藤本健のソーラーリポート
太陽光発電システムが平均価格の38%OFFで導入できる
「楽天ソーラー」とは?

 「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です(編集部)


今年7月にスタートした「楽天ソーラー」。太陽光発電システムが安価に導入できる販売サービスだが、そのサービス内容はどのようになっているのか

 インターネット通販大手の楽天は、7月より、太陽光発電の新ビジネス「楽天ソーラー」をスタートした。低価格で太陽光発電システムを住宅向けに安価で販売するサービスなのだが、最大のポイントは屋根の形状や材質によらず、価格が固定となっていることだ。

 太陽光発電システムは一般的に、同じメーカーの同じ製品であっても、見積もりをとった結果、設置条件などによって、かなり価格差が出る。しかし、楽天ではこれを均一化し、しかも1kWあたり32万円弱(国の補助金を差し引いた後の金額)と、非常に低価格な設定をしたのだ。

 しかし、なぜ太陽光発電システムが安く購入できるなのか、本当に最終的な導入価格が安くなっているのか、システムとして他社と比較してのデメリットなどはないのか……といった疑問も浮かぶ。今回はこの楽天ソーラーという新ビジネスについてチェックすることにしよう。

シャープのシステムを安価で提供。価格は分かりやすい“ワンプライス”

 東日本大震災による電力不足を契機に、様々な企業が太陽光発電ビジネスに本腰を入れてきている。ビックカメラやヨドバシカメラ、ヤマダ電機などの大手量販店から、イオンのようなスーパー、そして価格.comや、以前取り上げたDMMのようなネット企業も本格的に参入している。

 そんな中で楽天も、「楽天ソーラー」というブランドで7月17日にこのビジネスに参入した。

 参入の理由について、先日の発表会では「自然エネルギーへの関心が高まっており、楽天としても人と環境の未来を考えることを企業の責任と感じ、インターネットサービスを通じて貢献できる方法がないのかと検討してきた。その結果、高品質な太陽光発電システムを手頃な価格で多くの過程に届けるという、楽天らしいサービスを開始する。日本の消費者にとって、電力供給元の新しい選択肢が提供できれば」(常務執行役員 グリーンエネルギー事業 高橋理人事業長)とのことだった。

 リリース時点では、各社とも価格競争を展開している中での参入だったので、正直大きなアドバンテージは感じられなかったが、改めて価格設定を見ると、かなり安い。「中国メーカーのパネルだから安いんだろう……」と思いきや、楽天ソーラーのWebページでは、シャープ製の多結晶シリコンの太陽電池モジュールを採用したシステムであるとの記載があった。

楽天ソーラーの標準パッケージ内容。パネルはシャープ製の多結晶太陽電池モジュールを使用する。標準設置工事も込みシャープ製パワーコンディショナー「JH-M0B2P」も用意される電力モニターもセットになっている。このほか、架台や基本部材、国の補助金申請代行、アフターサービスも付いている
楽天ソーラーのトップページには、「導入コストが38%OFF」と明記されている。これは、2011年度の一般的なシステム導入価格よりも38%安いことを示す

 Webページではまた、「導入コストが38%OFF」と大きく掲載されていた。何をもって“38%オフ”なのかも気になるところなので、楽天ソーラーの責任者である楽天株式会社のグリーンエネルギー事業・事業長、菅原雄一郎氏に話を聞いてみた。

 「これはJ-PEC(一般社団法人太陽光発電協会太陽光発電普及拡大センター)の昨年度(2011年度)の導入システムの平均価格(全国・年間・kWあたり)と比較して、38%安いことを意味しています」

 通常、太陽光発電の導入においては、現地調査を行ない、詳細な見積もりをとらないことには、いくらになるのかが決まらない。しかし楽天ソーラーでは、「ほぼすべての屋根に対して、どんな家でも同様に38%OFFを実現しています」(菅原氏)とのことだ。

 とはいえ、瓦屋根に設置するのか、金属屋根なのかで設置器具も大きくかわってくるため、値段にも違いがでるはず。本当にそんなことが可能なのだろうか?

 「当社が太陽光発電に参入した背景には、まさにここが大きなポイントです。現在、太陽光発電システムの導入価格はユーザーにとってなかなか分かりづらく、そのために躊躇している人も少なくありません。やはりワンプライスでの提供ができないと、太陽光発電普及におけるブレイクスルーにならないだろう、と考えました」

楽天ソーラーの価格は、基本的に“ワンプライス”。2.775kW、3.330kW、3.885kW、4.440kWの4パターンのみ用意される

 菅原氏はあくまで“ワンプライス”であることにこだわったことを強調する。本当に例外はないのかさらに念を押してみると、「よほど変わった形状であったり、足場を作る必要がある場合には、別途費用負担が必要になるケースはある」とのこと。だが、そうしたケースはごく稀であって、大半は標準価格での導入が可能であるという。またワンプライスでの提供が前提となるため、大きな架台の設置が必要となる陸屋根については、現時点では対応していないとのことだ。


導入前にGoogleマップでプランを事前に予測。その正確性はいかに?

 それでは、実際に導入する流れはどのようになっていて、一般的な業者と比較してどのような違いがあるのか? 導入までの基本的な流れは、やはりネット企業である楽天だけに、Webベースで物ごとが進んでいく形になっている。

 まず最初のポイントになるのが、「発電シミュレーション」だ。これは登録不要で誰でも簡単にシミュレーションできるというユニークなシステム。住所、普段の電気代、屋根の形状や、傾きなどを入力すると、Googleの航空写真を元に、自分の家の屋根が表示される。

 この航空写真の屋根の形を元に、太陽電池パネルを設置したい場所を四角く描き、屋根がどのように傾いているかを入力する。すると、設置に適しているかの総評が表示されるとともに、家計貢献度、環境貢献度、そして設置可能な太陽電池の容量や年間予想発電量、そして国、都道府県、市区町村の補助金の合計金額を表示する。

楽天ソーラーでは、登録不要で誰でも太陽光発電がシミュレートできる「発電シミュレーション」が用意されている。まずは、住所を入力する「切妻屋根」「寄棟屋根」など、屋根タイプや屋根材なども選択する
Googleマップの航空写真に表示された屋根に、太陽電池パネルを設置したい場所を四角く描き、屋根がどのように傾いているかを入力するすると、太陽光発電に向いているか否かを、パーセンテージで表示する。さらに、家計や環境への貢献度なども示してくれる
設置後の利益や、10年間の電気代シミュレーションなども表示される初期設置費用の概算。今回のシミュレーションでは、約80万円でシステムが導入できる計算となった

 このシミュレーションはどの程度、正確なのか。筆者の家を例に試してみた。航空写真にはズバリ、筆者の家の屋根が映し出され、太陽電池パネルもハッキリと写っている。これにピッタリ合わせて入力した結果、「太陽電池システム容量は、2.775kW設置可能です」、「年間予想発電量は、2,990kWhです」と表示された。

 これに対して、筆者の家に搭載している太陽電池の容量は3.6kWで、ここ7年間の平均の年間発電量は3,665kWh。かなり低めに見積もられた結果ではあった。筆者が設置したのが2004年末で、年代が多少違うものの、同じシャープの多結晶シリコンなので、それほど大きな差はないはず。だが、結果的にこのシミュレーションでは、30%程度の誤差は出るということになった。

 ただ、このような結果になったのには理由がある。というのも、楽天ソーラーの場合、先に挙げたような4種類の“ワンプライス”プランのみが用意されており、これのいずれかを選択する形になるからだ。本来であれば、3.330kWのものが設置可能ではないかと思うのだが、一番小さい2.775kWがはじき出されたが、まあこれはあくまでもシミュレーションなので、仕方がないところかもしれない。

現地調査後にすぐに見積もりがスタート

 これである程度の“当たり”を付けた上で、「次の現地調査申し込み」へと進む。ここからは他社と同様に、現地を確認した上で、より詳細な設置場所や設置プランを確認し、見積もりそして契約へと進んでいくのだ。この現地調査の所要時間は90分程度とのこと。

 普通なら、現地調査後に、詳細な設計を行なってから、システムプランの提案、見積もとなるところだが、楽天ソーラーでは、この現地調査において、すぐに見積もり提案があるという。なぜなら、前述のとおりプランが4種類しかなく、しかも設置に関連する部品の点数などによらず固定価格であるために、その場で見積もりができるようなのだ。

 ただ、中にはより自分の家にフィットしたプランが欲しいという人もいるはず。これに対し楽天の担当者は「サービスをスタートしたところ、いろいろな大きさのニーズがあることが分かってきたので、今後、プランは増やしていきたい」と話している。ちなみに、7~8月は、東京、神奈川、千葉、埼玉のエリアのみがサービスの対象だが、9月には北関東および東海、近畿エリア、さらに10月からは離島を除く全国その他エリアへと展開していくとのことだ(ただし、メーカー基準により、降雪地帯や沿岸部は対象外となる)。

現地調査後にすぐ見積り提案が出てくるのは、固定価格ならでは

 その場ですぐに見積もりが出るというのは嬉しいが、少し気になるのは、より詳細なシミュレーションをしてくれるのか、という点だ。

 最近は大半の設置業者が、見積もりとともに、設計とそれによる発電のシミュレーションをしてくれる。よりしっかりした業者であれば、影がどのようにかかり、その結果の発電シミュレーションも出してくれる。その点、楽天ソーラーではどうなっているのか。

 「シミュレーションは、申し込み時のもののみで、その後、シミュレーションをしなおすということはありません。また影については、現地調査の現場で、お客様に説明をします。また北面には原則設置しませんが、仮にそのようなことがある場合は、お客様に納得していただき、一筆書いていただいた上で、契約へと進みます」(菅原氏)

 まったく屋根に影がない家であればそれで問題はないが、多少、隣の家の屋根や木、電柱、電線によって影ができるとした場合、ちょっと気になるところだ。

 もちろん、すべての業者がこの辺をしっかりケアできているとも思えないが、とくにシリコン系の太陽電池の場合、電柱などの小さな影でも発電量には大きな影響が出てくる。そのため影を避ける形でパネルを設置したり、影の影響ができるだけ少なくなるように、ストリングスの接続を行なっていくのが基本。その辺を含めた事情を、現地調査の現場での説明だけでユーザーに理解できるのか、シミュレーションをせずに、どの程度の影響なのか示せるのか。ここはやや疑問に感じられた。

契約に関する情報は、すべてWeb上の「マイページ」でチェックできる

 ただし、提案のあったその場で判断する必要はもちろんなく、他社からの見積もりを取った上で、比較検討して、納得した上で契約するのもOKとのこと。契約には捺印などが必要になるが、それ以外は基本的に、すべてWeb上の「マイページ」でチェックできるようになっている。

 そして購入時には、先ほどの表の通りの金額を支払う。今回のシミュレーションでは、1kWあたり35万円程度と表示された。国からの補助金を差し引けば32万円弱と、かなり安い金額での提示となるわけだ。


曇や雨の日にはポイントが付く! 楽天ならではのアフターサービスも

システムの購入時には楽天ポイントが付与される。さらに、発電量が少ない曇や雨の日にはポイントが付与されるというサービスもある

 楽天ソーラーでは、システムの導入後もサービスが用意されている。

 まず、申し込み時に使用したマイページは、そのままサポート画面となって、ユーザーとの大きな窓口になる。

 また、楽天独自のポイントサービスも用意されている。システム購入時には、購入金額の1%相当の楽天ポイントが付与されるが、さらに、雨の日には10ポイント、曇りの日には3ポイントが付与される。これは全国800か所で計測されたアメダスのデータから、自宅付近の天気が雨や曇りと判定されれば、後からポイントがもらえるというもの。売電金額から見れば微々たるものではあるが、雨が降っても得になるという制度は面白いアイディアだ。

 「太陽光発電には『kWビジネス』と『kWhビジネス』の大きく2つがあると考えています。kWビジネスとは導入時の金額のこと、kWhビジネスとはその後のサポートを含めた継続的なサービスを意味しています。kWビジネスについては、事前提示可能なこの安い価格で納得いただけるのではと考えていますが、楽天ソーラーは単純に価格勝負を考えているわけではありません。kWhビジネスを含めたトータルでサポートできる体制を整えていきます」(菅原氏)

以前紹介した、NTTスマイルエナジーの発電量見守りサービス「エコめがね」も利用できる

 もう1つ、楽天ソーラーのいうkWhビジネスに関するサービスとして、以前にも紹介したNTTスマイルエナジーの発電量見守りサービス「エコめがね」との連携がある。これは楽天ソーラー導入者の全員へのサービスではなく、オプションという扱いだ。

 具体的には、機器代プラス10年分のエコめがねの使用料として62,000円がかかるとのこと。計算してみると個別に加入するのと比較して月額使用料が約35%引きとなっている。楽天としては、これらのデータをNTTスマイルエナジーから入手できる形となっているため、マイページに反映させたり、サポートに用いたり、プロモーションなどにも利用していきたい考えのようだ。それであれば、いっそのことオプションではなく包括契約にしてしまえばよかったように思うのだが、少しでもシステム価格を安く抑えたいという考え方から、オプションとなったのかもしれない。

 もっとも、シャープの場合は、エコめがねと非常に近い「Webモニタリングサービス」というものを無料で提供している。こちらはユーザーが発電状況や電力消費状況をWebを通じてチェックできるとともに、メーカーが発電状況を監視し、問題が見つかったら適切な対応を行なってくれるというもの。そのため、有料のエコめがねに加入しなくても、ほぼ同等のことができそうだ。

 ただし、これについては、楽天ソーラーのWebページにも記載がないため、ユーザーが別途申し込む必要がある。まあ、別の設置会社で導入しても、別申し込みという扱いにはなっているが、無料のサービスだけに、通常はこれの利用を勧めるはずなので、ちょっと不親切な感じもした。


 以上、楽天ソーラーについてみてきたが、いかがだっただろうか。まだスタートしたばかりのサービスなので、プランを含め今後いろいろと内容も進化していくと思われるが、まずは施工内容に関わらず固定価格を提示するとともに、補助金込みで「1kW当たり約32万円」という安い価格を打ち出した点は大いに評価したい。

 もっとも、“8万円で太陽光発電システムが導入できる”で話題を呼んだDMMも、「1kW当たり28万円から」というさらに安い価格設定を打ち出してきている(こちらは施工内容によって価格は変わる)。今後はさらに競争も激化してくる可能性もあるだろう。ユーザーとしては、こうした競争によるサービスの向上、低価格化は歓迎したいところだ。





2012年9月3日 00:00