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パナソニック、食品の新たな乾燥技術を冷蔵庫に搭載へ。プロの味を家庭に

パナソニックが「常圧凍結乾燥」技術で、プロの料理の風味や食感などを守る乾燥食品を実現

パナソニック くらしアプライアンス社は30日、京都大学大学院 中川究也准教授らと共同研究を進める「常圧凍結乾燥」技術を使った新しい乾燥食品のプロトタイプを完成させたと発表した。

プロの味を独自の方法で乾燥させておくことで、家のレンジや湯せんなどで簡単にできたての味を再現できるというもので、プロトタイプとして「鰻の炊き込みご飯」「雑炊」「ぜんざい」の3品を完成させた。そのうち「鰻の炊き込みご飯」を、パナソニックによる家電と食のサブスクサービス「foodable」で限定販売する予定。

今後は宇宙食や機内食、災害時の食事などでの利用も想定している。

プロトタイプの食品「鰻の炊き込みご飯」の乾燥状態

今回の取り組みは、外部のパートナーと新たな食の体験価値を創造する「未来の食プロジェクト」における第一弾。

京都大学大学院 工学研究科化学工学専攻 中川究也准教授と共同研究で開発を進めている「常圧凍結乾燥技術」をもとに、料理を科学する料理作家KYOTO SNT LAB.と共に乾燥食品のプロトタイプを実現した。

フリーズドライとは食感に違い。家庭用冷蔵庫への応用も

基本的な仕組みは、冷蔵庫などの冷凍室で食品を凍らせると、食品中の水分が氷となり、保存中や保存後にその水分が蒸発して乾燥する昇華現象を応用したもの。

通常は冷凍における昇華現象(乾燥)はデメリットとされているが、逆転の発想で、乾燥する方法として積極的に昇華を活用した。

既存の乾燥方法との比較では、インスタントコーヒーやインスタント味噌汁などで使われる「フリーズドライ(真空凍結乾燥)」は食感がサクサクになるが、一方で今回の常圧凍結乾燥は「しっとり」「ねっとり」した食感が生まれるという。また、熱風による乾燥との違いとして、栄養成分などの変化を抑えられる点を特徴とする。

同社のテストでは、常圧凍結乾燥で作ったドライフルーツのキウイは、熱風乾燥と比べてクロロフィル(緑色素)が1.3倍、ビタミンCが1.5倍多い結果になったという。フルーツの乾燥品を拡大してみると、既存の真空凍結乾燥と同様に多孔質な構造を持ちつつも細孔の大きさが異なることが確認できる。

熱風乾燥(左)と常圧凍結乾燥(右)の比較

常圧凍結乾燥では、大気圧下で温度を独自のアルゴリズムで制御することで、水分活性を0.6以下まで乾燥させることを実現。この方法で作られた乾燥食品は香りがよく、1カ月の常温保存が可能なほか、水分活性の調整で食感の異なる乾燥食品も容易に作ることができるという。

料理にした状態でも、作りたてのダシの風味を守ったまま乾燥させたり、戻す際に注ぐ湯の量を調整するだけで好みの食感にアレンジしやすいといった特徴を実現している。

常圧凍結乾燥による雑炊の乾燥状態
ぜんざいの乾燥状態

製造する設備の面でも、フリーズドライは真空装置のような大型設備が必要だが、常圧凍結乾燥は、比較的小規模な設備で実現できるとしている。現時点の装置は、業務用や家庭用の冷蔵庫ほどのサイズであり、大型化も可能(京都大学大学院 工学研究科化学工学専攻 中川究也准教授)だという。

食品における常圧凍結乾燥の活用としては、豆腐を凍らせた後に乾燥させた「凍り豆腐」と同様の仕組みといえるが、小規模な装置で常圧凍結乾燥を実現したことが新しいポイントとなる。

なお、常圧凍結乾燥は食材によって得意なものと不得意なものもあり、肉類や魚類、カットした果物は乾燥しやすいが、皮の厚い柑橘類や硬い葉物は内部まで乾燥できない場合もあり、事前に下処理することなどの工夫によって乾燥させるという(中川准教授)。

パナソニックの家電における「常圧凍結乾燥」の活用については、家庭用の冷蔵庫、業務用冷蔵庫の双方へ展開可能としている。製品化の時期は今後検討しているが、実現すれば、家庭で手軽に離乳食やおかゆの保存なども可能になると見込んでいる。