大河原克行の白物家電 業界展望

ナノケアドライヤーが牽引する、パナソニック・ビューティ事業の成長戦略 ~日本のモノづくりと中国で磨いている競争力でグローバルでも勝てる

 パナソニック アプライアンス社において、ビューティ・パーソナルケア事業は、高成長事業に位置づけられ、同カンパニーの成長エンジンの役割を担っている。

 その同社が、ビューティ・パーソナルケア事業の中核製品となるナノケアドライヤーの新製品を発表した。

 9月1日に発売される同製品は、従来のナノイーに比べて、水分発生量を18倍に高めたデバイス「高浸透ナノイー」を新開発。ナノケアドライヤーをまったく異なる次元へと進化させている。

 6年がかりで開発したこのデバイスは、今後のビューティ・パーソナルケア事業をドライブさせる中核技術になりそうだ。今回の新製品への取り組みとともに、パナソニック アプライアンス社のビューティ・パーソナルケア事業の方向性について、2019年4月に、ビューティ・パーソナルケア事業部長に就任した林 眞一事業部長に聞いた。

衣食住とならんで、美容を重視するアジアでの成長性を見い出す

 パナソニックは、2019年5月9日に発表した中期戦略において、同社の主要な事業を、基幹事業、再挑戦事業、共創事業の3つに区分した。基幹事業は利益額を拡大する事業と位置づけ、再挑戦事業は収益性改善を重視する事業とし、共創事業では、地域連携や他社連携を通じて、競争力の強化を図ることになる。

 このなかで家電事業は、共創事業と位置づけられ、パナソニックの津賀 一宏社長は、「パナソニックがすべての家電製品で強いとはいうわけではない。それを認識する必要がある。地域や事業を絞り込み、強みに集中することで、家電の競争力を維持、発展させていく」とした。

 家電事業を担うアプライアンス社は、以下の事業部で構成される。

・調理家電を扱うキッチン空間事業部
・家事家電を扱うランドリー・クリーナー事業部
・美容家電および健康家電を扱うビューティ・パーソナルケア事業部
・エアコンなどを担当する空調冷熱ソリューション事業部
・テレビやオーディオ機器、カメラ、FAXといったAV、イメージング、通信機器を担当するスマートライフネットワーク事業部
・ハスマンブランドの業務用冷蔵ショーケースをはじめとして食品流通を担うコールドチェーン事業部
・エネファームやデバイスを担当するスマートエネルギーシステム事業部

 このなかで、「ビューティ・パーソナルケア事業部は、アプライアンス社においては、高成長事業として、積極的な投資を行ない、事業拡大をしていく位置づけにある」と、ビューティ・パーソナルケア事業部の林 眞一事業部長は語る。

パナソニック アプライアンス社ビューティ・パーソナルケア事業部の林 眞一事業部長

 ビューティ・パーソナルケア事業部は、アプライアンス社全体に占める売上げ構成比は決して高くはないが、収益性が高く、国内で約6割のシェアを持つドライヤー、約4割のシェアを持つ男性用シェーバーなど、トップシェアの商品も有する。同事業の売上げの約3分の2が、ドライヤーやシェーバー、美顔器、脱毛器などの美容家電、約3分の1が、マッサージ機や高周波治療器、アイロンやスチーマー、補聴器、衣類ケアなどの健康家電になる。

アプライアンス社におけるビューティ・パーソナルケア事業部の位置づけ
ビューティ・パーソナルケア事業部のなかで、美容家電は約3分の1を占める

 「ビューティ・パーソナルケア事業部は、アプライアンス社の成長エンジンの役割を担う一方で、アプライアンス社が置かれた共創事業という観点では、地域軸において、中国の開発拠点との共創などにも取り組むことになる。つまり、グローバル化とパーソナル化への取り組みが鍵になる」と林 事業部長は語る。

 グローバル化に関しては、日本での実績と中国での実績を組み合わせて、広域アジアに展開。さらに欧米市場に対しても、競争力を持った美容・健康家電の投入を検討していくことを明らかにする。

 林 事業部長は、「成熟市場である日本では、大きな成長率は見込めないが、製品の付加価値を高めることで事業を拡大させられると考えている。一方で、海外市場は、旺盛な成長が見込まれる市場。そこに対して、日本市場で培った細かいニーズへの対応力や高い品質でのモノづくりの実績と、中国で磨いている競争力を組み合わせることで、海外の市場ニーズに対応し、グローバルでも勝てると考えている」とする。

 しかし、その一方で、「アジアの一部地域や一部商品での実績を除くと、美容・健康家電に関しては、まだまだパナソニックのブランドに対する認知度が低い。まずはパナソニックのブランド認知を高めることから始めたい」と、長期戦で取り組む姿勢もみせる。

 林 事業部長が、2019年4月に現職に就任する以前に携わっていた仕事の多くは、実は海外とのつながりが強かった。

 林 事業部長は、入社以来、デバイスや原材料の輸出入を行うB to B部門を担当。2012年に、パナソニックが調達およびロジスティクス(物流)部門の本部機能をシンガポールに移転したのに伴い、シンガポールで勤務。さらに、マレーシアの拠点立ち上げに関与したあと、2016年からは、フィリピンのPMPC(Panasonic Manufacturing Philippines Corporation)の社長に就任。製造および販売の機能を持つ同社で、白物家電事業を担当していた。

 「アジアの人たちが、衣食住とならんで美容を重視していたことを目の当たりにした。パナソニックの美容家電の可能性を強く感じている」とする。

 また、「海外の美容家電では、ドイツ勢と米国勢が強いが、アジアでは、一部の地域や製品で、パナソニックが地盤を作り始めている。なかでも、ドライヤーは全世界に展開し始めている。また、欧米についても、着々と地盤づくりを開始している。ナノケアドイラヤーや5枚刃のシェーバーなど、パナソニックの強みを生かせる領域から攻めていきたい」とも語る。

 アプライアンス社の社長である品田 正弘氏も、ブラジルの現地法人で事業を大きく成長させた実績を持っており、海外事業での経験という点でも、林事業部長との連携が期待される。今後のビューティ・パーソナルケア事業部のグローバル化においては、林事業部長の海外での経験が生きることになりそうだ。

製品情報をグローバルに発信し、インバウンド需要を狙う

 グローバル化という観点で、今回の新たなナノケアドライヤーの発表会で、ビューティ・パーソナルケア事業部は、異例の取り組みを行なった。

 それは、台湾のメディアを製品発表会に招いたのだ。新製品は、日本だけでの発売であり、台湾での発売は現時点では未定となっている。それにも関わらず、台湾メディアを招いたのはなぜなのか。

 林 事業部長は、「台湾の販売会社からは怒られている」と笑いながらも、「台湾のメディアから発信してもらうことで、台湾からも世界に発信され、その結果として日本を訪れた外国人に、ナノケアドライヤーの新製品を購入してもらうことを想定している。インバウンド需要もグローバル戦略のひとつ。どんな成果が生まれるのかを見極めたい」と語る。

 これも、ビューティ・パーソナルケア事業部の新たな挑戦のひとつだ。

 すでに同社では、日本だけで販売している家電についても、英訳リリースを用意して、世界中のメディアに配信している。ナノイーXを搭載した脱臭ハンガーも英訳したリリースを配信した商品のひとつだ。

 2020年の東京オリンピックに向けて、訪日外国人は増加すると見られている。こうした取り組みを通じて、グローバルにも積極的に発信し、日本を訪れる外国人観光客の美容家電・健康家電の購入につなげることも、グローバルビジネスの拡大に寄与するとみている。

美容家電のパーソナル化の実現に向け、必要なものを探る

 ビューティ・パーソナルケア事業部のもうひとつの重要な取り組みが、パーソナル化である。美容家電は、個人で利用する商品が中心であり、さらに健康家電についても、組織名に「パーソナルケア」を用いるなど、パーソナル化を前面に打ち出している。

 「個人個人の生活にどう合わせていくかが究極のターゲットであり、ここに向けて取り組んでいる。まだ回答は出ていないが、今後はパーソナル化に向けた取り組みを加速していくことになる」との姿勢を示す。

 これは、パナソニックが目指す姿として掲げている「くらしアップデート業」の考え方に通じたものだといえる。

 「くらしアップデート業」は、人それぞれが暮らしやすくなったり、好みや生活スタイルの変化に合わせて、環境も変えていけることを支援する商品やサービスを提供する。購入したときに最高の価値を提供するというこれまでの家電とは異なり、ソフトウェアのアップデートなどを通じて、使うほどに価値が高まるという提案を行なっていくことになる。

 その代表的なものがHome Xということになる。

 その点で、購入後のアップデートという観点では、美容・健康家電は、まだ遅れているのは確かだ。新製品のナノケアドライヤーも、アップデートという観点での機能は搭載されていない。

 だが、林 事業部長は、「くらしアップデートは、美容・健康家電にとっては、ストライクゾーンともいえる取り組みになってくる」と語る。

 ナノケアドライヤーは、髪の毛にパサパサ感があった人も、髪の保湿性が高まり、ドイライヤーでケアができるようになるのが特徴だ。また、肌ケアに諦めていた人も保湿性の高い肌へと改善することもできる。

 「商品を購入するだけで、くらしの満足度を高め、ドライヤーを使うのが楽しくなる。生活を幸せにでき、くらしをアップデートできる」とする。

 その差別化された商品提案の上で、パーソナル化に向けた次の進化を狙っていくことになる。

 「パーソナル化に向けては、まだ足りないものが多い。それを実現するために、なにが必要なものを探っていく」と、新たなモノづくりやコトづくりに挑む姿勢をみせる。

絶対に浮気をさせないヘアドライヤーを作り上げることができた

 パナソニックが、9月1日から発売する最上位ヘアドライヤー「ナノケア EH-NA0B」は、ビューティ・パーソナルケア事業部にとって、事業の中核となる商品だ。いわば、「顔」となる商品である。

 同社独自の微粒子イオン「ナノイー」の水分発生量を、従来比18倍に高めたデバイスを搭載。史上最高のナノイー発生量で、髪の毛のうるおいとなめらかさを向上させることができるのが特徴だ。

パナソニックの「ナノケア EH-NA0B」
髪の保湿量を高めることができる

 調査によると、女性の髪の悩みで最も多いのが「パサつき」であり、58%もの女性がそう回答している。

 新製品ではそこに着目。同社では、「髪の内部をうるおわせるには、髪の表面を覆うキューティクルの間にある細胞膜複合体(CMC)にあるデルタ層に向けて水分を届ける必要がある。新製品では、ナノイー水分発生量を18倍に高めたことで、髪内部にナノイーが浸透しやすくなり、毛髪の水分増加量を1.9倍に高め、髪のうるおいとなめらかさを向上させることができる。乾かすだけで髪質改善ができ、乾かしながらツヤと潤いを与える美しい仕上がりになる。使えば使うほど髪が元気になるのか特徴であり、使ってもらえばわかる自信作」と胸を張る。

 同社が、ユーザーや美容師を対象に発売前にモニター調査を行なったところ、従来製品と比べた際の満足度は99%と、驚くべき数値に達したことも「使ってもらえばわかる」という言葉を裏づける。

 パナソニックのドライヤーの歴史は、1937年に発売したホームドライヤーにまでさかのぼる。いまから82年前のことだ。当初は「乾かす」という役割だったものが、大風量によって「より早く乾かす」という進化を遂げ、それがマイナスイオンによって、「髪を美しくする」といった付加価値を提供するようになった。単に乾かすだけでなく、髪をケアし、髪をより美しく、より健やかにするための商品へと進化してきたわけだ。

1937年に発売したホームドライヤー

 だが、そうした進化のなかで、パナソニックには、ひとつの課題があった。ナノケアドライヤーの利用者の満足度は高いものの、次は違う製品の購入を検討したいという利用者がある一定数存在していたというのだ。

 理由はいくつかありそうだ。

 たとえば、美容家電の分野は、国内大手メーカーだけでなく、海外メーカーや中堅メーカーなども参入している市場で、大型家電に比べて新規参入する企業が多く、これらの企業のなかには、マーケティング戦略に長けている企業が多い。

 パナソニック アプライアンス社ビューティ・パーソナルケア事業部商品企画部スタイラ・アイロン商品企画課の清藤 美里課長は、「他社の製品や技術が大きく進化しているとプロモーションによって、感じてしまうこともある。しかし、パナソニックのナノケアの場合、これまでのデバイスの進化は、水分量が増えたとしても1.5倍や1.2倍。新たにナノケアを購入したいと思ってもらい、ナノケアから離れたくないと、もっと感じてもらうためには、インパクトが弱かった」と振り返る。

 デバイスの進化が限定的であったため、ナノケアドライヤーの良さは知っていても、「浮気」させてしまう余地を、ユーザーに与えていたといわざるを得なかった。

 だが、「今回は、他社の商品にスイッチしたいという人を引き留めることができる。絶対に浮気をさせない商品を作り上げることができたという自負がある。また、これまで使ってみたいが、使っていないかった人にも、ぜひ体験をしてもらいたい。その場で、髪の保湿量が違うことを理解してもらえる。新たなパナソニックファンを作ることができる商品」と、清藤氏は自信をみせる。

高浸透ナノイーは、美容のために進化させたデバイス

 長年の歴史を持つパナソニックの美容家電と健康家電は、特徴を持った事業特性と尖った商品戦略から「小粒でピリリと辛い」と評されることも多かった。この数年は、その「ピリリ」が失われていたのかもしれない。新たなナノケアドライヤーは、「ピリリ」を体現するには十分な性能を実現したともいえる。

 その「ピリリ」を実現したのは、なんといっても、新たなナノイーデバイスが完成したことである。

「ナノケア EH-NA0B」の内部構造
新開発の「高浸透ナノイー」デバイス

 新たに開発したナノイーデバイスは、「高浸透ナノイー」と呼ばれるもので、15年間のナノイードライヤーの歴史のなかで、初めて大幅な見直しを行なったものだ。しかも、6年もの期間をかけて開発したデバイスだ。

 新たにマルチリーダー放電方式を採用し、対極板の形状を変更。従来は放射線状に分散する形で放電していたものを、針の先端部に集中的に放電することで、放電エネルギーを高め、ナノイー水分発生量を大幅に増加させたという。

 「水分量を18倍にしたということは、単純に、ナノイーのプロックを18個搭載しているのと同じ性能を実現したことになる。それでいて、デバイスのサイズは従来と同じに留めている」(清藤氏)。

 まさにこれまでとは次元が異なる性能を実現したデバイスということになる。

 「デバイスのサイズを維持するとともに、どんな温度や湿度でも、安定して放電できるようにすることに苦労した。地域によって、性能が発揮できないというようなことが生まれないようにした」(清藤氏)。

 だが、この開発は困難を極めた。

 「ちょっとした電圧の変化で、水分量や粒子径などのパラメータが変わる。結果的に、24億種類のパラメータの組み合わせのなかから、どのバランスが最も安定するのかを見極めるために、膨大な作業を行なった。

 また、社内のモニター評価や美容師の意見を反映し、それをもとにさらに増数評価を行なうといったように地道な作業を繰り返していった。それが6年間という歳月がかかってしまった理由。仮説を作りながら、どこを変えれば求めるものができるのかということを、まさに手探りでみつけていった。長い手探り期間を経て、ついに待ちに待ったデバイスを完成させることができた。美容家電のために進化した新世代のナノイーデバイスが完成した」(清藤氏)。

 パナソニックでは、ナノイーデバイスの進化版として、2016年に、OHラジカル生成量を従来比10倍とした高機能帯電微粒子水「ナノイーX」デバイスを開発している。だが、今回開発した新たな「高浸透ナノイー」は、「ナノイーX」とはまったく別の進化を遂げたものだという。

新たなナノイーデバイスで、性能は飛躍的に進化した
パナソニックのナノケアドライヤーの歴史

 「ナノイーXは部屋の空気全体を対象にするが、高浸透ナノイーは、美容のために進化させたデバイスである。ドライヤーは長くても10分使用する程度。その10分間の中で、効果の最大化を担保するデバイスを開発したのが『高浸透ナノイー』。美容家電特化型ナノイーとして進化したものである」(清藤氏)と位置づける。

 高浸透ナノイーは、ナノケアドライヤー以外にも搭載の可能性を検討しており、「市場の声を聞きながら、新たなナノイーデバイスを採用していきたい」(林事業部長)としている。今後、どんな美容家電に、この戦略的デバイスが搭載されるのかが注目される。

 今回のナノケアドライヤーは、ビューティ・パーソナルケア事業部の成長にとって、大きな意味を持つ商品になる。

 林事業部長は、「新製品をビジネスとして成功させることが大きな一歩につながる」と意気込む一方で、「ビューティ・パーソナルケア事業部のグローバル化やパーナルル化を推進させるための青写真を、2019年度下期中にまとめ、2020年度には実行に移したい」とする。

 ビューティ・パーソナルケア事業部の成長戦略は、どんな青写真になろうとしているのか。2020年度以降に向けた準備と、その取り組みに注目しておきたい。

大河原 克行