そこが知りたい家電の新技術

入場者310万人突破“覚悟の投資”で建てたパナソニックのショールームがスゴイ

パナソニックセンター大阪が入居するグランフロント大阪南館。JR大阪駅直結という抜群の立地だ

 突然だが、みなさんは家電メーカーのショールームというのに出かけたことがあるだろうか? 筆者は仕事柄もちろんあるが、プライベートで出かけたことがあるかと言われると答えはノー。メーカーのショールームというと、子供の社会科見学かあるいは、ビジネスマンがたくさんいるというイメージで、“休みの日に出かける場所”という考えは全くなかった。

 そんなメーカーのショールームのイメージにパナソニックが大きく風穴を開けた。JR大阪駅直結、昨年オープンしたばかりのグランフロント大阪のエントランス、一番目立つ場所にショールームを構えたのだ。入っているテナントは最先端のショップばかり、平日でも人でごった返す、まさに最高の立地。当然、入居費用も高額だろう。日本の家電メーカーの元気がないと言われる今、なぜパナソニックがこの場所にショールームをオープンしたのか、現地に取材に行ってきた。

お客様を待つのではなくて、お客様の中に飛び込んでいく

 パナソニックセンター大阪は、2013年4月26日にグランフロント大阪南館にオープンした。地下1階から2階まで3フロアを占拠する巨大なショールームで、コンシューマー向け製品を多く展示するほか、家電に興味がない人でも入りやすいレストランや、メイクコーナーなどの施設も併設する。

パナソニックセンター大阪 運営チーム チームリーダーの海部裕子さん

 パナソニックセンター大阪 運営チーム チームリーダーの海部裕子さんは、同施設のオープンについて次のように語る。

 「パナソニックセンター大阪のオープン当時は、会社の業績がよくなかったこともあり、本当に大きな投資でした。ただ、弊社も含めてこれまで家電メーカーのショールームというのは、都心から離れた場所にあり、お客様がくるのをただ待っていました。そうではなくて、これからはお客様がいるところに飛び込んでいくことが必要だと。もともと、パナソニックは大阪の企業で、大阪の皆様に育てていただいたという背景もあり、この場所を選びました」

 パナソニックセンター大阪は、業績が厳しかったからこそ選んだ新たな“投資”だったというのだ。展示方法も従来のショールームとは大きく異なる。

 「これまでのショールームというのは、モノつまり、製品の展示が中心で、展示の方法も製品ごとのゾーニングでした。しかし、パナソニックセンター大阪では、モノではなくてコト、つまり体験の方に重きを置いた展示をしています。美しくなるコト、食べるコト、楽しいコト、住むコト、それぞれ美・食・楽・住に分けた展示を行なっています」

モノではなくて、コトに重きを置いた展示を行なう。例えば食器洗い乾燥機では、大きな「除菌」という文字が。食器を洗うための製品ではなく、お皿を清潔に保つ、除菌するための製品というアプローチだ
洗濯機のコーナーでは「泡」という文字。製品だけを並べるのではなく、洗剤など関連製品も併せて展示。まるで雑貨屋さんのようなディスプレイを行なう
一面ガラス張りで、外を歩いていても中の展示が見える。入りやすいオープンな雰囲気だ
専門スタッフが疑問に直接答えてくれる
一階では、スマートハウスの展示も。実際の生活の中でスマートハウスの仕組みがどう役立つのか、専任スタッフがレクチャーしてくれる
家電への単純な疑問を書いたクエスチョン&アンサーカードが各コーナーに設けられている。写真は縦型洗濯機とドラム式洗濯機の違いは? という質問への回答だ

 もう1つ、パナソニックセンター大阪で心がけているのは「パナソニックのショールーム」だと知らずに入れるような仕組みだ。

 例えば、2階の一番目立つ場所には、55インチ×16面のマルチ映像システムを配置。迫力の大画面では、そのとき旬の映像を流す。また、オーブンレンジ「3つ星ビストロ」や炊飯器「スチーム&可変圧力IHジャー炊飯器」など、パナソニックの調理家電を使って作った食事ができるカフェ「Foodie Foodie」もその1つだ。普通のカフェと変わらないオシャレな外観で、ヘルシーかつ家庭的な料理を楽しむことができる。筆者が行ったのは月曜日だが、お昼前から席は満席。しかも9割が女性だった。

2階の一番目立つ場所に配置された55インチ×16面のマルチ映像システム。訪問時はW杯開催中だったので、ネイマールの映像が流れていた
パナソニックの調理家電で作った料理を提供するカフェ「Foodie Foodie」
キッチンにはオーブンレンジ「3つ星ビストロ」が並ぶ
お店で提供している米はスチーム&可変圧力IHジャー炊飯器で炊いたもの
「Foodie Foodie」のランチ一例。ちょっとづつ色々なものを食べられる
充実したメニューで平日にもかかわらずランチタイムは満席だった

 「パナソニックのショールームは、これまでビジネスを目的とした男性の方が圧倒的に多かっのです。しかし、パナソニックセンター大阪では、“一般の生活者”の方に来ていただくことを目的としています。私達は、パナソニックセンター大阪を“受発信拠点”だと考えています。これまでのショールームとは違うアプローチで情報を発信しながら、お客様からの生の声を受け取る場所。実際、私たちが想像もつかなかったご意見をお客様からいただくこともあり、フィードバッグできるようなしくみも作っています」

美容家電を自由に試せる「CLUXTA」も満席

1時間300円でパナソニックの美容家電を自由に使えるという「CLUXTA」。美容院のような雰囲気の入り口。この日は平日昼間にもかかわらず満席だった

 もう1つ、パナソニックセンターで賑わいを見せているのが、1時間300円でパナソニックの美容家電を自由に使えるという「CLUXTA」だ。「CLUXTA」は、化粧品メーカーの資生堂とコラボレーションした女性向けサロンで、中にはメイク落としはもちろん、化粧水や最新のメイクグッズがズラリと並ぶ。ここでメイクを落とした状態で自由にパナソニックの美容家電を試すことができる。

 美容家電のサンプル機は家電量販店の店頭で用意されているところもあるが、メイクをしたまま試せるものは少ないし、家族や友人と出かけた時に1人だけじっくり試すこともできない。「CLUXTA」であれば、鏡のある場所でメイクを落としてじっくり試すことができるというわけだ。

 驚くことに「CLUXTA」もまた満席だった。平日の昼間、しかも安価とはいえ有料ですよ? と疑う気持ちが強かったのだが、「CLUXTA」の席に案内されて、実際に体験したところ、その考えは吹き飛んでしまった。独立した大きな鏡台に座ると、周りの目など全く気にすることなく、最新の美容家電とメイクグッズにのめり込んでしまった。

それぞれ独立したメイクスペース。仕切りがあるので、周りを気にすることがない
「CLUXTA」で試すことができるパナソニックの美容家電
顔を洗うスペースも用意されている
メイクグッズは資生堂の最新アイテムがずらりと用意されている
美容家電には、分かりやすくて丁寧な説明書がついてくる
各スペースには専用タブレットが置かれ、いつでも製品のことを詳しく調べることができる

 「各スペースの広さや鏡台のサイズは、様々なデパートやサロンのメイクコーナーを見て研究しました。間に衝立を設けることで、リラックスしてお使いいただけます。おかげさまでCLUXTAはご好評をいただいておりまして、満席の時も少なくありません。お客様の平均滞在時間は約70分で、延長される方が多いんです。普段のメイク直しはもちろん、ハロウィーンや夏の花火大会の前に、ここでいつもと違うメイクやヘアースタイルを楽しむ方もいらっしゃいます」

あちこちにちりばめられたパナソニックの最新製品

 一般の消費者が気軽に入りやすい工夫を様々な形で取り入れているパナソニックセンター大阪だが、実はまだ商品化されていない製品、あるいはBtoB製品も様々なところに展示されている。

 例えば前述のカフェには大きな黒板があるが、これは実はプロジェクターで投影されたもので、いつでも内容を簡単に変更できる。手書きの黒板に近づけるため、あえて消し残しなどを残している。

Foodie Foodieの黒板は、プロジェクターで投影されたもの
手書きの雰囲気を出すために消し残しなども再現している
こちらの小型の看板もプロジェクターで投影されたもの
プロジェクターは台座部分に設置されている

 CLUXTAには、ナノイーを放出して衣類のニオイを除去するクローゼットや、前だけでなくて後ろ、足もと、頭頂部まで一度に確認できる姿見、外出先によってメイク時の明るさを調節できるメイク用鏡、など見たことのない製品が溢れている。

衣類のニオイを除去するというナノイークローゼット
中にはナノイー放出口が備えられている
前だけでなくて、バストアップ、後ろ姿、足もとまで一気に映し出す姿見
こちらの鏡は明るさを調節できる
Outdoor、Shopping、Dinnerなど外出先に合わせて、ランプの色を変化。外出先の明るさに近づけた環境でメイクすることで、仕上がりをコントロールできる

 「ビジネス向けの展示という意味ももちろんあるのですが、実際にお客様に知っていただく、使っていただくことで、ご意見をいただくという目的もあります」

覚悟を持ってやっただけの反響を実感

 このような取り組みによってパナソニックセンター大阪の入場者数はオープンから1年半で310万人を突破。しかし、これらの取り組みには相当な“覚悟”が必要だったという。

 「これまでのショールームとは全く違うアプローチをしてきたので、大変なこともたくさんありました。しかし、覚悟を持ってやっただけの反響はあったと思います。ジワジワとでもパナソニックのファンを作れればいいなとと思っています」

 昨今、インターネットでの家電売買が盛んになり、家電量販店のショールーム化なども話題になっている。しかし、本当に気になる家電があるならば、やはり家電メーカーのショールームに行くべきだ。なぜなら、ここでは売買抜きに純粋に家電のことを心ゆくまでレクチャーしてくれる。パナソニックセンター大阪は、一般ユーザーが行きやすい場所に、入りやすいように、見やすいように、工夫し尽くされた“休日に行きたい”ショールームだ。

阿部 夏子