ニュース

ダイキン、9期連続の増収増益 ~十河社長が経営戦略について会見

 ダイキン工業の十河 政則社長兼CEOは、同社の経営戦略について会見を行なった。そのなかで、次世代冷媒の開発を進めていることに言及。

 「冷媒は、社長である私自らが開発を指揮しており、現行のR32に続く、次世代冷媒を2023年には投入したいと考えている。画期的な冷媒であり、R32の地球温暖化係数が700であるのに対して、新冷媒は10以下となり、自然冷媒と同等。地球温暖化防止という社会課題を解決できるものになる」とした。

 また、「素材を探し出すために、スタートアップ企業とともに開発したAIを使っている。文献から探し出すのに人手では1年かかるが、これを数週間で導き出した。空調機と冷媒を持っている唯一の会社として、どこまで環境に優しい冷媒を作れるか、といったことに取り組んでいる」などと述べた。

ダイキン工業 代表取締役社長兼CEO・十河 政則氏

 同社が発表した2019年度の通期業績予想は、売上高が前年比7.6%増の2兆6,700億円、営業利益が2.1%増の2,850億円とし、10期連続の増収増益、7期連続での過去最高の売上高および営業利益の更新を目指す。経常利益は2.9%増の2,850億円、当期純利益は2.1%増の1,930億円を見込む。

 米中貿易摩擦の影響拡大や中国の需要鈍化、半導体市場の投資減速など、厳しい事業環境が想定されるなか、販売力や営業力の強化、差別化商品開発の加速、トータルコストダウンの推進により、増収増益基調を維持するという。

2019年度の通期業績予想は、売上高は前年比7.6%増の2兆6,700億円、営業利益は2.1%増の2,850億円

 同社では、公表値とは別に、挑戦目標を設定しており、2019年度は、営業利益2,950億、営業利益率11%を目指す。

 十河社長兼CEOは、「中国市場の減速、為替の影響、米国貿易関税の問題があり、360億円近いマイナス影響があるが、営業利益では、2,850億円を下限として、2,950億円を目指したい」としたほか、「戦略経営計画であるFusionはスタートしてから約25年間続けているが、リーマンショックの時以外は、掲げた目標を達成している。Fusion 20では、2020年度に営業利益で3,480億円に挑戦したいと考えており、60項目にわたる施策に取り組んでいるところである」と述べた。

平成30年間で、時価総額をあげた会社ランキング8位に

 さらに、「空調事業はまだ拡大する余地がある。インドやアジアでは、エアコンの世帯普及率が20%台であり、その一方で、中間所得層が増えており、市場が拡大する傾向にある。中南米やアフリカなども、その次の成長地域として控えている。また、冷設、冷蔵庫に加えて、コールドチェーンを広く攻めていくこともできる。そのための買収も進めている。AHTやザノッティの買収もそのひとつである」とした。

 また、「モノ売りからコト売りへといったように、ソリューションビジネスを発展させる必要がある。環境製品単体では負けるとは思っていないが、AIやIoTを活用したサービスを提供する体制を作り上げる必要がある。GAFAのような企業が、どういう形でこの分野に入ってくるのかということも警戒しておかなくてはならない」とした。

 さらに、「ダイキン工業は、平成30年間で時価総額をあげた会社ランキングで8位になった。令和の時代になって新たな気持ちで取り組んでいかなくてはならない」などとも語った。

 2019年度のセグメント別業績見通しは、空調事業では、売上高が前年比8%増の2兆3,970億円、営業利益が4%増の2,460億円。化学事業は、売上高が5%増の2,100億円、営業利益が1%増の330億円とした。その他事業は売上高が8%増の630億円、営業利益が1%減の60億円となった。

 日本では、住宅用では、前年が猛暑の影響もあり、業界全体では、前年度実績を下回る見込みだが、同社では前年並の販売台数を維持する計画だ。

2019年度のセグメント別業績見通し

 また、中国市場では、新たな取り組みを開始する姿勢をみせた。

 「中国では、ボリュームゾーンを中心に、エアコンのネット販売が進んでおり、すでに40%がネット販売で売れている。設置工事の関係もあり、そこまで売れないと思っていたが、工事業者と連携する動きが定着し、増加している。当社も、現在、3%のネット販売比率を20%強にまで引き上げたい。だが、他社のような安物販売はやらない。超高級製品のサイトを構築し、除湿、加湿、空気清浄との組み合わせ提案を行なっていく」とした。

 さらに、「顧客とのつながりを重視し、データを生かした付加価値提案ができる業務用のマルチエアコンのインテリジェントVRVなどにより、顧客密着型ビジネスを展開していく。そのほか、サービスやソリューションで稼ぐ構造へのシフトや、課金ビジネスを行なうための金融子会社を中国で立ち上げるなど、新たな販売の仕組みにも取り組む」とした。

 加えて、新たに中国・深センにR&Dセンターを開設し、ベンチャー企業との連携や、現地の教育および研究機関との産学連携を進める。「シリコンバレーのように、ベンチャー企業やIT関連企業が集まる特性を活用したい」と語った。

 一方で、「欧州の経済環境は減速傾向にあるが、欧州では環境対応に厳しく、R32を全モデルに展開したり、インバーター技術を搭載している当社製品に対する評価が高い。また、ヒートポンプ暖房に対する評価があがっており、昨年度に引き続き、今年度も20%以上の成長を見込む」と語ったほか、「米州は、一番堅調な市場だが、電化製品などに対する米国貿易関税の影響を懸念している。サービス事業比率が低いため、保守やメンテナンス、工事といった事業を増やしていきたい」という。

2018年度の連結業績は、9期連続の増収増益

 5月9日に発表した2018年度の連結業績は、9期連続の増収増益とともに、6期連続で過去最高の売上高および営業利益を更新。売上高は前年比8.3%増の2兆4,811億円、営業利益は8.9%増の2,763億円、営業利益率は11.1%、経常利益は8.6%増の2,771億円、当期純利益は前年並の1,890億円となった。

 セグメント別では、空調事業の売上高が前年比8%増の2兆2,222億円、営業利益は前年比6%増の2,376億円。中国経済が減速するなか、中国においては前年並みの売上高を確保。日本、米州、アジア、欧州の主要各地域で売上高を大きく伸ばした。

 化学事業は、売上高が前年比10%増の2,008億円、営業利益が前年比28%増の325億円。化学事業では初めて2,000億円の売上げを突破。半導体向けフッ素樹脂、自動車向けフッ素ゴムなど付加価値の高い材料を拡販。原材料市況高騰や新興国通貨の下落、さらには米中貿易摩擦による追加関税問題の影響を受けたが、売価施策の徹底、トータルコストダウンの推進により収益力を強化した。

 その他事業の売上高は前年比7%増の581億円、営業利益は27%増の61億円となった。

売上高は前年比8.3%増の2兆4,811億円
事業セグメント別業績

日本での売上高は前年比7%増、中国は前年並み、米州は13%増

 一方、地域別では、日本での売上高が前年比7%増の4,817億円となった。住宅用では堅調な個人消費に加え、猛暑の影響もあり、年間出荷台数は過去最高を記録。AIによる湿度までをコントロールする「うるさら7」や、デザイン性と機能性を追及した「risora(リソラ)」などの中高級機種の拡販が功を奏した。

 業務用では、「FIVE STAR ZEAS」や「Eco-ZEAS」、スリム設計の「machiマルチ」などの幅広い商品ラインアップを活かした提案型営業を強化。店舗やオフィスのリニューアル需要を捉えて、都市部を中心に販売を拡大。業務用は、設備投資と建築着工も堅調に推移して前年を上回ったという。

うるさら7
リソラ

 また、中国は、売上高が前年並の3,422億円となった。米中貿易摩擦による景気減速や政府の新築住宅抑制政策等で、厳しい事業環境のなか、市場の変化にあわせて商品戦略や販売戦略を転換。武漢、成都といった地方都市で売上を拡大したという。住宅用では、地方都市を中心に独自専売店「プロショップ」を拡充し、中高級住宅向けの「ニューライフマルチシリーズ」の販売を伸ばした。

 大都市では、内装付き住宅や後付での更新需要にも対応した住宅用マルチエアコンの品揃えを拡充。中小型住宅やリフォームの増加といった市場の変化に対応したという。業務用では、飲食店やデータセンターなど堅調な分野を重点に拡販。店舗の高級化や病院の近代化などの空調システムの提案を強化した。さらに、大都市市場では、インターネットで顧客とつながるインテリジェントVRVを投入して、更新需要を獲得したという。

 十河社長兼CEOは、「中国は、11月以降からさらに厳しくなった。中国市場全体では、住宅向け空調では3%減、業務向け空調では2%減となったが、当社は前年並を維持した。2019年度も中国市場は厳しくみており、慎重な舵取りをしていく考えだが、若干の減収減益を見込んでいる。とはいえ、新たなモノが生まれてくる市場であり、魅力的な市場である」と述べた。

空調事業における地域別売上高の推移

 米州では、売上高が前年比13%増の6,456億円。自前販売店の拡大やディーラーの育成・支援の推進、インバーター搭載の新商品を投入したプレミアムゾーンでの販売を拡大などが貢献した。

 アジア・オセアニアは、売上高が前年比10%増の3,584億円。販売網の拡大やサービス体制の強化、営業人員の増加によって、拡大する中間所得層の需要を獲得。住宅用は、冷房専用インバーター機に加え、インドでは50℃超の気温でも運転できるエアコン、インドネシアでは限られた電力供給のなかでも複数の部屋を冷房できるマルチエアコンなど、地域特性にあった省エネ性能の高い商品を展開したという。

 業務用は、ベトナムやタイなどにおいて、各国で設計、施工、販売まで一貫して対応できる販売店を育成。アプライド(大型空調機)では、マレーシア新工場稼働による供給力の強化により、販売を大きく伸ばした。

 欧州の売上高は前年比10%増の3,322億円。住宅用は、イタリア、フランスを中心にR32搭載など高付加価値商品の販売を拡大。暖房事業では、ヒートポンプ式温水暖房機の拡販のほか、機器のIoT化によるサービスを強化して、売上げを拡大した。

アメリカで展開する室外機

 一方で、十河社長兼CEOは、人材獲得の考え方にも触れ、「ダイキン工業は人を基軸とした経営を行なっており、帰属の絆が強みである。定年退職を含めた退職率は3%に留まる。こうした人の力を継続させるとともに、いかに変化にあわせた先取りができるかが課題。入社3年以内の退職率が世間と変わらない。これが、課題だと思っている。」とコメント。

 このほか、「また、AIやIoTが社会を大きく変えていくなかで、そうした分野に対応した人材の強化をしていく必要がある。採用は、毎年300人規模だが、これに100人増やした採用を行なっている。AIおよびIoT人材は、2020年には700人、2020年には1,000人に増やす。だが、データアナリティストなどの優秀な人材は、3年在籍してくれたらいい方であると、シリコンバレーでは言われている。多様な雇用形態で人材を確保したり、辞めた後にどうつながりを作るかということを前提とした雇用の仕方や考え方が必要である」などとした。