大河原克行の「白物家電 業界展望」
日立の白物家電を好調にした「ジャストフィット戦略」とは
by 大河原 克行(2015/10/5 07:00)
日立の白物家電が好調だ。2014年度には24%だった家電5製品(冷蔵庫、洗濯機、掃除機、電子レンジ、ジャー炊飯器)の国内販売金額シェアは、2015年度上期には26%へと拡大。さらに、2015年度通期には27%へと引き上げる計画だ。
日立アプライアンス 家電・環境機器事業部長 松田 美智也取締役は、「2015年度に取り組んでいる『エコにジャストフィットをたし算』の戦略が功を奏しているほか、中核となる技術を面展開している点が市場から評価を受けている」と自己分析する。2018年度の海外売上高比率50%に向けた海外戦略も加速。2015年度下期は、国内市場における体験型提案の実行に力を注ぎ、家電・環境機器事業部で通期売上高3,000億円突破を目指すという。
そして、今後は、ロボット掃除機市場に参入する方向で検討していることも明らかにした。日立アプイラアンスの松田取締役に、日立アプライアンスの家電事業への取り組みについて聞いた。
白物家電はプレミアム戦略が成功
――2014年度、そして、2015年度上期の日立アプライアンスの家電・環境機器事業をどう自己評価していますか。
松田:2014年度は、2013年度末の消費増税前の駆け込み需要の反動が大きく影響しています。2014年度上期には、反動の影響がかなり薄れるとは思っていたのですが、想像以上に回復が遅れ、下期までこの影響が続きました。結果として、前年実績を下回る結果となりました。また、家電5製品の国内販売金額シェアではトップを維持しましたが、シェアは24%へと落ち込みました。
しかし、その一方で、当社が目指すプレミアム商品戦略が市場に受け入れられた手応えを感じた1年であったともいえます。洗濯機のビートウォッシュや、ジャー炊飯器のおひつ御膳など、特徴的機能を搭載した製品が話題となり、それが5製品におけるトップシェアを維持できたことにつながっています。
さらに、円安の影響で、外国人観光客を対象にしたインバウンド効果があり、これがジャー炊飯器や空気清浄機の売れ行きにプラスとなっています。ただ、円安は、海外生産分の輸入や、材料コストの増加というマイナス要素にも跳ね返っており、為替の影響をトータルすると、やはりマイナスとなっています。為替の影響を受けにくいバランスが取れる体質への転換は、今後の課題だといえますね。
また、環境分野においては、LED照明のほか、給湯器をはじめとするオール電化関連製品において、省エネ大賞を獲得した製品が注目を集めています。これは、2015年度上期に投入した製品にもつながるのですが、家庭用LEDシーリングライトに加えて、施設向けでは、高天井用LED照明や、従来の蛍光灯器具からの取り替えが可能な交換形LEDベース器具が好調であり、さらにエコキュートでは、ウレタン発泡充てん断熱構造の貯湯ユニット「ウレタンク」が高い評価を得ています。
トータルすると、2014年度は減収であったとともに、シェアも落としたという厳しい1年ではありましたが、いくつかの手応えを感じたといえます。そうした流れのなかで、2015年度上期は、家電5分野におけるシェアが26%へと回復してきました。
インバウンド需要は引き続き好調
――2015年度上期にシェアが回復してきた理由はなんですか。
松田:いくつかの要素があります。ひとつは、インバウンド需要が引き続き旺盛だという点です。外国人観光客は引き続き増加傾向にありますし、これまでのジャー炊飯器、空気清浄機に加えて、スティック型掃除機をこの分野に投入した効果もあり、ほぼ予定通りの成長となっています。
2つめは天候不順の影響です。お盆前の猛暑がありましたが、春先からの天候不順の影響で、冷蔵庫は予想を下回る実績となりましたが、その一方で、洗濯機は天候不順がプラス要素に働き、シェアを伸ばしています。新たに投入したガラストップの縦型洗濯機の好調ぶりに加え、ドラム型洗濯機も需要が増加し、シェアを伸ばしています。また、掃除機もハイパワーである点が評価され、シェアが上昇しています。
訴求ポイントを統一して、中位モデルも納得して購入できる「ジャストフィット戦略」
――2015年度は、「エコにジャストフィットをたし算」をキーワードに掲げていますね。この成果はどうですか。
松田:「エコにジャストフィットをたし算」で目指したのは、「日立を選んでいただける商品づくり」です。お客様に日立が提供する価値を認めていただき、日立を選んでいただくために、ジャストフィットした機能、サイズ、使い勝手、デザインを追求することを目指しました。
そして、ジャストフィットの実現においては、「面展開」にもこだわりました。たとえば、冷蔵庫であれば、大容量モデルから中容量の製品まで、「新鮮スリープ野菜室」という訴求ポイントを徹底して打ち出す一方、それぞれの顧客ゾーンにジャストフィットした製品を提供するという提案をしています。新鮮スリープ野菜室の機能は、730Lから400Lクラスまで幅広くラインアップをしています。
同様に、洗濯機では、縦型洗濯機やドラム式洗濯機、またインバーターモデルまで共通して、「すすぎ」の強みを訴求し、「日立はすすぎが強い」というイメージづくりに努めました。さらに、縦型洗濯機に関しては、ガラストップというデザイン性の高さにおいても訴求しました。
電子レンジでは、最大の特徴となるダブルスキャン機能を上位3機種に搭載しています。そして、ジャー炊飯器では、おひつ御膳の2合炊きと4合炊きに打込鉄釜を搭載。ふっくら御膳と圧力スチームにも打込鉄釜を展開しています。こうした面展開は、効率的な訴求にもつながっています。テレビCMなどにおいても、訴求ポイントをひとつに絞りこむことができるからです。日立の冷蔵庫は、新鮮スリープ野菜室が特徴であるということを、容量や価格帯を問わずに提案できます。
これは店頭においても同様です。上位製品の説明を聞いたお客様が、家族構成や、要望する価格帯に合わないといったこともあります。ですが、中位モデルの説明を求めたときにも、基本的な訴求ポイントが同じであれば、お客様は納得してその製品を購入していただける。店頭販売での説得力も高まりますし、効率化にもつながります。
――その点では、シェア向上はプレミアムゾーンよりも、ボリュームゾーンの販売が広がったということですか。
松田:いえ、ジャストフィット戦略の面展開によって、プレミアムゾーンでも販売量が伸びていますし、ボリュームゾーンでも成長しています。日立アプライアンスでは、人気グループの「嵐」をイメージキャラクターに起用していますが、嵐のファン層は幅広く、そこに当社の面展開による幅広い製品ラインアップがマッチしているということも、シェア向上の一因といえるでしょうね。
--ジャストフィット戦略におけるそれぞれの製品のポイントを教えてください。
松田:冷蔵庫では、これまでお話したように食品の鮮度保持がポイントです。「新鮮スリープ野菜室」機能を前面に打ち出しています。また、洗濯機ではドラム式洗濯機、縦型洗濯機ともに、「ナイアガラすすぎ」によるすすぎを強みに打ち出します。
そして、掃除機ですが、キャニスター掃除機やスティック掃除機、ふとん掃除機に共通した訴求ポイントが吸引力の強さ、つまり「ハイパワー」です。掃除機は多様化していますが、一家に2台、3台といった利用が一般化しています。スティック型は5~10分の手軽な掃除、キャニスター型は土日にしっかりと掃除をする際に、そして、ふとん掃除機はふとんの用途に利用するといった具合です。当社も、その動きにあわせた製品づくりに取り組んでいます。
ロボット掃除機市場に参入
――ここ最近はロボット掃除機も注目されていますが、日立はどう取り組みますか。
松田:ロボット掃除機の市場にも注視しています。我々も検討を進めており、すでに試作品も開発しています。ただ、これだけ多くのメーカーが参入しているにも関わらず、市場が拡大していないというのは、なにかしらお客様の不満がある、あるいはニーズに合致していないのではないか、と考えています。
たとえば、お客様が思っているほど、きれいに掃除ができていないという点があるかもしれません。日立アプライアンスが、ロボット掃除機を投入する場合には、今お客様が思っている課題を解決できるものであり、市場の停滞感を払拭するようなブレイクスルー型の製品になるでしょう。まだ詳細をお話できる段階にはありませんが、これには、ぜひ期待していただきたいですね。
キッチン家電はユーザーが体験できる機会を
――電子レンジやジャー炊飯器では、どの点がジャストフィットになりますか。
松田:電子レンジでは、ダブルスキャン機能がポイントになります。あたためや解凍といった点で、大きな進化を遂げた製品ですが、まだお客様のなかには、これまでのあたため、解凍機能に不信感があって、その良さがなかなか浸透していないというのが実態です。これを払拭するには、実際に体験していただくしかないですから、もっと体験していただく場をつくっていきたいですね。
ジャー炊飯器も同様です。日立の炊飯器は少量炊きがおいしく炊けるという評価は定着してきましたが、普通にご飯を炊いたときに、おいしく炊けるというイメージの浸透度が弱いという反省があります。これを払拭するためには、やはり店頭などで実食していただくことが一番わかりやすい。ここもこれから重点的に取り組んでいきたい部分ですね。
――2015年度下期はこうした体験型の提案が増えそうですね。
松田:そうですね。とくに電子レンジやジャー炊飯器は、体験していただくことが重要だと感じています。そして、冷蔵庫についても、真空チルドや新鮮スリープ野菜室などの機能を体感していただく場を提案していきたいですね。
チェーンストール(日立アプライアンス系列販売店)の合展では、電子レンジで、実際にあたためや解凍を体験していただくことで、実売につながったという例がでています。また、ランチミーティングという名称で、チェーンストールの販売店が、地域の有力な見込み客を招待して、日立の電子レンジなどで作った食事を食べていただき、その良さを体感していただくといったことも開始しています。
10~12月にかけては、こうした展開を量販店店頭でも行ないたいですね。いま、量販店の方々と話し合いをしている最中ですが、体感していただくイベントの数を、前年に比べて約2倍は増やしていきたいと考えています。
海外市場はインド・中国層にアプローチ
―――日立アプライアンスでは、海外における白物家電事業の拡大に取り組む姿勢を明確にしています。その進捗状況はどうですか。
松田:2013年度も海外売上高は2割増となっていますし、2014年度も2割増という実績です。2014年度は20%強の海外売上高比率を、2015年度には30%弱にまで高めたいと考えていますし、私の目指すところではこれを2018年度には50%にまで高めたいと考えています。このなかには、海外主力工場であるタイの生産拠点などで生産した製品のほか、国内から海外へ輸出する製品も含まれます。
東南アジア、中東、インド、中国のほか、欧州市場にも一部展開をしていますが、やはり成長の原動力となるのは、インドと中国になります。基本戦略は、日本と同じくプレミアム製品による展開ということになりますが、インド、中国では富裕層へのアプローチに加え、増加する中間層に向けた展開も強化していきます。
インドは、これまで主力だった冷蔵庫に加えて、掃除機、空気清浄機、洗濯機などにも展開を広げる一方、中国では冷蔵庫、洗濯機、掃除機を展開。高級百貨店が中心となる流通ルートに加えて、BtoBルートへの展開を強化したいですね。ちなみに、中国では量販店ルートへの展開は行ないません。
売上は3,000億円突破を目標に、さらなるシェアアップを狙う
――2015年度通期における家電・健康機器事業の目標は?
松田:家電5製品におけるシェアを、2015年度通期には27%にまで引き上げたいと考えています。製品の体感を通じて、日立の家電製品の良さを理解していただければ、到達すると考えています。また、売上高という点では、2014年度の実績が2,922億円でしたから、3,000億円を突破し、さらに上乗せしたいですね。
一方で、コスト低減への取り組みもしっかりとやっていきたい。グループ全体で取り組んでいるコスト構造改革「Hitachi Smart Transformation Project」による成果もひとつですが、中国の景気減速に伴う材料費の低減という効果もでています。我々の製品には、鉄や樹脂が多く使われていますから、この効果を早めに刈り取りたいですね。
――競合他社のなかでは、家電事業からの撤退、縮小を検討しているケースもでています。日立グループにおける白物家電事業の位置づけに変化はありますか。
松田:日立アプライアンスは、日立製作所が取り組む社会イノベーション事業のなかにおいて、家庭内のイノベーションを起こすという役割を担います。そして、日立グループ全体がグローバル化へと舵を切るなかで、我々も同様に海外売上高比率を高めていくことになります。
すでにエアコン事業は50%以上の海外売上高比率をあげていますが、家電・環境機器事業でも2018年度には50%を目指し、日立アプライアンス全体で海外事業比率を半分以上にします。日立のブランドを、世界の幅広い人たちに認めていただくための役割を担うのが日立アプライアンスとなります。
家庭のなかというのは、ブランドを広げるには重要なポジションを担いますし、品質や機能を含めて、日立のプレゼンスを高める場になります。日立アプライアンスは、新たな価値を提供し、家庭のなかをイノベーションする企業。これが使命だといえます。そして、夢を与える企業になることを目指しています。付加価値の創造には、技術の裏付けが必要です。
日立には、付加価値を創造するための素晴らしい開発陣が揃っている。そこに、日立アプライアンスの強みがあります。そうした強みをこれからも訴求していきたいと考えています。