長期レビュー

パナソニック「モビエイト BE-ENHE78」 最終回

~激走! ランド坂頂上にある温泉を目指して
by 滝田 勝紀

 
「長期レビュー」は1つの製品についてじっくりと使用し、1カ月にわたってお届けする記事です。(編集部)



パナソニック「モビエイト BE-ENHE78」

 パナソニックサイクルテックの電動アシスト自転車「モビエイト BE-ENHE78」の長期レビューをお届けしている。1回目は通勤向けモデルならではの魅力を、2回目はモビエイトの上手な乗り方についてそれぞれお伝えしてきた。3回目の今回は筆者が長年負け続けてきたある坂への挑戦についてお話しよう。

1回目は→コチラ
2回目は→コチラ

因縁の坂にチャレンジ

 「ランド坂」という坂をご存知だろうか? 今から約10年から15年くらい前までは、走り屋たちが週末になるとスポーツカーで激走。ドリフトをかます者が続出していた、いわゆる峠である(峠といっても距離は短いが)。東京の稲城市と神奈川県の川崎市を結ぶ東京都道・神奈川県道124号線、その中間点である頂上には「よみうりランド」という東京を代表する遊園地、さらに併設されるように温泉施設「丘の湯」が存在する。

多摩川から「よみうりランド」を眺める。観覧車の横には、かつてスキージャンプ台として使われていた塔が立っている「よみうりランド」方面へと自転車を漕ぎ続ける。

 パナソニックサイクルテックの電動アシスト自転車「モビエイト」の長期レビュー最終回は、その“ランド坂”をひとりの男、つまりは自分が、電動アシスト自転車という武器を得て、走破しに行く話。ルートラボによると、ゴールの読売ランドの標高は112m、スタートの東京側の最寄り駅である京王よみうりランド駅の標高が38m。駅~よみうりランドまでの峠道約1km強の間に一気に70m以上の高さを登り切らなければならない、平均斜度6.2%の急坂だ。

ランド坂の全行程。距離にすると約1.2kmだが、標高差73m、平均斜度6.2%の手強い坂だ

 かつて、自分は辛酸をなめ続けていた。10戦以上全敗。自慢の南ドイツ製クロスバイクで挑んでは、跳ね返され続けた急坂、それがランド坂である。いつも坂の中腹で自転車を降り、とぼとぼと自転車を押しては登り続け、ゴール地点の温泉施設「丘の湯」で、複雑な想いで汗と心の涙を洗い流す。およそ自転車乗りにとっては屈辱以外何ものでもない体験を何度も強いられていた。

 だが、そんな負け犬生活に終止符を打つべく、今回相棒として選んだのが電動アシスト自転車「モビエイト」だ。それってドーピングじゃない? 自分の足で乗り越えたことにならない? 邪道? そんな周囲の自転車乗りからの雑音には耳を貸さない。これが自分にとって最善の選択肢だった。なぜなら、自分は日常、ほとんど身体を動かさないし、そもそも練習とか鍛錬が嫌いだから。どのぐらい練習嫌いかを、あえてゴルフを例にとって書くと、打ちっぱなしに行っても、本番のラウンドより振らないぐらい。

 4月末、ゴールデンウイークの初日。まずは自宅から京王よみうりランド駅までモビエイトで走ってきた。約15km弱の道のり。ウォーミングアップには十分な距離だ。目的は1つ。パナソニックの電動アシスト自転車「モビエイト」で、難敵ランド坂を走破するため。ランド坂を走破する! いったい何度、この想いを胸に、このよみうりランド駅からの伸びる線路の高架を眺めただろう?

 天候は晴れ、気温はおよそ18℃。絶好のポタリング日和だ。遊園地へと続く道路は意外と空いていた。そんな状況でスタート地点から走り出す。いつもは道中の勢いを借りて、坂道に挑むため、その場所で止まることはないが、今回は歩道のあたりでしっかりと止まり、明確にスタートした。すでに少し傾斜が始まっている。「モビエイト」のギアは5速、アシストモードは長距離向けのロングモードを選択した。電動アシスト自転車の大きな特徴として、走り出しの楽さがある。ペダルを踏み込むとアシストが働いて、まるで誰かが背中を押してくれているようなのだ。

京王線のよみうりランド駅の側にある高架線。ここが今回のスタート地点ロングモードでエコナビも効いている連休初日の午前中ながら、意外と道路は空いていた

ギアやモードの変更で序盤は楽々

 順調なスタートを切ったのもつかの間、だんだんと苦しくなってくる。走り出しが快調だったからと、調子に乗って、ギアを7速まで上げていたのだ。やばい、このままじゃ、いつも通り負ける! あわててギアを5速まで落とす。少しラクになった。本当はアシストモードをロングモードからパワーモードに上げたいが、序盤でいきなり、最終兵器を使っては、この先もっと辛い状況に陥った時、あっさりと敗北を認めることになる。ここはグッとこらえ、ひとまずギアだけで行けるところまで行こうと心に誓う。

 そんな想いもさらに100mほど進む頃にはあっさり反故にされる。ギアは5速のままだが、軽いギアにしすぎると、自転車が漕いでも漕いでも進まなくなるのがいやで、いつも3速や2速は使わない。ここで、ロングモードよりアシスト力が強い「オートマチックモード」に変更。モーター音が少し大きくなり、ちょっとラクになった。

 坂道の傾斜が少しきつくなり、だんだんと足取りも重くなってきた。途中、何台もの車に追い越される。ロードサイドにあるレストラン駐車場を通り過ぎる。いつものクロスバイクでは、調子が悪いと敗北を認めるポイントだ。だが、今回はアシスト力で、まだ負ける気がしない。

だんだんと傾斜がきつくなり、苦しくなってきたレストランの駐車場がロードサイドに広がっている。今回はこの場所では止まらない

 さらにカーブに差し掛かる。距離で700m強ぐらい走ったか。歩道もいよいよなくなった。いつもこのあたりで、心が折れて自転車を降りてしまう。坂道の傾斜も相変わらずきつい。実はこのランド坂、非常に性格が悪い。富士山同様、標高が高まるごとに、だんだんと傾斜がきつくなる。モビエイトでも、だんだんとペダルを踏みしめる足がきつくなってきた。男の呼吸もだんだんと荒くなってきた。いよいよアシストモードをパワーモードに切り替えた。

 あれ? 変わらない。なぜ? そうなのだ。パワーモードという名前だが、オートマチックモードとアシスト力は変わらないのだ。自分はその事実をすっかりと忘れていた。モビエイトの速度がだんだんと遅くなる。呼吸も荒くなる。ギアも4速→3速→2速と下がり、とうとう傾斜に耐えきれずに、自分はペダルから足を下ろそうとした……

だんだんとカーブも多くなり、傾斜もきつくなってきた。ペダルも重くなる。いよいよ歩道も途切れてきた。逆に降りてくるロードバイクはものすごいスピードだすでに歩道はなく、傾斜もさらにきつくなる。車が横を通るたびに、風にも押される。いよいよ最後のヘアピンカーブへ。速度も落ちる

最後は立ち漕ぎで乗り切った!

峠最大のヘアピンカーブを上から眺めたところ

 だが、ここからがいつもと違っていた。自分はここでアシスト力の恩恵をふと感じることになる。自転車が止まりそうな時に、ほとんどもがくかのように悪あがき、ペダルをいったん後ろ回しに、そして前に回し直すと、モーターの駆動を感じることができ、あらたに息を吹き返す。これを何度か繰り替えすことで、やや傾斜が和らぐあたりで、自転車が勢いを取り戻す。ここで、一気にギアを5速に入れ、スピードを加速。最後の難所であり、峠最大のヘアピンカーブへと差し掛かった。

 ここまで来ると、最後の手段である立ち漕ぎを敢行。スポーツバイク風に言えばダンシング。傾斜は最高レベルに。でも、頂上のよみうりランドの観覧車が見えてきて、折れそうになった心も復活。それと同時に自分の身体にも、自転車にもパワーが漲る。ひとり荒々しい呼吸とともに、きつい傾斜もそこそこに最後は3速まで下げながら、とうとう頂上へと辿り着いたのだった。

いよいよ最後の登り坂。ここからは気力勝負になってくるギアも3速まで落として立ち漕ぎで登る東京方面の街並みが下に広がる

 到着後は「丘の湯」の風呂に入り、汗を流す。露天風呂から下に広がる東京の街並みを眺め、ランド坂を一度も足をつかずに登り切った充実感を噛み締める。登り切った瞬間に、頭のなかを流れた曲は、もちろん映画「ロッキー」で主人公ロッキー・バルボアが勝利した時の「Going the distance Rocky Balboa」のサビ。エイドリアーン! という台詞を、心のなかで叫んだのは言うまでもない。

距離が長めで緩やかな別コースにも挑戦

 だが、ここでふとある疑問が頭をよぎる。東京側からよみうりランドまで登る道は、実はほかにもあるという事実だ。そちらからは、果たして登りきれるのか?……やるか! 温泉から上がり、ご飯を食べてから、今度は別のルートを軽快に下り、スタート地点へ。このルートは京王よみうりランドの1つ隣の駅、京王稲田堤の駅からのルートだ。日本テレビ生田スタジオなどの横を通り、よみうりランドの外周を周りながらゴールへと辿り着く、距離にすると、ランド坂の倍以上長いものの、やや緩やかな坂道が続くコースだ。

ランド坂よりも距離が長い別ルート

 こちらは広い道路、広い歩道、開けたまっすぐな坂道をひたすら登り続け、最後はよみうりランドの外周では、アップダウンがある比較的走りやすいコースだ。結果から言うと、さきほどのランド坂と比べると、傾斜はやや緩やかということもあり、距離が長いにも関わらずアシスト力にサポートされることで、拍子抜けなほどあっさり登り切ってしまった。

団地内の広いまっすぐな道路をひたすら上る。ランド坂よりはなだらかで、走りやすいモードはパワーモード8速のまま上り続ける。なだらかな坂道ならこれでもいける
ゆるやかなワインディングロード。よみうりランドの外周はアップダウンもあって気持ちがいい。よみうりランド正門前の駐車場を通り過ぎると、あっという間に丘の湯へと到着「よみうりランド」内にある読売ジャイアンツの2軍球場。イースタンリーグなどの試合もみられる京王よみうりランド駅から遊園地よみうりランドまでは、ゴンドラで往復できる。それほどの高低差があるということの証明だ

 今回2つの長い坂を登り切ってみて分かったことがある。電動アシスト自転車で、ある目的地を目指す場合、急な坂道が存在する近道ルートよりも、緩やかな坂道が存在する遠回りルートを選択したほうがラクだということ。なぜなら、電動アシスト自転車にとって、緩やかな坂道は、もはや坂道ではなくなるからだ。“困難な近道より楽な遠回り”。これを合い言葉に、通勤通学などに使うルートをセレクトすることで、より快適なパナソニックの電動アシスト自転車「モビエイト」ライフが送れるはずだ。

 今回約1カ月モビエイトに乗ってみて感じたのは、電動アシスト自転車はもはや“家電”であるということ。自転車に乗るという行為には「遊び」や「リフレッシュ」といった要素ももちろんあるが、通勤や買い物など「普段の足」として使っている人も多い。そういう人たちにとっては、モビエイトの強力なアシスト力やセンサーによる細やかな制御、夜間でも強力に前方を照らすライトはとても力強い。普段電車で行動することが多い、都心に住む人たちにこそお勧めしたい製品だ。



その1  / その2  /  その3




2012年5月28日 00:00