老師オグチの家電カンフー

コーヒー豆の焙煎機で“沼”を垣間見る

カンフーには広く「訓練を積み重ねる」といった意味があります。「老師オグチの家電カンフー」は、ライターの小口覺が家電をネタに、角度を変えてさらに突き詰めて考えてみるコーナーです
ダイニチ工業「コーヒー豆焙煎機 MR-F60A」Web通販限定で、価格は34,760円

近年、自宅で手軽にコーヒー豆を焙煎できる焙煎機がいくつも登場してきています。そのひとつが、ダイニチ工業の「コーヒー豆焙煎機 MR-F60A(以下、MR-F60A)」。ダイニチと言えば、石油ファンヒーターや加湿器で有名ですが、コーヒー豆の焙煎機や焙煎機能付きコーヒーメーカーを20年以上作り続けているメーカーでもあります。

コーヒー豆の焙煎には、いくつかの方式があります。穴の空いたドラムや網に入れた豆を、直接熱源で加熱して焙煎するのが「直火式」。もっとも昔ながらの方式です。熱風を豆に送り込んで焙煎するのが「熱風式」。1970年代と比較的新しい方式で、熱をコントロールしやすく、焦げにくいことがメリットとされています。直火式と熱風式の中間が「半熱風式」で、これは穴の空いていないドラムに入れた豆を、熱源で直接加熱しつつ熱風も利用する方式です。

ダイニチの「MR-F60A」は、熱風式を採用。電気ポットぐらいのサイズで、構造的にもシンプルです。豆の下から熱風を送り込み、かき混ぜながら焙煎。チャフと呼ばれる豆の薄皮は、熱風で吹き飛ばされ、フタとの間にある「チャフコンテナ」に溜まる仕組みです。焙煎できる容量は、1回あたり約60gの生豆を使用し、焙煎後は約50gとなります。4〜5杯分ですね。

付属の計量カップ(すりきり1杯で60g)で生豆を投入

操作もいたって簡単で、電源を入れて焙煎レベルを5段階(ライトロースト〜シティロースト)から選び、スタートボタンを押すだけ。焙煎時間は、約10分の冷却時間を含めて、約25分。直火式のようにチャフが燃えることがないので、煙が出ず、近所迷惑にもなりません。もちろんニオイ自体は発生するので、窓を開けたり換気扇を回したりはしますが、自家焙煎の喫茶店のような、甘い香りです。個人的にはこの香りが好きなんですよ。なんならコーヒー自体の香りよりも好きなくらい。

熱風式かつ熱センサーを上下に2つ搭載してコントロールしているせいか、豆の仕上がりは安定しています。設定した焙煎レベルにきちんと仕上がります。ガスなどを使う自家焙煎といえば、経験が必要で失敗がつきものというイメージがありますが、それらとは無煙、じゃなかった無縁です。まぁ、無煙でもありますが。

焙煎レベルは5段階
ムラなく美しく焙煎できている
チャフ(豆の薄皮)は、チャフコンテナに集められる

そして自家焙煎の楽しみ方のひとつが、複数の豆を混ぜて焙煎するブレンドです。まだ、ブラジルとグァテマラの2種類でしか試していませんが、比率を1:1にしてみたり、2:1にしてみたり、焙煎レベルを変えてみたり、2種類の豆だけでも何度も楽しめます。試行錯誤しながら焙煎するには、この容量(完成時約50g)がちょうど良い気がしますね。カメラの交換レンズにハマることを「レンズ沼」と言い、入門用のレンズを「撒き餌レンズ」と言ったりしますが、ダイニチの「MR-F60A」によって「焙煎沼」に引き込まれる人も大量発生するんじゃないですかね。

そして焙煎に凝ると、結果として自分では飲みきれない量の豆を焙煎することになります。世の中には、趣味で始めたあげくロースタリー(焙煎所)やカフェをオープンしてしまう人もいますが、その気持ちも少し理解できた気がします。

オリジナルのブレンドも作れてしまう
小口 覺

ライター・コラムニスト。SNSなどで自慢される家電製品を「ドヤ家電」と命名し、日経MJ発表の「2016年上期ヒット商品番付」前頭に選定された。現在は「意識低い系マーケティング」を提唱。新著「ちょいバカ戦略 −意識低い系マーケティングのすすめ−」(新潮新書)<Amazon.co.jp>