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そこが知りたい家電の新技術

パナソニックに聞く、東京スカイツリーが“オールLED”でライトアップできた理由

by 藤原 大蔵
昼間の東京スカイツリー

 自立式電波塔として世界一を誇る、高さ634mのランドマーク「東京スカイツリー」が、本日2012年5月22日、東京都墨田区にオープンした。

 7月中旬までは入場が予約制とのことで、上空から東京の景色を見下ろすのは容易ではないが、スカイツリー外観のライトアップなら、近くに行けば地上から無料で楽しめる。スカイツリーでは、水色の「粋」と、紫色の「雅」という2パターンのライトアップを、日替わりで行なっており、また2秒毎に光が展望台の外周を1回転する「時計灯」など、面白い仕掛けも用意されている。


水色の「粋」のライトアップのようす 紫色の「雅」のライトアップ。1日ごとに代わる

 実は、スカイツリーのライトアップには、すべてパナソニックによるLED照明器具が使われている。同社によれば、ライトアップを“オールLED”化することで、従来光源と比べて最大で43%の省エネができるという。

 しかし、振り返ってみると、LED照明が我々の生活に入ってきたのはごく最近の話。パナソニックがスカイツリーのライトアップ機器を使用するのが決定したのは、今から約2年前の2010年の3月のこと。同社が2009年10月に家庭用LED電球を市場に投入した、わずか半年後のことである。いくら進化の早い業界とは言え、家庭の室内照明でさえ“オールLED”が夢だった時代に、600mを超える高層建造物を照らす大型照明を“オールLED”化することは、容易なことではなかったのではないか。

 そこで、スカイツリーのライトアップ照明に携わったパナソニックの担当者に、スカイツリーのライトアップを“オールLED”にできた秘密、そしてスカイツリーに搭載された照明技術について、パナソニック エコソリューションズ社 ライティング事業グループ 開発チーム参事の彦根修氏に話を伺った。

コンペの段階では“オールLED”の予定はなかった

パナソニック エコソリューションズ社 ライティング事業グループ 開発チーム 彦根修 参事

 まず素朴な疑問として、「なぜ家電メーカーのパナソニックが、ライトアップのメーカーに選ばれたのか?」という質問を投げかけた。

 「一般の方が“パナソニック”と耳にすると、家電メーカーというイメージが強いと思います。しかし、我々パナソニック エコソリューションズ社(旧・パナソニック電工、松下電工)では、オフィス、駅、道路、スタジアムなど、建物全体の照明設備を手がけており、ライトアップもその一環として、従来から手がけていました。施設をライトアップする事例として、レインボーブリッジや明石海峡大橋などの橋、名古屋テレビ塔など建物のライトアップなどの経験がありました」

 スカイツリーが“オールLED”と聞くと、「LED電球が組み込まれているの?」と誤解する人も多いらしい。しかし、大型建築物の場合、建造物にあわせた器具を開発するため、一般家庭の照明とは仕様が大きく異なるとのことだ。

 パナソニックが東京スカイツリーのライトアップの器具を作ることは、コンペを経て決定した。ライトアップ全体のデザインは「シリウスライティングオフィス」が決定し、パナソニックはそのデザインに沿ったライトアップを実現する器具を作るのが仕事だった。

パナソニックがスカイツリーのライトアップメーカーに選ばれた際の記者発表会の写真(2010年)。左から、パナソニック電工の長榮周作代表取締役専務(当時)、シリウスライティングオフィスの戸恒浩人氏、東京タワースカイツリーの藤井角也 代表取締役専務

 だが、コンペの段階では、明るく照らせるようなLEDはなく、光源の設計は従来光源の高輝度放電ランプ(HIDランプ)だったという。

 「時代の流れもあって、開発の途中から最新のLEDを導入するよう、デザインの要望が変化していきました。当時のLEDを考えた場合『本当にできるのか?』と社内でも声があがりました」

 すでに計画や開発はスタートしており、それからのLED光源への変更だった。しかし、当時のLEDは、まだ明るさが足りなかった。家庭用LED電球でも全光束は300lm(ルーメン)程度で、現在発売されているような810lm程度(明るさ白熱電球60W相当)の製品はなかった。当時では無謀とも言える要求に、どうやって対応したのだろうか。

 「納入は数年後だったので、施工段階でのLEDの進化予測を立て、賭けのような状態でスタートしました。LEDは飛躍的に進化し始めていましたので、計算上では、LEDの明るさが納入時までに追いついてくれれば実現可能だろうと。言うなれば、“業界予測”に頼っていたのですが、もちろんそれは普通の開発計画とは大きく異なっていました」

 その一端が伺えるのが、2010年3月、パナソニックがスカイツリーのライトアップメーカーに採用された時のニュースリリース。この段階では、“オールLED化を目指します”という言葉があるものの、“オールLEDにする”と断言はされていなかった。

 しかし最終的には、“オールLED”のライトアップを実現し、今日のオープンを迎えることとなった。

 「LEDが進化することを十分想定しており、実現できるだろうと信じていました」


高さ600m、最頂部「ゲイン塔」の先端だけを光らせる秘密は“パラボラアンテナ”



 “オールLED”のライトアップができるまでの全体的な流れは分かったが、では実際にどのような照明機器がスカイツリーに搭載され、634mの塔を照らしているのだろうか。それを説明する前に、スカイツリーのライトアップの構成から説明しよう。

 東京スカイツリーのライトアップは、大きく分けると以下の6つの部分から成っており、合計1,995台のLEDが搭載されている。

(1)頂上部の「ゲイン塔」を照らす照明
(2)展望台を回転する「時計光」
(3)胴体部「ゴールド」色の照明
(4)胴体の鉄骨交点の照明
(5)胴体を水色に光らせる「粋」色の照明
(6)胴体を紫色に光らせる「雅」色の照明

 この中で開発に最も苦労したのが、「ゲイン塔」という。

スカイツリー最頂部の「ゲイン塔」を照らすことで、富士山の冠雪を表しているという

 ゲイン塔とは、放送用のアンテナの役割を果たす最頂部のポールのこと。「粋」と「雅」のテーマに変わらず、634mの最頂部を明るく輝かせるのが、デザインで決められた。このデザインをLEDで具現化するのが、パナソニックに課せられた仕事だった。

 「(当初の予定だった)HIDランプが使えなくなって、塔の先端部だけをピンスポット的に照らすのが一番大変でした」

 しかし、1つの照明器具の誕生が、難題を解決する。

 「着目したのが、衛生放送を受信するパラボラアンテナの構造です。パラボラアンテナでは、平行に降り注ぐ電波を反射させて、電波を1点に集中します。これを応用し、点光源で直進性の強いLEDの光を、パラボラ型の反射板で拡散することで、光がまっすぐに届くように調節できます。最終的には『2度』という超狭角の配光を実現し、ゲイン塔を照らすことができました」

ゲイン塔用の照明。パラボラ形の反射板を搭載している 反射板でLEDの光を調節することにより、ゲイン塔だけを照らすことができた

 ところで、明かりは照明器具の近くが明るくて、遠く離れるにしたがって徐々に減光するのが一般的。ということは、このゲイン塔の先端から下向きに照射しているのだろうか。

 「いや、光は“下から上”へ照らしています。実は天望回廊(地上450mの第2天望台)の一段上がったところに、パラボラ曲面反射板を搭載したLEDの投光器が60台設置されており、これでゲイン塔の先端だけを明るくすることができました」

 この器具を開発したことで、さまざまなメリットも得ることができた。

 「従来型の超狭角型HID投光器と比較しても、明るさは倍、消費電力は1/8、角度は1/3と優れています。レンズも使っていないのでコンパクトですし、無駄に空を照らすような“光害”も極力抑えています。また、天望回廊の一段上に設置していることで、メンテナンス性も向上します」(彦根氏)

展望台を2秒毎に1回転する「時計光」は、LEDだからこそキレイにできた

スカイツリーの展望台を光がクルクルと回る「時計光」も、光源はLEDだ

 東京スカイツリーのライトアップでもっとも目を惹くものといえば、天望デッキ(地上350mの第1天望台)と、その上にある天望回廊という、2つの天望台の周りを回転する「時計光」の照明だろう。この光は流れ星が尾を引くように、減光しながら夜空に美しくきらめいている。また、“時計光”という名前が示すように、2秒ごとに1回転する。

 もちろんこれは本当に光がグルっと回転しているわけではない。展望台に搭載されているLEDを点けたり消したりすることで、回っているように見えるのだ。

 「時計光は、LED1つずつを順番に点滅、あるいは減光させて、回転するような表現をしています。天望デッキと天望回廊では、LEDの数が違いますが、上下が連動するように制御しています。LEDは通電すると白熱電球とは比べ物にならないほど100%の明るさに到達するのが早く、コンママイクロ秒で到達します。光が追尾するような表現はLEDだからこそできました」(彦根氏)

 とはいえ、制御装置までの距離はそれぞれ異なるため、単純にコントロールしても時間差ができる。そのため、パナソニックでは初めからそれを見越した上で制御装置も設計しているという。

 「器具は約1mの間隔で並べていますが、点灯タイプ、点滅タイプを交互に並べています。しかも、単純にON/OFFしているのではなく、1台ずつを独立して制御、調光しています。パナソニック電工は総合電機メーカーだけに、照明器具、制御装置の両方を開発できたので、実現しました」

光が尾を引くような演出がなされている 時計光の照明 点灯タイプと点滅タイプのLEDを交互に並べることで、キレイに光が流れるように見えるという


水色の「粋」はRGBのLEDで表現。でも紫色の「雅」はなぜ単色のLEDを使う?

「粋」は隅田川を、「雅」は江戸時代から継承される伝統の紫色「江戸紫」がテーマ

 スカイツリーのライトアップでもう1つ注目したいのが、1日毎に変わる胴体のライトアップだ。隅田川をイメージしたという水色の「粋」と、江戸時代から継承される伝統の紫色「江戸紫」をイメージした「雅」という2パターンのライトアップが用意され、これが1日毎に切り替わる。これはどのように演出しているのだろうか。

 「粋色の照明には、R(赤)、G(緑)、B(青)の3色のLEDを搭載した器具と配光制御を組み合わせて、微妙な色を再現しています。合計552台の器具が、約10mピッチで心柱の広い範囲をくまなく照らしています。オープン直前まで、光の強さと色味をさまざまな方向からデザイナーと確認し、ベストなものを決定しました」(彦根氏)

 一方の「雅」は、3角形のツリーの裾、地上の北側の一辺から天望デッキ(第1天望台)がある上方向を照らしている。パナソニックのホームページでは、江戸紫の色を表現するために、わざわざ専用のLEDを開発したとある。

「粋」はRGBのLEDで水色を表現する 「雅」では、最初から江戸紫色を放つ専用のLEDを採用している

 しかし、スカイツリーには前述の通り「粋」用のRGBのLEDを備えている。これを使えば紫色の光は簡単に再現できるはず。ではなぜ、専用のLEDを新たに開発したのだろうか。その理由は、“雅”の方が、“粋”よりもライトアップする範囲が広いことが影響している。

 「“雅”では、ツリーの根元から100m以上先に光を飛ばす、というのがデザインで決まっており、そのためにゲイン塔で使用した、パラボラ反射板を応用した投光機の技術を使用しています。

 しかしパラボラ反射板は、反射板の焦点にLEDを確実に配置しないと、光を遠くまで飛ばせません。そのためRGBの3つのLEDで構成すると、反射板の焦点からどうしてもズレが生じてしまうため、例え色が再現できても、光は遠くまで飛びません。一方、反射板に頼らずにRGBだけで構成し、光を遠くまで飛ばそうとすると、かなり大きなレンズが必要になり、器具も大きくなってしまいます」

 “1日ごとに照明のデザインを変える”――そういうデザイナーの要望を実現することに、技術者たちのアイディアが込められているのだ。

ライトアップならぬ「ライトダウン」でも“光害”を抑制。ノイズも問題なし

 スカイツリーのライトアップで面白いのが、上向きに光を放つ“ライトアップ”以外にも、下向きに光を送る“ライトダウン”が行なわれているところ。胴体部の「ゴールド」色の照明がそれで、展望台の下から胴体部に向けて、金色の光が放たれ、スカイツリー全体をやさしく包んでいる。

 「一般的に、建造物のライトアップは、地上に近い場所から上方向を照らします。これまでは下向きに照らすようなライトアップはありませんでした」

胴体を照らす金色の光は、展望台から下向きに“ライトダウン”している ゴールド色の照明。金色と白色を混ぜている。こちらもパラボラ曲面反射板を採用している

 しかし、東京スカイツリーの周りには多くの住居があり、塔を照らし出すだけの明るい光が上から地上へ降り注いだ時、地域住人への“光害”にならないのだろうか。

 「敷地の回りの多くは住居で、敷地内から光が極力漏れないように極力コントロールする必要がありました。そこで、ゲイン塔のパラボラ曲面反射板を搭載した器具を応用しました。たとえライトダウン方式で光を下方向に向けても、敷地内から光をほとんど漏らさず、かつ人々が見上げた時にさほど眩しさを感じさせない照明が開発できました」.

 “害”について、心配なことがある。1,995台というとてつもない数のLEDの器具を設置しているということは、LEDが発するノイズや、光による“虫害”の心配はないのだろうか。

 「ノイズに関しては、試験を繰り返し、全て基準値以内収まるように設計しています。そばに近寄っても問題はありません。また、LEDの照明は虫が好む紫外線が出ません。虫の目線では、スカイツリーはライトアップしていないように見えているはずです

 また、光源がLEDということで寿命は40,000時間だが、もし寿命になった場合でも、簡単に、安全に交換できる仕組みになっているという。

 「器具は全て密閉構造になっています。万が一の故障や、約40,000時間の寿命を迎えた際は交換しますが、器具の密閉を保っているネジひとつとっても、開けた時に誤って器具から離れて落ちないような構造を採用しています」

ゲイン塔に雲が掛かった時、開発者の苦労の跡が見える

 こうして開発された東京スカイツリーの照明は、コンピューター上でシミュレーションしたうえで、実際にツリーに取り付けているという。実際に点灯してみて、計算どおりのものができたのだろうか。

 「実は、ほとんど狙い通りにでき上がりました。工場と力をあわせ、一歩一歩チェックしながら作りあげていきました。ひとつのゴールに向かって大勢の開発者が共に手を取りあった結果。開発者としての喜びと感動を覚えました

 ただし、時計光の照明は変更を加えました。当初の計画では1秒で1周する光の流れを予定していましたが、今年の2月の実験の際に、『早すぎて落ち着かない』『あわただしい』という意見が上がり、最終的には2秒で1周というパターンで落ち着きました」

「ゲイン塔の照明の開発が大変でした」という彦根氏

 彦根氏は困難だった開発を振り返りながらも、その過程で技術を培えたことに手応えを感じているようだ。

 「思い返しても、パラボラ曲面反射板を使ったゲイン塔の照明の開発には苦労しました。しかし、結果的に将来に応用できる反射板を使った技術が培われました。今回は細い光をまっすぐ飛ばすことに成功しましたが、広い面を一度に照らすものが開発できるのではないかと考えています。

 また、RGBを細かく自在に制御できる装置も開発できたので、今後のLEDの進化に合わせて、いろいろな色も表現できるので簡単にできるようになるはずです。東京スカイツリーは『粋』と『雅』の2色のテーマカラーに合わせて設計していますが、制御装置の調整で、他の色も表現できる余力も残しています」

 最後に、開発者として東京スカイツリーのライトアップのどこに注目して欲しいか、尋ねてみた。

 「近くから塔を見上げれば、天望台下についている塔を照らすゴールド色の器具がキラキラと輝いて見えるはずです。パワフルな光を放つ高出力の器具ですが、眩しさを感じない程度の煌きが楽しめます。時計光や鉄骨光源の光も、目にやさしいようやわらかく拡散するように配慮しています。どこからでも美しくライトアップされた東京スカイツリーが楽しめることでしょう

 あと、ゲイン塔に雲がかかった時に、60台のピンスポットライトの細い光の筋が見えるはずです。今までのHIDランプの光とは明らかに違う輝きを放ちます。マニアックかもしれませんが(笑)、新しい輝きを是非楽しんでください」

 東京スカイツリーのライトアップは、ただ光っているのではない。彦根氏を始めとする開発者が難題に立ち向かい、美しいものを作り上げようとする心意気も輝いているのだ。






2012年5月22日 00:00