藤本健のソーラーリポート

九州で50kWの太陽光発電事業を始めてみた(中編)

「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です(編集部)

 先週に続いて、九州に50kWの太陽光発電所を買ってしまった話。前回の記事では、2012年に三重県で12kWのソーラー発電所を友人とともに作ろうとしつつ、問題が多すぎて諦めたという経緯について書いた。

 それで一旦は完全に終わったはずだった太陽光発電所設置計画だが、先日、まったく違う形で、しかもさらに規模を大きくして、とある業者と設置契約を結ぶところまでいってしまったのだ。今回は、なぜそこに至ったのか、実際に儲かるのか? 危険性はないのか? どうやって業者を選んだのか、その経緯などについて紹介してみたい。

転機は太陽光発電の展示会「PV EXPO 2014」

太陽光発電の展示会PV EXPO 2014

 転機が訪れたのは、今年2月末に行なわれた太陽光発電の展示会、PV EXPO 2014だった。このときの内容については、3月3日の記事にも書いた通りだが、この取材をしていて驚いたのが、太陽光発電所をマンションのように分譲して販売している業者がいたことだ。その時の記事では楽天と提携してサービス展開をしているリベルテについて紹介したが、ほかにも何社かが似たサービスを行なっている会社がいた。

 以前、昔の同僚である友人Aと三重県に設置しようとしたときは、すべてを自ら仕切って、計画していく必要があった。しかしリベルテなどは、土地選びや機材選定はもちろんのこと、設置工事、電力会社との契約、発電量のモニタリングサービス、さらにはメンテナンスまですべて行なってくれて、保険までセットになっている。極端な話、ユーザーはお金を払うだけで、あとは売電収入が入ってくるのを待ってるだけでいいというのだ。

 それだと、とても楽ではあるけれど、何も自分で選択したり、カスタマイズする余地はなさそうなので、ソーラーマニアとしては、ちょっぴり物足りない。また、うまく発電できたとしても、利益という意味ではごくわずかなような気がする。

「勇気と実印があればいける!?」会場で話を聞いてみると……

 しかし、PV EXPO会場で話を聞いてみると、意外と悪くなさそうなのだ。単純に金融商品のようにして見てみると、表面利回りが8~10%程度あり、10年ちょっとで元がとれ、それ以降は純利益となって返ってくるという。それなら三重県で自ら計画したものと比較しても、遜色がないどころか、保険までついてくるので、かえって条件がよさそうなのだ。

 これは、ちょっと真剣に考えてみよう……と思いながら、会場内を歩いていて見つけたのは、よく知っているB社のブース。前回の三重県での案件のときも、少し相談をしたこともあった会社だったのだが、ちょうど社長がいたので、雑談交じりに、会場内で見つけた分譲型の50kWの話をしてみたのだ。

 すると、社長からトンでもない言葉が飛び出してきた。「藤本さん、勇気と実印があれば、絶対いける!」と。そんな胡散臭い言葉、あまり聞いたこともなかったが、実はその社長自身も50kWの分譲型のシステムを買おうとし、先週あとは印鑑を押すだけ、というところまでいったのだ。が、最終的には家族会議で却下され、泣く泣く諦めたのだとか……。

既に契約した人から大阪の業者を紹介してもらう

 一方で、同社の別の役員であるCさんも社長と一緒に購入を検討していて、Cさんのほうは、まさに昨日契約を決めたところだというので、驚いた次第。まさにこのネタは旬なのかもしれない……。会場ではCさんに「ぜひ、詳細を教えて欲しい」と伝えて別れたのだが、数多くの業者がある世界で、太陽光発電業界の人が自分のための投資として選別した結果の会社であれば無難そうだ。さっそく翌週、Cさんに改めて連絡して、紹介してもらったのが大阪にある業者D社だった。

 こちらとしては、知りたいことがいっぱい。どんな機材なのか、どのくらい発電できる見込みなのか、場所はどこで、どんな方角なのか、保険はどうなっていて、メンテナンス料金などはあるのか……などなど、すぐにでもD社に乗り込んで、根掘り葉掘り聞いてみたいところだったが、さすがに大阪まで行くのは簡単ではない。

D社から届いた資料

 数日後、D社の担当者から電話がかかってきたので、少し聞いてみたところ、「まずは、資料を郵送するから、それを見て欲しい」とのこと。はやる気持ちを抑えつつ、数日後に届いた資料には、気になっていたことが、ほとんど書かれているようだった。場所は何カ所かあったが、いずれも鹿児島県か熊本県。Qセルズのパネルを用いた発電所となっており、パワコンには新電元の9.9kWタイプを5台使うと書かれている。

 また、一番関心を持った案件はシステム容量45.9kWでシステム総額1,550万円+電力工事負担金50万円の計1,600万円というもの(案件の内容を示すエクセルファイルはこちら)。すでに2013年度に申請をしている案件だから、売電単価は税抜き36円/kWhとなるとのことなので、条件的にもよく、シミュレーションによると表面利回り11.3%で、投資額の回収期間は8.9年というのだ。

シミュレーション結果

 Cさん自身、これとほぼ同じ物件の契約をしたというのだから、騙されるようなリスクは少なそう。またCさんは全額、アプラスからローンでの借り入れをし、15年間固定で2.7%程度の利息だというから、表面利回りの11.3%と相殺しても8%程度の利益が得られることになる。確かに金額は大きいけれど、元手なしで大きな収入が得られるというわけだ。

 シミュレーションを見る限り、毎年180万円くらいの売電収入があり、ローンの利子を払っても160万円程度は残り、そこから返済すればいい、と。ローンを借りるには実印がいるので、だからB社の社長が「勇気と実印があれば……」と言っていたのも、ちょっと分かる気がしてきた。

資料を読みこむうちに現れてくる気になる問題

 とはいえ、これで衝動買いするほど度胸はないので、資料を読み込んでいくと、いろいろ気になる点も出てきた。まずは消費税。ここに記載されている1,600万円は税抜きの金額であって、購入するのは絶対4月以降になるから消費税は8%。すると消費税だけで124万円もかかることになる。

 さらに気になるのがランニングコストだ。何かのトラブルがあったときに、保険で賄えるというのはありがたいが、これに年間6万円かかるだけでなく、土地の借地代が12万円、保守メンテナンスに10万円。とりあえず、償却資産税などは別としても年間で28万円だから、20年間で560万円もかかることになる。これを合算すれば、2,288万円。パワコンは10年程度で壊れるのが一般的なので、その交換費用なども含めば、結構な金額になる。

 もう一つリスクと考えたのが、仮にD社が倒産したときにどうなるのか、という点。問い合わせてみたら、もちろん、そんなことにはならないというけれど、仮にもしものことが起こっても、メンテナンスについては別の会社に引き継ぐから大丈夫だという。

 それよりも気になったのが、月額1万円という計算になる借地代。おそらく、九州の原野のようなところに設置するのだろうから、本来土地代なんてわずかなものだが、20年間設置すれば、240万円となり、実際に土地を買うよりも高そうだ。その土地代も途中で大幅に値上げされる可能性もあるし、倒産したらどうなるかも分からない……と考えれば、いろいろと心配事も出てくる。心は半分決めつつも、もう少しじっくり検討しようと、PV EXPOで見た会社なども含め、念のため他でも見積もりをとってみようと思ったのだ。

見積もりをとったら、さらに好条件の業者を発見!

 そう思ったのが3月中旬の土曜日のこと。ネットで調べてみると、似たような業者がいっぱいあるし、一斉見積もりサイトなんていうものまである。ちょっと時間もあったので、10社程度に資料請求をしてみたのである。

 その結果、一番最初に返事が来たのが、日本エネルギー建設という会社だった。月曜日の朝9時に、メールに詳細な資料が添付される形で届いたのだ。ざっと目を通すと、「ビッグソーラーNEO」という名称で展開しているもので、やはり場所は鹿児島か熊本。金額は2,000万円ということだが、D社の見積もりと比較しても悪くなさそう。

調べると、似たような業者が多数存在した
メールに添付された詳細資料

 それより、驚いたのはこの会社の住所。私がリクルート時代の同僚4、5人でシェアする形で借りている事務所用のワンルームマンションの向かいの高層ビルにいたのだ。これは、即、行ってみようと電話をかけてみたところ、午後であれば時間がとれるとのことだったので、すぐに行ってみたのだ。

 資料を見ながら、話を詳しく聞いてみるとD社に比べてみて、かなりよさそうなのだ。まずは土地の扱いについてだが、D社の場合、賃借契約であったのに対し、日本エネルギー建設の場合は売買契約とのこと。つまりイニシャルコストに土地代が含まれているので、月々かかることはないし、田舎の安い土地なので、固定資産税も年間1万円程度だろう、とのこと。

日本エネルギー建設の資料

 一方、予想外だったのが消費税の扱い。2,000万円+税だと、ちょっと割高だなと思っていたら、これが税込みの値段だとのことであり、かつ4月以降の消費税8%に上がっても、お値段据え置きという、どんぶり勘定!? 逆算すれば税抜き価格が1,851万円で、土地代込みだから、D社の土地代20年分を含めた価格1,600万円+240万円=1,840万円とほぼ一緒だ。

費用

 もっとも、こちらの会社の物件もランニングコストはかかる。ただし、そこにはパネルの洗浄や年3回の草刈も含めて月額1万円。保険料金はイニシャルコストに含まれているというから、トータルで見るとやや割安。だが、それ以上に大きいのが発電容量の違いだった。

メンテナンスに必要な項目

 D社の場合、45.9kWなのに対し、日本エネルギー建設のものは55.9kW。なぜ50kW未満でなくてはならないのに、55.9kWもあるのか不思議に思う方もいると思うが、ここがちょっとしたトリック。パネルが50kW以上あっても、パワコン側は49.5kWと50kW未満になっているので、規格上OKであり、かつ発電量はかなり多く見込める。まあ、これと同じことは筆者の自宅でも同様になっており、パネルは3.6kWあるけどパワコンは3.0kWで、効率よく発電してくれているから実証済み。

 結果的に発電シミュレーションでもD社と比較して2割近く高い値を出しているのだ。ちなみに、そのときの資料ではパネルは中国のJAソーラーを用い260W×216枚=56.16kW、パワコンはオムロン製で9,9kWが5つとなっていたが、工期などの関係から、日本のアンフィニソーラージャパンのパネル260W×215枚=55.9kWに変更になるとのことで、D社と比較すると断然条件がいいように思えてきた。

悪徳商法かと疑うほどの好条件に不安を覚える

 さらにダメ押しという感じでアピールされたのが会社の体制だ。この手の会社、比較的小さい会社が多いため、倒産したらどうするか……ということを考えてしまうわけだが、この日本エネルギー建設は2014年2月にエナリスという東証マザーズ上場企業に買収された100%子会社になっていたのだ。もちろん、上場していれば安心というものでもないが、単なる小さなベンチャー企業と比較すると、安定してそうに思える。しかもエナリスはいわゆるPPS(特定規模電気事業者)であり、グリーンエネルギーの購入もしているため、おそらく36円/kWhより高く買い取れるようになる、という話なのだ。

 営業担当者の口がうまいのか、何から何までいいことづくめのように聞こえてくる。「これはD社よりもいいかもしれない……」なんて思う一方、「いい話には裏があるから、気をつけねば……」と心のブレーキもかかる。1時間ほど話をしたところ、営業担当者が切り出してきた「いかがですか?」と。こちらとしては、C社に次いでまだ2つ目の話であり、他にももっといい案件も出てくるかもしれないので、ゆっくりと検討したい。そこで「いろいろ考えて、年内には結論を出したいですね」と伝えたところ、先方から「ああ、それは残念ですね。おそらく4月半ばまでには売り切れちゃいますよ」との切り返し。

 すぐに頭に浮かんだのは、典型的な悪徳商法。「特売なのは今日だけですよ。いまハンコを押さないとなくなっちゃいます」というのはよく聞く話。また、これまで調べた範囲の知識でいえば、36円/kWhで売電できる土地は、全国にまだまだ在庫があるらしい、ということ。営業担当者が吹っかけているに違いないと思ったので、そう反論してみると、「本当にタマ数がなく、これを売り切ったら、エナリスとともにより大規模なソーラー発電事業に軸足を移すんです」というのである。まあ、その場で、ハンコを押す話ではなさそうだったので、とりあえず持ち帰って検討することを伝え、向かいの事務所に戻ったのである。

相談した結果、2,000万円で契約!

 ここで、さっそく電話をしてみたのが、D社を紹介してくれた某社取締役のCさんだ。彼なら、この業界全体について詳しいし、実際いろいろと検討した上でD社を選んでいるのだから、アドバイスがもらえるだろうと聞いてみると、面白い反応が返ってきた。「いろいろと検討した結果、残ったのがD社と日本エネルギー建設だったんですよ。その時点では、エナリスに買収される前だったので、財務状況などいろいろ検討してD社にしたけれど、今ならかえって日本エネルギー建設のほうがいいかもしれない」と。

 このCさんからのアドバイスが決定打となり、2社目ではあったけれど、ここで契約しようと思ったのだ。それと同時に、すぐに連絡を入れたのが、以前三重県に自前のシステム設置を一緒に検討した友人A。彼も、1年前の件で、太陽光発電の件は完全に終わっていたのだが、話をしたら「それは面白そうなので、次回、行くときに同行したい」と言うのだ。

 結局、それから3日後、改めて向かいのビルにある日本エネルギー建設へ、友人Aを引き連れて再訪。その間、前の週末に見積もり依頼をしていた複数社から資料がやってきていたが、内容を見る限り、D社および日本エネルギー建設からの提案内容と比較すると、金額面や条件面での魅力は劣るものばかり。「なるほどCさんのフィルタリングは正しそうだ」と思い、ついに実印を持って出かけていったのだ。

 結局、友人Aもそのやり取りを見て、数日後に契約したのであった。結論からいうと、4月中旬では、まだ微妙に在庫はあったが、ゴールデンウィーク明けにはモノは本当になくなったようで、税込み2,000万円という形での販売は基本的に終了。ぎりぎり滑り込みセーフということだったようだ。

契約は無事に終えたが……

 ちなみに、その契約において、ローン契約も同時に行なったのだが、アプラスとジャックスの2社が提示されて仮契約までしたのだが、実は結果的に決めたのは日本政策金融公庫。自宅を担保に出す必要があるという、かなり大きなリスクはあったものの、そうすることによって、0.85%という超低利率で借りられるとのことだったので、10年ローンでお願いすることにしたのだ。

 日本エネルギー建設が出してきたシミュレーションどおりに発電&売電できるのかはハッキリしないが、もしその通りにいけば、10年ローンでも月々の発電量から返済額を引いてもお釣りがくる計算。微額ではあるが月額数万円程度の収入が入るので、いいお小遣いになる。しかも、10年のローンを終えれば、月額20万円くらいの収入が得られるはずなので、ものすごい有利な案件のようなのだ。

 ただし、問題は納期。「早ければ夏には引渡しができますが、かなり工事が手一杯でおそらく年末近くの引渡しになりそうです」とのことで、お楽しみは少し先送りになった。しかし、この話、“そうは問屋が卸さない”というわけで、簡単にはいかないようなのだ……。現在、大きな壁にぶち当たりつつあるのだが、その問題とはどういうことなのか、次回詳しく書いていく。

藤本 健