ニュース

「エコキュート」って実際お得なの? 光熱費高騰で注目、防災にも

電気を使ってお湯を沸かす「エコキュート」

電気でお湯を沸かす「エコキュート」の売り上げが伸びている。一般財団法人ヒートポンプ・蓄熱センターの調べでは、2000年代から右肩上がりに出荷台数が増え、2022年3月末現在で800万台を突破したとしている。

電気を使ってお湯を沸かすエコキュート。光熱費がガスの半分以下になると注目されている。ちなみに「エコキュート」は一般的な愛称として使われているもので(関西電力の登録商標)、メーカーの製品名ではない。電力会社や給湯機メーカーが「家庭用自然冷媒(CO2)ヒートポンプ給湯機」を総称したものだ。

2022年3月現在800万台を突破。2021年10月に改定された「エネルギー基本計画」などもあり2030年までの普及目標を1,400万台から1,590万台に上方修正された(出典:一般財団法人ヒートポンプ・蓄熱センター)。出荷数増加の流れは、光熱費の高騰により拍車がかかるだろう。

エコキュートの累積出荷台数(2021年まで)

エネルギー価格上昇というと、ガソリンや電気代がよく取りざたされているが、実は都市ガスも高騰傾向にある。

都市ガスの価格変移(出典:小売物価統計調査による価格推移|日本の物価)
電気代の価格変移(出典:小売物価統計調査による価格推移|日本の物価)
LPガスの価格変移(出典:経産省 資源エネルギー庁の「LPガス小売価格調査」(2023年7月調査)を元に筆者作成)

先のグラフで2023年2月に都市ガスと電気代が一気に下がっているのは、政府の「電気・ガス価格激変緩和対策事業」によるもの。昨今価格が高騰しているガソリンと同じで、政府の介入で価格が一時的に下がったが、期限付きだったためガソリンが再び高騰し始めている。電気とガスもこの介入が終わると(当初2023年9月までだったが、当面12月分までは延長された)、ガソリン同等に再び価格が高騰に転じるのは明らかだろう。

もっとも分かりやすいのはプロパン(LP)ガスの価格変動だ。実はLPガスに対しての政府介入はなく、プロパンガスは今年に入っても価格が下がっていない。

このように高騰が止まらない光熱費を受けて、ガス給湯器から、電気で安くお湯を沸かし貯湯しておく「エコキュート」が注目されている。電気代も値上がりしているのに、なぜエコキュートがもてはやされているかを説明しよう。

初期導入費含めて15年間で「エコキュート」の方が140万円お得に?

ガスの価格は地方によって大きく変わり、機器代もピンキリなので多少の差はあるものの、筆者の計算では、給湯器の寿命といわれる15年間で、一般的なガス給湯器とエコキュートでは100万円以上の違いが出ている。

ガス給湯器は、シャワーと流しを同時に使っても水圧がそれほど下がらない「20号」を基準にしよう。家族の人数に直すなら2~ギリ4人という感じだ。本体価格がおよそ15万円で、年間のガス代は14万円という感じだ。実際には年間2,000円の電気代も加算されるが、これはガス代の誤差と考えてもいいだろう。そしてガス給湯器は、仮に寿命を15年(標準的な寿命の10年に、延命工事で+5年とした場合)としよう。これで設置~15年間の初期導入費+15年間のガス代は、以下の通りになる。

【一般的な給湯器】 (ガス)
15万円(本体価格)+14万円(年間ガス代)×15年間=225万円

給湯器の生涯費用(ここでは本体価格+寿命15年間の費用)を考えると、実はものすごく高い。最近ではガス給湯器でも省エネタイプの「エコジョーズ」というものがある。これは通常の給湯器が1回の燃焼でお湯に温め、その廃熱を空気に捨ててしまうところを、廃熱も利用して温めるというものだ。エコジョーズも同様に、生涯の費用を考えると以下のようになる。

【エコジョーズ】 (ガス)
20万円(本体価格)+12万円(年間ガス代)×15年間=200万円

確かに年間ガス代が節約できるので、本体価格が高くても相殺して生涯で25万円安くなる計算になる。ただご存じの方もいると思うが、給湯機の前に立っていると、やけどしそうな熱い風が出てきたことがないだろうか? 一般的な給湯器は200℃の廃熱が出てくるが、省エネのエコジョーズといえども50℃の廃熱が出る。この廃熱は、エネルギー損失そのものだ。

パナソニックのエコキュート。エントリーモデルから高機能なハイエンドモデル、寒冷地や塩害対策された沿岸地域用もラインナップされている

一方で光熱費高騰の救世主になるかも知れない「エコキュート」。エアコンやドラム式洗濯機の乾燥機能と同じ「ヒートポンプ」でお湯を沸かそうというものだ。ヒートポンプを使うエアコン暖房は、電気ヒーターや、石油/ガスファンヒーターよりも電気代が安く、今のところ最も経済的な熱源とされている。弱点は「すぐに温まらない」という点がある。

エコキュートは発生した熱のほとんどをお湯にできるため、装置のどこ(給湯経路以外)を触っても、やけどしそうに熱くなる場所がない。つまりエネルギー損失が少なく、エネルギーをもっとも効率的に「お湯」に変えられる機構だ。こちらも生涯の経費を調べてみよう。サイズはガス給湯器と同じ3~4人向きで少し余裕を持たせた460Lクラスとした。機能によって廉価版の40万円から高圧のシャワーが出せる50万オーバーもあるが、ここでは標準的なモデルとしている。また定価は100万オーバーするものがザラにあるが、ここでは市場価格で計算している。

【エコキュート】 (電気)
45万円(本体価格)+3万円(年間電気代)×15年=90万円

さすがに本体サイズが大きく機能が複雑なので、本体価格はガス給湯器の2倍以上するが、お湯を沸かす電気代が給湯器に比べて圧倒的に安い。パナソニック 空質空調社の担当によれば「エネルギー効率はガスの4倍なので、光熱費は圧倒的に安くなる」という。

今回のケースで計算すると、ガス代が安いといわれるエコジョーズの年間約12万円に比べて、電気代は1/4の3万円という計算になった。パナソニックの言葉に嘘はないようだ。今後電気代が現在の4倍まで高騰することは考えづらいので、最も安くお湯を手に入れられるのは「エコキュート」一択というのがお分かりいただけただろう。

嘘みたいに安い光熱費の秘密

光熱費が安い要因のトップは「とにかくエネルギー効率がよい」点だ。ではどうやってお湯を沸かしているのだろう? エコキュートのユニットは大きく分けて2つある。エアコンの室外機にそっくりな装置とお湯を貯めておくタンクだ。

エコキュートがお湯を作るしくみ(出典:一般社団法人 日本冷凍空調工業会)

左側のエアコンの室外機に似た装置が「ヒートポンプ」と呼ばれる部分だ。内部は2つの循環器系統に分かれ「CO2冷媒サイクル」という系統と、そこで発生した熱で水をお湯に沸かす「水熱交換器」系統になっている。エアコンと違うのは循環する「冷媒」と呼ばれるガス。エアコンは室内を温めるだけなので最高温度75℃前後のガスが使われている。

一方エコキュートは100℃まで温められるガス「CO2」を使っている。このCO2はヒートポンプユニット内を循環するので、外気に放出されることはない。空気中の熱(たとえ気温が氷点下であっても、CO2の温度がマイナス50℃なので外気で温められる)をCO2冷媒が吸収。それを圧縮機で熱を100℃近くまで凝縮する。その熱を持った管をヒーター代わりにして、水を温めお湯を作るというワケだ。こうしてできたお湯はヒートポンプユニットから90℃程度のお湯として貯湯タンクの上部に貯められる。

一方貯湯タンクの下側には、水道管が直結されていてタンクの水を使うごとに給水される。お風呂で体験済みの通り、熱いお湯はタンクの上部に溜まり、冷たい水は底に溜まっている。こうして貯湯タンクには、上部に90℃近いお湯が溜まった槽があり、底に行くにつれ温度が下がり、一番底は水道水の温度の水が溜まっているというわけだ。

お湯を沸かして貯湯して、タンクのお湯を使う流れ(出典:パナソニック)

お湯を取り出すときは、タンク上部にある吐湯口からお風呂やキッチンにお湯が供給される。

ヒートポンプのエネルギー効率がいいのは、熱交換器で凝縮したCO2の熱のほとんどを、水に移しお湯にできる点。ガス給湯器も熱交換器を持っているが、ほぼすべての熱を水に移すことができないため、廃熱口から熱風が出てくる。

また少しややこしくなるが、気温がマイナス10℃であっても熱交換器を通るガスはマイナス50℃まで冷却されて循環サイクルに戻る。つまり気温が氷点下でもそれより冷たいマイナス50℃のガスは、気温40℃のエネルギーを空気から取り出せるのだ。こうしてたとえ零下でも空気中の熱をポンプのように吸収できるので「ヒートポンプ」と呼ばれている。

パナソニックのエコキュートは国内拠点である滋賀工場(滋賀県草津市)で作られている

エコキュートはガス給湯器メーカーも参入しているが、エアコンと同じ技術を使い、電気やモーターを制御する技術が性能を左右するのが分かるだろう。つまり一般的には、ガス給湯器メーカーよりエアコンに強い家電メーカーの方がノウハウ的に先行していると思っていいだろう。

唯一の弱点はお湯をたくさん使うとお湯切れする点

ヒートポンプユニットから供給された90℃をお湯は、貯湯タンクに貯められる。しかし魔法瓶であっても朝入れた熱湯は、夜になると冷めてしまう。そこでエコキュートの各メーカーが凌ぎを削っているのが貯湯タンクの断熱だ。

断熱材というと発泡スチロールのような素材を思い浮かべるが、実は特殊なモノが使われている。それが「真空断熱材」と呼ばれるもの。

四角い貯湯ユニットの中には左側の円筒形のタンクが収まっている。銀色の真空断熱材をタンクに2重に巻いたあとで、発泡断熱材でさらに断熱している

真空断熱材とはレトルトパックのアルミパックを極限まで薄くした中に、グラスファイバーやFRP(繊維強化プラスチック;飛行機の材料)を詰め込み、空気抜いて真空パックしたものだ。これをタンクに巻けいて、魔法瓶さながらの断熱性を持たせている。しかしこの真空断熱材、「真空にしたパック」なので木の板のように固く通常は折れ曲がらない。

スマホの厚さほどの真空断熱材を2重に巻いているので、貯湯したお湯が冷めにくい

パナソニックの場合は、貯湯タンクの周りに少しだけ曲がる厚さ5㎜ほどの真空断熱材を2重に巻いて保温している。さらにタンス型の貯湯ユニットの内部は、発泡剤を充填してさらに断熱効果を高め、熱が逃げないようにしている。

しかしエコキュートそのものの構造的な弱点もある。それが「お湯切れ」だ。たとえば法事で親戚がたくさん訪れたとしよう。いつもより食器の洗い物が多くなり、親戚がお風呂ではなくみんなシャワーを浴びたとする。すると日常でお湯が足りなくなることはないが、シャワーを浴びているうちにどんどんお湯の温度が下がってしまい、お湯切れになってしまうことがある。

お湯を作るポンプユニット。右側の圧縮機で熱を凝縮して、赤く光る下部の熱交換ユニットでガスの熱でお湯を沸かす。一見すると1本の管にしか見えないが、左側の模型のようによじったガス循環系統と水循環系統の2本の管で構成され、ガスの熱を水に移している

ガス給湯器は瞬間的にお湯を沸かすことができるがエネルギー喪失が多い反面、エコキュートはエネルギー損失が少ないもののお湯を沸かすのに時間がかかる。だからお湯を沸かす速度以上にお湯を使い続けるとお湯切れを起こしてしまうのだ。

こんな使い方もできるエコキュート

エコキュートは、防災にも役に立つ。なぜなら常に貯湯器には水が満たされているから、断水時でも水の確保に困らないのだ。一般的なエコキュートなら300~500Lのタンクなので、防災時には1日3L必要といわれている水も、家族3人なら余裕で1カ月を凌げる。もし停電だったとしても、非常用のバルブが下部にあるのでそこから吸水が可能だ。

工具不要で貯湯ユニットのカバーを開けると、配管がたくさん出ている。いちばん右の青いホースのバルブを開くと、停電中でも水を取り出せる

もし太陽光パネルを導入していれば、蓄電池が満充電になった場合は電気をお湯に変換して蓄熱するという新しい使い方も可能だ。加えてお風呂の残り湯の熱を貯湯タンクに戻す(熱交換器を介するので水は混ざらない)こともできなど、ガス給湯器にはできない節約術が使えるのも魅力だ。

太陽光パネルで発電した余剰電力は、お湯に変えることもできる

もちろんこれらの機能はスマホと連携できるので、お湯張りはもちろん各種設定をスマホから設定できる。

またパナソニックは安全面にも配慮している。貯湯タンクは背が高く水が数百L入るので数百kgの重量がある。そのため震度7の地震にも耐えられるように、一般的な3本足を4本にして、振動を吸収する独自の土台を備えている。

震度7にも耐えるパナソニック独自の4本支持。どんな揺れに対しても2本以上で300kg以上ある貯湯タンクを支持する

燃料費が高騰する冬に向かい導入の検討をしては?

政府の補助金「電気・ガス価格激変緩和対策事業」が9月で終わろうとしていたが、これが当面(12月使用分まで)継続されることとなった。この夏は乗り切ったが2023年の冬はさらに電力事情が厳しくなる見込みだ。そのためガス給湯器より圧倒的に光熱費が安くなる「エコキュート」の導入を検討してはいかがだろう。初期費用は50万円前後と高く付くが、寿命の10年や15年で見たときの二百数十万円→90万円と半額以下になるコストを考えると、ローンを組んでも導入を検討してみたくなるのではないだろうか?

また政府の「住宅省エネ2023キャンペーン」では「こどもエコすまい支援事業」にて子育て世代の住宅でエコキュートを導入した場合の給付金が利用できる。また「給湯省エネ事業」でもエコキュートの導入で5万円の給付金が利用できる(いずれも申請は消費者ではなく対象の事業者)。2つを同時利用することも可能な2023年は導入の狙いどきといえそうだ。

政府の補助金による住宅省エネ2023キャンペーン