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[聴こうクラシック30]夏~秋の季節を感じるレスピーギの「ローマの松」

新学期を迎え、季節がだんだんと秋へ向かっている気配を感じるようになりましたね。今回は、過ぎゆく夏の思い出と、秋の気配が感じられる、オットリーノ・レスピーギの「ローマの松」をご紹介します。イタリアの太陽のようなまぶしいほどの弦楽器や金管楽器の響きの一方で、木管楽器の哀愁ある旋律が秋の気配を感じさせる1曲です。 

 

おしどり夫婦だったイタリアの作曲家レスピーギ

オットリーノ・レスピーギは1879年イタリアのボローニャで生まれ、1936年56歳のときに同国で亡くなりました。音楽教師だった父親からピアノとヴァイオリンを習い、ボローニャの音楽学校を卒業。21歳のときロシア帝国劇場管弦楽団の首席ヴィオラ奏者として、サンクトペテルブルクに赴任します。そのときニコライ・リムスキー=コルサコフに出会い、作曲の指導を受けました。40歳のときに、メゾソプラノ歌手で作曲家のエルザ・オリヴィエリ=サンジャコモと結婚します。第二次世界大戦中、晩年のレスピーギは、ファシストに接近したため、戦後の演奏頻度が激減しましたが、没後は、エルザが1996年に101歳で永眠するまでの間、夫の遺した作品の初演や録音、楽譜出版のために尽力し、近年になって再評価を得られるようになったのです。

 

歴史を見守るローマの松

「ローマの松」はレスピーギが45歳のときに作曲した交響詩で、全曲通して20分くらいの楽曲です。この曲の前後に作曲した「ローマの噴水」「ローマの祭り」と合わせ、「ローマ三部作」として知られています。彼はこの曲で、地中海沿岸を中心に自生し、長い歴史を見守ってきたであろう「イタリアカラマツ」の木を通して、古代ローマを表現しようとしました。この曲には、グレゴリオ聖歌など古い教会旋法が用いられている箇所もあります。

 

4楽章構成で、ローマの4カ所に立つ松を表現

この曲は4楽章で構成されていて、それぞれにレスピーギ自身の説明があります。第1楽章の「ボルゲーゼ荘の松」は、松の木立の間で遊ぶ子どもたちを描写しています。今もローマに実在する公園の松並木です。第2楽章の「カタコンバ付近の松」は、古代ローマのお墓から聴こえてくる祈りや歌声を表現しています。第3楽章の「ジャニコロの松」は、ローマ南西部の丘を題材に、満月に浮かぶ松の幻想的な夜が描かれています。第4楽章の「アッピア街道の松」は、霧深い夜明けから始まり、やがて古代ローマの軍隊の輝かしい行進が登場します。

 

「ローマの松」の聴きどころ

第1楽章、第2楽章と聴き進んでいくと、第3楽章の最後でナイチンゲールの声の録音が再生されます。録音物がオーケストラで用いられた、初期の作品と言えるでしょう。また第4楽章の最後では、演奏会の会場によりますが、金管楽器が客席の後ろや2階から演奏され、立体的な音響を楽しめます。演奏会に来たお客様にしてみれば、どこから音が聴こえてくるのかが最後のお楽しみになるわけです。 

 

おすすめの演奏

 

 

それではレスピーギの「ローマの松」を聴いてみましょう。アラン・ギルバート指揮、ニューヨーク・フィルハーモニックの演奏です。

 

参考文献

「クラシック作曲家事典」渡辺和彦監修 学習研究社
「音楽の366日話題事典」朝川博・水島昭男著 東京堂出版

 

 

あやふくろう(ヴァイオリン奏者)

ヴァイオリン奏者・インストラクター。音大卒業後、グルメのため、音楽のため、世界遺産の秘境まで行脚。現在、自然とワイナリーに囲まれた山梨で主婦業を満喫中。富士山を愛でながら、ヨガすることがマイブーム。