そこが知りたい家電の新技術
今、パナソニックの男性向け電動アシスト自転車に注目!
電動アシスト自転車といえば、もともと女性やお年寄りをターゲットにした、いわゆる“ママチャリ”タイプが主流だった。だが、ここ数年、長引く不況やエコ目的による車離れが加速、さらには健康志向の強まりなどで、通勤に使う男性ユーザーも増えている。それにともなって、男性向けのモデルやスポーツモデルなどバリエーションも豊富になってきた。
今回は、電動アシスト自転車の魅力についてパナソニックサイクルテックの商品企画チームのチームリーダー福田基雄氏と、営業グループ 営業企画チーム 三宅徹氏にインタビューしてきた。電動アシスト自転車の歴史や魅力、正しい乗り方についてもレクチャーしてもらった。
■創業者松下幸之助の想いからできた国内初の電気自転車
営業グループ 営業企画チーム 三宅徹氏 |
パナソニックサイクルテックは、創業60周年の老舗自転車メーカーだ。日本を代表する総合電気メーカーのパナソニックの子会社(かつてはナショナル自転車工業/2006年に改称)としてスタートしたというが、そもそもなぜ、電気メーカーが自転車を扱うことになったのだろうか。
「実は、パナソニックの創業者の松下幸之助は、かつて自転車店で丁稚奉公した経験があるんです。そこから、経営の基礎を学んだということもあって、自転車への想いは強かったようです。その後、松下電器を創業してから、かつて自転車屋だった自分が、電気屋になったのだからと、1980年に国内初となる電気自転車を作っています。
そのときに作ったのは『Electric Cycle』というスイッチを入れれば走る国内初の電気自転車で、どちらかというと“オートバイ”に近い構造です。公道で運転するにも免許やナンバープレートが必要だっため、実際にはほとんど普及に至りませんでした」(三宅氏)
同社のショールームには、今もこの日本初の電気自転車が飾られている。大きなモーターを搭載した見た目は確かに、自転車というよりも原付バイクに近いが、今の電動アシスト自転車の片鱗も確かに感じられる。
日本初となる電気自転車「Electric Cycle」 | バッテリー部分 | ライトの仕様などは自転車というより、バイクに近い |
サドル部分 | キャリア部分 | 電源を入れるのに鍵を使うというのも、バイクに近い仕様だ |
その後パナソニックサイクルテックでは、電動アシスト自転車以外の自転車に専念してきた。それが、1993年の道路交通法改正でいよいよ本格的に電動アシスト自転車に取り組むことになる。
「1993年の道路交通法改正によって、初めて電動アシスト自転車の存在が認められるようになりました。当初、電動アシスト自転車の人力と動力の割合は最大1対1でしたが、この方式で自転車として公道で走れるようになったことは大きい変化です。1994年にヤマハさんが商品化しましたが、パナソニックにとって自転車とモーターは、両方とも技術が揃っている分野です。翌年の1995年には、いわゆる“ママチャリ”タイプの『陽の当たる坂道』という自転車をリリースして、後を追うことになりました。その後は2000年あたりに売上を逆転、2002年には、単年度でシェアNo.1を獲得するに至りました」(三宅氏)
パナソニックサイクルテックのショールームには、松下幸之助が自転車を持った写真も飾られていた | こちらは1996年のアトランタオリンピックを記念して作られたスペシャルモデル。1995年発売の同社初の電動アシスト自転車「陽の当たる坂道」がベースとなっている | 2009年9月17日には、出荷累計100万台を達成。写真は、記念モデル。 |
■通勤や通学用途で男性向けモデルを強化
電動アシスト自転車は、震災後特に注目を浴びている製品分野だが、その中でもパナソニックはトップを独走している。昨年の販売台数は前年比13%増の40万台を突破した。売り上げの7割は、年配や女性をターゲットとしたママチャリタイプが占める。
フロントとバックにそれぞれ子供を2人乗せられるモデル | 子供を乗せるシートは、安全性を配慮したベルトやバーなどが設けらている | 伸長の低い女性でも乗り降りが楽な小径タイプ |
商品企画チームのチームリーダー福田基雄氏 |
一方、パナソニックでは、ここ最近男性向きのモデルも強化している。電動アシスト自転車というと、子乗せモデルやスーパーへの買い物用というイメージだが、男性向けのモデルはどのような用途を想定しているのだろう。
「男性用のモデルの場合、通勤や通学用途のほか、10km以上のロングライドを想定して購入される方が多いようです。そのため、男性向けモデルは、スポーツタイプを中心としていて、装備も本格化しています」(福田氏)
同社では、電動アシスト自転車に参入する以前からスポーツタイプの自転車を多く扱っているので、そのノウハウは確かなものだ。実際、電動アシスト自転車に使っている部品と一般的なスポーツタイプの自転車に使っている部品は同じものだという。
「ただ、電動アシスト自転車の場合、モーターで3.5kg、バッテリーで2kgほどあり、必然的に車重が重くなってしまうので、フレームは強度の高い、特殊な設計を採用しています。その分、電動自転車のほうが重くなってしまうかもしれません」(福田氏)
完全受注生産の高級モデル「チタンフロットロード」。重量15kg前後で、一般的なアシスト自転車よりも4~5kgも軽い |
スポーツタイプのラインナップの中でもひときわ目を引くのが、フレームにチタンを採用した「チタンフロットロード」だ。完全受注生産で価格は585,000円からという高級モデルだ。この製品は「自転車メーカー」としてのパナソニックのこだわりが詰まっているという。
「アシスト機能がない一般的なスポーツモデルの自転車で展開しているオーダーシステム『POS』と、電動アシスト自転車のハイブリッドを組み合わせたモデルです。乗り心地、軽さ、丈夫さ、乗る人とのフィット感など、まさに段違いのレベルです。一般的な電動アシスト自転車の重量は、カゴがついたママチャリタイプのもので26kg前後、スポーツタイプでも19kgほどありますが、チタンフラットロードは15kg前後と超軽量。モーターやバッテリーを積んでいながら、一般の自転車よりも軽いです。創業60年を迎える自転車屋として、こだわりを詰め込んだ最高級モデルです」(福田氏)
■電動アシスト自転車に乗ることで行動範囲が広がる
そのほかにもパナソニックでは、通学や通勤用のクロスバイクタイプ、デザイン性を重視したスポーツタイプなど全3機種を用意する。さらに、これらスポーツタイプのユーザーを対象とした“T.E.Nコンセプト”というプロモーションも実地する。
「これは電動アシスト自転車に乗ることで、これまで知らなかった世界が広がるという提案です。T.E.Nは、Tが距離の10km、Eが電動アシスト自転車のElectric Assisted Bicycle、Nは新しさや目先の変化などを意味するNoveltyをそれぞれ表しています。つまり、電動アシスト自転車に乗って10kmも走れば今まで見られなかった風景に出会えるということですね。10kmという距離は長いようにも感じますが、時速20キロ程度で気軽に走ったとしてもたった30分でいける距離なんです。しかも、電動アシスト自転車ならば無理することなく、気軽に走れます」(福田氏)
さらに、この10kmという距離は都市部であるほど変化が大きいという。東京でいえば、豊島園から皇居までの直線距離が約10km。たった30分走るだけでもガラっと雰囲気がかわる。
「電動アシスト自転車は、特に坂道の多い東京は向いていると思いますよ。その証拠に、日本でもっとも電動アシスト自転車が売れているのが東京です。もちろん要因はそれだけではなく、駐車場代が高かったり、渋滞も多く、さらに公共交通機関が発達しているなど、いろいろ考えられると思いますが」(三宅氏)
■電動アシスト自転車にも「エコナビ」を搭載
操作パネルには、大きく「ECONAVI」の文字が。サイクルテックで扱っているほとんどのアシスト自転車に搭載されているという |
電動アシスト自転車の場合、乗り終わった後に毎回充電をするというのも、普通の自転車とは大きな違いだ。パナソニックでは、電動アシスト自転車にも「エコ」を意識した機能も搭載している。それが、パナソニックの白物家電にも搭載されている「エコナビ」機能だ。
エコナビとは、センサーで使用状況などを検知して、運転状況を自動で制御するというもの。自分で意識しなくても、製品が自動でエコ運転してくれる点が特徴だ。では、電動アシスト自転車のエコナビとはどんなものだろう。
「電動アシスト自転車のエコナビは、この平地ではアシストの必要がないなとか、上り坂ではしっかりとアシストする必要があるなとか、メリハリをつけてムダなくバッテリーを使うことで、より省エネで長い距離を走れるようにするための機能となっております。現行品の9割方のモデルにエコナビ機能を搭載しています。
また、バッテリー消費量を抑えて上手に乗りたいのであれば、3つのモードを上手に使い分けることがポイントになります。本体にはアシスト力が強い『パワーモード(強)』、自動でアシスト力を制御する『オートマチックモード(中)』、アシスト力を抑えて長距離走行を可能にする『エコモード(ロングモード)(弱)』の3つが搭載されています。
長い距離を走りたい場合は通常エコモードにしておいて、上り坂などが多く、どうしても疲れてしまった時にはパワーモードに変えるなど、そういう使い分けをすることで、よりバッテリー消費を抑えることができます。さらに、モデルによっては、あえてオフモードを使って、普通の自転車として乗ることもオススメします」(福田氏)
消費電力を抑えるのには、変速ギアを上手に使うことも有効だという。
「低いギアからどんどんスピードを乗せていくことが、電池の消耗を減らす乗り方のコツです。電動アシスト自転車の場合、一歩目が押し出されるようでラクだからと、ギアを重いまま乗っていらっしゃる方も多いのですが、同じバッテリー容量で、より多くの距離を走りたければ、しっかりとモードや変速ギアをしっかりと使って欲しいです。急加速もなるべく避けた方がいいでしょう」(福田氏)
ただし、走行中にモードの切り替えをするのは注意も必要だ。
「モードの切り替えは可能ですが、電源のON/OFFは注意が必要です。ペダルを踏んでいる時はNGです。ペダルを踏んでない状態で、惰性で進んでいる時、もしくは自転車をしっかりと止めてから電源を切り替えることがベストですね」(福田氏)
自転車を乗るときにエコや節電を考えるというのは、これまでなかった発想だが、それもパナソニックが家電メーカーであることを考えるとすんなり納得できる。
■電動アシスト自転車の上手な乗り方
同社では、電動アシスト自転車以外にも数多くのスポーツタイプの自転車を扱っている。豊富なノウハウを活かしているため、電動アシスト自転車だからといって、極端に重量が重く感じることはないという |
ところで、電動アシスト自転車はモーターやバッテリーを搭載している関係で、どうしても普通の自転車よりも重量が重くなる。重量が重いと聞くと、バッテリーが切れた時の走行が大変になるように感じるかもしれないが、実際には自転車自体の設計技術が高いので、アシスト自転車だから特別重いと感じることはないという。ただ、普段アシストを使って走行しているため、感覚的に辛い、重いと感じることはあるだろう。
それよりも気にして欲しいのは、タイヤの空気圧だという。電動アシスト自転車ならではの理由で、空気圧の変化に気付く人が少ないという。
「自転車の空気圧が低いと、タイヤと地面の摩擦抵抗が大きくなり、その結果、スピードがでなくなります。普通の自転車だと、それがダイレクトに足に伝わってくるのですが、電動アシストだと、モーターがアシストしてしまうので、それが伝わってきにくいのです。だからこそ、電動アシスト自転車に乗る際には、空気圧はよりしっかりとチェックしてほしいですね。バッテリー消費も大きくなってしまいますから」(福田氏)
電動アシスト自転車の場合、ペダルをこぐ力が強いと、アシストがその分弱まるため、登り坂など、アシスト力を発揮したいシーンでは、逆にがんばらずにペダルを踏んだ方が良いという話も聞く。
「それは一理あるかもしれませんね。上り坂でも人間ががんばって漕げば漕ぐほど、自転車のアシスト力は弱まりますからね。実際、現状は2008年の道路交通法改正で、人の力1に対して、最大2までアシストすることが許されています。そのため時速24kmまで加速してしまうと、その時点でアシストは0になります。
特にスポーツタイプの電動アシスト自転車だと24kmというのはすぐに出てしまいます。つまり、ゆっくり走っている時はアシスト力を使って乗れますが、早く走ってしまえば、乗り心地はふつうの自転車とほとんど同じになってしまいます」(三宅氏)
もう1つ、電動アシスト自転車ならではの注意点がスタート時だという。電動アシスト自転車では、こぎ始めの負担を少なくするため、一歩目からかなりアシストが効いているのだ。
「信号待ちの後、急に漕ぐと一気に加速するので、事故につながりやすいです。歩道などで信号待ちをしている際は、前方に人がいないかなどを確認しながら、ゆっくりとスタートしてほしいです」(福田氏)
■通勤を意識したモデル「モビエイト」
通勤に最適なモデルとして3月に発売されたばかりの「モビエイト BE-ENHE78」キャンディメタリックブラック |
最後に、最後に家電Watchの読者で最も多い“30代の男性”にオススメの一台を教えてもらった。
「最近出たばかりの『モビエイト』は、通勤を意識したこれまでにないモデルとなっています。スポーツタイプでありながら、スーツでの走行や通勤鞄を持ち運ぶことを想定して、ワイドバスケットや泥よけなどをフル装備しています。特にユニークなのは、ビジネスバッグが入る幅広のバスケットです。走行中にバッグが飛び出さないように、バッグを留めるベルトが備えられているのこれまでになかった仕様です。
それだけでなく、バッテリーなどの基本機能も充実しています。バッテリー容量は8Ahで運転モードは3つ。ロングモードで最大54kmまで走行できます。タイヤの径は700cというロードバイクなどと同じ車輪サイズで、スピードに乗りやすく、内装8段変速なので、余計な手入れも必要ありません」(福田氏)
ビジネスバッグが無理なく入るように、横幅の大きなバスケットを採用する | バッグを留めるベルトも用意されている | バッテリー容量は8Ah |
夜間走行時に便利な「高輝度スリム 6-LEDビームランプ」を搭載する | 変速機は内装タイプのため、雨やホコリなどの汚れが付きにくいという |
ただ、都市部で自転車を乗るときに不安なのが、盗難の危険性だ。
「実は、電動アシスト自転車の方が普通の自転車に比べて狙われる確率はずっと低いんです。自転車の盗難の場合、多くは『ちょいのり』と呼ばれる方式で、短い距離を乗るために盗難し、乗り終わったら路上などに乗り捨てる場合がほとんどなんです。アシスト自転車は、普通の自転車よりも重量が重く、バッテリーなどの鍵も必要になるため、そのような用途で盗難にあうことが比較的少ないんですね。
もちろん、普通の自転車よりも高額なので、心配になる方も多いでしょう。そこで、パナソニックでは、全ての電動アシスト自転車に3年間盗難保証をつけています。仮に盗まれても、3割負担で同様の車両を再び購入することが可能です」(福田氏)
創業60周年を迎えなお、進化を続けるパナソニックサイクルテックの自転車。ユーザーの不安を解消するきめ細かい機能やサービス、さらに節電まで意識した本体構造は、まさに家電メーカーならではのものといえるだろう。
5月の中旬からは、今回おすすめされたモビエイトの製品レビューをお届けする。実際に都内で乗ってみた感想や、日々の使い勝手を含め、詳しくお伝えする予定なので、そちらも乞うご期待!
2012年4月27日 00:00