大河原克行の「白物家電 業界展望」

パナソニック、第3世代GOPANはどう進化したのか?

第3世代となる新たなGOPAN

 パナソニックは、ライスブレッドクッカー「GOPAN(ゴパン)」の新製品として、SD-RBM1001を、2013年3月1日から発売する。

 第3世代目となる今回の新製品は、設置面積を約25%削減するとともに、課題の1つとされていたミル時の運転音を低減したのが特徴だ。同社ではその実現に向けて、新たにインバーターモーターを採用したほか、新加熱構造の採用、製パンプロセスの改良といった基本構造の抜本的な見直しに着手。これによって大きな進化を遂げている。

 第3世代のGOPANはどのように進化したのだろうか。その取り組みを追ってみた。

GOPAN特有の課題を解決した第3世代

 GOPANの第1世代機は、2010年11月に三洋電機の製品として発売されたものだ。発表直後から予約が殺到。発売日を延期するという異例の状態でスタートしたことを覚えている読者も多いだろう。

 実際、既婚女性を対象にアンケートを取ったところ、GOPANの名前を知っているという人は77.7%。名前を聞いたことがあるという人の割合16.4%を加えると、約94%という高い認知度を誇っている。また、約80%の人がGOPANに対して、好意を持っているという結果も出ている。発売当初の強いインパクトが、現在でも高い認知度につながっているといえよう。

 パナソニックによる三洋電機の統合後、2011年12月には、パナソニックブランドとして、第2世代のGOPANが登場。運転音を65dBから、60dBに低減するなどの改良が加えられ、パナソニックの製品となった今も、GOPANの人気は継続している。

 第1世代の17万台に加えて、第2世代では13万台を出荷。これまでに合計30万台の累計販売を達成しているという。

 同社では、「購入者のうち、約80%のユーザーから満足であるとの回答を得ている」と、GOPANが高い評価を得ていることを強調する。実際、「お米のおいしさを認識した」、「小麦アレルギーで我慢していたパンが食べられるようになった」などの声がユーザーからあがっているという。

 しかし、その一方で、GOPANに対する要望もいくつか挙がっていた。

 改善要望点として最も多かったのが運転音だ。実に62%のユーザーから改善要求があがっていた。

 GOPANは、米粉からパンを作るのではなく、米粒から直接パンを作ることができるのが特徴だ。そのため、米を削ってペースト状にするためのミル工程で、大きな音が出るという課題があったのだ。

 とくに、早朝、焼き立てのパンを食べるには、このミル工程を深夜に行なわなくてならないため、都心部の住宅や、マンション世帯では、改善を要求する声が多くあがっていた。

 また、本体重量や本体サイズが大きいことから、設置場所に苦労するという声もあがっていた。GOPANユーザーのなかには、GOPANをカップボード(食器棚)に設置できないため、床置きしているケースも多かったという。

 次回購入時に重視する点では、「お米食パンのおいしさ」がトップになったものの、「手入れのしやすさ」、「静音性」、「本体サイズ」と続き、GOPANならではの課題が浮き彫りになっていたのも事実だ。

 同社では、「低騒音化、コンパクト化、そして、GOPANならではのお米パンのおいしさに対するニーズが高い。新たなGOPANでは、こうした観点から改良を図ったものになる」と語る。

 新たなGOPANが目指したのは、「使いやすさ・設置しやすさ」と「おいしさ」、そして「アレンジのしやすさ」だと同社では説明する。

新たにインバーターモーターを採用した意味

 第3世代のGOPANでは、新たにインバーターモーターを採用した。

 これは、パナソニックが長年蓄積してきた技術の1つで、そのノウハウをもとに、GOPANのために専用に開発された。パナソニックに統合されたからこそ達成されたGOPANの進化の1つだといえる。

 従来のGOPANでは、低速回転するねり用モーターと、高速回転するミル用モーターの2つのモーターを搭載していた。これがGOPANの底面部を占めており、横長のデザインとならざるを得ない理由となっていた。

 新製品では、ミルやねりに適した速度にコントロールできるインバーターモーターを採用することで、モーターを1つに集約。これが設置面積のコンパクト化に大きく寄与している。

 従来製品では、横幅が358mmから、240mmへと大幅に縮小。奥行は、奥行282mmから315mmと33mm大きくなったが、デザインの改良などで見た目にはそれほど大きくなった感じはしない。設置面積は約25%削減したという。もちろん、この奥行サイズであれば、電子レンジなどを収納できるスペースに設置することは可能だ。

 また、高さは387mmから386mmとなり、全体的には約31%の重量削減となっている。そして、重量も11.2kgから、8kgへと軽量化した。

右の旧機種と比べて、大幅に小さくなったことがわかる
パナソニックのホームベーカリー(右)とデザインの統一性が図られた

 この縦型のデザインは、パナソニックのホームベーカリーにも準じたもので、同社ホームベーカリーと並べて比較すると、ちょうどひと回り大きくなったというイメージだ。

 インバーターモーターの採用で、一気にコンパクト化を実現したというわけだ。

新たなGOPANの操作部。26メニューから選べる
軽量化したことで、底面部から手を入れて持ち上げられるようにした

「砕く」から「すり潰す」への転換

 そして、インバーターモーターの採用は、最大の課題であった音の問題を解決することにも寄与している。

 従来製品では、ミル用の高速回転モーターは、毎分6,200回転としていたが、新製品では、毎分4,000回転と、より低速で回転させ、結果として運転音を低くしているのだ。

 回転スピードを低速化した理由には、ミル用の羽根を大幅に改良した点があげられる。

 従来の羽根は、刃のエッジ部を使用して、高速回転させ、米を「砕く」という手法を採用していた。一方で、新製品は、羽根を凸凹形状とし、これを利用して「すり潰す」という手法に変更している。「砕く」よりも、「すり潰す」ほうが、回転が少なく済み、結果として静音化につながるという点は大きなメリットだ。

ミル羽根。凸凹の形状とし、さらに、角度に傾斜をつけて対流を大きくできる
ミル羽根の様子。凸凹形状は手入れもしやすい

 また、従来のミル羽根は、フラットな方向に向けられていたため、砕いたペーストの対流が小さくなっていたが、新製品で採用したミル羽根は、いわばヘリコプターの羽根のように小さな傾斜がついており、これによって、すり潰した際に、大きな対流を作ることが生まれるという。大きな対流によって、全体をかき回し、効率的なミル工程が行なえるようになったという。

左が新たなGOPANのミル羽根の様子。「削る」から「すり潰す」に変化した
左が新たなGOPANの羽根台。隙間を大きくして手入れがしやすくなっている
左が新たなGOPANのねり羽根。羽根の形状も改良している

 ミル時の運転音は、従来モデルでは通常の会話程度とされる60dbであったものが、新製品では静かなオフィス相当とされる50dbへと静音化。数字上では10dbの静音化ではあるが、「実感音とされるSONE値では、12.66から、4.6へと削減され、db値以上に音が小さくなった実感がある」という。

 羽根が低回転で回るため、高音が減ったなどといった要素が、実感音として小さくなったと感じる理由のようだ。比べてみると、従来のような「削っている」というワイルド感は、確かに無くなっている。

 また、これは思わぬところにも影響している。

従来のGOPANには天面部にガラス窓を用意していた

 従来製品では、本体上部にガラス窓を付けていたが、これはマーケティング部門からの要求によって付けていたものだった。「大きな音がしたときに、上から見て、米を削って正常に動いているという、安心感を持ってもらうためのものだった。だが、その分、庫内の熱効率が悪くなっていたのも事実だった。新製品では音の問題が大きく改善されたため、ガラス窓は不要になった。これが熱効率を高め、ふっくらとした焼き上がりを実現することにつながっている」という。

羽根を分解し、手入れを容易に

 一方で、ミルの羽根を凸凹形状にした効果は、静音性以外にも発揮されている。

 従来は刃がシャープであったため、手入れの際には気をつけなくてはならないといったこともあったが、凸凹の羽根であれば、そうした心配がいらない。

 また、羽根台と、ミル羽根、ねり羽根の3つに分解できるようにしたことから、細かい部分まで洗うことができるようになった。

 さらに、羽根を固定する方式を改良したことで、従来製品では出来上がったパンを取り出す際に、羽根がついてきてしまっていたが、新製品では、パンだけをきれいに抜き取ることができるようになっている。

改良した羽根。分解が可能になっている
羽根を分解したところ
羽根を容器にセットした状態

冷却時間や焼き時間を短縮した新プロセス

 第3世代のGOPANでは、製パンプロセスの改良にも取り組んでいる。これはインバーターモーターや新ミル羽根の採用によるところも大きい。

 「お米食パンコース」でパンを焼く場合、従来製品では、ミル工程では、ミルに50分、冷却に60分というプロセスをとっていたが、これは、高速回転で米を削るためにパンケース庫内で温度上昇が発生。米がα化してしまうことを防ぐために、冷却に多くの時間をかける必要があったためだ。

 パナソニックでは、新製品の詳細な時間配分を明らかにしていないが、従来よりも低速回転ですり潰すため、その分の時間はかかるものの、温度上昇が少なく、冷却時間が少なくて済むという。そのため、結果として、ミルおよび冷却の時間は、従来製品とほとんど変わらないという。

 さらに、新製品では、従来は13分間だったねりの時間を17分間とし、これまで以上に伸びのある生地を作ることができるようにしたという。このあたりには、長年に渡り、ホームベーカリーを研究、開発してきたパナソニックのノウハウが活用されているといえよう。

 さらに一次発酵および二次発酵を、従来の54分から、81分へと拡大。じっくりと発酵させ、生地にガスを多く保持させるようにした。この工程でガスを十分に保持させることが、ふっくらとおいしいパンにするためには重要な要素だという。

 そして、焼き時間は従来の50分から40分へと短縮。熱効率良く、スピーディーに焼き上げることになる。

 先に触れたようにガラス窓を無くし、熱反射しやすい構造へと改良。熱効率を大幅に改善したことで、「皮はパリっと、中はふっくらとした焼き上りが実現できる」という。

 一般的に11cm以上の高さに膨れ上がるパンがおいしいパンの目安だといわれるが、従来のGOPANでは、10~14cmといったところだった。だが、新たなGOPANでは、11~17cmまで膨れ上がるという。「釜伸びの様子や膨れ上がり方は、従来のGOPANとはまったく違うものになっている」というのは試用した人の声だ。

 新たなGOPANで目指した一歩先のおいしさを実現するための製パンプロセスの改良だといえる。

 なお、「お米食パンコース」での焼き上がりまでの全所要時間は、従来製品が3時間49分~4時間22分としていたのに対して、新製品では、4時間30分とわずかに伸びた。

楽しく、おいしいパンをつくる新機能も

 新たなGOPANでは、W自動投入容器と、アレンジ生地コースの2つの機能を新たに採用している。

 W自動投入容器は、これまでのグルテン・イースト用自動投入容器に加えて、レーズン・ナッツ容器を追加したものだ。最大60gまでのレーズンやナッツなどをセットしておけば、自動的にこれを投入。レーズンパンなどが簡単に作れるというものだ。これは、パナソニックのホームベーカリーで採用されている人気機能である。

W自動投入容器。グルテン・イーストとレーズン・ナッツの2つを用意
ここにW自動投入容器を設置する
W自動投入容器を設置した状態。輻射熱を利用して熱効率を高めている

 また、アレンジ生地コースは、生地に具材を練り込む工程を設けたもので、カボチャやホウレンソウのみじん切りを、ミル工程と冷却工程の間の時間帯に追加すれば、パンプキンパンなどが完成する。アレンジのしやすさを追求し、米パンをおいしく、楽しみながら、作るという工夫の1つだ。

 同社では、約40ページのレシピ本「Cook Book」を製品に付属させるが、これもアレンジ生地コースやW自動投入容器の機能をふんだんに活用した新たなものとなっており、楽しいパンづくりをサポートするものになっている。

従来のGOPANはグルテン・イーストとガラス部の組み合わせ
アレンジの提案を行うCook Bookも添付している

米消費拡大に加え、健康面からの訴求も強化

 GOPANは、発売当初から、食糧需給率の向上を掲げながら、日本ならではの米文化へ改めて注目を集めさせる一方で、朝食を抜く人が多いという現代人が抱える食習慣の問題にもスポットを当ててきた。

 新製品でも、その姿勢を堅持しながら、さらに一歩、健康的な食生活の提案にも踏み込む考えを示す。

 新たなGOPANでは、第1世代機にはあったレッドの筐体カラーを廃止し、ブラウンとホワイトの2色展開としているが、ここで採用したブラウンは、同じく3月1日に発売する「ファイバーミキサー」と同色とした。これも、GOPANとファイバーミキサーとの組み合わせで、進入学シーズンにおいて、バランスが取れた食生活を提案するための仕掛けの1つとなる。GOPANの健康訴求の一環といえる。

新たなGOPANで焼いた米パン。釜伸びが大きく、ふっくらしていることがわかる
ファイバーミキサーと同色を採用。組み合わせて健康面からの訴求を展開する

 一方で、日本の米文化との連携では、2013年1月30日に、秋田県秋田市のホテルで、地元紙や地元局などを対象にしたGOPANの新製品発表会を開催。さらに、1月31日、2月1日には、秋田県庁の食堂前において、「ランチ de ゴパン」を開催。あきたこまちによる玄米パンを試食してもらうというイベントを行なう。地方で製品発表会見を行なうのは初めてのことだ。

 ここでは、地元メディアを通じての訴求だけでなく、米を使った米パンのおいしさを体験してもらうことでの米消費拡大の提案、玄米食促進による健康意識の啓発、そして、県産品とのトッピング提案による地産地消の促進を狙う。

 秋田県では県内59団体に対して、GOPAN購入時に15,000円の助成金を交付するといった取り組みを行なってきた経緯があり、米消費拡大を狙うGOPANのコンセプトにコミットしている県の1つだともいえる。

 こうした地方からの発信を強化することで、GOPANの発売時からのコンセプトを広く浸透させていく狙いがある。

 第3世代のGOPANは、パナソニックのホームベーカリーのノウハウや、インバーターモーター技術などの独自技術を盛り込むことで大きく生まれ変わり、GOPANを大きく進化させた。

 そして、プロモーション展開についても、従来からのコンセプトを確実に継承しながら、健康提案といった領域にも一歩踏み出すことになる。

 製品面、技術面、そしてコンセプト面でも、GOPANの正常進化が見られた第3世代の新製品だといえよう。

【お詫びと訂正】初出時に、第2世代GOPANの発売時期や本体色などについて誤記がありました。お詫びして訂正させていただきます。

大河原 克行