藤山哲人の実践! 家電ラボ

「自然」なエアコンって何? 富士通ゼネラル「nocria(ノクリア)」Xシリーズを徹底解剖!

「自然」なエアコンって何? 富士通ゼネラル「nocria(ノクリア)」Xシリーズを徹底解剖!

 ここ数年の家電のコンセプトに「自然」や「ネイチャー」というキーワードがある。特に顕著なのが扇風機だ。その羽を鳥や蝶の羽に模したり、旋回流と呼ばれる機械的な風をより自然に近づけたりといろいろだ。さらに羽のない扇風機では、窓から入ってくるような涼しげな風を再現したりと各社、余念がない。

 かたやエアコンは、「夏のじめじめを快適に涼しくする」といういわば自然に逆らう機械だ(笑)。しかし「自然」にこだわる数少ない製品がある。それが富士通ゼネラルのエアコン「nocria(ノクリア)」Xシリーズだ。

富士通ゼネラル「nocria」Xシリーズ

 昔、両親から「扇風機の風を浴びながら寝ると風邪をひく」やら「エアコンをつけっぱなしで寝ると体によくない」とよく言われていた。寝るときは窓を開けて「自然の風で寝なさい!」とも。

 ここでは扇風機が「自然」や「ネイチャー」にこだわりだす以前から、「自然」なエアコンを研究開発し続けてきたノクリアの秘密をいろいろな実験を元に紐解いていきたい。

 そこには他社にはまねできない、「設定温度」になってからの快適さを保つ、富士通ゼネラル独自の技術があった。今回、実際に自宅に設置して様々な実験を行なった。使用機種は2017年の最新モデル「nocria Xシリーズ AS-X56G2W」(18畳相当・単相200V)だ。

室外機は高さが一般的なエアコンにくらべて20cmほど大きい。幅と奥行きは他と変わらない

エアコンの三大要素の「気流」に革新を起こすXシリーズ

 エアコンの三大要素には、次の3つがある。

 ・温度
 ・湿度
 ・気流

 これら3つを制御して、快適空間を創るのがエアコンの仕事。

 「温度」は、昔から研究し続けられてきたテーマだ。最近は温度センサーの精度向上や高速化(昔は秒単位でしか測定できなかった)、またいろいろな温度センサーを搭載することで、部屋の温度ムラや人が居る場所を認識するなど、より高度な温度管理ができるようになった。

室内機には、本体付近の気温を測る温度センサーに加え、部屋の床の温度を計測する温度計を持つ
リモコンにも温度計が内蔵されていて、本体とリモコン間で温度データをやり取りをしている。

 Xシリーズの場合は、エアコン本体の温度センサーに加え、リモコンの温度センサー(実際に人がいる場所)、室内の床温度センサー、そして室外機の温度センサーを搭載し、これらを統合的に管理して、温度制御を行なっている。

 「湿度」も、温度とあわせてコントロールされてきた技術。当初は冷房運転すると除湿もできるという副次的な効果に近かったが、部屋干しモードや寒くならない除湿モードなど、温度制御の組み合わせで進化してきた。

 そして近年は、「エコ」が注目され電気代のかかる「再熱除湿」だけでなく、電気代が安く済む「弱冷房除湿」を選べる機種もチラホラ発売されつつある。もちろんXシリーズは両方の運転モードが切り替え可能で、多少電気代はかかるが寒くならない「再熱除湿」と、電気代が安いが徐々に部屋が冷えてしまう「弱冷房除湿」が選べるようになっている。

Xシリーズの除湿運転は、部屋が寒くならないが多少電気代がかかる「再熱除湿」と、部屋が寒くなるが電気代は安くなる「弱冷房除湿」が選べる

 「気流」は、エアコンの中で一番、進歩が遅い技術。エアコンの吹き出し口で使われているラインフローファンは、もう何十年も前から使われているもので、多少の進化はあるが革新的なものはでていない(最近1機種だけプロペラファンを使ったものが出てきた)。

 ちょっと進歩したのは、風向きを変えるルーバーが大型化して2枚になったことぐらいだろう。これによりホースの出口をつまむと水が遠くに飛ぶように、冷気を遠くまで送れるという触れ込みのエアコンが多くなった。

風向きを変える大型ルーバーを2枚備えることで、吹き出し口をすぼめて、ちょうどホースを絞るように遠くに空気を送るようになった

 とはいえ、どんなに最新のエアコンでも設定温度近くになると、天井近くは暑く、足元は寒くなってしまう。だからサーキュレーターや扇風機を併用している家庭も多い。

 しかしXシリーズは、気流に革命を起こした。2013年からなんとサーキュレーターをエアコンに内蔵し、部屋を均一に冷暖房することに注力しているのだ。そして2017年モデルのXシリーズは、気流にさらなる進化を加え、より遠くへ、より広く、より均一に部屋を涼しくし、自然な心地よさを追求している。

 その外観も特徴的。一見すると通常のエアコンに見えるが、運転を開始すると、本体の吹き出し口とは別方向を向く縦型の送風機。これが富士通ゼネラル独自のデュアルブラスターだ。

歴代ノクリアが備えている、左右のデュアルブラスター。こちらは、2世代前のXシリーズ
最新式のXシリーズにもデュアルブラスターを搭載。他社にはない、この2つの送風機で気流を操り。吹き出し口から出る冷温風を誘導する
横から空気を吸い込み前から送風する。内蔵ファンは換気扇と同じかたつむり型のシロッコファンで強力

 富士通ゼネラルほど「気流」にこだわって開発しているメーカーはなく、どんな間取りでも均一に冷暖房できるエアコンとして、じわじわと売れ筋ランキングの上位に食い込んできている。特にリビング用のエアコン(大きい部屋用)として、Xシリーズは人気が高くなっている。

電源OFF時にはエアコン本体と一体化するデザイン。運転すると冷温風の送風口とは別方向、強さも別の風を送る

実証! デュアルブラスターの気流をチェック

 富士通ゼネラル独自のデュアルブラスター。実はタダのサーキュレーター(送風機)で、エアコン横から吸った空気をそのまま吹き出すだけのもの。つまりここから冷風や温風は出ない。

 でもタダの送風機と思ったら大間違い。一般的なエアコンは、中央の送風口から冷気を出すと、「冷気は重い」ため数メートル進むと、重さで下に落ちてしまう。ルーバーを絞ったり上向きにしても、冷気はボールを投げたように放物線を描きながら床に落ちる。これを「冷気のシャワー」とポジティブに捕らえるメーカーもあるが、筆者的には自爆しているかと(笑)。

 でもノクリアは違う。左右のデュアルブラスターは、中央の吹き出し口より強い風(やや風向も中央よりに変更)を送るので、この気流に重く冷たい冷気が引き込まれ、天井を這うよう遠くまで送られるのだ。

 その様子を可視化したのが、次の写真だ。

一般的なエアコン(デュアルブラスターを使わない場合)。冷気は冷たく重いので、風向を一番上に向けていても、放物線を描いて床に落ちてくる
Xシリーズ。デュアルブラスターを使用。左右から吹き出すデュアルブラスターの速い気流には、吹き出し口から出た冷気を引き込みながら、ずっと天井を這っている

 この実験結果は、あくまで家具が何も配置されていない場合。つまりエアコンの気流実験をするにあたって理想的な環境。そこで、実際に自宅に設置したエアコンで、同様の実験を行なってみた。

 おそらくメーカーもびびるほど、家具がごっちゃり配置された環境だ。気流は乱れまくり、あちこちで渦を巻き、実験室のようにうまくいく訳がない!

スモークが見えやすいように暗幕をバックに敷いているが、エアコンの前は(特に写真右側)食器棚があるもののデュアルブラスターの効果は高く、冷気は天井を這う
エアコンをONにした直後は、デュアルブラスターが下を向くので、気流も下に引っ張られている

 デュアルブラスターに引き寄せられられた冷風は、エアコンの反対側の壁まで到達すると、室温のデュアルブラスターの気流と、吹き出し口から出た冷気が混ざり合い、心地いい木陰を抜けるような風になる。この風は、壁に当たり部屋の左右と、下にも流れているようだ。

 その気流の様子を風速計で調べようとしたところ、微風過ぎて測定できず! ならば、ロウソクに火をつけて炎の動きで、気流を調べてみたが、これも微風過ぎて実験失敗! くそー! 富士通ゼネラルの気流は、可視化も数値化もできないほど、微妙で自然な感じなのだ!

風速計を持って調べてみても、微風過ぎて測定できず!
ロウソクの火もゆらがないほど微風なのだ!

 しかし壁に立ってみると、明らかに風が流れているのが分かる。人間の気流に対する感覚は、かなり敏感になっているようだ。

 かくなる上は、またスモーク発生装置を使って、部屋がどのように煙で見えなくなるかを実験してみた。

写真ではシーリングライトの下のスモークが強く写っているが、実際には平均的に真っ白(笑)

 サーキュレーターを使わなくても、これだけ均一に、しかも測定器ては計測できないほど微風で、部屋の空気を攪拌・循環できるのは、独自のデュアルブラスターの効果と断言してもいいだろう。

誰もが気持ちいい小春日和の快適空間を創る

 オフィスでの「あるある」を思い出して欲しい。クールビズが徹底されている内勤の現場と、夏でも客先では背広じゃないと……という営業職の共存。ここで問題になるのが、エアコンの設定温度だ。27~28℃に設定すると背広組は「暑い暑い!」とうるさい。しかし25~26℃にするとクールビズ組には寒すぎ。

 こんなときに一番手っ取り早い解決方法は、たくさん着込んでいる人は何枚か脱いで、薄着の人に合わせるという方法だ。逆にエアコンに弱い女性の(実は筆者も足が冷えてしまう)ように、サマーセーターを着たりショールを羽織ったりという手も。

デュアルブラスターにより、より遠くまで冷気を運べる

 家のエアコンでも会社同様に、みんな着ているものが違うのだから、暑かったり寒かったりする場合は、着る物で調整するのが普通だろう。

 しかしエアコンによっては、暑がっている人と寒がっている人を見分け、温度の違う風を吹き分けるという機種も登場し始めた。でもこれはちょっと不自然にも感じる。数年前までは、各社いかに部屋の温度を均一に涼しくできるか? を探求していたのに、いきなり方向を180度転換。あえて部屋に、温度ムラをつくるというアプローチに出たエアコンがいくつかある。

 温度差の違う風を送るために、エアコンは数℃の冷たい風を人に直接当てる。しかも人の居る場所をセンサーで認識して、冷たい風が人を追いかけるのだ。もちろんこれを気持ちよいエアコンと感じる人も多いだろう。しかし高原や山中の旅館で感じる「涼」とは違うもので、自然界にはない涼しさだ。

遠くに冷気を運べるのでL字の間取りでもムラなく冷気が届けられる

 Xシリーズのアプローチはあくまでも自然に準ずるという方法だ。温度の違った空気を吹き分けるというのは、もちろん、自然にはない現象。Xシリーズでは、部屋全体が均一な温度になるように気流をコントロールする。その気流も、不自然に送風機で送ったものではなく、間接照明のように、一度部屋の壁などに反射させたごく緩やかな「微風」を再現する。

 Xシリーズが作る快適な部屋とは、小春日和や初夏の晴れの日のように、みんなが気持ちいい快適空間なのだ。

素早く涼しく、ずっと心地よく

 Xシリーズの気流へのこだわりは、ムラなく測定器でも計測できない微風で、ナチュラルな涼しさを作ることだけではない。それは梅雨が明けるとスグにやってくる夏本番の暑さで実感できる。照りつける炎天下の中ようやく家に帰ったら、家の中が蒸し風呂状態……。「外より暑いやんか!」という悩みだ。こんなときは一刻でも早く涼まりたい。

 エアコンの風を人に直接当てず、より自然な涼しさを提供するXシリーズだが、部屋がサウナ状態のときは、直接人に冷気を当てて、涼めるように気流を変える、柔軟さも持っている。

 特に最新モデルでは、室温が設定温度近くになると、涼しさをキープするために2つのモードを選べるようになったのも特徴。1つはお風呂上りなどで気持ちいい「涼感アップモード」。このモードは、室温を保ったままデュアルブラスターで、室温の気流を人がいる下方向に吹き出すモードだ。

 一般的なエアコンだと、風呂上りに涼むときは風量を上げたり、室温を下げたりするので、他の人にとっては寒くなってしまう。でもXシリーズは、室温の風を送風するので、風に当っている人は設定温度より涼しく感じ、風に当っていない人はこれまでの設定温度のままにしか感じない。

「涼感アップモード」や運転開始直後は、より涼しさを感じるようにデュアルブラスターが下を向き、人に風を送る
「涼感アップ」にするとデュアルブラスターを下向きにして、人に風を送るようになる。「涼感ソフト」にするとデュアルブラスターを天井に向け、間接的で自然な気流をつくる

 もう1つは、デュアルブラスターの室温気流も、天井方向に送風する「涼感ソフトモード」。エアコン付近にいても冷えすぎないやさしい涼感を得られ、エアコンから離れた人でも涼しく感じられるという。

 通常はこちらのモードにしておけば、冷気は天井を這い、自然な涼しさのエアコンになる。

「涼感ソフトモード」は、デュアルブラスターも中央の送風口も上を向いている。冷風が対面の壁まで飛んで、そこから間接的な対流や気流が発生する

扇風機やサーキュレーターいらずで年中快適

 今回は冷房を中心に気流の実験をしてきたが、デュアルブラスターは「暖房時に温風を床面に押さえつける」という、他社は真似できない特徴もある。

 そして今の時期や残暑が残る秋には、送風運転も気持ちいいという点も覚えておきたい。デュアルブラスターと本体の送風が使える上に、それぞれ独立して稼動、より広範囲に送風する。扇風機よりも広い範囲へ同時に送風できるのが便利だ。

 さて次回は、気流のすばらしさが分かったところで、快適な温度制御についてを実験する。本当にカタログどおり、ムラなく部屋全体を冷房できるのかを調べて、その実験結果をお届けする予定だ。

 後編はコチラ

藤山 哲人