家電製品ミニレビュー

足で操作しやすい扇風機「あしもとスイッチfan」が、この上なく快適!

 全国の高校生から新商品やサービスに関するアイデアを募集するコンテスト「全国高等学校ビジネスアイデア甲子園」。そこで愛知県立豊橋工業高等学校の生徒が寄せた、足で操作する扇風機「あしもとスイッチfan」が、山善から商品化された。1カ月ほど試用期間をいただいたので、その魅力をレポートしよう。

山善「あしもとスイッチfan」。ベージュとブラウンの2トーンカラーやメタリカルなセンターキャップなど、高級感のある仕上がり
メーカー名山善
製品名あしもとスイッチファン「TLR-CG30」
価格7,480円(Amazon)

 製品が発表された時には「こんな当たり前のこと、なんで話題になってるんだ?」と、私は思わず首をかしげ、可愛らしくほっぺに指を当ててしまった。そもそも扇風機の電源スイッチや風量設定は、足で操作するのが合理的だし、実際に私はそうしてきた。スイッチが台座部分に付いているのもそのためだと思っていた。ところがどっこい、どうやら足での操作は常識とは言えないらしい。

 そんな育ちの悪い私は、同じ山善のリビング扇「YLT-C302」を愛用している。選択の決め手はまさにスイッチだった。機械式の円いボタンが台座から上方向に突き出しているため、踏むだけで操作できる。無造作に足を延ばしても、風量調整のどのボタンを押せばいいのかが判断しやすい。

比較機種の私物扇風機「YAMAZEN YLT-C302」。機械式プッシュボタン操作の安価なモデルだが、実用上気になる部分はない

 1,000円ちょっと足せばフラットスイッチのモデルも選べたのだが、それでは足先の感覚だけでボタンを選択しにくい。現に、このモデルの前には電子スイッチのモデルを使っていたが、足での操作がしづらかった。

「足で操作する」際の快適性と確実性を徹底重視

 一方、「あしもとスイッチfan」の特徴は、台座の上面ではなく側面に、長方形のスイッチが横倒し設置されている点だ。なんだよそれだけかよ、と思われるかもしれないが、じつはこのスイッチ周りの設計が絶妙で、すこぶる具合がいい。

 スイッチは幅約25mm、高さ約10mmの横長サイズ。円形台座の側面だから、当然スイッチの位置も中心に対し放射状になる。そこに横長スイッチを付けたわけだから、指先で位置を探る必要もなく、足をスッとスライドさせながらポンとつつくだけで操作できる。各スイッチをよく見ると、放射状に配置されていても、押す方向はつねに扇風機の前から後ろへの1方向で、スイッチの形状がひとつひとつ違う。斜め方向からスイッチを押す際の微妙な操作しにくさを解消するこだわりだ。

特徴的なスイッチ配置。床の上で足を滑らせるようにしてポンと蹴れば操作可能。文字表示やインジケーターも見やすい

 さらに台座正面には、各スイッチに対応した「入/切」「弱/中/強」「タイマー」の表示がどどーんとデカ文字であしらわれ、おまけにインジケーターランプも点灯する。このデカ文字を目安に足を動かせば、操作ミスはほぼ起こらない。風量調整のボタンを2回連続して押せばリズム風モードになり、より自然な涼しさが味わえる。

 そして、このスイッチを足先でポンと蹴飛ばすときの感触がじつにいい。物体を押す力を計測するテンションゲージで測定したところ、スイッチを動作させるための操作力は500g前後。ボタンストロークは1mmあるかないかで、足を振り子のように動かす際の慣性が利用できるため、とにかく軽快で小気味いいのだ。

足を滑らせるようにポンと蹴るだけでなく、ボタンの斜め上から表面を撫でる ように力を入れても操作可能。文字全体がインジケーターになっているのでじつに見やすい。スイッチの強度も高く、長持ちしそうだ
比較機は、小さな丸いボタンに親指を乗せ、グッと押し込む方式。これで十分に使いやすいと思っていたが、「あしもとスイッチfan」を一度体験したら、一連の操作が面倒くさかったことが分かった

 ちなみに、愛用の扇風機の操作力は800g前後。ストロークも1cm近くある上に、まず足裏全体の位置決めをした後に、足の親指を下方向に曲げるように操作しなくてはならない。この操作がじつはムダのかたまりであったことに、「あしもとスイッチfan」を使ってみて初めて気付かされた

テンションゲージでスイッチ操作に必要な力を計測。ボタンにガタがなくスイッチの動作も滑らかで使い心地がいい
スイッチ操作力の比較

 スイッチのタッチは、ガッシャンという安っぽいものでも、タッチセンサーのように動きの手応えがないものでもない。まるで出来のいいクルマのマニュアルミッションを操作しているかのような、心躍る気持ちよさを伝えてくれる。

 クルマ好きの方なら、リンクやワイヤーを使わない、FR車のミッションの操作感と表現すればイメージが掴みやすいだろう。単なるアイデア商品のように思えるかもしれないが、じつは「足で操作する」という行為について徹底的に考え抜いた、こだわりの扇風機だということが分かる。

 ただし、いきなり風量調整スイッチを押しても羽根は回らない。まず「入」を押した後、改めて風量調整スイッチを押す必要がある。愛用のモデルは、風量調整ボタンを押すだけで動き始め、「入」ボタンはない。対して「あしもとスイッチfan」は、起動時のみ1回押しになるか2回押しになるかを事前に考えなくてはならない。いつも同じ風量で使っている人にとっては便利なのかもしれないが、私は使い始めに一瞬混乱した。

扇風機本体の性能はベーシック

 操作スイッチ以外の部分は、ごくごくオーソドックスな設計。小さなリモコンが付属するが、これもさほど珍しいものではない。ただ細部をよく見ると、いま自分が使用しているモデルに比べ、高級感の演出やお手入れのしやすさなどが明らかに進化していることも分かる。

リモコンはコンパクトなカード式。扇風機本体にリモコンホルダーを装着できるが、それだとリモコンの意味がなくなる

 羽根の設計は両者ほぼ同じ。色が違うだけで、交換してみても問題なく使用可能だった。羽根から斜め45度、距離50cmの位置で計測した動作音は、弱風で約46dB、中風で約48dB、強風で約53dBと差はないし、羽根の形状が同じだから当たり前だが、音質もよく似ている。

 羽根から1m地点の風速は、「強」で2.5m/s、「中」で1.9m/s、「弱」で1.5m/s地点と、愛用の扇風機より微妙に高い数値を記録。消費電力は「あしもとスイッチfan」が48W/50W(50Hz/60Hz)、比較機種が46W/48Wなので、その微妙な差が影響したのかもしれない。

左が「あしもとスイッチfan」、右が比較機種の羽根。色は違うが、形状は両者まったく同じで、交換しても問題なく動作した
これも簡易的なものだが、動作時の騒音を計測。甲高い風切り音やビビるような振動もなく、滑らかな音質なので近くにあっても気にならない
簡易的なものだが、風速計で強・中・弱それぞれの風速を計測した。風の強さや到達距離などに特徴はなく、ごくごく一般的な使い心地
動作音と風速の測定結果

 首振り角度は両者ともほぼ90度。高さ調整幅は660~850mmで、これも両者ほとんど同じだ。ただ、羽根のカバーの形状は大きく違う。どら焼きのような丸っこい形の比較機に対し、「あしもとスイッチfan」は背面カバーが平底の鍋、前面カバーが鍋に被せるフタのような形状になっていて高級感がある。ガードパイプの形状が放射状のフィンタイプなので、網目状の比較機に比べ普段の掃除がしやすかった。

 結論。「あしもとスイッチfan」は、扇風機としての性能自体には大きな驚きはない。しかし、私のように足で操作する癖がある方には、他のモデルには代えがたい魅力を備えている。

 山善のネット直販実勢価格は、送料と消費税込みで7,480円だから激安なわけではないものの、リズム風機能や8時間自動OFFタイマーなどが付いているので、激安機を買うよりも満足度は高そうだ。

辻村多佳志