老師オグチの家電カンフー

Mac miniを買って感じた、PCやスマホの「家電化」

カンフーには広く「訓練を積み重ねる」といった意味があります。「老師オグチの家電カンフー」は、ライターの小口覺が家電をネタに、角度を変えてさらに突き詰めて考えてみるコーナーです
7年弱使ってきた「iMac」の挙動がさすがに怪しくなってきて新調した「Mac mini」。M4チップ、16GBメモリ、1TB SSDで、154,800円。円安でかつてほどのリーズナブル感はないが、生活家電のように長く使えると思えば痛くはない

デスクトップのパソコンを約7年ぶりに新しくしました。購入したのは「Mac mini」です。それまで使っていたインテル搭載「iMac」に比べたら、当然爆速ですし、コンパクトで静かなのがいいですね。

そして、久しぶりの買い替えで、もうパソコンやスマホは家電の一種になったと思いました。「パソコンは情報機器で家電のわけないだろ」とツッコまれそうですが、まぁ聞いてください。

まず、家電化を感じたのは、買い替えのスパンが長くなってきたことです。一般的にパソコンの寿命はデスクトップPCで5年~10年、ノートPCで3年~5年とされています。

昔を思い返すと、パソコンもスマホも毎年のように買い替えていました。それだけ性能の進化は速かったし、最新モデルに買い替えることで得られるメリットも大きかった。それが今や、最新モデルの機能的な進化は感じにくく、持っている機種をできるだけ長く使いたい人が多数派に。円安も含めて日本人が貧乏になったことも理由かもしれませんが。

生活家電の耐用年数は冷蔵庫で8年~10年、洗濯機で7年~8年、テレビで6年~7年と、実際に近づいているんですよ。

メーカーとしてはなるべく買い替えてほしいので、AI機能を推してきていますが、現状でもChatGPTを始めとする生成AIは使えるので、それだけではねぇ。生活家電と同様に、新機能が使いたいからという理由よりは、調子が悪くなってから、壊れてから買い替えを検討する割合が増えているはずです。

かつては、PCの新調とともに周辺機器も買い替えたものだが、今回はオンラインミーティングに必要なWebカメラぐらい

もう1つ、パソコンが家電っぽくなったのは、セットアップの簡単さです。以前なら、アプリのインストールや周辺機器のセットアップ、サービスのアカウント設定をそれぞれ自分でやる必要がありましたが、今回、Appleの「移行アシスタント」を使うことで、再設定の手間なしにほぼ同じ環境に移行できました。しかもワイヤレス。スマホでも同じ状況ですよね。

一日仕事を覚悟していた移行作業だが、移行アシスタントによって4~5時間ほったらかしにしておいたら完了した。これまで通り使えるという意味では、家電の買い替えよりもハードルが低いかも

むしろ生活家電の方が、同じメーカーでも新しいモデルで操作方法ががらりと変わったりして、スムーズに使い始められないケースも多いんじゃないでしょうか。

そして、とくに若い人を中心に、ユーザーもパソコンやスマホと家電の境界を意識しなくなっています。古い世代は、コンピューターは「情報革命」のイメージが強く、生活家電との間に強い線引きがあったと思います。

しかし、テレビやラジオ、電話機を情報機器と思う人が少ないように、物心ついた頃からスマホやタブレットに触れていた人にとっては、生活家電と差はほとんどない。むしろ、生活という視点では、触っている時間が最も長いスマホこそがナンバーワンの生活家電かもしれません(笑)。

白物家電(冷蔵庫や洗濯機)と黒物家電(テレビ、オーディオ)の区別も、業界以外の人間は認識が薄くなってきています。白にも黒にも分類しにくい、グレーゾーンの家電製品が増えてきていますしね。

メーカーの側も境目があいまいになりつつあります。かつて、日本の家電メーカーはこぞってPCに参入してきましたが、今は逆方向で、スマホメーカーとして創業したシャオミが調理家電や掃除機を展開していたりします。

シャオミは、調理家電(エアフライヤー)や掃除機など家電製品を市場に投入。メーカーとしてもPC・スマホと家電の境界があいまいになりつつある

昨今のスマート家電(IoT家電)は、今のところパソコンやスマホの存在を前提に作られています。言い換えれば、家電がパソコン・スマホの周辺機器化しているのです。プリンターやスキャナにとっては年上の弟みたいなもんですよ。

クルマだって、電気自動車(EV)が災害時に非常用電源としての活用がメリットとしてアピールされていますから、家庭で使う電気製品と言えるかもしれません。そう、全ては家電化していくのです。

小口 覺

ライター・コラムニスト。SNSなどで自慢される家電製品を「ドヤ家電」と命名し、日経MJ発表の「2016年上期ヒット商品番付」前頭に選定された。現在は「意識低い系マーケティング」を提唱。新著「ちょいバカ戦略 −意識低い系マーケティングのすすめ−」(新潮新書)<Amazon.co.jp>