藤本健のソーラーリポート
続・太陽光発電システムが“実質タダ”で導入できる? 神奈川県の「ソーラーバンクシステム」とは

~担当者インタビュー

 「藤本健のソーラーリポート」は、再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電・ソーラーエネルギーの業界動向を、“ソーラーマニア”のライター・藤本健氏が追っていく連載記事です(編集部)


 当連載では先日、“実質タダ”で太陽光発電が導入できるという「かながわソーラーバンクシステム」を紹介した。黒岩祐治・神奈川県知事の肝入りの政策であり、太陽光発電の導入を検討している人にとっては、非常に嬉しい仕組みとなっている。

 しかし、気になることはいろいろある。なぜこれほどまでに安く導入することができるのか、モデルケースとして用意されている33のプランはどのように選定したのか。また、来年度以降は制度は継続されるのだろうか。

 そこで、「かながわソーラーバンクシステム」を担当する神奈川県環境農政局・新エネルギー・温暖化対策部 太陽光発電推進課の山口健太郎課長に、かながわソーラーバンクのメリットから疑問や課題まで、話を伺ってみた。

[前回の記事はこちら]

震災による電力逼迫がきっかけ。全国でも高い神奈川の普及率をさらに引き上げる

神奈川県 環境農政局 新エネルギー・温暖化対策部 太陽光発電推進課 山口健太郎課長

――「かながわソーラーバンクシステム」、非常にいい仕組みだと思います。ですが、まだあまり多くの県民に伝わっていないようにも思います。まずは、これができた背景を簡単に教えてください

 神奈川県ではこれまでにも、エネルギー関連においてさまざまな取り組みを行ってきました。具体的には2003年3月に「神奈川県新エネルギービジョン」を策定し、2006年9月には「神奈川県電気自動車普及構想」を発表、また2009年4月には「住宅用太陽光発電補助金制度」を創設し、2009年7月に「神奈川県地球温暖化対策推進条例」を制定しています。

 しかし、2011年3月の東日本大震災によって状況は大きく変わりました。黒岩知事が就任したこともあって、昨年5月に「かながわソーラープロジェクト」をスタート、9月には「かながわスマートエネルギー構想」を提唱しています。

 「かながわスマートエネルギー構想」というのは福島第一原発事故に伴う電力需給の逼迫に対応し、安全・安心なエネルギーを将来にわたり安定的に確保するためには、中長期の総合的なエネルギー政策が必要である、ということを背景に提唱したものです。「原子力発電に過度に依存しない」、「環境に配慮する」、「地産地消を推進する」という3つの原則を元に、電力会社を中心とした集中型のエネルギー体系から、地域が中心となった分散型エネルギー体系への移行を目指すものです。

 具体的には「創エネ」、「省エネ」、「蓄エネ」の3つの取り組みを行なっていきます。

神奈川県では2010年度末で、約3万戸に太陽光発電システムが導入されている。これをさらに推進していくのが、かながわソーラーバンクの狙いとなる

――創エネというのが太陽光発電につながる部分ですね

 そのとおりです。太陽光発電は地理的条件や気候に比較的左右されず、発電時に騒音や振動、悪臭を出さないメリットがあります。また家庭からメガソーラーまでさまざまな規模で展開でき、比較的短期間で設置が可能というのも大きな特徴であることから、神奈川県にとってもっとも有望な再生可能エネルギーであると位置づけています。

 すでに神奈川県では、震災前から住宅用を中心にかなり多くの太陽光発電が導入されており、2010年度末の累積件数で約3万戸弱となっています。県内の一戸建住宅が約149万戸ですから、全戸建て住宅中、2%程度に導入されていることになります。これをさらに推進していこうと、いくつかの取り組みをしている中、1つの目玉プロジェクトとして動き出したのが「かながわソーラーバンクシステム」なのです。


“10年で元を取る”をテーマにプランを用意。安さの理由は?

神奈川県ではかながわソーラーバンクシステムのほか、エネルギー関連のさまざまな取り組みを行なっている

――「かながわソーラーバンクシステム」の導入プランを見ると、価格が非常に安くて魅力的に感じますが、プランは全33種類もあります。これらのプランはどのようにして出てきたものなのでしょうか?

 2011年11月18日~12月2日までの間、参加事業者の公募を行ないました。単独の工事業者、または単独の販売店というのではなく、住宅用太陽光発電設備を安価でかつ確実に県民に提供することができるパネルメーカー、販売店、施工業者など、業態の異なる複数の事業者による共同事業体(ジョイントベンチャー)の形での参加を呼びかけたのです。その結果、47の共同事業体から計387件のプランの応募がありました。

――かなりの数になりますね。これを審査した上で、絞り込んだ結果が33プランということなのですか?

 そうです。大きく5つの審査項目を元にそれぞれに点数をつけていきました。

 具体的な評価ポイントは「1.共同事業体の責任体制」、「2.価格」、「3.どのくらいの販売個数を用意できるか」、「4.どこの地域で展開できるのか(全県なのか、一部地域なのか)」、「5.保証、アフターサービスの体制が整っているか」という項目です。細かい点数については公表していませんが、これらを細かくチェックした上で、12事業体・33プランを2011年度の設置プランとして決定しました。

【かながわソーラーバンクで導入できるパネルメーカー】
※記事公開時点
生産国メーカー
日本シャープ
ソーラーフロンティア
京セラ
ノーリツ
長州産業
三菱電機
生産国メーカー
中国カナディアンソーラー
ハンファソーラーワン
トリナソーラー
Upsolar
韓国サニックス(LS産電)
ドイツ/マレーシアQセルズ

――シャープ、京セラ、三菱電機、ソーラーフロンティアなど主なメーカーが揃いますが、パナソニックが12の事業体の中になかったのが気になりました。パナソニックはこの公募に参加しなかったということなのでしょうか?

 提案いただいたのですが、価格の面で折り合いがつきませんでした。今回は知事の考えもあり「自己負担ゼロ」、つまり10年間で償還可能であることが1つの大きな指標となったのです。そのため、価格は重要な項目とせざるをえませんでした。パナソニックのHIT太陽電池は発電効率が高く、とても優秀なシステムではありますが、その分、高価であったので、今回のプランでは入れなかったのです。

 とはいえ、狭い屋根であっても大容量のシステムを導入できるという点は大きなメリットですので、今後県民からの要望が多くあれば、プランとして組み入れていくことは検討していきたいと思っております。

プランでは出力が「3.28kW」など具体的な数字が表示されているが、実際は家の屋根に合った出力が提供される

――具体的なプラン内容と価格が出ているので、とても分かりやすいと思います。ですが、このプランそのものでないと導入できないのでしょうか? たとえば「A-1」というプランでは、出力が「3.28kW」となっていますが、3.28kW以外の選択肢はありえますか?

 屋根の形状や大きさはそれぞれの家によって大きく異なりますから、プラン通りのものを載せる、というほうがレアケースだと思います。なので、これはあくまでも参考プランです。

 実際には、現地を見てもらい、それぞれの家にあった設計、見積もりをしてもらう形になります。それで納得いけば、導入、という流れになりますから、いろいろなケースがあるはずです。

――各プランの発電1kWあたりの単価をチェックしてみると、一般的な設置価格と比較してかなり安くなっているようです。なぜ、こんなに安くなるのでしょうか?

 各事業者がかなり思い切った価格設定をしてくれたのですが、何も利幅をゼロにしろ、という話をしているわけではありません。

 ポイントとしては、一括の大量発注によるコストダウンです。設置する側から見れば、共同購入のようなものと考えればいいと思います。また県が県民に対して周知をすることで、事業者側にとっては営業コストの削減ができます。実際、太陽光発電は訪問販売が多く、ここでのコストがかなり大きい割合を占めています。「かながわソーラーバンクシステム」ではその部分を「かながわソーラーセンター」が担うわけですから、事業者にとっても大きなメリットになるわけです。

――ただ、市場価格と比較すると2割近く安くなっているので、選ばれなかった多くの業者から見ると、神奈川県が営業妨害をしている、というように取られたりしないのですか?

 それはないですよ。共同事業体の数は「12」となっていますが、これは「12社」ということではありません。それぞれの事業体ごとに数多くの会社が連なっているため、会社の数にすると300~400社程度になるのです。別の見方をすれば、神奈川県内で展開している太陽光発電関連の販売会社、施工業者の大半が参画しているのです。

 つまり、「かながわソーラーバンクシステム」を活用して、みんなで活性化しようというものになっているのです。

4月以降も継続。市区町村の補助金はどうなるの?

――とてもいい仕組みだとは思いますが、先日、新聞記事を見たところ、まだ設置希望者側からの応募数や見積もり依頼数が、非常に少ないと報じられていました

 1月末時点で、ソーラーバンクシステム全体では見積申込みが300件超、契約済が160件超となっていますが、もっと数字の伸びを期待しています。神奈川県としてのPR不足という面も否めませんが、ぜひ共同事業体側でも主体的にPR活動をおこなっていただければと思っています。みんなで盛り上げていければと考えています。

――とはいえ、締め切りが3月31日となっているので、残された時間は少ないですよね

 見積もりの結果、契約もようやく何件か出てきたところですが、問題は着工です。国の補助金をもらうためには申請をし、国からの受理通知が来てからでないと工事を始められません。ここに2、3週間の期間を要するのです。つまり契約しても、すぐに着工することができないので、工事完了が出てくるのは2月上旬からになってくるでしょう。現在の値段が有効なのは3月31日までとなっています。その後の詳細は議会を通ってからということにはなりますが、当然この先も続けていく予定です。

 4月以降については、現在の余剰電力買取価格が6月末まで延長される見込みとなりましたので、これに合わせて、現行プランを6月末まで延長するとともに、新たなプランの追加公募を行うこととしました。詳しくは県HPをご覧ください

――もう1つ気になるのが神奈川県や市町村の補助金についてです。神奈川県は1kWあたり15,000円の補助金を支給していますが、市町村金額についてはバラツキがあります。また、市区町村で日程的にも違いがあり、早いところはすでに締め切っているし、多くは2月までの受付となっているようです。その締め切りを過ぎたら神奈川県の1kWあたり15,000円の補助金のみがもらえる、と考えていいのですか?

 現在、神奈川県での補助金は1kWあたり15,000円で、上限が52,000円となっています。そして補助は市町村との共同で行なっており、市町村を通じて補助する仕組みです。つまり市町村補助額への上乗せ補助となっているので、申請窓口は市町村となっています。したがって、市町村側が締め切ると、同時に県の補助も終了ということで、神奈川県の補助だけを受け取ることはできない仕組みとなっています。

 もっとも国の補助金のほうは、これとは関係なく、3月末までに申し込みがあれば支給されるようになっています。

ソーラー導入用のローンも用意。共同住宅にも設置の道が

――お金の話でいうと、神奈川県では「ソーラーローン」というものが用意されていますね。これは「かながわソーラーバンクシステム」とどのような関係になっているのですか?

 これは「かながわソーラーバンクシステム」のためにあるものではなく、「かながわソーラープロジェクト」として進めているときにできたものです。もちろん、組み合わせて使っていただいてもいいですし、まったく別の業者から購入する際に利用することも可能です。

 ソーラーローンに一番最初に賛同していただいたのは横浜銀行ですが、その後、現在は7つの金融機関に賛同いただいています。内容はそれぞれ微妙に異なりますが、いずれもかなり低金利となっています。

 大きな特徴は、一部を除き、保証料込みとなっている点です。一般的なローンでは、担保を取らないかわりに、信用保証協会などを通じて保証料を利息とは別に負担する必要がありますが、これはそれを含んでいるので、かなり割安です。

――最後に、集合住宅への可能性について聞かせてください。太陽光発電システムの設置というと、通常は一戸建ての住宅に設置することを考えますが、集合住宅への設置にも、かながわソーラーバンクはサポートしているのでしょうか?

 かながわソーラーバンクシステムは基本的に一戸建を対象としていますが、現行プランで対応可能であれば、見積申込みをお受けしています。また追加公募では、新たに共同住宅用プランも公募します。

 また共同住宅については、県が別途、補助金を出しています。その対象となるのは「マンションやアパートなどの共同住宅に、補助対象となる太陽光発電システムを新たに設置し、発電した電力を当該共同住宅でしようする個人、団体、法人」となっているので、アパートのオーナーなどが主な対象者ということです。

 今年度は100件募集を行なったところ、153件もの応募があるなど盛況になっています。こちらの受付期間は3月15日までとなっています。興味のある方はぜひ応募してみてください。

――本日はお忙しい中、ご対応いただき、ありがとうございました。




2012年2月17日 00:00