e-bike試乗レビュー

自転車にもABSの時代到来!? 不要だろうと思っていたら……ボッシュのe-bike用ABSが凄かった!!

ボッシュの最新e-bike向けパーツ群の「Smart System(スマートシステム)」。ボッシュのe-bike向けパーツ群としては、これまでに2011年版の第1世代、2013年版の第2世代がありましたが、スマートシステムは最新となる第3世代(2023年版)です。

パーツとしては、ドライブユニット、バッテリー、ディスプレイが一新され、それぞれが現在で最高のパフォーマンスを発揮するパーツ群となっています。先日ご紹介したORBEA(オルベア)の新型e-MTB「WILD M20 20MPH 2023」にもスマートシステム対応のボッシュ製ドライブユニットが搭載されていますし、トレックの2023年版の新型e-MTBにも同様に搭載されました。

今後出てくるe-bikeは続々とスマートシステムに対応してきそうです。ただ、従来のドライブユニットなどパーツ群は、最新パーツ群であるスマートシステム対応品とは基本的に互換性がありません。

2023年発売のオルベア「WILD M20 20MPH 2023」には、スマートシステム対応ボッシュ製ドライブユニットが搭載されています。最新ドライブユニットの詳細・試乗レビューは以下のリンクからごらんください

スマートシステム対応ドライブユニット「Performance Line CX」には、新たなアシストモードおよび新たなチューニングが施されており、試乗すればすぐに「あぁコレは快適!」と実感できます。さすがの最新型で、外見は従来品とほとんど変わらないのに、中身が一新されている感じがします。

スマートシステム対応の「Performance Line CX」。2023年モデルから「第3世代ボッシュ製ドライブユニット」が搭載されます。いずれ「Active Line Plus」のような位置付けのドライブユニットもスマートシステム対応となって国内発売されるのでしょうか?

筆者も上記最新ドライブユニットの良さを知り、スマートシステム対応「Performance Line CX」搭載のe-MTBが1台欲しいなぁと考えております。いや~試乗すると、もう、かなり、イイんですよコレ。

さておき、実は第3世代のボッシュ製e-bike向けパーツ群には、ひとつ珍しい要素が加わりました。それはABS(Anti-lock Breake System/アンチロックブレーキシステム)。クルマやモーターサイクルではすでにお馴染みの安全装備です。

ABSの働きは、急ブレーキをかけたときに車輪がロック(回転が停止)するのを防ぐことです。タイヤがロックすると滑ったり方向のコントロールが効かなくなり非常に危険ですが、ABSがあればそういった危険を回避することができます。

そして、2023年最新パーツ群スマートシステムには「e-bike向けのABS」も含まれています。e-bike走行中の車輪ロックを防いで、より安全に走行できるというものです。

……ただ、筆者はその話を聞いた当初、「e-bikeにABSなんて要る? 自転車にABSって、どうなんだろう?」とやや懐疑的でした。ABSはもっとずっと高速で走る重い車両のためのもの、という先入観があったからです。

ボッシュ「eBike ABS」、試すと即わかるそのスゴさ!!

まあでも「自転車にABSなんて要らないハズ」などと決めつけるのはよくありません。先日のボッシュの発表会ではABS搭載e-bikeの試乗も可能でしたので、まずは体験してみることにしました。

ボッシュ「eBike ABS」を搭載する海外仕様のe-bike。実際のABSの動作を体感できるということで、発表会会場に持ち込まれました

スマートシステムのABSは「eBike ABS」と呼ばれています。動作としては、前後ディスクブレーキ部に取り付けられたセンサーで走行中に常時タイヤ回転の状態を把握し、前輪ブレーキ動作時に必要に応じてブレーキへの介入・制御を行ないます。前輪のみABSコントロールするということです。

前輪と後輪のディスクブレーキ部にABS用センサーが搭載されています。四角穴が多々ある“黒いリングのようなもの”がそれです。マグラおよびテクトロの専用ディスクブレーキに対応しているとのこと
ABSの制御ユニットも展示されていました。これは通常フロントフォーク(左)やや上部に取り付けられるようです

さっそく試してみました。まずは舗装路を走行しつつ、フロントブレーキを思い切りかけてみます。

すると……あっコレはまさにABSの動作状態。ブレーキ中にフロントタイヤがロックするとすぐにブレーキが解除され、再度ロックするとまた解除され……が繰り返される動作です。ズッ、ズッ、ズッ、ズッ、という感じで一瞬だけタイヤがロックする挙動がありますが、ロックが継続することはありません。クルマなどで雪路やアイスバーンでブレーキをかけたときにABSが働いて「ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ」と一瞬の断続的なタイヤロック状態になりますが、まさにアレと同じです。

参考用ですがディスプレイ上にも「ABS」の表示が。「eBike ABS」搭載車ディスプレイにこれと同じ表示が出るわけではありませんが、自転車にABS表示って新鮮!

何度か試していると、ABSがしっかり動作することが確認でき、徐々に大胆にブレーキをかけられるようになります。もちろん急制動なので腰や体を後方に引いて「急ブレーキに対応する姿勢」を取る必要があります。

しかし、どんなに急ブレーキをかけても前輪がロックする感覚はありません。もちろん前輪がロックして後輪が浮き上がることもなく、いわゆるジャックナイフのような状態からそのまま転倒することもありません。

前輪がまったくロックしないことを体感すると、いろいろ思うところがあります。たとえば街中を走行中に「やむを得ず急ブレーキをかけたが、車体が不安定になり転倒」みたいな可能性が激減すると感じました。前輪がロックすると操舵が効かないのに加え、多くのケースでハンドルが右か左に取られてそのまま転倒すると思いますが、ABSがあると前輪ロックを防げますので、そういう危険がない。

アスファルト上でそんなことを体感すると「こういう装備はe-bike以外の自転車にもあったほうがいいなあ」と思うようになりました。ABSにより自転車の大きな危険性がひとつ減らされるわけですし。

e-MTBに朗報! ABSで「下りの難易度」が大幅に下がる!

続いてMTB用のコースでABSを試してみました。ダート路面でそこそこアップダウンが激しくカーブもキツいコースです。

MTB用コースでABSを試した結論的な印象を言えば、「この装備があるとMTBが何倍も楽しくなる!」ということです。「そうか、だから試走車がe-MTBなのか!」とも思いました。

続いて「eBike ABS」をMTB用コースで試しました。ダート路面で落ち葉なんかもあり、若干の雨模様で非常に滑りやすい状態でした

最初はある程度平坦な道でトライ。砂利混じりのダートですが、そういう路面で前輪の急ブレーキをかけるのは怖い。しっかりバランスを取っていないと一瞬で前輪がロックしてあっという間に車体とライダーがスライド&転倒……というイメージがあるからです。MTBでコケるパターンのひとつが、前輪ロックでバランスを失っての大転倒ですよね。

ところがABS、ダートでもしっかり効いてくれます。一瞬ロックしますが、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、という感じで、一瞬ロック・ロック抑制を繰り返してくれて、転倒にも前輪滑りにも至りません。

転倒などに至らないというより、一瞬のロック時にわずかに車体のバランスが崩れるものの、小さな障害物に乗ったときのようなバランスの崩れ方で、「これなら前輪ロックで転倒とかあり得ないなあ」と確信できるほど。このくらい効果的なら初心者が「平坦なダートで前輪をロックさせてバランスを崩してコケる」ということもしっかり防げるような気がします。

おもしろいのは下り坂です。MTB用コースの下りって、慣れないとなかなか怖いですよね。急な下りが多いので、予想以上にすぐスピードが出てしまう。e-bikeの登坂力で上りはラクラクになりましたが、下りはそれなりの速度制御テクニックがないと「うわースピードが出過ぎてヤバい~!」てなことになりがち。

MTB用コースの下り。フルサスMTBで下ったりすると、サスペンションの快適さからついついスピードオーバーになりがちになったりして……

かといって、下りダートコースでのブレーキングもなかなか難しい。砂利や葉っぱや濡れた土が至るところにあり、そんなポイントでブレーキをかけると簡単にフロントタイヤがロックしてバランスを失ったりします。

下りってどのポイントでブレーキをかければいいのだろう? どのタイミングでどんな強さのブレーキングが適切? といった感じで、下りでのスピード制御はなかなか難しいものですよね。

しかしABSがあると話がガラリと変わってくる。基本的には前輪がロックしないので、「このタイミングでブレーキかけたらマズいかな?」と心配しなくてもだいたい大丈夫になってきます。「これまで怖かった下りでのブレーキング」を気軽に行なえて「下りでもわりと自由にスピードを落とせるようになる」というわけです。

下りを果敢に攻める(!?)筆者。久々のMTBコース走行で最初はおっかなびっくりでしたが、下りでのABSの安心感により、すぐに(調子に乗って)下りでスピードを出すようになりました

ABSにより「下りでも、だいたいいつでもしっかりとブレーキングできる」ということがわかると、それまであった「この先は確か急な下り坂だから、このへんでスピード落とそうかな?」という考えがやや薄まりつつ、安心感と楽しさが濃くなった気がします。

まあ、MTBでの下り走行の基本事項である場所とタイミングを熟慮した的確なブレーキングというある種の技術を、ABSが肩代わりしくれた感じではあります。それは「また人間を機械頼りにさせる」ことかもしれません。こういうテクノロジー、嫌いな人は嫌いかもしれません。

しかし! 実際にMTB用コースの下りでABSを体験すると、もうこれが楽しいんです! 下り特有の不安感がかなり減り、下り本来の楽しさを安心して体験できるようになる。なにコレ~、e-MTBの楽しさを増幅するテクノロジーじゃん! すばらしいぞe-bike用ABS、どんどん普及してくれボッシュの「eBike ABS」! とか思ってしまいました。

ちなみに、「eBike ABS」は4つのABSモードを搭載しています。それぞれ、ツーリングモード、カーゴモード、オールラウンドモード、そしてトレイルモードです。今回試せたのはトレイルモードで、これによりブレーキレスポンスと減速度と路面状況への最適化がとくに高まり、より安全・安心で楽しいトレイルライドができるようになるとのことでした。

プロMTBライダーはe-bikeのABSをどう見たのか?

発表会当日、プロMTBライダーの阿藤寛氏もお目見えしました。阿藤氏はボッシュのe-bikeシステムアンバサダーでもあり、当日は「eBike ABS」のデモンストレーションも披露。ABSを使ってのフルブレーキングと、ABSを使わずのフルブレーキングの違いを見せてくれました。

プロMTBライダーの阿藤寛氏。ボッシュのe-bikeシステムアンバサダーとして、当日のABSなどのデモンストレーションを行なってくれました

プロがe-bikeのABSを使ったらどうなるのだろう? と興味津々で見ていました。結果、ABSはしっかり機能してはいましたが、ABSを使わずともばっちり制動している感じ。素人目には、ABSでも手動ブレーキングでもそーんなに大きな違いがないような……?

実はプロのブレーキングテクニックは想像よりも遥かに高度で、車上で体のバランスを完璧に取りつつ瞬時にブレーキの強弱をコントロールしているそうです。そんな技術により、ABSの有無にかかわらず完璧な制動ができるとのことでした。さっすが!

しかしそれではデモンストレーションにならないと、「素人やMTB初心者ならこんなふう」的なデモンストレーションを見せてくれました。ABSを使わないでフルブレーキングをした場合、前輪がロックして流れて転倒(の直前で阿藤さんはデモを終了しました)。ABSを使うと小刻みに前輪がロックするものの、前輪が流れるようなことは起きずに停車しました。

ですよね! 素人だとそういう感じですよね! と納得した筆者です。

プロMTBライダーの阿藤氏によるABS有無のe-MTBによるデモンストレーション
ABSのデモンストレーション後に参加者の質疑に応答する阿藤氏

その後、阿藤氏はABSについて少し語ってくれました。つい最近に初めて「eBike ABS」を初体験したそうですが、そのときはアスファルトでの試走。アスファルトでは「こういうものかー」といった程度の印象だったと言います。

しかしダートコースで試走するとABSの効果を実感して驚いたそう。「これがあれば初心者がMTBコースを怖がらずに下れる」「現在のMTBの上のレベルの安心感がある」とのことでした。

阿藤氏はプロなので「自分がABS搭載のe-MTBを使ったとしても、テクニック的に大きな進歩を得るにはそこそこ時間が要る。ABSにより現在獲得しているテクニックを大幅に増幅するにはそれなりの慣れと試行錯誤が必要」とはしたうえで、「初心者や趣味人にはABSはオススメ。e-MTBの出現で誰でもすごく高い場所に上れるようになったが、初心者だと下るのは怖いはず。押して下るのも怖いし、ましてや乗って下るのは恐怖しかないと思う。でもABSがあれば大きな安心感とともに確実に(下りでも)ブレーキングできる。MTB遊びが絶対に楽しくなる」と力説されました。

まったく同意の筆者。ABS付きのe-bikeがさらに欲しくなりました!

MTBコースでe-bikeを操る阿藤氏。プロフェッショナルなので、普通の人とはスピードも走りもまったく違い、コースの隅から隅までフルスピード・フルバンクで楽しんでいました

また阿藤氏はe-bike用ABSについて少し未来の話もされました。「ABSが当たり前の世代が出てくると、今までとはまったく違ったブレーキの使い方をするようになりそう。ブレーキングの場所が変わってきたりして、ライディングが進化する余地が大きくなると思う。MTBではこれまで何度か技術的なターニングポイントがあって、たとえばディスクブレーキで圧倒的な制動力が得られると、それに合わせて低反発コンパウンドタイヤの需要が増えた。つまり制動力とハイグリップタイヤが使われ始めて、それまでの走りが劇的に変わった。そういった観点で、ABSも大きなポイントになるはずで、この先のMTBライドに大きな変化をもたらすと思う」と言います。

ちなみに阿藤氏の愛車はIbis(アイビス)「OSO」。ボッシュのドライブユニットを搭載したe-MTBですが、阿藤氏のOSOにはスマートシステム対応ドライブユニットの「Performance Line CX」が搭載されています。ボッシュe-bikeシステムアンバサダーということもあり、最新のドライブユニットをテストする関係でボッシュが特別に導入した1台だけのオリジナルモデルです。

阿藤氏の愛車Ibis「OSO」。Ibisが7年の歳月を費やして完成させたフルカーボン製e-MTBで、ドライブユニットとしてPerformance Line CXを採用しています
阿藤氏のスペシャルIbis「OSO」には、スマートシステム対応のPerformance Line CXが搭載されています
ハンドル周りには(現在は)「LED Remote」(手前)と「Kiox 300」(奥)を装着。LED Remoteの操作感について「確実にボタン操作できるようになって、以前のモデルより快適になった」とのこと。2023年版のPerformance Line CXについても「自然でスムーズな動作感でとても気に入っている」そうです
阿藤氏が愛車Ibis「OSO」でトレイルを走る動画

といった感じで、プロMTBライダーも認めるe-bike用ABSこと「eBike ABS」。一度体験すると「これはイイ!」と痛感できたりするe-bikeの新しい安全装備です。まだ国内のe-bikeには搭載例がないようですが、安全性と楽しさそして安心感を同時に底上げする装備ですので、国内でもどんどん普及してほしいと思います。

スタパ齋藤