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気流ひと筋100年! パナソニック春日井工場のビル換気技術が、家の未来も変える!?
2020年12月2日 08:30
コロナ禍で「換気の必要性」が問われる今、ひとつの言葉が急浮上してきた。それが「IAQ」(アイ・エー・キュー)。正式名称「Indoor Air Quality」で、直訳すると「建物の中の空気の品質」だ。
これまで空気は「息苦しくなければいい」という程度だったが、花粉症やPM2.5が問題になりだした4~5年前ごろから、「きれいな空気」に対する関心が高まりだした。ちょうど空気清浄機が売れ出したあたりだ。
今年はさらにコロナ禍で換気の必要性が謳われるようになり、いやがおうにも「空気の質」と「換気」そして「気温」と「湿度」の塩梅を考える必然性が出てきた。
たとえば電車や汽車。ある程度密閉しなければ車内は暖かくならないが、換気も重要。そこで電気の無駄とは分かりながら、車窓を開けるなどの工夫をしている。地方に行くと、例年なら乗降客がいない場合は開かないドアもあるが、今年は各駅ですべてのドアが開いて寒い思いをしている方も多いだろう。
こうして今年になって僕たちが意識しだしたのが、まさに「IAQ」だ。僕らは曲りなりにもすでにIAQの改善を実践していたのだ。
とはいえ人生の30%しか過ごさないオフィスビルや最近の学校、公共機関などは窓を開けなくてもしっかり換気され、最新の電車内にはナノイーXなどが放出されしっかり除菌/消臭されているケースもある。また、エアコンを強くかけなくても、温度を保てる特殊な換気/空調システムを持つ。これはビル空調システムのプロが設計、施工したからだ。
残りの人生60%は自宅。最近の住宅は強制換気システムが義務付けられているが、既存住宅のほとんどはそんなものと無縁。息苦しくなったら窓を開け、エアコンをつけるときは窓を閉める。またPM2.5や花粉の飛散が少ないときには換気して、多い時には閉め切って空気清浄機を回す。かなり手動に頼る換気だ。
ビルの換気システムが最新式の全自動洗濯機だとすれば、僕らが実践しているIAQは、洗濯板を使って川で洗濯しているようなもの。それはそれは古典的なものだ。
そこで、空調機器と水と土壌のプロフェッショナル集団であり、扇風機や加湿器、話題のジアイーノをはじめ数多くの業務用換気システムや熱交換ユニットを設計・製造するパナソニックの春日井工場で、空気について学んできた。
そして一般の住宅などにもこれから採用されるであろう、全自動で効率のよいIAQの近未来像を見てきた。
ヒトが1日に呼吸する空気は驚きの18kg!
さてここで問題です。「人間は1日におよそ1.3kgの食料と1.2kgの水を摂取します。では1日に摂取する空気は何kgあるでしょう?」
正解は「18kg」。軽い空気だからといって1.8kgじゃなく、18kg! なんとテレビ番組の罰ゲームにあるような、直径3mの風船と同じ量の空気を1日に呼吸しているという。
大都市で汚れた空気を吸って生活している僕らが、緑の美しい高原などでしばらく滞在していると、身も心もすがすがしくなる。それは「高原のプラシーボ効果」(思い込み効果)で“すがすがしさ”を感じたのではなく、本当に「1日18kgのいい空気」を吸って生活したからなのかもしれない。
人生の90%を建物の中で過ごしている僕らが、外気にあたっている時間はわずか10%。1日に換算すると、2時間半しかない。しかし自宅以外の息が詰まりそうなビルの中にいても、それほど息苦しさを感じないのは、ビルに計算された換気システムが導入されているから。今はテレワークでオフィスにいる人はだいぶ少なくなっているかもしれないが、大きなビルであれば、1フロアに100名近い人がいるだろう。
8時間勤務するとすれば、1人あたりの呼吸は6kg。それが100人となれば600kgの空気が必要だ。だいたい軽自動車1台分の重さ。これだけの空気を外部から取り入れるだけではダメで、同時に汚れた空気600kgを排出しなければならない。
もちろんこれだけの空気を入れ替えると、せっかく暖房や冷房で温度調整した空気が無駄になってしまう。これを解消するのが全熱交換換気だ。エアコンなどでも聞いたことがある熱交換器だが、空調に使われる全熱交換換気は、少し仕組みが違う。
4種類ある換気システム。ビル換気にならって家の換気を見直そう!
これは業務用換気システムの考え方だが、一般の家庭で換気するヒントにもなるので少し説明しておこう。換気には4つのタイプがある。
第2種換気
外気の取り入れはファンで行ない、排出は自然に任せる方式。家の中の気圧が少し高くなるので、狙った排出口とは違うところから排気されてしまう場合がある。また、気密性によっては、壁の内部が結露してしまう場合も。
第3種換気
外気の取り込みは自然吸気して、排出をファンで行なう。家の中の気圧が外より低くなるので、気密性が低いとうまく気流を作れない場合がある。とはいえ、キッチンやトイレの換気扇を使うと、第3種換気に近い換気ができる。
第4種換気
ふだん私たちがやっている、単に窓を開けるだけの換気。吸気も排気も自然任せで、一番コントロールしづらい。
見えない空気の流れを把握するのはなかなか難しいが、もし空気がよどんでいるようなところがあれば、サーキュレーターや扇風機で空気の流れを作って、第1種換気に近づけてやるのがいいだろう。
全熱交換換気は排気熱と吸気熱を交換する省エネ換気
冬真っただ中のこの時期は、換気が必要と分かっていても、せっかく暖かくなった室内が寒くなってしまうので、尻込みしてしまうもの。だいたい2時間に1回、10分程度サッシや窓、ドアを全開にして第4種換気を行なう。
しかし大きなビルなどで窓を開けて換気しているなんて聞いたことがない。そこにはビル独特の換気システムが導入されているからだ。それが「全熱交換換気」と呼ばれるもの。普段はまったく目にすることがないが、タンスサイズの大きな箱に、パイプが4本以上つながっているのが空調用の熱交換器。
天井がむき出しのデザインになっている喫茶店などでは、たまにタンス型の熱交換器を見かけることがある。
このタンス型の中央部分には、排出する空気の熱を吸収して、吸入した外気に熱を与える「全熱交換素子」が入っている。たとえば暖房した室内から排気する場合を考えてみよう。
通常なら暖かな空気をそのまま外に放出するが、このシステムでは暖かい排気は熱交換素子を暖めた後、外に排気する。一方、外気の冷たい吸気は熱交換素子で温められて、室内に新鮮で少し温まった空気として入ってくる。
排気熱の100%を吸入する空気に伝えることはできないが、暖かい空気をそのまま排気するよりエネルギー効率がいい。また、排気と吸気は完全に遮断された経路を通るので、混ざることもない。
最近は室内で空気を加湿している場合も多く、こんなときは熱交換器と同じ要領で湿度を交換する。仕組みは長くなってしまうので割愛するが、調べてみると業務用の熱交換器の面白さが分かるだろう。
ちなみに熱交換器から伸びるパイプは、吹き出し口と吸い込み口を備えている。その行く先を見ると、外につながっていたり、ビルのメインの吸排気システムに接続されているはずだ。
今のところ大きなビルぐらいでしか採用されていない、熱交換器による第1種換気システムだが、全館空調を入れる家庭などでも導入は可能だ。
このほかにも、より規模の小さい、熱交換器を内蔵した換気扇なども発売されている。筆者の部屋にも入れているのだが、有機溶剤の含まれた塗料や接着剤をよく使う工作好きな人にもオススメだ。
パナソニックが考える空気の品質と完成がオモシロイ!
ここまで紹介してきたのが現在の換気空調システム。パナソニックが考える近未来の換気システムは、かなり面白い。まさにIndoor Air Quality。
まず空気の品質(Quality)には、次の7つがあるという。
【空質】 湿度、温度、清浄度、気流
【感性】 除菌、脱臭、香り
温度、湿度、気流はご存じの通り。清浄度は空気のきれいさだ。たとえば花粉やPM2.5を除去しているなど。
特にパナソニック春日井工場は、100年前からパナソニック(の前身である川北電気企業社から)の扇風機を作っている空気のスペシャリスト。最近ではペットの消臭や空気の除菌で有名な「ジアイーノ」も製造している。さらに面白いのは“香り”。
気分をリフレッシュしたいときは、柑橘系の香りがいいとされる。そこで同工場には、これらをパッケージ化した休憩室を作り、実際に工場で働く人たちに使ってもらっているという。
現在は単体で発売されているジアイーノも、業務用空調設備に組み込む模索をしていた。
さらに研究段階なのが「遠心破砕加湿」だ。三角コーンを逆さまにした遠心破砕機を2,000~5,000rpmで回転させると、下の受け皿から水を自動的に吸い上げ、コーン上部に開けた穴から水が噴射し、気化式の加湿を行なうというものだ。一般的な気化式の加湿器は、水に浸す布や紙などがあり、シーズンごとの手入れが必要。しかし業務用は、遠心分離で水を適度に水滴にして気化させるため、ほとんどメンテナンスが不要というワケだ。また、モーターの回転数を変えるだけで加湿の強さをコントロールできる(水滴の大きさを変化できる)点も素晴らしい。
近未来の空調設備とその応用はエンターテインメントだ!
空調技術を応用した近未来像のひとつが、写真で紹介している寝室だ。将来の戸建ても全館空調になり、第1種換気で快適にコントロールされているかもしれない。
天井から自然な風が流れてくるため、天井に何かあるのは確かだ。実は天井に渡されている木の1本1本には、数ミリのスリットがあり、そこから風が出てくるようになっている。扇風機のような旋回流という不自然な風でなく、パナソニックの創風機「Q」や、ダイソンの羽のない扇風機のような、自然に近い“面”の風が送られてくる。
さらに、照明との組み合わせや風の吹き分け、森林や柑橘系の香りとの組み合わせで就寝前や寝起きにリフレッシュするなど、未来の快適空間を実現していた。
換気・空調アプリケーションのひとつとして、大型画面の設置してあるエアロバイクを漕ぐことで、速度に応じて風の強さが変わったり、日陰やトンネル内を走るとひんやり冷たい風になったり、森林の中を走ると森の香りがするという、体感型アトラクションにも応用されていた。エアロバイクは坂道だとペダルが重くなるようになっており、今後は五感にフィードバックするVR環境の実現も近いと感じた。
「換気システムはビルのもの」と考えがちだが、コロナ禍で換気がどうしても必要になっている今、ビル換気システムは、これからの僕らの換気の在り方の参考になるはずだ。