【第3回国際太陽電池展】
多種多様な太陽電池が生活に密着へ

第3回国際太陽電池展(PV EXPO 2010)の来場者受付所

 太陽電池の技術と製品に関する展示会「第3回国際太陽電池展(PV EXPO 2010)」が3月3日~5日の日程で東京ビッグサイトの東展示棟で開催されている。当日入場料は5,000円だが、web上で招待券をプリントアウトして持参すると無料になる。

 家電Watchでは出展概要を紹介しながら、太陽電池の技術動向を解説する。

太陽電池とはなにか

 まず、「太陽電池とはなにか」についておさらいをしておこう。太陽電池とは光を電気に換えるデバイスで、「太陽」と名前は付いているものの太陽光線のほか、室内照明の電球や蛍光灯などの光も電気に変えられる。そして「電池」と称するにもかかわらず、乾電池やバッテリなどとは違って電気を貯めることができない。厳密には電池ではなく、発電器と呼ぶのが適切なデバイスで、屋外に大量の太陽電池をならべたシステムが「太陽光発電」システムと呼ばれているのはこのためだ。

 太陽電池は、光エネルギーの一部を電気エネルギーに変えている。太陽光や照明光はいろいろな波長の光で成り立っている。太陽電池が受け取れる光の波長は決まっており、すべての光を受け取ることはできない(理想はすべての光を受け取ることなのだが、現実には不可能)。さらに、受け取った光のすべてが電気エネルギーに変わるわけではない。太陽電池の表面で外部に反射したり、太陽電池の内部で反射して外部にもれ出たりする光が存在する。最も性能の高い太陽電池システムでも光エネルギーを電気エネルギーに変える割合(変換効率)は20%くらいで、言い換えると光エネルギーの80%は電気エネルギーにならずに捨てられてしまう。

 このため、太陽電池から大きな電力を取り出すためには、太陽電池の面積を広く大きくしなければならない。このためふつうは、10cm角~15cm角の太陽電池デバイスを平面のマトリクス状にならべた「モジュール」と呼ぶ単位で太陽電池を扱う。もう少し細かく説明すると、10cm角~15cm角の太陽電池デバイスを「太陽電池セル」と呼び、太陽電池セルを数十枚ほどならべたパネルを「太陽電池モジュール」と呼ぶ。例えば住宅用太陽電池モジュールの出力は200Wくらい、大きさは1.6×0.8m前後になる。

太陽電池セルの例。大きさは12.5cm角。東芝の展示ブースで撮影太陽電池モジュールの例。太陽電池セルをならべたようすが分かる。グリーンテックの展示ブースで撮影

 この太陽電池モジュールを例えば一戸建て住宅の屋根にならべて、出力が2kW~4kWくらいの太陽光発電システムを構成する。出力が約2kWのシステムだと出力185Wの太陽電池モジュールを12枚ほど使う。このときに重さは約200kgとかなりあるので、建物の機械的強度によっては住宅に載せられるシステムの出力が制限されることになる。

住宅の屋根は結晶系シリコン太陽電池

 太陽電池の性能(主に変換効率と製造コスト)を大きく左右するのは、材料と構造だ。言い換えると、材料と構造の違いが太陽電池の種類を決めている。材料にはシリコン半導体、化合物半導体、有機材料などがあり、構造にはまず結晶(バルク)系と薄膜系があり、さらに単層型と多接合(タンデム)型が存在する。

 太陽電池の材料として最も一般的であり、かつ普及しているのは、シリコン半導体だ。シリコン半導体の太陽電池には結晶系と薄膜系があり、結晶系は単結晶シリコンと多結晶シリコン、薄膜系はアモルファス・シリコンと多接合(タンデム)シリコンに分かれる。

 結晶系である単結晶シリコンと多結晶シリコンの太陽電池モジュールはいずれも、ビルディングや住宅などの屋上に設置されることが多い。ビルディングの屋上も住宅の屋上も、面積には限りがある。結晶系シリコン太陽電池はモジュールの変換効率が15%前後と比較的高い。さらに効率の高い材料には結晶系化合物半導体があるものの、コストがきわめて高く、一般的な用途には向かない。限られた面積で出力を稼ぎたいが、コストはそれなりにしかかけられない、といったコストと設置面積、出力のバランスで結晶系シリコンが選ばれている。

 単結晶シリコンと多結晶シリコンでは、効率とコストの両方ともに原理的には単結晶シリコンが高い。ただし多結晶シリコンでも太陽電池セルの構造を工夫することで、単結晶シリコンに近い効率が得られている。もちろんこの場合は太陽電池セルの構造が複雑になり、コストが上昇する。第3回国際太陽電池展では、サンテックパワージャパンが単結晶シリコンのモジュールを、京セラや三菱電機、シャープなどが多結晶シリコンのモジュールを出展していた。

単結晶シリコン太陽電池モジュールの例。サンテックパワージャパンが出展した住宅用モジュール「STP-090S-12/Jdb+」。最大出力は90W、外形寸法は818×808×35mm(幅×奥行き×高さ)、モジュールでの変換効率は13.6%。2010年4月に発売の予定多結晶型シリコン太陽電池モジュールの例。三菱電機が出展した住宅用モジュール「PV-MX185H」。最大出力は185W、外形寸法は1,657×858×46mm(同)。すでに販売中


コストの低さと柔らかさを活かす薄膜系シリコン太陽電池

 結晶系の太陽電池では半導体の厚みがおよそ200μm(ミクロン:1μmは1,000分の1mm)あるが、発電に使われる部分の厚みは数μmしかない。そこで半導体を数μmまで薄くすれば、原理的には製造コストを大幅に削減できる。これが薄膜系の太陽電池だ。

 薄膜系の太陽電池は製造コストを大幅に下げられるものの、モジュールの変換効率は10%弱で結晶系に比べると低い。このため、広い面積に大量のモジュールをならべることが可能な、大型建築物や工場などの太陽光発電システムに使われることが多い。また柔らくて軽いプラスチック基板に太陽電池を形成できるという特徴がある。このため、曲面に貼り付けて建材と一体化した太陽電池モジュールを作れる。

 さきほど説明したように、薄膜系太陽電池はアモルファス・シリコンと多接合(タンデム)シリコンに分かれる。アモルファス・シリコンは結晶とはシリコン原子の配置が違う材料で、結晶ではシリコン原子が整然と配置されているのに対し、アモルファス・シリコンではシリコン原子の配置がいくらか乱雑になっている。薄膜系では半導体が薄いので、結晶のような整然とした原子配置の構造は作りにくい。多接合(タンデム)シリコンは複数のシリコン層を積層した構造の太陽電池で、各シリコン層で異なる波長の光を吸収することによって変換効率を高めている。

 太陽電池モジュールのメーカーでは、三菱化学がアモルファス・シリコンの建材一体型モジュールを、富士電機システムズと三菱重工業が多接合型のモジュールを出品していた。

アモルファス・シリコン太陽電池モジュールの例。三菱化学の屋根用防水シート一体型モジュール「ジオアシートPV」。最大出力は135W、最大出力電圧は45V、外形寸法は3,700×1,320×2.7mm(同)。2010年4月に発売の予定多接合型太陽電池モジュールの例。富士電機システムズの太陽電池アレイ「FPV1092」用のモジュールである。このモジュールを4直列×2並列に配置することで、「FPV1092」を構成する。「FPV1092」の最大出力は92W、最大出力電圧は319.4V、外形寸法は460×3,399mm。太陽電池セルはアモルファス・シリコン層とアモルファス・シリコン・ゲルマニウム層を積層した構造である。基板はプラスチック・フィルム。展示ブースでの説明によると、太陽電池セルの変換効率は8%くらい


人工衛星にはⅢ-Ⅴ族系化合物の太陽電池

Ⅲ-Ⅴ族系材料を使った太陽電池の例。シャープが展示した人工衛星用太陽電池セル。右は実際に搭載された太陽セルと同じタイプ。変換効率は30%。左は開発品で、セル変換効率が35.8%と高い

 シリコン以外の材料では、化合物半導体と有機材料が太陽電池に使われている。化合物半導体は大きく2つの材料に分かれる。ガリウム・ヒ素化合物に代表されるⅢ-Ⅴ族系材料と、銅インジウムセレン化合物に代表されるCIS系材料である。両者は性質が大きく異なるので、化合物半導体の太陽電池としてひとまとめにくくらないよう、注意されたい。

 ガリウム・ヒ素化合物に代表されるⅢ-Ⅴ族系材料は、変換効率がきわめて高く、そしてコストもきわめて高い。このため、小型軽量を追求する人工衛星の電力供給用太陽電池に利用されている。第3回国際太陽電池展では、シャープがⅢ-Ⅴ族系材料の人工衛星用太陽電池セルを出品していた。なおⅢ-Ⅴ族系太陽電池は、構造的には結晶系に属する。


結晶系シリコンと競争する薄膜系CIS太陽電池

 銅インジウムセレン(Cu-In-Se)化合物に代表されるCIS系太陽電池は、Ⅲ-Ⅴ族系とは違って薄膜系の太陽電池になる。薄膜系であることから製造コストが低く、変換効率はアモルファス・シリコンよりも高く、結晶系シリコンよりは低い。産業用と住宅用の両方をねらえる太陽電池である。

 第3回国際太陽電池展では、昭和シェルソーラー(2010年4月1日に「ソーラーフロンティア」に社名変更予定)がCIS太陽電池のモジュールを出品するとともに、その特徴をアピールしていた。

薄膜系CIS太陽電池モジュールの例。昭和シェルソーラーが出展していた。現在はモジュール変換効率11.6%、最大出力92.5Wの太陽電池モジュール(第1世代品)を量産中だとしている。2011年には最大出力が150Wの第2世代品を量産する計画だ結晶系シリコン太陽電池セルの構造と薄膜系CIS太陽電池セルの構造。昭和シェルソーラーの展示ブースにおけるプレゼンテーションから


モバイルやアパレルなどで将来性十分の有機太陽電池

 有機材料を使った太陽電池は、材料コストが低い、製造技術が印刷なので非常に低いコストが可能、柔らかで軽いプラスチック基板を使える、といった特徴を備える。最近になって急激に脚光を浴びるようになった。現在のところ本格的な商用化には至っておらず、研究開発段階のものが多い。弱点は変換効率が3%~7%と低いことだ。

 有機材料を使う太陽電池は材料の違いによって大きく2種類あり、有機半導体を使う有機薄膜太陽電池と、光を吸収して電子を放出する色素を使う色素増感太陽電池に分かれる。

 有機薄膜太陽電池は、トッパン・フォームズとKONARKA(コナルカ)が共同でモジュールと応用サンプルを出展していた。コナルカは米国マサチューセッツ州に本社を構える、有機薄膜太陽電池「フレックソーラー」の開発企業だ。トッパン・フォームズが「フレックソーラー」の応用を日本で開拓し、事業を展開していくという役割分担だとしている。

有機薄膜太陽電池モジュールの例。KONARKA(コナルカ)の「フレックソーラー シリーズ20」。大きさの違いによって最大出力1.3W~7.7Wのモジュールがある。出力電圧は8V。変換効率は現在のところ3%程度だが、5年後には5%を実現するという有機薄膜太陽電池の応用サンプル。有機薄膜太陽電池と二次電池を搭載しており、携帯電話機を直接、充電できる

 色素増感太陽電池は、フジクラとペクセル・テクノロジーズがそれぞれ太陽電池モジュールを出品していた。なかでもフジクラは、20cm角のサブモジュールで変換効率7.6%と色素増感太陽電池としては非常に高い効率を実現したことをアピールしていた。

色素増感太陽電池モジュールの例。基板はガラス。フジクラの展示ブースで撮影色素増感太陽電池セルの原理。フジクラの展示ブースにおけるプレゼンテーションから




(本誌:福田 昭)

2010年3月5日 13:41