そこが知りたい家電の新技術
パナソニックの家電が「プチ」になっているワケ
パナソニックは、少人数世帯向けの食器洗い乾燥機「プチ食洗」を2月10日から発売した。設置面積470×300mm(幅×奥行き)というこれまでにないコンパクトなサイズと機能性で注目を集めている。パナソニックでは、プチ食洗と共に、60×60cmの“マンションサイズ”を実現したドラム式洗濯乾燥機「プチドラム」の新モデルを発表。両製品を「プチ家電」としてマーケティング展開していくという。
少人数世帯向けの食器洗い乾燥機「NP-TCR1」 | 3月10日より発売するプチドラムの新製品。本体カラーがホワイトの「NA-VD110L」と、コモンブラックの「NA-VD210L」 |
そもそもドラム式洗濯乾燥機や食器洗い乾燥機は「家事の負担を減らす家電」として、これまではどちらかというと大家族向けのイメージがあった。それを少人数世帯向けにコンパクトにする狙いはどこにあるのだろう。
今回は、プチドラムの製品開発とマーケティングを担当したパナソニック 商品グループ メジャーアプライアンスチーム 主事 太田邦仁氏、同じくメジャーアプライアンスチーム 主事 福田風子氏、プチ食洗を担当したリビングアプライアンスチーム 朱雅ブン氏の3名にお話を伺ってきた。
■“憧れ家電”を手に届く場所に
パナソニック 商品グループ メジャーアプライアンスチーム 主事 太田邦仁氏 |
――今回のプチ家電展開のきっかけはどんなところにあったんですか。
「まずは、昨年発売したプチドラムの大ヒットがありました。小さいドラム式洗濯乾燥機が欲しい、という声はこれまでにも本当にたくさんいただいていました。実は2004年には、本体サイズではなくて、容量が小さいモデルを発売したこともあったんです。その時に実感したのは、お客様が求めているのは、容量の小ささではなく、サイズの小ささなんだなということです」(太田)
――これまでドラム式洗濯乾燥機というと、1日に何回も洗濯機を回すような大家族向けの製品というイメージが強かったように思います。
「確かに、我々もそういうイメージがありました。でも、実際に調査してみるとそもそもそういう大家族自体が年々減っているんですよね。代わりに増えているのが単身や2人暮らしといった少人数世帯、特に『DINKS』と言われている30代の共働き夫婦でした。私たちも含め、これまで家電メーカーが考える単身者あるいは2人世帯向けの製品というのは、機能感よりも値ごろ感を優先したものでした。でも、DINKS世帯がそれら単身者用の製品に惹かれるかというと、全く違う製品を求めているんですよね」(太田)
――具体的に、どういう点がこれまでの単身者・少人数世帯向けの製品と違うのでしょうか。
「まずはDINKS世代が多く住むマンションに置けるサイズ感、そして本格的な機能、またデザインにもこだわっています。たとえば、プチドラムでは、レギュラーモデルの『ななめドラム』とドラムの直径は一緒にしています。サイズを抑えるのはもちろん、大事なことではあるけれど、そこで洗濯機の基本機能である洗浄力を落としてはいけない。ドラム式の武器である『たたき洗い』の効果をそのままに、サイズを抑えることに注力しました」(太田)
夫婦と未婚の子供から成る従来の「標準世帯」は減少傾向にある一方、単身者や夫婦のみの世帯が年々増加している | プチドラムの購入者ファイル。マンションに住む、30代以下の少人数世帯が目立つ。プチドラムのターゲット層と合致する結果になった |
パナソニック 商品グループ メジャーアプライアンスチーム 主事 福田風子氏 |
――DINKS世帯向けと聞くと、かなり大胆にターゲットを絞っているような印象も受けます。
「結果としては、それが良かったんだと思います。実際、プチドラムの実際の購入者の7割が2人暮らし以下の少人数世帯だったんです。ターゲットを絞り込んだことで、製品発表後の反響もすごかったです。ドラム式洗濯機の市場自体が、近年横ばい状態であったのにも関わらず、2011年は確実に売り上げが伸びましたし、売上の2割強をプチドラムが占めました」(福田)
――単純な疑問なんですが、やはり縦型ではなくドラム式洗濯乾燥機を置きたいという人が多いということなんでしょうか。
「もちろん、ドラム式は縦型に比べて、節水性能が圧倒的に優れている、乾燥時の省エネ性も高いという利点もありますが、それよりもやはりドラム式洗濯乾燥機への憧れが強いみたいです。実際に、私もDINKSに当たるんですが、友人から『マンションに置けるドラム式作って』といわれることが多く、ニーズを肌で実感していました」(福田)
――プチドラムでは、従来のドラム式洗濯乾燥機からかなりサイズを小さくしている訳ですが、それについてはどういった点に苦労されましたか。
「1番の目標はとにかく小さくすることでした。都市部のマンションをリサーチして、“置けるサイズ”である60×60cmを設定。そこからは水路やヒーターの場所など、プチドラム用に全てイチから設計し直しました。また、ただ単に小さいだけでなく、機能性にもこだわりました。開発段階で5,000回くらい実際に洗濯をして、洗浄性能や乾燥性能を徹底的にチェックしています」(福田)
■ターゲットありきの製品作り
リビングアプライアンスチーム 朱雅ブン氏 |
――容量の小さな食器洗い乾燥機“プチ食洗”についても同様の経緯があったんですか。
「プチ食洗の開発のきっかけには、プチドラムのヒットがありますが、食器洗い乾燥機に関しても、“欲しいのに置けない”という声はたくさんいただいていました。日本は、先進国の中でも、食器洗い乾燥機の普及率が低い国です。もちろん、考え方や習慣の違いもあるのですが、欲しいけど置けないという方も多かったんですね。そこで、マンションのキッチンにも置けるサイズの食器洗い乾燥機を作ることになりました」(朱)
――プチ食洗に関しては、容量もかなりカットしていますよね。従来は食器点数53点だったのに対して、プチ食洗では18点としています。これは、どういった基準で選ばれたんですか。
「庫内容量やレイアウトについては、製品の使い勝手を大きく左右するものなので、かなり悩んだところです。そこで、社内外で徹底的なリサーチを行なったんです。といっても、方法は割と単純なんですが(笑) まず、社内のDINKS世帯の人たちに実際の夕食風景を写真に撮ってきてもらい、食器の点数や形状を調べました。すると、食器は平均13点、また想像していたよりも様々な形状のお皿を使っている人が多く、特に大皿を使っている家庭が多かったんです。
そこで、食器点数は平均使用点数よりも多い18点に設定し、直径24cmの大皿も収納できるレイアウトに変更。形が揃っていないお皿にも対応できるように、お皿を固定するピンの位置など最初から見直しました。さらに、一般のターゲットを集めてグループインタビューをするなど、生活実態の調査も行なっています。こういった細かいリサーチができるのも、ターゲットをDINKSに絞っているからこそです。ユーザーの細かいニーズに対応できるという利点はターゲットありきの製品作りだからこそだと思います」(朱)
庫内の様子 | 大きさの異なる食器に対応するため、食器固定ピンの位置にこだわったという | 直径24cmの大皿にも対応する |
■市場にインパクトを与えたかった
――今回プチ食洗は、いわば新ジャンルの製品であるにも関わらず、一度に3機種を発売していますよね。これにはどういった狙いがあるのでしょうか。
「まずは、食器洗い乾燥機にもっと目を向けて欲しいという想いがあります。食器洗い乾燥機は『一度使うと手放せない』というユーザーの方が多くいるのにも関わらず、普及率が低い製品です。プチ食洗というネーミングやこれまでなかったサイズ感だけでなく、ラインナップや価格に幅を持たせることで、市場にインパクトを与えたいという狙いがありました」(朱)
――具体的にはどのようなラインナップになるのでしょうか。
「今回、プチ食洗は3つのラインナップを展開していますが、エントリーモデルにあたるNP-TCB1では、乾燥機能を省略しています。これは、既存ユーザーへのアンケートから出てきたアイディアなんです。パナソニックの食器洗い乾燥機は70℃以上の高温のお湯で食器を洗います。高温のお湯を使っているので、自然乾燥しやすく、洗浄工程のあと乾燥工程を省略している、というお客様が結構いたんですよね。そこで、乾燥機能を省略した購入しやすいモデルも用意しました」(朱)
――一方、上位機種「NP-TCR1」では、自動で省エネ運転する「エコナビ」機能も搭載しています。
「エコナビ機能は震災後の節電需要に合わせて、後からプログラムに入れたものです。サイズは小さくても、機能は本格的であるというのはプチ家電の基本的なコンセプトでもあります」
――プチ食洗を開発するに当たって、一番苦労した点はどんなところですか?
「技術的なところでいうと、やはりサイズを小さくするのに苦労しました。内部のゴムホースを省略したり、ヒーターも設計から見直しています。
あとは、正直、製品のコンセプトに不安を感じたこともありました。たとえば、若い夫婦であれば今後お子さんが生まれたりして、家族が増えることも考えられます。2人用の食器洗い乾燥機がどういう風に受け入れられるか、心配はありました。でも、それは事前の調査やマーケティングによって解消されました。というのも、プチ食洗が女性だけでなく、DINKS世代の男性にとても好評だったからです。実はDINKS世代では、食器を洗うのが男性の役割というのが珍しくありません。『この場ですぐに買っていきたい』、『マンションのキッチンに置ける食器洗い乾燥機を待っていた』という声をいただき、製品にも自信が持てました」(朱)
水切りカゴと同等のサイズを目指したという | 奥行きも抑えている |
――プチ家電シリーズ全体に関してはいかがでしょうか。
「マーケティング展開していく上では“わかりやすさ”に気を付けました。ただサイズのことだけをアピールするのではなく、『マンションサイズ』や『水切りカゴサイズ』など、わかりやすく、生活を連想させる言葉を選びました」(太田)
■大が小を兼ねるという考え方は終わった
――パナソニックでは、アラサー向けの家電製品シリーズとして数年前から「ナイトカラー」も展開しています。ナイトカラーと今回のプチ家電はコンセプトがとても近いようにも感じるのですが、違いはあるのでしょうか。
「ナイトカラーは30歳前後のシングル向け、プチ家電は30代の夫婦向けというのが大きな違いです。特に、DINKS世帯は約7割の方が家電を使って家事の効率化をしたいと考えています。ドラム式洗濯乾燥機と食器洗い乾燥機は、まさに家事を補助してくれる家電製品ですので、共働き夫婦向けの製品と言えると思います」(太田)
――今後の展開についてはいかがでしょうか。
「プチ家電を開発していくうえで一番強く感じたのは“大が小を兼ねる”という考え方は終わったなということです。これまでの家電メーカーのスタンダードでは、容量が一番大きいモデルが、最も高性能というのが当たり前でした。しかし、少人数世帯がこれだけ増えてきているのに、メーカーだけがその考えに固執しているのは違和感があります。今後は、プチ家電のように、本格的な機能でありながらコンパクトな製品がさらに増えていくのではないかと思います」(太田)
――今日はありがとうございました。
2012年2月28日 00:00