藤本健のソーラーリポート
9月1日からの東京電力の値上げで電気代はどう変わるのか

~東京電力・担当者に直接聞いてみた

 「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です(編集部)


公聴会や委員会の声を受けて、値上げ幅は10.28%から8.46%に引き下げ

 9月1日から東京電力の電気料金が値上げされる。これは原子力発電所停止にともない火力発電所の稼動が増え、燃料費などが大幅に増加したことに伴う値上げで、平均8.46%の値上げとなるという。

 当初、東京電力が申請していた平均10.28%という値上げ幅から少し下がった形となっているが、これはあくまでも平均値であって、自分の電気代がどう変わるのかは、いま1つよく分からない。

東京電力が発表した9月1日からの値上げ料金と値上げ率。申請時から比べると値上げ率は引き下がっているものの、具体的な電気料金がどうかわるのか、分かりにくい

 家電Watchでは、以前にも電気料金の値上げについて、東京電力の担当者に話を聞いているが、9月1日からスタートする電気料金の値上げは申請時とは内容が変わっている。そこで、改めて東京電力 お客様本部 営業計画グループ 課長 佐手あい子氏に料金値上げの詳細や、当初申請した内容と何がどう変わったのかについて話を聞いてみた。

東京電力 お客様本部 営業計画グループ 課長 佐手あい子氏

――当初7月1日から10.28%の値上げをする、と申請していたものが、結果的には9月1日からの値上げと2カ月遅れるとともに、値上げ幅も8.46%と少しですが下がりました。その背景について教えてください

 弊社は5月11日、経済産業大臣に電気事業法に基づき電気利用金値上げの認可を申請いたしました。原価は合理化実施によって2,785億円削減するものの、燃料費を中心に大幅な増加が避けられず、3,443億円の増加となったため10.28%の値上げ申請となったのです。この認可申請に辺り、公聴会などの従来からのプロセスに加え、新たに設置された「電気料金審査専門委員会」にて審議が進められてきました。2回開催された公聴会ではいろいろなご意見をいただいたほか、「国民の声」として郵送や電子メールを通じて計2,336件のご意見をいただきました。申請以降、認可をいただくまでに経たプロセスのイメージは以下の表(右)のようになっておりました。

――その結果、当初の値上げ幅よりは下がったわけですね。われわれ消費者としては、少しでも電気代が安くなってくれたほうが嬉しいわけですが、当然、審査結果によって、どの項目をどれだけ下げろ、という指示が出たわけですよね?

 はい、その内訳が下の表(右)のとおりのものです。これをご覧いただくと分かるとおり、人件費を101億円削減となっておりますが、具体的には管理職の年収を震災前と比べて3割超引き下げ、3年間の全社員の平均年収でみても、近年の公的資金投入企業のいずれをも上回る削減率とする、という指示をいただきました。また随意契約は原則一般入札にせよ、といった意見も出ておりましたが、結果的に随意契約での取引では原則すべて10%のコスト削減に、また子会社・関連会社との取引においてはさらに10%のコスト削減を指示されております。

東京電力が電気利用値上げの申請をしてから、認可がおりるまでのプロセス。従来から行われてきた公聴会などに加え、今回新たに設置された電気料金審査専門委員会などでも審議が行なわれた修正指示内容を反映した原価額は、年平均5兆6,398億円で、申請原価と比較すると833億円の減額を求める内容だった

――なるほど、東電の方々にとっては、かなり厳しい内容にはなっていたわけですね。一方とても気になったのが燃料費を118億円下げる、という項目についてです。当初の申請では、原子力発電所での発電がなくなる分を火力発電に切り替えるということで、電源構成比が変わる結果、燃料費が増えるという内容だったと思います。この燃料費を下げるということは、原子力の比率を上げるなど、電源構成そのものを変えるということなのでしょうか?

 いいえ、構成そのものは一切変わりません。発電効率のいい発電所をできるだけ多く活用して燃料費を少しでも抑えるようにするとともに、価格更新時期を迎えるLNGプロジェクトについて、交渉努力を先取りする形で原価を下げるということを指示されております。

――燃料の値下げ交渉で118億円も原価を下げるというのは、なかなか難しそうにも思いますが。

 厳しいことは確かです。ただ、燃料費全体で2兆4,704億円ある中の118億円ということですので、発電効率化配分を徹底することなどと合わせることで実現可能であると考えております。

3段階料金の値上げ幅の見直しとは

平均的な家庭での使用量に相当する2段料金の値上げ幅を大幅に引き下げるようにとの申請に基づいて第2段階料金の値上げ幅を申請時より大きく引き下げた

――つい先日、私の元にも「電気料金値上げのご案内 -認可をいただいた新料金について-」という案内が電気料金の伝票とともに入っていました。この中に、さまざまな説明がありましたが、まずよく分からなかったのが「3段階料金の値上げ幅の見直し」というものです。これについて説明していただけますか?

 主なご家庭でご使用いただいている料金契約では、使用量が増えると料金単価が上がる3段階料金制度となっています。毎日の生活に不可欠な照明や冷蔵庫などに使う最低限の使用量に相当する1段料金の値上げ幅を極力小さくするとともに、平均的なご家庭での使用量に相当する2段料金の値上げ幅も申請時より大幅に引き下げるように、という細かな指示があり、このような形になっています。


各料金段階旧単価新単価(申請単価)値上げ率(%)
1段料金18.4218.8919.162.55
2段料金23.4125.1925.717.60
3段料金24.6829.1029.5717.91

 

――なるほど、確かに値上げ率で見ても1段料金は2.55%と少なく、2段も7.60%と少なめに抑えられていますね。ただ、3段料金になると17.91%と大きいので、電気を多く使う家にとっては大きな値上げになりそうです。そのほかの料金メニューはどうなっていますか?

 こちらは表のとおりになっています。こちらの内訳については、直接指示があったわけではありませんが、やはり1段の値上げ幅を少なくなるように設定しております。


料金メニュー使用時間3段階料金旧単価新単価値上げ率(%)
おトクなナイト8昼間時間1段料金22.4223.153.26
2段料金28.6230.877.86
3段料金30.1935.6618.12
夜間時間9.7211.8221.60
おトクなナイト10昼間時間1段料金24.4225.203.19
2段料金31.2933.607.38
3段料金33.0338.8117.50
夜間時間10.0312.0620.24
ピークシフトプランピーク時間(夏季のみ)45.1553.1617.74
昼間時間27.0828.184.06
夜間時間9.7211.8221.60
電化上手昼間時間夏季33.9237.5610.73
その他季28.8330.776.73
朝晩時間23.6825.206.42
夜間時間9.7211.8221.60
低圧電力夏季13.7516.5020.00
その他季12.7114.9917.94


――これを見ると、3段階にも増して夜間電力の値上げが20%超と大きいようです。以前の記事でも取り上げましたが、6月の電気料金と比較すれば20%ちょっとの値上げに見えますが、震災前と比較すれば、60%近い値上げとなっています。そのため、夜間電力を多く使うエコキュート導入のオール電化住宅にとっては打撃が大きそうですね。

 確かに値上げ率で見てしまうと、そのように見えますが、基本的にはどの料金単価も約2円の値上げとなっておりますので、そこはご理解いただきたく思います。

おトクなナイト10は残ることに

――以前の説明では、夜10時から朝8時までの10時間が夜間電力という設定になっている「おトクなナイト10」は廃止するということでしたが、このメニューは残ったのですね?

 新たな選択メニューとしてピークシフトプランを設定したことを踏まえ、メニュー全体としての制度を簡明化するという観点から、料金改定実施日に合わせて、おトクなナイト10の新規加入を停止すると予定していました。

 しかしながら、経済産業省の査定方針として、「お客様の多様な選択肢を確保できるように」という指示もあったため、引き続き新規加入をお受けすることといたしました。なお、第2深夜電力においては、告知期間を延ばす形とし、2013年3月31日の廃止という形にさせていただきます。

――私自身もおトクなナイト10を選択しており、太陽光発電システムを導入している人にとっては特にメリットが出やすい料金メニューなので、これが残ってくれたことは歓迎です。また、ピークシフトプランを作ったので、おトクなナイト10を廃止ということでしたが、試算してみたところ一般家庭でピークシフトプランでメリットになるところはほとんどないように思いました。以前、お伺いした際、ピークシフトプランへの変更の申し込みはごくわずかしかない、という話でしたが、その後増えているのでしょうか?

 告知不足ということもあり、現時点で700件程度しか申し込みはありません。おっしゃるとおり、一般のご家庭ではなかなかメリットが出にくいプランではあります。しかし、商店や事務所、工場など多くの電気をご使用しているケース、具体的にはご契約が50A以上で、ご使用量が月平均600kWhのお客様の場合、メリットが出てくるので、ご検討いただければと思います。

スマートメーター導入に向け、今後もプランの見直しはあり

――オール電化住宅向けの電力プラン「電化上手」についても、見直しに関して少し言及されていたようですが、これはどういうことなのでしょうか? 前回の申請時にはとくに話題になっていなかったと記憶しておりますが

 電化上手に関しては現在、夜間蓄熱式機器(エコキュート)の保有が条件になっておりますが、審査において、そうした条件をなくし、より多くの選択肢を作るように、という指示をいただいておりました。

 しかし、今後スマートメーターの本格導入を控えている中で、より広くピークシフトが可能になるよう、メニューのラインナップを検討しております。そのため、今回のタイミングでは従来どおりとさせていただくこととしました。

――そのスマートメーターはいつごろから、どのように導入していく予定なのでしょうか?

 あくまでも弊社としての予定ではありますが、2014年度から順次導入を進めていくつもりで、その10年後までにはすべてスマートメーターに切り替わることを想定しております。

――つまり、スマートメーターはユーザーのニーズで設置する、しないを決めるものではなく、すべての人がこれに切り替わるということですね。

 そのとおりです。電力メーターは10年に1度交換することが計量法で定められておりますので、交換のタイミングになったご家庭から順次スマートメーターに切り替えていくということです。

――最後に原発事故に関する費用と料金値上げの関係性について教えてください。

 原子力に関しては、安定化のための維持費用は原価に算入していますが、それ以外はありません。賠償対応費用もすべてまったく別となっておりますが、唯一、賠償のための業務の対応費用は委託費として入れております。

――ありがとうございました。





2012年8月28日 00:00