三菱電機、家庭用エアコンからレアアースを回収する新装置を公開

~永久磁石の磁力を弱めて30秒のスピード回収
グリーンサイクルシステムズに導入された、エアコン圧縮機のレアアース磁石回収装置

 三菱電機グループのグリーンサイクルシステムズ(以下、GCS)は、使用済みエアコンに含まれるレアアース磁石の回収事業を、4月より開始。エアコンの圧縮機(コンプレッサー)を自動で解体し、レアアースを回収する装置を、28日、千葉県千葉市の同社工場で報道関係者向けに公開した。

 GCSは、使用済み家電の再生素材化処理を行なう会社。家電リサイクル法で定められた主要4品目「テレビ/冷蔵庫/洗濯機/エアコン」が解体された後のプラスチックを、選別し再資源化するのが主な事業となっている。設立は2010年。工場の所在地は千葉県千葉市緑区大野台1-2-1。

レアアース磁石の回収装置が設置されたグリーンサイクルシステムズの工場。所在地は千葉県千葉市緑区大野台1-2-1同社の事業は、テレビ/冷蔵庫/洗濯機/エアコンが解体された後のプラスチックを、選別して再資源化すること家電リサイクル法では、前出の特定4品目をメーカーが回収し、リサイクルする義務を負う

エアコンの省エネ・小型化の背景にレアアースの存在。でも回収率はたった5%

三菱電機 リビング・デジタルメディア技術部 リサイクルシステムグループ 藤崎克己技術担当部長

 GCSではこの4月からは新たに、家庭用エアコンの圧縮機の回転子(ローター)部分に含まれているレアアース磁石を回収する事業を開始する。

 三菱電機 リビング・デジタルメディア技術部 リサイクルシステムグループの藤崎克己技術担当部長によると、家庭用エアコンには2000年頃より、省エネ化や小型化のため、圧縮機の磁石にレアアース「ネオジム(ネオジウム)」「ジスプロシウム(ディスプロシウム)」が使用されており、以降、レアアース磁石を使用する機種は増加しているという。

 「エアコンの圧縮機には、永久磁石の中では最も磁力が強い『ネオジム鉄ボロン磁石』が使われている。さらに、熱に対する耐性をつけるために、ジスプロシウムが使用されている」(藤崎氏)

レアアース磁石は家庭用エアコンの圧縮機内部に搭載されているレアアース磁石を搭載するエアコンは年々増えている

 しかし、2010年頃からレアアースの価格が高騰し、調達が難しくなってきているという。

 「ジスプロシウムは1kg=3,000ドルを超えたこともあった。現在は価格は落ちているものの、高騰以前の価格水準には戻っていない。価格高騰には生産量の97%を占める中国の輸出規制が関係している。中国が輸出を規制した2010年の輸出数量枠は、規制前の2009年と比べると4割減。2011年は合金も規制対象となったことで、さらに減っている」(藤崎氏)

 さらに、使用済みエアコンからレアアース磁石をリサイクルするには、技術的な課題もあるという。

 GCSでは2010年10月より、エアコンの圧縮機のリサイクル事業を開始しており、圧縮機からステータ(固定子)を分離することで、銅と鉄を回収していた。しかし、レアアースを含む回転子は分離されず、ほかの機構部品とともに回収されていたため、鉄としてリサイクルされていた。

 「レアアース磁石からネオジムやジスプロシウムを回収する『後処理技術』は、現在実用化されている。しかし、使用済み家電に組み込まれているレアアースを分離し、回収する『前処理技術』は、コストなどの面からなかなか事業化に至っていない」(藤崎氏)

 経産省の調べによると、2011年のレアアース磁石の回収率は5%程度という。

レアアースの価格高騰には、生産量の97%を占める中国の輸出規制が関係しているレアアース自体をリサイクルする技術は実用化されているものの、実際にエアコンに搭載されているレアアースを取り出すことは実用化されていないという
これまでの圧縮機のリサイクル法では、圧縮機を分解し、銅を回収していたしかし、レアアースが入った回転子は、そのほかの機構部分とともに鉄の一部になっていたという

“脱磁”で投入して30秒でレアアース回収。異なるメーカーの圧縮機にも対応

 そこで三菱電機では、レアアース磁石が回収できる、圧縮機の自動解体装置を開発。GCSで現在稼働中の圧縮機を分解するラインに導入する。

現在稼働中の圧縮機を分解するラインに導入された、圧縮機の自動解体装置右半分が新たに工程に加わった
技術開発のポイントは「脱磁の方法」「各種形状への対応」

 自動解体装置では、レアアース磁石の回転子を、これまでは一緒に鉄にリサイクルされていた機構部分から取り外す。レアアース磁石は、回転子内部に強烈な磁力でくっついているが、この磁力を減衰すること(脱磁)で、レアアース磁石を回収する。脱磁には、共振する磁界を発生することで脱磁する「共振減衰磁界方法」を採用。常温、短時間でできるという。

 「300℃高温に加熱し、熱によって脱磁する方法も考えられたが、冷却の時間が必要で、量産をするという点で難があった」(藤崎氏)

 また、GCSでは三菱電機、日立、シャープ、富士通ゼネラルといった各社のエアコンを回収することから、装置ではさまざまな形状の圧縮機にも対応している。

 「圧縮機はメーカーごとにいろいろな形があるが、(自動解体装置では)各社の圧縮機をデータベース化することで、どこをどう処理すれば良いか、正しく判断できるようにしている。現在、12種類の圧縮機に対応している」(藤崎氏)

従来は回転子付きの状態でリサイクルに出されていたが、新たに回転子を取って、レアアースを回収する工程が加わった回転子にくっついているレアアース磁石の磁力を取り、回収できるようになった
実際に装置で処理される手順。まずは固定子が外された圧縮機を用意する装置の中にセットし(矢印部分)、回転子部を取り外していく回転子が取り外された機構部分は、装置の下部から出てくる
脱磁された回転子を叩いて、レアアース磁石を取り出す回収されたレアアース磁石。国内でリサイクルを行なう磁石メーカーに供給される
さまざまな形状の圧縮機に対応するという

 これらの機構により、圧縮機を装置に入れてレアアース磁石を回収するまで、約30秒という短時間で処理できるという。回収したレアアース磁石は、国内でリサイクルを行なう磁石メーカーに供給する。

 なお、装置の開発に掛かった費用は3,000万円。経産省が公募した「レアアース等利用産業等設備導入事業」による1,000万円の補助金も受けている。

使わなくなったハードディスクからもレアアースが回収できる?

 今後は、回収したレアアース磁石を自社ルームエアコンにを再利用することや、使用済みハードディスクからのレアアース回収についても視野に入れているという。

 また、現在の圧縮機の供給元は、同じ三菱電機グループのハイパーサイクルシステムズが中心だが、ほかのリサイクルプラントからも広く受け入れることも検討しているという。

三菱電機が描くリサイクルの循環体制使用済みハードディスクからもレアアースを回収する検討もしているという回収したレアアースを、再び三菱のエアコンに使用することも視野に入れているという
GCS 松田敏 代表取締役社長

 GCS 松田敏 代表取締役社長は、「今の圧縮機のラインも、プラスチックのラインも、フル稼働でなく、余力がある。現在の年間処理能力は8千トンだが、1万トン、1万5千トンを目指していきたい」と、さらなるリサイクルへの意欲を示した。





(正藤 慶一)

2012年3月29日 00:00