!」と……。

安田:そうかもしれませんね。その話をするには、まず「便益(ベネフィット)」という概念について考える必要があります。この言葉、経済学においては当たり前のものですが、一般にはまだまだあまり知られておらず、日本の電力産業でも定量的議論がまだまだ少ないのが実情です。私もずっと電力工学の世界にいて、そこから経済学へ転向したため、お恥ずかしながら40歳を過ぎるまでしっかり認識できていませんでした。

 便益とは、一部の企業や産業界の利益(プロフィット)ではなく、ステークホルダー全体にもたらされるメリットの貨幣表現で、特にステークホルダーが地域住民や国民全体の場合、社会的便益と言われます。道路や橋などの公共事業の分野では費用便益比という言葉が出てきますが、これは、かけたコスト(費用)と市民にもたらされる(便益)の比のことで、これを比較した上でその公共事業が妥当かどうかが判断されます。エネルギーの選択もこれからはそうする必要があります。

 つまり便益が費用よりも大きければ、コストが高くても推進すべきという判断になるわけです。この際、問題になるのが、コストを支払う世代と便益を受け取る世代が異なる場合です。たとえば公害問題であったり、地球温暖化などがそうですが、そのとき、どのようにして合意形成を図るかが難しくなります。そして費用には隠れたコスト=外部コストも含めて考えるべきです。

世界中で再生可能エネルギーが推進される理由

――外部コストとはどういうことですか?

安田:たとえば農薬たっぷりの野菜は害虫のリスクも少なく低コストで生産できるかもしれませんが、万一土壌汚染や健康被害があった場合そのコストは誰が支払うのでしょうか? 「安すぎるものにはワケがある」という通り、市場取引の外に出てしまって価格に反映されない隠れたコストが「外部コスト」です。

 風力発電における騒音であったり、太陽光発電などでの景観への影響も若干の外部コストとなりますが、石炭火力発電やガス火力発電などでは、健康被害や気候変動による大きな外部コストがあります。これらをいかに定量化していくかが重要ですが、日本人のメンタリティーとして、よく分からないことは「なかったことにする」傾向があります。

 だから外部コストが隠れたコストになってしまう。でも欧米の場合、分からなければ誤差も含めてできるだけ予測しよう、という考え方なのです。もちろん、予測ですから振れ幅はあるのですが、それも数字にして計算するのです。

 3年後、5年後に大きな問題がなければいいか……と先送りして「なかったことにする」のではなく、未来に対する責任をどうするかが問われるわけですね。こうした外部コストも交えた上で、費用便益比が大きいということで、欧米では再生可能エネルギーが促進されているわけです。

石炭火力発電やガス火力発電では、健康被害や気候変動といった外部コストが考えられる
日本では外部コストの研究自体が少ない

――そこで再度、先ほどの接続費用を誰が負担するのかという話に戻りたいのですが、もう一度、なぜ系統増強費を送電会社が全て負担する方が合理的なのかを教えてください。

安田:欧米も、10~20年前は日本と同様に「原因者負担の原則」という考え方はありました。つまり、再エネの変動対策や系統増強は原因者である再エネ事業者が負担すべきである、と。これは一見公平に見えますが、従来技術のみを考慮したルールに基づいているため、新規参入技術にとっては大きな参入障壁になります。事業規模に比べてあまりにも長い事業遅延や大きな費用負担は事業リスクを押し上げ、結果的に発電コストを高止まりさせる方向にしか働きません。

 一方で、欧米では「受益者負担の原則」と変わってきました。つまり、変更対策・系統増強は一義的には送電会社の責務である、と。送電会社が新規電源の接続を引き受けた上で運用の工夫をすること(コネクト&マネージ)で、経済的により安価な方法で解決できるため、コストの社会化・最適化が実現できます。また、同じコストであればより多くの再エネを受け入れられます。こうすることにより、特定の産業セクターの利益のためではなく、社会全体で必要な費用を最小にし、得られる便益を大きくすることができ、系統技術のイノベーションや投資も進むことになります。

――私個人の話でいうと、FITの制度が日本にできたとき「これでみんなが手を挙げて、どんどん太陽光発電が進むはず」「わからないことだらけで、リスクはあるけど、太陽光発電大好きで30年近く生きていたので、とにかく飛び込んでみたい」という思いで入ったのに、世の中の風潮的に最近叩かれることばかりで、複雑な思いがあります。日本ももう少しヨーロッパ的な考え方になれば……と思うものの、なかなか難しそうですよね。

安田:そうですね。日本ではFITは発電事業者が補助金で儲けるばかりでけしからん! という声もありますが、そこには先ほどお話しした「便益」や「外部コスト」の概念がすっぽり抜け落ちています。そもそもなぜ FITのような制度がスタートしたかというと、その時点で大きな外部コストを発生させる電源が多く、歪んだ状態にあったからです。

 これは経済学用語で「市場の失敗」といわれている状態です。本来、FIT制度は「すでに失敗している市場を是正する」ための政策手段の一つであるということを、多くの人に再認識してもらいたいと思います。FITは風力発電でも導入されていますが、ヨーロッパではすでにその国の総発電電力量の20%以上を賄っている国が複数出てきている中、日本の2030年の目標値を見ると海外と比較して、著しく低い値となっています。

費用負担に関する考え方の転換で、

安田:太陽光発電の場合、比較的早く立ち上がったものの、他国のFIT施行年からの経過年数で比較するとそれほど急激な成長というわけではなく、風力だけに限って比較すればあまりにも低いペースと言わざるをえません。すぐに日本が欧米並みになるというのは難しいでしょう。しかし、まずはデータを公開するとともに、しっかり国民全体で分析するとともに、どうするのが一番大きなメリットが得られるのか、費用便益比の概念で考えていけるようになるといいですね。

――ありがとうございました。ぜひ、またお話を伺わせてください。

(後記)
こんなやりとりでインタビューを終えた後、大学の話になった。というのも安田教授の経歴を見て、筆者と同じ大学の同じ学科卒業だったからだ。が、卒業年の話をして驚愕な事実が発覚。なんと同じ年の卒業で、同じ学年。つまり同じクラスの同級生だったのだ! 70人のクラスではあったが、お互いハッキリ覚えていなかったのがちょっと寂しいところではあったが、旧交を温めたところだ。だいぶ立場が違う状況ではあるけれど、面白い接点ができたので、ぜひ、今後もときどき情報交換などができれば、と思っている。

【関連書籍】
・『送電線は行列のできるガラガラのそば屋さん?』(インプレスR&D)
・『再生可能エネルギーのメンテナンスとリスクマネジメント』(インプレスR&D)
・『世界の再生可能エネルギーと電力システム 風力発電編 グラフとデータで徹底比較分析』(インプレスR&D)

藤本 健