三洋、2012年度にセル変換効率23%以上の「次世代太陽電池」を商品化

~生産能力強化で“日本/欧州/北米の需要拡大にも対応”

2010年秋に出荷予定の「HIT Nシリーズ」と、三洋電機の執行役員ソーラー事業部・前田哲宏事業部長
 三洋電機は、同社の太陽電池事業に関する記者説明会を行ない、セル変換効率23%以上を目指す次世代太陽電池を、早ければ2012年度にも商品化する計画を明らかにした。

 また、大阪府貝塚市の二色の浜工場、滋賀県大津市の滋賀工場の「HIT太陽電池」モジュールの生産能力を増強。さらに新製品として、2010年秋の出荷を計画している「HIT  Nシリーズ」、2011年度に出荷を予定している「HIT HDシリーズ」を発表した。

モジュール変換効率が“世界最高水準”の新シリーズを投入


HIT Nシリーズの「HIT-N230SE10」
 三洋電機のHIT太陽電池は、結晶系基板と薄膜アモルファスシリコン層を形成する独自の技術によって実現する高い変換効率と、温度特性に優れている点が特徴。これにより、設置面積あたり世界トップクラスの発電量が得られる。三洋電機は、1975年から太陽電池事業を開始している。

 秋より発売するHIT太陽電池のNシリーズは、出力が230Wの「HIT-N230SE10」および225Wの「HIT-N225SE10」の2シリーズ、HDシリーズでは、250Wの「HIT-H250E01」および245Wの「HIT-H245E01」を用意している。セルの高効率化技術の採用、細線化した新しいタブデザインの採用、光閉じ込め技術の採用により、いずれも世界最高水準のモジュール変換効率18.2%を実現。セル変換効率では、N230で20.7%、HD250で20.8%を達成している。

製品のロードマップ。HDシリーズの方が高出力となっているラインナップ

 セルの高効率化技術としては、入射した太陽光を、結晶シリコンによって形成される発電層にできるだけ多く届けることで、光学損失を低減し、高い電流の実現を狙っている。また、表面の反射を少なくするとともに、透明誘電膜の吸収および集電極の遮光を抑える工夫を行なっている。さらに、発生した起電力をできるだけ維持するために、アモルファスシリコンの特性を生かして損失低減を図り、高い電圧を維持し、発生した電気をできるだけ損なわずに外部に取り出すことで、抵抗損失の低減を実現したという。

 加えて、低ダメージのアモルファスシリコンを形成や、高品質ワイドギャップアモルファスシリコンによる低吸収化により、HIT結合部を最適化。さらに、タブ幅を細線化した新たなタブデザインの採用により、受光有効面積を拡大。フィンガーとタブ間の電気ロスの低減効果により、集電極を最適化した。

 光閉じ込め技術の採用では、反射を抑制する「ARガラス」の採用と、ピラミッド型の表面細部の形状を見直すことで、光の入射時の反射、散乱を低減。光の閉じ込め率を高め、朝および夕方といった入射角が小さい光でも、発電量を向上させることができたという。

太陽電池の効率向上のため、「光学損失」「キャリア再結合」「抵抗損失」の低減を図った高効率化に向けた取り組みの一例

タブ幅を狭めた新デザインを採用HIT Nシリーズのアップ写真。1つのセルに3本のラインが入っている太陽光の反射を抑える「ARガラス」を採用した

2012年度には、セル変換効率23%の「次世代太陽電池」も


HIT技術を発展させた「次世代太陽電池」を、2012年度を目処に商品化するという
 一方、2012年度にも商品化する予定の次世代太陽電池については、三洋電機独自のHIT技術を発展させたものという。光学的ロス、電気的ロスを低減することで、理論効率へ近づけるための設計を採用。薄型基板技術の応用により、現行のHIT太陽電池よりも薄型化を図るとともに、コストダウンが可能になるとした。

 N230の技術を向上させることでセル変換効率を21.1%に高めたN235Wモジュールを、2010年度に量産開始する予定で、この技術をさらに進化させ、次世代太陽電池の開発につなげる考え。

 次世代太陽電池の生産拠点としては、パナソニックの兵庫県尼崎市のプラズマパネル生産のP3工場の転換を第1候補にあげている。

次世代太陽電池の開発コンセプト。生産工場はパナソニックの尼崎工場の予定高効率化に向けたロードマップ。パナソニックグループに入ることで、生産性の向上やコストダウンが図れるという

三洋電機 執行役員ソーラー事業部・前田哲宏事業部長
 「セル変換効率は、出荷当初には23%にまでは到達しないかもしれない。だが、パナソニックの大坪社長、三洋電機の佐野社長が語るように、出来る限り前倒しし、2012年度中の発売に向けて開発を加速している。開発に向けてはパナソニックからも援助を受けている。厚みは200ミクロンよりも薄いレベルを想定しているが、安定した量産ができるレベルの厚みと、コストを考えて決めていきたい。コストを下げることが大前提のモデル。現時点では、特性やコストという観点で、まだ十分に説明できる段階には至っていない」(三洋電機の執行役員ソーラー事業部・前田哲宏事業部長)


生産力強化で世界の需要拡大に対応


太陽電池モジュールの拠点2カ所について、生産能力を強化する
 一方、生産能力の強化については、マザー工場となる二色の浜工場では、現在、35MWの生産能力を、タクトアップや出力向上といった工程改善により40MWの生産能力に高める。また、滋賀工場では、現在100MWの生産能力を、2010年度末には200MWにまで増強する計画であったが、設備装置の増設により250MWにまで高める。新規投資額は約4億円と見られている。

 これら国内2カ所のモジュール拠点を増強することで、当初計画では235MWの年間生産能力を、290MWにまで引き上げ、旺盛な国内需要に対応する。

 太陽電池セルについては、2010年度末に生産能力を現在の340MWの2倍となる600MW規模へと引き上げる計画であり、二色の浜工場と、島根県雲南市の島根三洋電機において、増産設備を導入している最中。二色の浜工場では最新のC棟に新設備を導入することで、現在の210MWのセル生産能力を2010年度下期から345MWの体制とした。また、島根三洋電機では2010年6月18日から220MWの生産体制に増強した。

三洋電機の太陽電池の生産拠点
 同社では、これらの生産強化により、海外のモジュール生産拠点であるハンガリー工場(ハンガリー)、モンテレー工場(メキシコ)と合わせて、日本だけでなく欧州や北米の需要拡大にも対応できる体制を確立したとしている。

 太陽電池事業においては、パナソニック、三洋電機をあわせて、2012年度に国内ナンバーワン、2015年度にグローバルトップ3に向けて加速する考えだ。

 前田事業部長は、「パナソニックグループは創業100周年を迎える2018年度に、環境先進企業ナンバーワンを目指しているが、そのなかで太陽電池事業は、重要な役割を果たすものと自負している。2009年度の世界市場の規模は7.5GWであったが、これが2010年度には10GWの市場に拡大し、さらに2012年度には12~13GWの市場になると見込んでいる。日本では設置補助金制度や、太陽光発電の買い取り制度もあり、引き続き旺盛な需要が続き、欧州では、ドイツ、フランス、イタリアの3か国に加え、今後は4月からフィードインタリフ(固定価格での電力買い取り)制度が開始された英国での需要増大も期待される。欧州では、パネルの不足よりも、インバータの不足の方が懸念される」と話した。


(大河原 克行)

2010年6月15日 17:19