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【基本の薬膳8】心身のバランスを保つ「五行説」、薬膳の基本思想
2016年 7月 24日 06:30
東洋医学や薬膳では、バランスや中庸を重視しますが、その基に「五行説」の考えがあります。自ら心身をバランス良く保てるようになると、今より過ごしやすく健康になるので、五行の思想を覗いてみませんか。「五行(ごぎょう)説」とは古代中国で発祥した思想で、自然界や人体といったあらゆる事象を「木」「火」「土」「金」「水」の5つの概念で考えます。これらのバランスを変化させて、人体なら全体のバランスの取れた健康体を目指すということになります。方角、色彩、味覚、臓器、感情なども五行で、それぞれの要素が影響し合うと考えるのです。東洋医学では五行が診療や薬学の基準に、薬膳でも「五味」や「五臓」などの概念を使います。それぞれの性質や関係性、「五味」や「五臓」について順次紹介していきますので、まずは五行の考えや五行図の見方を楽しんでみてくださいね!
五行の「相性(そうせい)」と「相剋(そうこく)」の考え方
「五行」では、5つの要素を「相性」と「相剋」の関係で変化させながら調整すすると考えます。「木」→「火」→「土」→「金」→「水」(→「木」に戻る)の向きは、機能を高めたり生み出す、援護するといった意味をもつ「相性(そうせい)」の関係です。一方、逆向きの「木」→「土」→「水」→「火」→「金」(→「木」に戻る)の向きは、「相剋(そうこく)」と呼ぶ「剋する(こくする・負かす)」関係となり、抑制、反発し合う作用を示します。五行の「相性」や「相剋」の関係は、互いに強弱をつけたり機能を高めるほか、時には支配し合いバランスを取り、「五味」(味、食材全般の作用)を考えるときも役立ちます。次の「木」と「火」の要素で、具体的に見てみましょう。
「木(もく)」が意味する性質や味、器官
「木」は樹木を示し、枝や葉が伸びるように柔軟さや広がりの意味をもちます。
【自然】
味(五味)…酸
方角(五位)…東
色彩…青
気候(五気)…風
季節(五時)…春
【人体】
五臓…肝
五腑(六腑)…胆
五官(五根)…目
五体(五主)…筋
五情…怒
前述の「相性」の関係で考えると、「水」から「木」の関係は、命の源となる〈水〉を吸い上げ樹〈木〉が育つという協力的な作用を示します。「相性」の関係の場合、食材同士の相性も良い場合が多いとされます。また「木」は「酸」味で、「春」には「酸」味の食材を多く摂るのが良いと五行図を見ていきます。
「火(か)」が意味する性質や味、器官
燃え盛る炎のごとく、気持ちや状態が盛んな様子を示します。高熱の症状も「火」の要素とされます。
【自然】
味(五味)…苦
方角(五位)…南
色彩…赤
気候(五気)…暑
季節(五時)…夏
【人体】
五臓…心
五腑(六腑)…小腸
五官(五根)…舌
五体(五主)…脈
五情…喜(笑)
五行の「火」は「木」から生まれ、燃えて「土」に帰ります(「相性」)。一方で「水」は「火」を消し、「火」は「金」を溶かすという互いに「相剋」の関係もあります。五行の「相性」や「相剋」は、互いに強弱をつけたり抑制し合い循環します。人体に当てはめた場合は、健康体を基盤にバランスを保ちます。「火」要素の「心」は「苦」味で助け、相性の関係で「木」にある「酸」味も「心」を助けると考えます。
「土(ど)」が意味する性質や味、器官
すべての動植物が土から育まれると考え、豊潤や豊満、あらゆる事象の中央、中心を示します。植物の成長から収穫までも意味することがあります。
【自然】
味(五味)…甘
方角(五位)…中(中央)
色彩…黄
気候(五気)…湿
季節(五時)…長夏
【人体】
五臓…脾
五腑(六腑)…胃
五官(五根)…口
五体(五主)…肌肉
五情…思
上の分類を見ると「土」の五味(食材の作用、味)は「甘」で、体(五臓)の「脾」に関わります。「脾」は、消化吸収を担い、「血」や「気」を作り出す役割をしており、もし「脾」が弱ったら、「甘」の食材で症状を和らげるという様に五行を使うこともあります。「甘」は牛乳、サツマイモ、カボチャ、ニンジン、キャベツ、白キクラゲ、山芋、豚肉、トマト、大豆、リンゴ、ブドウなど非常に多くの食材に含まれる性味で、緊張を和らげたり、痛みや荒れを緩和できます。
「金(こん)」が意味する性質や味、器官
流動的で粋なものを体に引き込むほか、「水」を生みます。もとは武器で、改革や大切なものを守る堅実さも意味します。
【自然】
味(五味)…辛
方角(五位)…西
色彩…白
気候(五気)…燥
季節(五時)…秋
【人体】
五臓…肺
五腑(六腑)…大腸
五官(五根)…鼻
五体(五主)…皮膚
五情…悲(憂)
「金」の五臓は「肺」で、「気」を入れ代える呼吸器官と、東洋医学では「水」のバランスを調整する役割を担います。五体にある「皮膚」が炎症を起こすとは、咳が出る、鼻炎といった症状で、「辛」味の食材で対処します。具体的にはショウガ、シソ、セロリなどで体や「肺」を温めたり、熱バランスを調整して風邪症状を和らげます。
水(すい)」が意味する性質や味、器官
下方に流れる性質と寒冷期に凍って個体になる性質があり、湿潤を示します。体を冷やす作用や、蓄える(蔵)意味があります。
【自然】
味(五味)…鹹(かん)
方角(五位)…北
色彩…黒
気候(五気)…寒
季節(五時)…冬
【人体】
五臓…腎
五腑(六腑)…膀胱
五官(五根)…耳
五体(五主)…骨
五情…恐
「五味」は「味」の漢字が付きますが、味だけでなく食材全般の作用を指します。例えば「水」の「鹹(かん)」は塩辛い味や海産物も含まれ、摂り過ぎると血圧が上がったり、「腎」の水分を奪います。「鹹味」食材はイカ、アサリ、シジミ、アワビ、カニ、牡蠣、昆布、海苔、ヒジキ、味噌、ぬか漬けなどで、日本のダシの多くも「鹹味」から取ります。ほかにも、甘味処で和菓子に添えられて昆布などの箸休めが添えられますね。あの昆布の「鹹」と甘味の「甘」は本来は「相剋」の関係ですが、一緒に食べると甘みが引き立ちそれぞれをおいしく感じませんか?こうして考えると、五行がすでに生活に組み込まれていると分かってきます。
偏りをなくして健康を考える「五行説」
「五行説」というと日本には馴染みのない言葉のように聞こえるかもしれませんが、お寺の五色幕や和食にも青、赤、黄、白、黒を使っています。東洋医学の五行は多岐に渡り、分類がたくさんありますが、「五」を区切りとし、それぞれが補い合ったり、抑制したりしながらバランス(健康)を保とうとします。「五行説」と一緒に説かれる「陰陽」も相対的な考えで、偏りを直していく意味で薬膳に大切な考えなので、順次ご紹介しますね。