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代官山T-SITE GARDENに電動アシスト自転車専門店がオープンした理由
代官山T-SITE GARDENにある“電チャリ”専門店「Motovelo(モトベロ)」 |
最近、都内で話題になっている場所の1つに、代官山の複合施設「T-SITE GARDEN」がある。店内でゆったりと本を読める大型書店「蔦谷書店」を中心として、レストランやイベントスペースなどが並ぶ。
今回、取材させていただいた「Motovelo(モトベロ)」は、そんな最新スポットの一角に店を構える電動アシスト自転車の専門店だ。
充電式のバッテリーを搭載し、坂道や発進時の負担をアシストしてくれる電動アシスト自転車は、ここ最近注目が集まっている市場だ。震災以降さらに市場が拡大し、製品需要は前年比1.5倍(GfK調べ・2011年12月)だという。しかし、電動アシスト自転車の主なターゲット層は、子供を乗せて走る主婦層だと言われている。セレクトショップやおしゃれな雑貨店が立ち並ぶ代官山のイメージとはかけ離れている気もする。なぜ、代官山に電動アシスト自転車の専門店をオープンしたのだろう。今回は代官山 Motoveloの代表取締役社長 増田浩旭氏にお話を伺った。
■電動アシスト自転車ではなく“電チャリ”
代表取締役社長 増田浩旭氏 |
そもそも、Motoveloオープンの経緯には、TSUTAYA、Tカードの運営をするカルチュア・コンビニエンス・クラブの社長、増田宗昭氏の「代官山 オトナTSUTAYA計画」への賛同があったという。同計画は、増田宗昭氏が「プレミアエイジ」と呼ぶ50歳以上の大人たちがメインターゲットにした新型商業施設、つまり「T-SITE GARDEN」の原案に当たるもので、文化とコミュニケーションを主要テーマとしている。
T-SITE GARDENでは「団塊の世代の方たちに、ライフスタイルそのものを提案する場」を目指しているという。
Motoveloの基本コンセプトも、オトナTSUTAYA計画に乗っ取ったもので、主要ターゲットは団塊世代以上だという。では、なぜその世代に電動アシスト自転車なのだろうか。
「電動アシスト自転車というのは、普通の自転車に比べて価格設定が高めになっているので、なかなか購入しづらい製品なんです。その点、T-SITE GARDENの主要ターゲットである団塊の世代の方は、お金も時間もある。また、ライフスタイルを提案するという意味でも、電動アシスト自転車はぴったりだったんです」
主婦層からターゲットを変更するに当たって、店内のインテリアや陳列方法にも工夫を凝らしている。白い壁に電動アシスト自転車が陳列されている様子は、これまでの「自転車屋さん」のイメージとは大きく異なる。そこには徹底的なブランディングがあったという。
「T-SITE GARDENは、ライフスタイルそのものを提案、ブランディングしていくことに大きな目標があるので『Motovelo』もそこには気をつかいました。たとえば、店名1つとっても、●●自転車屋や、●●サイクルという名前は避けています。店名のMotoveloは、イタリア語を組み合わせた造語で、モーターを搭載した自転車というような意味を示します。また、呼び方も電動アシスト自転車ではなく、“電チャリ”にしています」
店名のMotoveloというのはイタリア語を組み合わせた造語で、モーターを搭載した自転車というような意味がある | 「アシスト」という言葉になじみがない人もいるとして、Motoveloでは電動アシスト自転車ではなく電チャリと呼んでいる |
■目指したのは「車のディーラー」のような空間
自転車というと、日常生活に密着した“道具”というイメージがあるが、Motoveloの店内には、生活感や道具といったイメージはまったくない。まるで、電動アシスト自転車のショールームのようなのだ。
「目指したのは、車のディーラーのような空間です。車を買う時は、みなさんディーラーに出かけていって、そこで車種や内装をゆっくりと時間をかけて選ぶ。納車には1カ月かかるのが当たり前ですよね。Motoveloでも、そういったこだわりや好みを大切にしています。もっとも、納車については1カ月も待ってくれるお客様はほとんどいらっしゃらず、すぐにでも欲しいという方がほどんどですが(笑)」
店内の様子。様々な種類の電チャリが並ぶ | 2階にも製品がディスプレイされている | 関連商品なども展示されていて、まるでセレクトショップのような雰囲気だ |
スポーツタイプのモデルが人気だという |
Motoveloでは、これまでの電動アシスト自転車のイメージとはかけ離れたブランディングによって、実際に注目を集めてもいる。1日の来客数は多い時で2,000人にも及ぶ。もちろん、代官山のT-SITE GARDEN自体が注目を集めていることも関係あるだろうが、取材時も、平日で雨が降っているのにも関わらず、昼間から何人ものお客さんが入れ替わり出入りしていた。
「実際、思っていた以上に反響がありました。当初は、軽快車と呼ばれるいわゆるママチャリスタイルの製品や子乗せモデルがやっぱり主力になるのかなと思っていたら、実際はスポーツ系のモデルが半分以上を占めています。特に人気なのが小型のデザインを重視したモデル。想像していたよりも、さらにスタイリッシュなモデル、スポーティーなモデルを求めるお客様が多いと感じています」
■試乗しないで買うのはあり得ない
様々なタイプの電動アシスト自転車を揃えているというのは、やはり専門店ならではだろう。しかし、増田氏は「何よりの強みは試乗できること」と断言する。
「特にデザインを重視した海外製の製品は、インターネットなどで販売されている例もありますが、試乗もしないで自転車を買うなんて、絶対にしちゃいけません。あり得ないです。特に、海外製の製品の場合、日本国内の規格に乗っ取っていないものを平気で売っていたりするので、安全性にも不安が残ります」
その点、専門店のMotoveloでは、整備、アフターケアについては強い自信を持つ。店内には専門知識のあるスタッフが在駐する整備コーナーも設けられている。
店内には整備コーナーが設けられており、専門知識のあるスタッフが在駐する | サドルの高さなども乗る人によって調整してくれる |
「来店されたお客様には、まず用途を聞いて、それに合わせてバッテリーの大きさや、アシストの強さから製品を選んで、おすすめしています。一口に電動アシスト自転車といっても製品によって、乗り心地は全く違います。たとえばフロント部にチャイルドシートを搭載している子乗せモデルでも様々なタイプがあります。お母さんの背が高いのか、低いのか、どのような用途で使うのか――チャイルドシートでも様々なタイプを用意しているので、お子さんの乗り心地も試すことができます。代官山は坂が多い場所なので、試乗にはうってつけの場所なんですよね」
電動アシスト自転車の主力製品である子乗せモデルも、様々なタイプが揃う | チャイルドシートは日本製だけでなく、海外で評価の高い製品を取り寄せているという |
■電動アシスト自転車は、嗜好品でなく実用品として求める人が多い
ところで、電動アシスト自転車以上に注目を集めているのがスポーツタイプの高級自転車だ。雑誌でも次々と特集が組まれ、専用のグッズも登場している。都市部では、10万円以上するクロスバイクを乗る人もよく見かける。MotoveloがあるT-SITE GARDENは、代官山という場所柄、流行に敏感な人やファッションにこだわっている人が多い。既にクロスバイクを持っている人が電動アシスト自転車を買いに来るということはあるのだろうか。
「確かに震災以降、都内でもクロスバイクを乗っている人をよく見かけますし、代官山に自転車でいらっしゃる方も多いです。でも、電動自転車の需要はその延長線にはないと思います。たとえば、スポーツタイプの自転車に乗っている方は、製品について細かく調べて『このパーツならどこどこのメーカーの物がいい』といったこだわりがある人が多いです。
でも、電動アシスト自転車を買いに来るお客さんは、自転車に対しての知識があまりない方が多いですね。普通の自転車に比べて割高にもかかわらず、ほとんど何も知らない状態で来店されて、デザインを見て、さっと決めていくので、こちらも驚いてしまうくらいです。やはり、電動アシスト自転車というのは、嗜好品というよりも実用品に近い感覚なのだと思います。車種やメーカーにこだわりがなくても、通勤や通学、子供の送り迎えといった用途は最初からはっきりされている方が多いですから」
一方、今後の需要については「確実に増えていく」と断言する。
「今後の高齢化社会を考えると、年70万台くらいの市場までは拡大するでしょうね。電動アシスト自転車に限らず、自転車に乗って身体を動かすということは痴呆の予防にもつながります。ただ、高齢の方が自分の体力以上のことをやってしまうと、大きな怪我にもつながりかねません。その点、電動アシスト自転車は無理せず、自分のペースで有酸素運動できる。無理せず、気張らずというところがポイントです」
Motoveloの今後については、オリジナルモデルの開発を進めているという。
「細かい規制や認可の問題もあるので、なかなか大変なんですけどね。今進めているのは、フレームにクロームモリブデン銅を使用した軽量タイプ。軽くてかつ丈夫なスポーツ指向のモデルを作ろうと思っています。もちろん、デザインも重視します」
Motoveloでは現在もカスタムサービスを展開している | フレームなど主要な部品だけでなく、細かいパーツの色まで変更できる |
Motoveloでは現在でもカラーやスワロフスキーの装飾によるオリジナルモデルも受け付けている。これらの取り組みは自転車業界では一般的なものだが、電動アシスト自転車でこのようなカスタムを行っているのは非常に珍しい。このような独自のブランディングや、ユーザーへの親身なアドバイスを功を奏しているのか、売り上げもオープン以来好調なのだとか。
また、立地や店内の雰囲気がメーカーに気に入られ、「うちの製品を置いて欲しい」という声も多いという。インタビュー中でおっしゃっていたように、電動アシスト自転車はまだ道具や実用品として、見られることが多いのだろうが、それにも関わらず“遊び”や“余裕”を感じさせるお店造りはさすがだ。
これから気候が良くなる季節、散歩がてらに代官山まで足を運んでみてはいかだろうか。
2012年5月18日 00:00