藤本健のソーラーリポート

九州で50kWの太陽光発電事業を始めてみた(前編)

「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です(編集部)

 筆者が自宅に3.6kWのソーラーパネルを設置してから今年でちょうど10年。もちろん今でも、その恩恵を感じつつ、ソーラーマニアとしていろいろ楽しんでいるのだが、もう一歩踏み込んで何かできないだろうか……とネタ探しをしていた。そうした中、先日、九州で50kWのソーラー発電所を2,000万円で購入し、発電事業をスタートしてみることになり、契約をしてしまったのだ。

九州に設けた太陽光発電所

 といっても手元に資金などあるはずもなく、全額借金での購入であり、リスクもいろいろ。今の予定では年内工事完了で発電スタートとなる予定なのだが、そこに至った経緯や実際の内容、投資としてみた場合の収支の見込み、懸念点やリスクとしてどんなことがあるのか……といったことについて、今回から3回に渡って報告したいと思う。

設置に至った経緯

 ことの発端は2012年7月、再生可能エネルギー法が施行されたことにある。この法律によって10kW以上の太陽光発電設備においては、発電した電力すべてを高い単価で売電でき、それが20年継続するという非常に有利な制度がスタートしたのだ。それに伴い、国内でもメガソーラーが各地に建設されるようになり、各企業でも工場の屋根にパネルを設置したり、遊休地で太陽光発電をするといったことが盛んに行なわれるようになったのは、誰もがご存知のとおり。

 一方で、我々個人の太陽光発電ユーザーからすると、従来と特に変わりはなく、全量買取ではなく、発電した電力はまず家庭で消費し、余った電力を売電する余剰電力買取という制度のままだし、買取価格固定期間も10年。何かもうちょっといい方法はないだろうか……とも思うが、自宅の屋根にはこれ以上パネルを載せるのは不可能だし、そもそも10kWを超えるパネルを設置する土地など持っているはずもない。

 もちろん、国内における再生可能エネルギーの比率が高まってくれることは大歓迎なので、各企業の太陽光発電設備設置の動きを暖かく見守っていようとは思っていたが、でも自分でも何か参加できることはないだろうか……と思うようになっていた。

友人から太陽光の売電事業を持ちかけられる

 そうした中、再エネ法が施行された2カ月後の2012年9月、思わぬ人から、突然妙な持ちかけがあったのだ。そう、2004年まで筆者もサラリーマンとして株式会社リクルートで雑誌の編集の仕事などをしていたのだが、その当時の同期の同僚である友人Aから「24kWのシステムを三重県に設置して太陽光の売電事業を始めようと思うのだけど、興味はあるか?」と。

 友人Aはいま海外の人を日本へ誘致するビジネスを手がける一方、リクルート時代、住宅情報事業部にいたこともあり、個人的に不動産投資もしている。確かに、以前から環境系にも関心を持っていたことから太陽光にも興味を持ったのは知っていたが、そんな踏み込んだことを考えていたことには驚いた。「不動産投資だけだと、偏りがでるので、リスク分散のために太陽光への投資をしてみようと思った」というのだ。

 会って話を聞いてみたところ、かなり具体的に話は進んでいたのだ。友人Aによると、静岡県、千葉県、山梨県などの山林、雑種地、農地など沢山の物件を物色したが、土地の形状、大きさ、傾斜、周囲の遮蔽物、値段、送電網、農地転用可否などの理由でなかなか適地を見つけられなかった、と。また千葉では県にかけあって工業団地の未利用地を紹介してもらうほど探し回ったが、なかなか適地を見つけるのは難しかったらしい。

 そうした中、知人のつてで、三重県の沿岸部、標高20mの場所に借りられそうな土地が見つかったので、そこにパネルを設置する方向で各所とやり取りをしているというのだ。現地の写真をいくつか見せてもらったがなかなか印象的だった。

候補となる、三重県沿岸部の現地の写真
山の中ではあるけれど、電柱も来ているので大丈夫だと、証拠写真まで見せてもらったほど

 さすが不動産投資をやっているだけのことはあるものだ、と感心していたのだが、友人Aに言わせると、「24kW程度であれば、ワンルームマンションへの投資に近い金額であり、空き家になるリスクがない分、投資効率はよさそうだ」という。なるほど、筆者のように太陽光発電そのものに興味があるというよりも、純粋に投資として考えており、よさそうだ、と判断しているようなのである。

 さすがに自分で土地を探して、工事業者を手配して……といった発想もなかったので、これは一口乗ったら、面白いのでは……と思い、参加したい旨を伝えて、一緒にやっていくことにしたのだ。筆者もこれまで持っている知識や、各企業との繋がりを元に、いい設備が手配できる可能性もありそうと、少し検討をはじめたのだった。

費用がダントツに安いLOOOPのDIYシステム

2012年のPV JAPANで展示されていたLOOOPのシステム

 ところが、手際のいい友人Aは、すでに設置する設備の手配も進めていた。彼がいいと判断したのはLOOOPのDIYのシステム。それまでも、何社かの見積もりをとったところ、各社とも1kWあたりの単価が40万円以上であったのに対し、LOOOPの場合は12kWで330万円と、ダントツに安く、土地の造成や設置費用、運搬費用などを含めても1kWあたり33万円以下に抑えられる計算だ、と資料を作ってくれた。

 実は、筆者もこの話を聞いてすぐに思い浮かんだのがLOOOPだったので、「それはよさそうだ」ということになったのだ。ただ、LOOOPは基本的に発電所キットを売り出している会社なので、自分で組み立てるのが前提。さすがに三重に行って何日もかけて組み立てるというのはあまり現実的ではないし、自分も工事経験などないので、厳しそうだ。

 ところが友人Aによると、LOOOPはヤマト運輸の子会社と提携し、運搬から設置までを請け負うサービスをしているから、それを利用するのが効率的である、というのだ。工事を見学には行きたいけれど、基本的に任せられるのであれば、工事に失敗するリスクもなくなる。価格的にも輸送料込みで12kWのシステム1つにつき50万円程度とのことなので、トータルで考えればかなり安くなりそうだ。

 とはいえ、工事費込みで積算した結果は12kWでほぼ400万円。その時の友人Aが作ってくれた資料がこれだ。

太陽光発電 小規模売電事業に関する概要

【各種条件】
設置場所三重県●●市-
設置企画12kW/1セットLOOOP社扱い
パネル中国製LOOOP社扱い
制御機器日本製造-
型式認定済み上記LOOOP社が全量買取精度の型式認定を取得している
【初期費用】
システム価格3,307,500円-
搬入費用189,000円上記LOOOP社が搬入
土地造成&設置費用420,000円土地オーナー(●●氏)が地元工務店、電気工事会社を通して行なう
監視システム50,000円-
各種申請業務0円上記LOOOP社が対応(改めて確認が必要)
売電用送電線設置未定近くまで6,600Vの送電線があり、また敷地横まで電柱があるため、売電用送電線の設置コストは低く抑えられると想定される。送電線のほかにトランスの設置が必要になる。費用については、売電契約を前提に工事申請したところで最終的な金額が決定される
初期費用合計3,966,500円-
【ランニングコスト】
土地利用・設備管理(年間)50,000円-
税金売電収入は申告が必要個人の場合は、雑所得
【投資リターン】
20年間合計売上9,772,988円246%
年間平均受取額488,649円-
月間平均受取額40,721円-
想定リスク売上の5~10%経験値がないため、あくまでも推測であり、期待値です
収益上ブレの可能性21年目以降も稼動できた場合は、想定上の売電収入となります。日照量が向上する可能性があります-

 不動産投資から見ると、安いのかもしれないが、ただのライターの自分にとって、そんな金額をポンと出すような余裕はまったくない。200万円くらいなら、いろいろなところからかき集めれば、なんとかなるのでは……と6kW分で参加したい旨を伝え、それでやっていくことにしたのだ。可能であれば、売電金額をうまく按分してもらうことで、お金のやりとりも楽になる。そこで、筆者のほうから中部電力に電話をして、「売電金額を2カ所に振り込むことはできないか?」と問い合わせてみたが、これはあっさりNOの返答。仕方ないので、それは我々2人の間でのやり取りしようということでまとまったのだ。

メンテナンス、保証……浮かび上がってくる複数の問題点

 ところで、機材としてDIYのLOOOPを選ぶ上で、一つ大きな問題があった。それがメンテナンスだ。自分の家の裏山に設置するのならともかく、神奈川に住んでいる者にとって、三重に頻繁に行くことはできないし、何かトラブルが起こったときに誰か対応してもらう必要がある。そこでAが提案したのが、地元の電気工事業者に設置を頼み、そこにメンテナンスをしてもらおうというアイディア。探してみると、そうした会社が見つかったので、そこに頼もうと彼も手配してくれたのだが、こうした太陽光発電所の設置の経験が豊富というわけではなさそうなのが、ちょっと不安材料である。

 さらに、考えていくと、まだまだ問題点が浮かび上がってきた。まずは保証について。住宅の屋根に設置するパネルの場合、10年の保証が基本になっており、最近は15年保証といったサービスも増えているのに対し、LOOOPの場合、基本的に1年という話だった。10年とか20年となると、保険を組み合わせる必要があり、そうなるとかなりの金額になりそうなのだ。

 また、遠隔地にあるからこそ、モニタリングも重要な要素。現在はLOOOPも遠隔地でのモニタリングサービスをスタートしているようだが、当時はそうしたサービスはなかった。そうした中、筆者が自宅で利用しているNTTスマイルエナジーのモニタリングサービス、エコめがねが、ちょうど「遠隔地発電見守りサービス」を発表したところだったので、直接、同社の担当役員の方にお会いし、いろいろ相談に乗ってもらったりしたのだ。

 その結果、モニタリング自体はかなり低価格で実現できそうではあることはハッキリしたのだが、ほかにも複数の問題点を指摘されてしまった。たとえば、子供が入って事故を起きたような場合、責任を問われてしまうので、敷地の周りに柵を取り付けることは絶対に必要である、夜中にトラックでやってきてパネルをすべて積んで盗んでいくような盗難事件も発生しているので、誰もいないようなところに設置するのは危険だし、盗難保険などに入る必要もありそうだ、ということ。さらには、草が生い茂ってしまうと、発電に大きな支障をきたすので、草刈を頻繁に行なうか、防草シートを張る必要があること……と、想定していなかったようなことがいっぱいあり、一つずつつぶしていくと、かなりのコストがかかりそうだったのだ。

シミュレーションでは、投資額は8年で回収可能に

 筆者が、こうしたリスクの洗い出しなどをしている中、友人Aのほうは、着々と準備を進めるとともに、より精査した事業計画や、気象データをもとにした、売電金額のシミュレーションも作成してくれていた(シュミレーションの結果を示すエクセルファイルはこちら)。

 これを見ると、表面利回りで11%程度で運用でき、投資額は8年ちょっとで回収できるという計算になっている。そこで、まずはリスクの件については、棚上げして、まずは進めていこう、ということになったのだ。

 いろいろ不安はあるけど、「まあなんとかなるだろう」と、やや勢いに任せて動かいていた、というのが正直なところだが、11月に入り、また壁にぶち当たってしまった。三重の土地所有者とは人を介してやりとりしていたこともあり、なかなかコミュニケーションを図ることができず、申請手続きを含め、具体的なところで話が進められなかったのだ。業を煮やした友人Aは、同じ地域ではあるが、よりコミュニケーションがとりやすい別の人の土地を借りることに作戦変更。そうこうしているうちに年末を迎えてしまったが、ここから一気に進めていき、3月末までに設置工事を終えて、発電事業開始しよう、ということになったのだ。

 こちらでも、やれることは手伝うという話はしていたものの、三重との交渉や、LOOOPとのやりとりは、すべて友人Aが行なっていたので、実質的にお任せ状態。そのため自分としては200万円をどう工面するかを準備するとともに、発電事業がはじまったら、どのくらいの収入になるだろうか、と捕らぬ狸の皮算用をしながら楽しみに続報を待っていたのである。

雲行きは怪しくなるばかり……

 ところが、正月明け、1月12日になって、友人Aからメールで「工事の件、雲行きが怪しくなってきたので、確認を急ぐ」との連絡が入ったのだ。その後、彼と話をしてみたところ、工事業者にせっついたところ、これまで3月までに工事は絶対できると言っていたのに、「3月中に工事ができるか分からない」と言ってきた、というのだ。しかも、今になって工事料金の値上げをしてきたといって憤慨しているのだ。

 もともと、ヤマト運輸の子会社ではなく、地元の工事業者に頼むことにした背景は、今後20年間のお付き合いを前提としたから。ここまでいい加減であると、信用することができず、頼むのは到底不可能である、というのがそのときの話し合いの結論。しかし、1月中旬になって工事業者を変えて、新たに見積もり、設計をして3月中に工事を終わらせるというのは現実的に無理。その時点では2013年4月以降の売電価格がいくらになるか決まっていなかったし、そのころの新聞の論調では、「2012年7月スタートで1年もたっていないので、4月以降も40円+税で続行するだろう」となっていたのだ。そのため、「まあ急がず、じっくりいい業者を探そうか」ということで、いったんプロジェクト中断となったのだ。

 しかし、4月になってみたら、状況は激変。1kWあたりの売電単価は36円+税と大幅に下がり、収益性もガタ落ち。友人Aも「これでは、投資する魅力がほとんどなくなった」とペンディングになってしまったのだ。

 その後になって分かったのは、別に3月いっぱいの工事を終わらせなくても、そこで発電をすることの申請をして受理されれば、その後も40円+税の単価で売電できる設備を設置できたということ。当時は、情報がなくて、そうした制度についてよく理解できておらず、手配を友人Aに頼っていたこともあって、情報がはいらずに期間を終了させてしまっていたのだ。そうしたミスを知ったのは4月にはいってからのことだったが、もう後の祭り。結局太陽光発電事業には縁がなかったと、そのときは二人とも諦めたのだ。

 しかし、まさか1年後、さらに大規模になって話が再開するとは、考えてもみなかったのだ。(つづく)

藤本 健