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息を呑むほどの美しさ! 冬しか見られない奥入瀬渓流の氷瀑が手軽に楽しめるパナソニックの取り組みとは

寒くて、交通の便も悪い場所にどうやって人を呼ぶか

 冬の観光というと何を思い浮かべるだろう。スキーやスノーボードといったウィンタースポーツ、温泉、あるいは温暖な気候の場所に出かけるという人も多いだろう。そんな中あえておすすめしたいのが、青森県十和田市にある奥入瀬渓流だ。冬の貴重な観光資源であるスキー場もなく、交通の便も悪い、はっきりいって冬に出かける場所としては人気がない。しかし、今、ここでしか見られない美しい景色がある。それが奥入瀬渓流の氷瀑だ。

青森県十和田市の奥入瀬渓流の冬景色
厳しい寒さで滝が氷結した「氷瀑」

 十和田湖からの豊富な水が美しいこの地域は、多くの美しい滝でもよく知られている。厳しい寒さによってこれらの滝が凍る現象を「氷瀑」と呼ぶ。しかし、冬にこの地を訪れる人は少なく「氷瀑」の認知度も低かった。そこで、十和田市、星野ホテル、パナソニックが共同でスタートしたのが「氷瀑ライトアップツアー」だ。奥入瀬渓流沿いの美しい氷瀑をライトアップ、バスに乗りながら手軽に楽しむことができる。

ライトアップした美しい氷瀑を手軽に楽しめる「氷瀑ライトアップツアー」

 このツアーが実現したのは、青森県・十和田市と、星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル、そしてパナソニックの協力があったからだ。

左から、パナソニック エコソリューションズ社 ライティング事業部 エンジニアリングセンター 照明エンジニアリング部 東北EC 籠谷 葵氏、十和田市 観光商工部 観光推進課 観光企画係 係長 小泉和也氏、星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル 総支配人 宮越 俊輔氏

 十和田市 観光商工部 観光推進課 観光企画係 係長 小泉和也氏は今回の取り組みについて「冬季観光の目玉」を作りたかったと話す。

 「奥入瀬渓流付近は、冬場の宿泊客の数が極端に少ないエリアでした。しかし、現在台湾や韓国からのインバウンド需要も増えている中で、冬でも楽しんでもらえるような、何か目玉となるようなイベントができないかというところからスタートしました。そこで出来たのが、奥入瀬渓流の氷瀑でした。ほかの場所では見られないものとして非常に貴重ですが、国立公園内にあるということで、そこで何かを実施するということに高いハードルがありました」(十和田市 観光商工部 観光推進課 観光企画係 係長 小泉和也氏)

 冬季の観光客減という問題は、同地区にある星野リゾート 奥入瀬渓流ホテルにとっても深刻だった。冬場は交通の便も悪く、奥入瀬渓流の遊歩道も閉ざされてしまうため、これまで長らく冬季の営業はしていなかったという。

9年ぶりに冬季の営業を開始した星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル
星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル 総支配人 宮越 俊輔氏

 「冬季の営業をするのは、実に9年ぶりとなります。まずは経営の安定を最優先に考え、4月~11月のみの営業としていました。しかし、インバウンド需要や十和田市様からの後押しもあり、冬シーズンにもチャレンジしていきたいと思っていたタイミングでした。ホテルにとって、奥入瀬渓流そのものが一番のセールスポイントであり、お客様に自然を楽しんでいただくというのがコンセプトです。冬季も何か楽しんでいただけるようなトピックはないかと十和田市様と一緒に話を進めてできたのが、氷瀑をライトアップするというアイデアでした」(星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル 総支配人 宮越 俊輔氏)

ライトアップ専用車両で国立公園内を照らす

 そこで、声をかけたのが、様々な観光名所でのライトアップを担当しているパナソニックだった。

 「国立公園内には、器具を設置できないということで、ご提案させていただいのが、ライトアップのための投光器を車に搭載するというアイディアでした。ライトアップ用のLEDカラー投光器『ダイナペインター』、照明コントローラー、5kWリチウムイオン蓄電システムをセットにしたライトアップ専用車両を用意し、実施場所に移動しながらライトアップを行なうというものです」(パナソニック エコソリューションズ社 ライティング事業部 エンジニアリングセンター 照明エンジニアリング部 東北EC 籠谷 葵氏)

ライトアップのための投光器を載せた専用車両
車内に蓄電システムも備える

 観光客を載せたマイクロバスとは別に、投光器を搭載した車も一緒に移動することで、器具を常設することなく、ライトアップされた氷瀑を楽しめる。ライトアップする時間も短いため、自然への影響を最小限に抑えられるという利点もある。しかし、実現には難しい問題もあったという。

 「通常はライトアップのための器具が移動するということはありません。対象物に対して、どの角度で照らすのが一番ベストなのかを綿密に計算し、器具の配置場所を決めます。しかし今回のプロジェクトでは、投光器が毎日移動するため、角度や車の駐車場所の調整に非常に時間がかかりました。しかも、国立公園内には、むやみにポールを立てたりすることもできません。結果、木や岩の場所で駐車場所を覚えるしかなく、この点ではかなり苦労しました」(籠谷氏)

 車の上に投光器を載せて、移動しながらライトアップをするというのは、パナソニックとしても初めての取り組みだったという。

パナソニック エコソリューションズ社 ライティング事業部 エンジニアリングセンター 照明エンジニアリング部 東北EC 籠谷 葵氏
車両をどこに駐車して、どの角度で光を当てるかなどの調整に苦労したという

テーマに合わせた複雑なプログラム

 今回のプロジェクトでは、場所によってライトアップのテーマを変えている。例えば「馬門岩」という場所では「氷」をテーマとして、透明から乳白、アイスブルーなど様々に変化する神秘的な氷の色を演出している。一方、「雲井の滝」というスポットでは、「浮世絵」をテーマとし、日本の伝統である浮世絵の色が現代に蘇り飛び出す世界をイメージしているという。

「馬門岩」。「氷」をテーマとして、透明から乳白、アイスブルーなど様々に変化する神秘的な氷の色を演出
「浮世絵」をテーマとし、日本の伝統である浮世絵の色が現代に蘇り飛び出す世界をイメージした「雲井の滝」

 ライトアップのプログラムは、十和田市、星野リゾート、パナソニックが一体となって進めたという。

 「自然の変化によって形成された特徴的な岩や滝を活かすようなライトアップを心がけました。私達も様々な対象物をライトアップしていますが、雪や氷というのは、非常にライトアップが映えます。表情豊かで、多彩な色が表現可能なので、時間の経過と共に色が変わるような演出も採用しています。LEDというのは、非常に指向性の高い光源なので、当てたいところだけに光を当てることができ、自然やそこに住む動物たちへの影響を最小限に抑えられるという利点もあります」(籠谷氏)

ここでしか見られない美しい景色が満載!

 実際のツアーはマイクロバスに乗って、約1時間ほど数カ所の名所を巡る。外は氷点下の世界(この日はマイナス7℃だった)だが、バスの中は暖かく、快適。目的の場所に着いたら、バスから降り、そこから数分間のライトアップが始まるという流れだ。普段の生活ではまず目にすることのない自然は、美しいのはもちろんだが、迫力があり、自然の力強さが感じられた。

木の枝もライトアップによって全く印象が変わる

 国立公園内は、人工物や建物がほぼないので、バスとライトアップの明かりが消えたら、深い森で、辺りは闇に包まれる。普段、人工的な明るさの中で生活しているので、ここまでの暗さを感じるというのはなく、それもまた“非日常”だった。しかも天気が良ければ、頭上には星が広がる。大きくて明るく光る星も、空気の澄んだ冬の空ならではだ。

 また夜間だけでなく、日中のツアーも用意。両方参加することで、色々な表情の奥入瀬渓流が楽しめる。今回の記者が参加したツアーは星野リゾート 奥入瀬渓流ホテルが実施しており、宿泊者は無料で楽しめる。

 そのほか、十和田市が主催しているものもあり、そちらは十和田市内出発で2,000円の参加費が必要になる。いずれも好調で、十和田市主催のツアーはすでに600人が参加、今後も100人以上の予約が入っている。

 星野リゾート 奥入瀬渓流ホテルでも手応えを感じているという。

 「正直、最初はなかなか難しいなというところもありました。何もないところからのスタートでしたので。まずは知っていただくというところからスタートして、これからも続けていければと思っています。実際、宿泊されたお客様のほとんどが、ツアーに参加されています。また、台湾や韓国など海外からのお客様が増えている中で、寒い想いをしなくても、絶景が楽しめるというのは大きなポイントの1つだと思います」(星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル 総支配人 宮越 俊輔氏)

 青森県ではインバウンド誘致に積極的に取り組んでおり、十和田市においても平成28年35,000人だった海外からの観光客が平成29年には50,000人まで増えている。実際、奥入瀬渓流ホテルに泊まっていても、台湾や韓国から来ている方が多かった。十和田市と、星野リゾート 奥入瀬渓流ホテルでは、来年以降もライトアップを継続していく意向だという。

非日常が楽しい! 冬のリゾートがオススメ

 怪我が怖くて、ウィンタースポーツからも遠ざかっていた記者にとって、冬に寒いところに出かけるという発想は正直なかった。しかし、実際ツアーに参加してみると、“非日常”をたくさん感じられた。

 まず、ホテルが良い。推理小説に出てきそうな山奥のロッジといった雰囲気ながら、ゲストが楽しめる工夫があちらこちらにちりばめられている。中でも「氷瀑の湯」が圧巻だった。露天風呂に入りながら、すぐ側で氷瀑が見られるという贅沢さ。

岡本太郎作の巨大オブジェが配置されたロビー
オブジェの下は暖炉スペースになっている
露天風呂に入りながら、氷瀑が楽しめる「氷瀑の湯」

 また星野リゾートならではのおいしいごはんも楽しみの1つ。青森名産のりんごにとことんこだわったというビュッフェレストラン「青森りんごキッチン」は目にも楽しい料理がずらりと並び、ついつい食べ過ぎてしまう。

 いつもとちょっと違う、冬の旅行に出かけてみるのもオススメだ。